15 からまれ!
何事もなく放課後になったので俺は帰宅の準備をする。ふと気になって雷人の席を見る――そこに雷人の姿はなかった。もしかするとA組の教室に行ったのかもしれない。
まぁ、どう考えても面倒事しかないと思うが、そこは、まぁ、アレだ。俺がわざわざお節介を焼く必要なんてないしな。そんな義理や恩はない。
心の中で適当に『雷人ばんちょー、がんばえー』とか応援だけして帰宅の準備を続ける。急いで帰られないと日が暮れてしまう。
この湖桜高校から自宅までは徒歩でだいたい一時間くらいの距離だ。まぁ、近くはない。住宅街から離れているんだよな。電車やバスで通っているヤツらも多いようだ。自転車やスクーターで通っているヤツらもいる。
湖桜高校が住宅街から離れた場所に建っているのは、もしかすると、最初から不良連中の受け入れ先として考えられていたからなのかもしれない。住宅街の近くにガラの悪い連中がたむろするような場所があったら――考えただけで最悪だ。引っ越しを考えたくなるほど、騒がしくてうるさいだろうからな。
俺は徒歩通学だ。電車やバスなどの公共の交通機関を使えるほどお金に余裕はないし、自転車を持っていないからな。自転車を持っていない理由は、まぁ、アレだ。以前の俺の体型だと自転車に乗るのがキツかったからだ、な、うん。
今の俺の体型なら自転車に乗れそうだが――ま、これも運動だ。体を鍛えるため、と、そう思えば苦にならない。
駅前商店街を抜ける。そして、しばらく歩いた人気の無い場所で声がかけられる。
「よォ、ちょっと待ってくれよォ」
俺に声をかけてきたのは見たことのない制服の三人組だ。
「その格好、お前、あの馬鹿高のヤツだよなァ?」
湖桜高校を馬鹿高扱いだと。確かにその通りだ。あの高校に通っているヤツらは馬鹿ばかりだ。
「俺らよ、ここまで遠征に来たンだけどよォ、帰りの電車賃がねぇンだわ。ちょっとお金を貸してくれよ」
三人組はへらへらと笑っている。
「よっくんが、ここにレアがあるって言うから来たけど無かったしさ」
「ンだよ。ネットには書いてあったンだよ」
「ただそのまま帰るのもなンだからよォ」
レアってのが何のことかは分からないが、要は俺からお金を巻き上げようと――カツアゲしようとしているってことだな。
「金か暴力か選べ」
「金、暴力、金、金」
「殴られると痛いぜェ。俺の右は凄いからよォ」
三人組が俺を囲むように動く。
「そいつぁ、大変だな。俺みたいに歩いて帰ると良いぜ」
俺は追い払うように手を振り、三人組の横を抜けようとする。
「あン!? 馬鹿高の雑魚は大人しく金を出してれば……」
三人組の一人が殴りかかってくる。
ここは何時から修羅の国になったんだろうな。いきなり殴りかかってくるとか危ないじゃないか。
俺は相手の右拳を避け、そのまま脇に挟み、そこに腕を絡めて曲げる。
「がひィ、いで、いで」
腕を決めた俺を引き剥がそうと、泣き叫びながら左手で殴りかかってくる。俺は右手を極めたまま相手の背中へと周り肩を押す。
「あ、おれ、折れ、やめ、やめ」
相手の左手は届かない。このまま力を入れればコイツの右肩は簡単に外れるだろうな。
「俺は言ったよなぁ。俺に襲いかかってくれば容赦しないってな!」
「言ってなひィ、なイ」
腕と肩を極められ涙目だ。
「おい、よっくんを離せ」
「なンだ、こら」
残った二人が襲いかかってくる。
「今、言ったよな。容赦せん、と」
俺はよっくんの背中に膝蹴りを入れ、極めていた手を離す。その膝蹴りの勢いのまま体を捻る。襲いかかってきた二人のうち、近い方に捻り回転した蹴りを浴びせる。
「が、か」
浴びせ蹴りを食らったヤツが、そのまま倒れる。
俺は残った最後の一人を見る。そいつは殴りかかってこようと右手を上げたままの状態で固まっていた。
「あ、あ、ン」
蹴り倒したヤツの上に足をのせる。
「これ以上やるのか?」
無事な最後の一人は激しく首を横に振り、後退る。
「ゆ、許して。お金は要らないから、要らないから!」
足に少し力を入れると、その足の下のヤツがカエルの潰れたような悲鳴を上げた。
「許さねえよ。湖桜高校を馬鹿にして生きて帰れると思ってんのか。んー?」
湖桜高校は確かに馬鹿高だ。馬鹿が通っている馬鹿のための、馬鹿ばかりの高校だ。それは事実だ。事実は仕方ない。だが、それを外の連中が言うのは許せんよなぁ。
お仕置きが必要だよなぁ。思わず笑みがこぼれそうになる。
「ン!?」
腕を極めていたヤツ、殴りかかろうとしていたヤツ、二人が顔を見合わせる。そして、俺が踏んでいるヤツの方を見る。
そいつらは二人で頷き合い、そして、そのまま逃げだした。
「あ、よっくん、もっくん!」
踏み潰されたカエルが逃げだした二人の名前を叫ぶ。コイツらの友情は脆いな、悲しいな。
「おいおい、お前、見捨てられたぞ」
「ンだと」
カエル君が顔だけ持ち上げて、こちらを睨む。おー、怖い怖い。怖かったので俺は足に力を入れる。
「げひィ」
カエルが情けない声で叫ぶ。本当に踏み潰されたカエルだ。
「まぁ、良いか。おい、お前、これに懲りたら、もう湖桜高校を馬鹿にするんじゃないぞ」
見捨てられたカエルを哀れに思い、足を退かしてやる。
「あン」
カエルが生まれたての子鹿のようにヨロヨロと立ち上がった。
「もう行って良いぞ」
俺は追い払うように手を振る。汚いものは、しっしっ、とな。
「あン!? 顔は覚えたからな。次は……」
「次は? 次はこっちも容赦しねぇからな。踏み潰す程度じゃあ済まさないぞ」
俺が威圧するように軽く睨むとカエルは顔面を青くして逃げていった。
何だかなぁ。
今回は他校のヤツだったが、俺って、そんなに絡まれやすそうな顔をしているのか? 弱く見えるのか?
うーん。
容姿は変えようがないからなぁ。さっき追い払ったみたいに殺気を放ち続けるか? いや普通に一般人がいるような場所でそれは問題があるだろ。間違いなく通報されるぞ。
困ったもんだぜ。
2020年1月20日誤字修正
もしかするとA組みの → もしかするとA組の




