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グラップルファンタジー  作者: 無為無策の雪ノ葉


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12/66

12 おかえし!

 俺はため息を吐き、肩を竦める。

「なんだその態度は! お前が居た中学ではどうだったかしらんがな、お前を停学にしても良いんだぞ」

「先生、俺はお前じゃなくて有馬、有馬太一ですよ」

 俺の言葉を聞いた教師が眉間にしわを寄せ、こちらを睨む。たく、俺は、その中学ってヤツには殆ど通ってないんだけどな。


「どうやら、紙屋が言ったことは本当のようだな。反省の色がない」

 教師の言葉を聞いた金髪野郎がニヤニヤと笑っている。殴りたい笑顔だ。まったく、コイツもコイツなら、教師も教師だ。


「いやいや、そこの金髪頭より、俺の方が見るからに真面目そうじゃないですか」

 教師がこちらをうろんな目で見ている。

「まぁいい。とにかく扉の修理費、弁償して貰うからな」

 教師が一方的に告げる。なんて酷い対応だ。


 弁償。弁償だと。お金、お金だよな。


 俺が手に入れたバイト代なんてたかがしれている。親が俺のために必要以上のお金を用意してくれるとは思えない。


 こいつあ、困ったぜ。


「待ちなさい」

 俺がニヤニヤ顔の金髪野郎を睨み付けながら頭を抱えていると、そこに待ったがかかった。

 俺はそちらを見る。


「話を聞いていたが、あまりにも一方的じゃないかね。少なくとも両方の言い分をしっかりと聞くべきだと思うがね」

 そこに現れたのは頭の薄い爺さんだった。


「あ!」

 俺は知っている。俺はこの爺さんを――おっさんを知っている。

「オニタケかよ!」

 思わず叫ぶ。髪は薄くなっている。老け込み、顔にしわも多い。だが、俺の記憶にある顔――その面影は残っていた。


「おい、お前、大竹(おおたけ)先生になんて口を聞くんだ」

「いや、構わないよ。それにしても懐かしい呼び方だ。もう、その呼び方では呼ばれなくなったからね」

 頭の薄くなったオニタケがニコニコと微笑んでいる。そう、あのオニタケが笑っているのだ。


 俺が知っているオニタケは常にしかめっ面で、竹刀を片手に生徒と同じレベルで、向き合い、ぶつかってくるような教師だった――その鬼のような形相から、オニタケとあだ名されていた教師だった。


「君は何処でその呼び方を聞いたのかね」

 そう、こんな物わかりが良さそうな雰囲気を醸し出して喋るような教師じゃなかった。

「あ、えーっと、親から、そう、親の知り合いから聞きました」

 良く言えば熱血。悪く言えば融通が利かない暴力教師――それがオニタケだった。


 そのオニタケが俺の前に居る。


 はは。生きていたのかよ。まだ、この湖桜高校(クラウン)で教師をしていたのかよ。


「それで、どうしたのかね」

 頭の薄くなったオニタケが聞いてくる。やばい、顔を見ると笑いそうになる。記憶の中にある顔がハゲになって現れるというのは凄いインパクトだ。

「大竹先生、口を出さないでください。もう定年間近なんですから、こちらの仕事をかき回さないよう大人しくしていてください」

「部室の扉が壊れたと聞いたが、どういうことかね」

「大竹先生!」

 オニタケは教師の言葉をにこやかな顔で無視する。そうそう、オニタケってこんな感じだったよな。とにかくまっすぐ。自分が正しいと思ったことを貫く教師だった。当時は、それがウザかった。いや、今もウザいな。でも、それだけ親身になってくれているってことだよな。


 変わってねぇなぁ。


 だから、俺は口を開く。

「そいつらが、俺を、俺と雷人をフクロにしようとしたから返り討ちにしただけだよ。その時に扉は壊れた」

 それだけ言って俺は肩を竦める。


「お、おい! それは本当か? 暴力事件は……問題だぞ」

 俺の話を聞いた教師が慌てている。

「紙屋、それは本当なのか」

「いや、え、いや」

 金髪野郎は慌てたように首を横に振っている。


「そっちの先輩がどう言っているか知りませんがね、その場には先輩方以外にも雷人が、俺と同じ一年の上路雷人が居ましたよ」

 教師が俺と金髪野郎を見る、見比べる。


 雷人の名前を聞いた瞬間、金髪野郎の表情が変わる。

「あーん? だからよぉ、体験練習だってのぉ。参加した皆がよぉ、同じことを言うと思うぜ」

 余裕ぶった表情でニヤニヤと笑っている。何かあるのか? まったくコイツは……。


「なるほどなるほど」

 俺と金髪野郎の話を聞いたオニタケがうんうんと頷いている。


「つまり、部活の一環だったというわけだね。それなら修理費を一人に負わすのはおかしいね。しかも部活だよ。学校側で持つべきじゃないかね」

 お?


