16 ゆだんだ!
何事もなく放課後になったので俺は帰宅の準備をする。ふと気になって雷人の席を見る。だが、そこに雷人の姿はなかった。もしかすると、今日もA組の教室に行っているのかもしれない。
まぁ、面倒事を選んだのは雷人自身だ。そこは、まぁ、アレだ。俺には関係の無い話だな。雷人に対して思うところはあっても恩や義理はない。
心の中で心にもない応援だけをして帰宅の準備を続ける。急いで帰らないと日が暮れてしまう。
この湖桜高校から自宅までは徒歩でだいたい一時間くらいの距離だ。まぁ、近くはない。住宅街から離れているんだよな。電車やバスで通っているヤツらも多いようだ。自転車やスクーターで通っているヤツらもいる。徒歩は少ないな。俺くらいじゃないか?
まぁ、そんな俺も、やっと徒歩で帰ることになれてきたところだ。
いつものように駅前商店街を通り自宅を目指す。すると駅の近くで見覚えのある姿が見えた。
江波じゃん。
そう、江波だ。
A組の江波守だ。
そして、その江波を取り囲むように、この間見かけた三馬鹿と同じ制服を着た連中の姿が見えた。十人くらいか? 何だ、何をしているんだ?
「よぉ、江波。そいつら、友達?」
手を振り、気さくに話しかけてみる。
「あ、有馬くぅーん」
こちらへと振り返った江波は泣きそうな顔だった。
「あー、友達ではなさそうだな」
「有馬くぅーん」
江波は情けない顔で助けて欲しそうにこちらを見ている。
「お、また馬鹿高が追加されたぜ」
「ボーナス追加じゃん」
「痛い目に遭いたくなかったら、その制服を脱いで置いてくンだよ!」
何だコイツら? 制服? このブレザーが欲しいのか? いやまぁ、確かに今は春だから少し肌寒いかもしれないけどさ。それくらい我慢しろよ。
「寒さに弱いのかもしれないけどさ、ブレザーも安くないんだぜ。それくらい我慢しろよ」
俺の言葉を聞いた制服の連中が笑う。
「あン?」
「何言ってンだ、コイツはよぉ」
「馬鹿なンだよ、馬鹿。馬鹿高の連中はどいつも馬鹿ばかりだぜ」
んだと。馬鹿って言うヤツが馬鹿なんだぞ。
「あ、有馬君、コイツら湖桜高校狩りだよ」
いつの間にか俺の横にまで江波が逃げてきている。意外と素早いなぁ。にしても、狩りってさ、こいつら狩猟民族かよ。今時、希少な連中だぜ。
「コイツだあぁぁ?」
「ひぃぃ」
江波が情けない声を出して俺の後ろに隠れる。
「雑魚は素直に制服を渡すンだよ」
「集めた数が重要なンだからよぉ」
「大人しく渡せば痛い目に遭わないぜ」
またこんな感じかよ。
「制服なんて集めてどうするつもりだよ」
何度でも言うが、ブレザーも安くないんだぞ。そんなホイホイ渡せるかよ。せめて金を払え、金を。
「あ?」
「馬鹿にはかんけぇねぇンだわ」
「いいからよぉ、渡せ」
何だかなぁ。
「それ相応の金を払うなら売ってやっても良いぜ。そうだな、十万くらいか?」
「あ?」
「ふざけンな」
「死ね」
「どうやらボコられてぇンだな」
連中がこちらを囲むように動き出す。
「あ、有馬君、どうするの? どうするの!」
江波が俺のブレザーの袖を引っ張っている。いや、袖が伸びそうだから止めてくれよ。
「あー、そうか。俺とやるってのか?」
俺はブレザーのポケットに手を入れる。
そこから取り出すのは……ボールペンだ。
「あ?」
「それでどうするつもりだ、あ?」
「何を出すかと思えばよぉ」
連中は俺が取り出したボールペンを見てニヤニヤと笑っている。
「お前らにはわかんないか? 分かんないんだな」
俺は取り出した三つのボールペンを指と指の間に差し込む。
「お前らにも見えるか。見えるよな」
連中の頭の上にははてなマークが浮かんでいる。見て分からないのか。
「こいつぁあなぁ、熊の爪だぜ」
連中の頭の上にはさらに大きなはてなマークが浮かんでいる。
「お、おい、知らないのか。じゃあ、教えてやるぜ」
世代の違いってのを感じるぜ。って、まぁ、俺も前世の記憶で知っているだけなんだけどさ。まぁ、定番の技だよなぁ。
「お前らの戦闘力を五とすると、俺は百だ。さらに、この熊の爪を装備したことで倍の二百。さらにっ!」
俺はブレザーのポケットから追加でボールペンを三本取り出す。
「これをもう片方の手に装備すれば倍の四百だ。さらに俺の技が加われば倍の千二百だッ! お前らに勝ち目はないぜ!」
連中は俺の言葉に恐怖したのか顔を見合わせ、後退っている。
「な、なんて馬鹿だ」
「馬鹿高を舐めてた」
「な?」
「ああ、計算すら出来ないほど馬鹿かよ」
んだと。
この俺の力を見せてやるぜ。
と、その時だった。
あ……。
俺の頭に衝撃が走る。
頭からぬるりとしたものがこぼれ落ちる。
血?
俺は頭を抑え振り返る。
そこには――連中の一人がバットを持って立っていた。そいつは俺の血がついたバットを持ってニヤニヤと笑っている。
んだと?
俺が気付かなかった? 油断していた?
くそ、どれだけ経験を――記憶を持っていたとしても、俺は僕だ。そこは変わらない。俺が僕でしか無いと言うことを忘れていた。調子に乗っていた。油断していた。
だけど、だ。だけどなぁ!
「お、俺を怒らせたようだな……」
拳を握る。が、力が上手く入らない。俺の手からボールペンがこぼれ落ちる。くそ、頭への一撃が効いている。視界が揺れる。
「はぁ、コイツ、何、言ってンだよ」
蹴りが入る。躱せない。
がっ。
くそがっ。
「お、お前ら……調子……に、のるな……よ」
周りから蹴りが入る。
「く……そ、が」
蹴りが入る。俺は蹴りを入れたヤツを見る。顔を覚える。
クソが。
痛ぇじゃねえかよ。
身を守り、致命的な一撃を受けないように耐える。だが、こちらを囲み、数で攻めてくるのは厄介だ。どうしても防ぎきれない一撃を受けてしまう。
反撃するために力を溜める。まだ終わってないぜ。
「おい、お前ら! そこで何をやっている!」
声が聞こえる。
「おい、ポリだ」
「逃げるぞ」
「ちっ、誰だよチクったのはよぉ」
俺を囲んでいたヤツらが逃げていく。
オイコラ、逃げてんじゃねえぞ。ここからが俺の反撃だぞ。
待ちやがれ……。
待ち……やがれ……。
2019年7月2日誤字修正ルビ位置修正
A組みの江波守だ → A組の江波守だ
2019年8月10日誤字修正
今日もA組みの教室に行っているのかも → 今日もA組の教室に行っているのかも




