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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
ニアからの依頼編
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奥の手

 空気の弾けるような音が辺り一帯に響く。

 同時にエンデュランスの体は後ろへ大きくらされた。



「ぐぅううあぁぁぁ…… !!?」



 響くのはエンデュランスの奇声。その目が捉えしものは有り得ない方向へと曲がり、へしゃげた自らの右腕。拳は砕け、至る所から出血している。本来なら薬の力によって「痛い」という感覚が生じるはずが無い。それなのに、エンデュランスは確かに悶絶する程の痛みを感じていた。


 仰向けに倒れたエンデュランスはその場でのたうちまわる。塩をかけられたナメクジみたいに。



「ボクの…… 腕がぁ! 腕がぁぁ…… !!」



 右肘が普通とは逆の方向に曲がっている。内出血も酷く、青紫色になってパンパンに腫れている。顔は青白く、目は大きく見開かれ、声の限り叫んでいる。



「お、お前ぇ! 今、何をした…… !?」



 ヨシュアは答えない。代わりに、地面に這いつくばるエンデュランスを見下すように、冷めた視線を返す。

 ヨシュアが使用した魔法。それはアルルに教えてもらった<全反射リフレクト>の魔法だった。正確にはアルルの兄に教わった魔法で、ニルローナに住む兄から返送された魔法文に書かれていた術式を、アルルと共に完成させたものだった。


 <全反射リフレクト>の魔法は、相手の攻撃をそっくりそのまま跳ね返す魔法だ。だから、いくら肉体を強化したエンデュランスでも、自分の力を跳ね返されれば耐えられるはずが無かった。


 強力だが、この魔法のタイミングは極めてシビアである。発動時間があまりに短く、ハイリスクハイリターン過ぎて今までお蔵入りの術式だった。シビア過ぎて<衝撃吸収アブソープ>を極めたヨシュアですら自信が無いほど。だから、絶対に決められる確定のタイミングを見極める必要があった。実際の所、技が上手く決まってヨシュアは非常に安堵していた。



 悶絶するエンデュランス。

 そんな彼の見る影もない姿の前で、ヨシュアは一度冷静になろうと努めた。そして当然のように<魔封じの光剣(シールズ・エッジ)>を頭上に出現させた。



 光り輝く三本の光剣は、両腕と、それから左足の太ももに命中した。これで当たった個所は力が入らない。両腕を封じたことで<魔法無効化ディスペル>も使えない。それはエンデュランスの敗北を意味していた。



 そのはずだった。



 エンデュランスは右足一本で膝立ちになると、そのまま大きく後ろへと跳んで距離をとる。坂道の下へと逃げるように。

 足一本だけ、それも助走も無く、方向も後ろ。それなのにたった一歩で五メートルは跳んだ。やはり薬の力は侮れない。



 エンデュランスはその場で此方を睨みながら立っている。二本の足で立っているように見えるが、実際は左足にはほとんど力が入らないはずだ。

 痛みで顔を歪ませながらも逃げるそぶりは見せない。もちろん、逃がすつもりは全く無いが。けれども、これほどまでに劣勢にも拘らず、エンデュランスは口元に気味の悪い笑みを浮かべる。まるで気でも触れたかのようだ。



 「諦めろ」とヨシュアは言った。「もうお前に勝ち目はない。だから今すぐザウィードに<念話テレパス>を送って、奴を下がらせろ」



「いやいや、まだ私は負けてませんよ?」



 エンデュランスは両腕をだらんと下げたまま不敵に笑う。エンデュランスの言葉が本当かどうか、ヨシュアには判断が出来なかった。



「あなたがその技を隠していたように、私にも奥の手があります」


「その奥の手とやらは、両腕と片足を封じられても使えるのか?」


「ええ、もちろん。僕の奥の手はあなたのような必殺技とは違う。極めて陰湿で、そうして合理的な力。いいや、カードと言った方が正しいかもしれない」


「カード?」


「交渉材料と言い換えてもいい」



 どうやら痛みによってエンデュランスは冷静さを取り戻したらしい。得意の交渉ごとに持ち込もうとしているのだ。ヨシュアとしては五体満足のエンデュランスより、今の彼の方がよっぽど恐ろしい。


 エンデュランスが「出てきなさい!」と声を上げる。すると彼の奥の茂みから三人の男たちが姿を現す。そのうち二人は手に刃物を握っており、真ん中の白衣の男を脅しているようにも見える。


 新たに現れた白衣の男は黒髪の痩せ型で、ここ最近食事を採っていなかった人みたいに頬がげっそりとこけている。歳は四十前後。酷くやつれている様にも見えるが、顔つきは意外と精悍せいかんで、身だしなみさえ整えれば印象も随分と変わりそうだ。身長はそれほど高くない。


 エンデュランスは言った。



「さて。僕と同じように白衣を着たこの男、一体誰だと思う?」



 ヨシュアはその男が誰なのか分からなかった。だが、この状況でエンデュランスが全くの無関係な男を連れて来るとは思えない。

 


「誰なのか分からないかい? それならヒントを上げよう。後ろを見てみるといい」



 後ろ? ヨシュアはエンデュランスの動きに注意しながらも、少しばかり振り返り、後ろの様子を確かめてみる。

 振り返って見えた視線の先には馬車と、その馬車の前に立つニアの姿があった。


 ニアが浮かべる表情は驚きに満ちていた。目を大きく見開き、一点を注視しているかのように動かない。口も少し開いている。まるで金縛りにでもあった人みたいだ。

 どうしてニアがそんな顔をして驚いているのか、ヨシュアは分からなかった。が、すぐにあることに気が付く。



 研究者を想起させる白衣。

 四十代という年齢。

 やつれてはいるが整った顔立ち。

 そして何よりニアと同じ黒髪。



 ────そうか、この人がニアの父だったのか。 


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