 おお。


 確かにその通り。オニタケ、良いこと言うじゃん。


「大竹先生、しかしですね。そのような甘いことを言っていては、こういう輩はつけあがるだけですよ!」

 その教師の言葉を聞いたオニタケの顔が変わる。鬼の形相に変わる。

「何か問題でも?」

「あ、いえ……いや、その」

 教師がオニタケから視線を外し、こちらを見る。


「お、お前ら! いらんことで手を煩わせるな。自分たちはお前たちと違って暇じゃないんだ。もういいぞ」

 教師がこちらを追い払うように手を振る。


 金髪野郎が驚いた顔で教師を見、そして睨むような目で俺を見る。ホント、小者だな。


「助かったぜ、オニタケ」

 俺はオニタケに礼を言う。

「君はあれだね。随分と調子が良い子のようだな」

 オニタケは笑っている。

「あー、えーっとすいませんっす」

「構わない。君を見ていると、昔の、一番手がかかった生徒を思い出すよ。いや、本当に大馬鹿でだな、喧嘩で天辺をとるとか小学生のようなことを……」

 何かを思い出したのかオニタケの表情が変わっていく。先ほどの鬼の形相だ。


「あー、えーっと、オニタケ先生、それでは自分はこれでー」

「その馬鹿は、いや、大馬鹿は卒業後、喧嘩修行と称して海外に行って……」

 これ以上居ると面倒なことに巻き込まれそうなので退散する。まったく。喧嘩で天辺をとるとか大馬鹿だよなぁ。


 金髪野郎と二人で職員室を出る。


「おい、一年、これでお……」

「なぁ、紙屋先輩」

 俺は金髪野郎の言葉を止める。


「あん?」

「ここらで仲直りといきませんかね。こちらに手を出さなければ、俺も手を出さない。それでどうです?」

 金髪野郎が少し驚いた顔でこちらを見る。そして嫌な顔で笑う。

「あーん? やっと自分の立場が分かったのかよ」


 俺は金髪野郎を睨む。

「勘違いするなよ。面倒だから、これで終わりにするって言ってるだけだ。これ以上やるって言うなら手加減しねえからな」

 殺意を込めた視線で睨み付ける。


「ひっ」

 金髪野郎が怯えたように身を竦める。こういう手合いは本当にしつこいからな。もう、こいつの顔も見飽きたぜ。


「わかった、分かったよ」

 どうやら分かってくれたようだ。俺は胸を撫で下ろす。


 いやぁ、これで終わってくれて良かったよ。


「いやあ、先輩が物わかりが良くて良かったです。じゃあ、そういうことで」

「いや、待てよ」

 金髪野郎は何かを思い出したかのような表情だ。まだ何かあるのかよ。


「先輩、なんですか?」

「頭を下げろ。こっちにもメンツがあるんだからよぉ。それくらいはしてもらうぜ」

 まだやるのかよ。


 ホント、呆れる。

「それ、必要ですか?」

「ああ!? そうかよ、そうかよ!」

 金髪野郎がニヤニヤと笑い出す。いい加減にしろよな。


「そういえば、お前のお友達がいたよなぁ」

 居たか?

「えーっと、誰のことですか?」

「おい! お前と一緒にいた野郎だ! そいつの姿がねえよなぁ」

 一緒に居た?


 ああ、雷人か。


 そういえば教師に呼ばれたの俺だけだったな。雷人の姿が見えないと思ったが、そうか、こいつらに掴まっていたのかぁ。


「あー、そっすね」

「お、おい、こら。お前、分かってんのかよ!」

 いや、別に。雷人がどうなろうが知ったことじゃないしなぁ。


「えーっと、それで?」

「お前がよぉ」

 金髪野郎がブレザーのポケットから何かを取り出す。


 ん?


 それはボールペンだった。見覚えがある。いや、見覚えしかない。


 俺が閃光弾だってはったりをかまして投げたボールペンじゃん。

「先輩、俺のボールペン、拾っててくれたんですね。ありがとうございます」

「お前がよぉ、そういう態度なら、あいつはこうなるぜ!」

 金髪野郎が俺のボールペンの両端を握り、そのまま折る。


 折った。


 ……。


 ……。


「何しやがるっ!」

 俺のボールペンを!


「あん?」

「いいぜ、分かった。こっちも徹底的にやってやるぜ」

 よくも俺のボールペンを! 仇をとるからな。ついでに掴まっている雷人のヤツも助けてやる。ボールペンのついでだけど助けてやる。


 まったく許せねぇよな!

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