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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
ニアからの依頼編
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ニアの戦い

 ヨシュアとエンデュランスの間にはただならぬ気配が漂っていた。誰も迂闊に手出しできるような状況では無かった。加えて、例えヨシュアでも、数秒の内にエンデュランスを無力化することは出来ないだろう。



 ニアは両手にナイフを握りしめ荷台から飛び降りると、迫りくる男たちと馬車の間に立つ。

 目の前の男たちは三人。元は十一人もいたはずの子分共は、坂を駆け上がってくる間にヨシュアに蹴散らされ、または光る剣によって足止めされ、今ではその数を三人まで減らしていた。


(長剣が二人にナイフ持ちが一人。強そうには見えないけど、私も慣れ親しんだ槍が手元にないし、ライからのサポートも期待できない)


 ニアの首筋に一筋の汗が伝う。微かにだが自分でも気付かぬうちに手元も震えていた。此処まで緊張するのは久々だった。傭兵になったばかりの頃以来かもしれない。


 男たちは皆嫌らしい笑みを浮かべている。こんな女に負けるはずが無いと思っている顔だ。きっと私のことを舐めているのだとニアは感じた。


(…… 確かに、私はそんなに強い女じゃない)


 ライがいないと私は何も出来ないとニアは自覚していた。ライのきめ細やかなサポートがあって初めてニアは自由に戦うことが出来る。本当は<緑のカード持ち>としての実力も怪しいものだ、と自分が何よりも一番分かっている。


(けど、此処で負ける訳にはいかない。そうよね、ニア)


 引く訳にはいかない、とニアは自分に言い聞かせる。戦う事は怖いけれど、ライを失う事の方が怖い。ニアは両手のナイフを十字に構え、じっと相手の出方を伺う。



 視界の奥ではヨシュアとエンデュランスがぶつかり合っているのが見えた。圧倒的なパワーとスピードを持ってエンデュランスがヨシュアに迫っていた。だが、不思議と衝突するような音はまるで聞こえてこなかった。今の所は、ヨシュアはエンデュランスの攻撃を無力化することに成功しているみたいだ。



 真ん中の男が両端の二人に目配せする。それを合図に男たちが一斉に襲い掛かってくる。しかも両端の男は敢えてニアを無視して馬車へと向かうそぶりを見せる。


 ニアは向かって左に駆けていこうとする男に向け、ナイフを二本同時に投げつけた。一本は弾かれてしまったが、残る一本は男の太ももに命中し、男は前のめりになって派手に転んだ。


 ニアは腰に手を当て、素早く次のナイフを手に取った。だがそこで真ん中から真っすぐ突撃してきた男に攻撃された。長剣を真っすぐ振り下ろしてきた男にニアはその場で押し倒される。剣は何とか両手のナイフで防いだが、尻餅をつくニアに対し男はそのまま剣で押しつぶそうとしてくる。

 男の力はニアの予想以上に強かった。あるいは、ここ数日まともに食事を採らなかったせいで、自分で思う以上に力が衰えていたのかもしれない。


(くそっ! あと一人…… !)


 ニアの隣をするりと抜けるように、フリーになった男が馬車へと向かっていく。

 ニアは全身の力を込めて、顔の目の前まで迫っていた男の剣を弾くと、一瞬の隙をついて右手に持つナイフを投げた。狙いは馬車に近寄る男の、その足元である。

 大気を斬り裂き、ナイフは地面すれすれを飛んでいった。そして何とか男の左足の内側へと当たり、男はその場でうずくまる。



「偉く余裕だな! えぇ!?」



 ほっとしたのも束の間、ニアの目前に迫る男がまた剣を振り下ろしてきた。ニアはそれをナイフ一本で受け止める。勿論両手で。だが、やはり男の力は強く、ニアはその場で地面に背中を付けるほどに押し込まれてしまった。

 男はもうほとんど馬乗りのような状態になって、ニアに向けて剣を押し付けてくる。その剣の切っ先はニアの額にあと少しで触れるほどに迫っていた。顔を真っ赤に染め、必死の形相で剣を押し返そうとするニアの顔を見て、男は舌なめずりをする。



「へへっ。随分と苦戦させやがって」


「くっ、うぅぅっ…… !!」


「ほらほら、もう限界か!?」



 歯を食いしばり、力を振り絞って押し返そうとするものの、力も態勢も明らかに不利だった。ぶつかり合う刃物はギリギリと不吉な音を立て、死が目前まで迫っている事をニアに予感させた。



 ダメだ。諦めたくない。けど、もうどうしようもない。ナイフを握りしめる手が痛みで痺れて、もう力が入らない。両腕も悲鳴を上げている。状況を打開できるような良い知恵も浮かばない。ニアは迫りくる死から目を背けるように、両目をぎゅっとつむった。


 その時、不意にナイフを押す剣の力が弱まった気がした。そしてそれは気のせいでは無いと感じた。

 ニアは薄っすらと目を開ける。すると何かが男の心臓部辺りを貫いていた。淡い黄色の光が、背中から心臓を突き抜けていたのだ。


 男は信じられないという表情で、自分の心臓を貫く光を見ていた。血は一滴も流れていない。けれども男の顔は血の気が引いたみたいに真っ青で、息苦しそうに顔を歪ませ、そのまま良く分からないままに仰向けになって倒れた。それはまるで、心臓に病を患っていた男が急に体調が悪化し、そのまま意識を失ったかのようだった。



 ニアはふらふらと立ち上がった。そして倒れた男から突き出している光をもう一度見つめた。その光の突き抜けた部分は剣の切っ先のようにも見える。それはつまり、そういう事だった。



「ヨシュア…… 」



 ニアは坂の下へと視線を移す。未だ二人は戦っていた。激しい攻防を繰り広げていた。だが、その一瞬の隙をついたのだろう。ヨシュアがニアを救ってくれたのは明白だった。それなら、次は自分がヨシュアを助けなければ。



 いや、そうじゃない。

 今はヨシュアを信じて待とう。



 ニアは「ヨシュアのもとに駆け付けたい」という思いをぐっとこらえる。二人の間には相変わらず誰も迂闊に手出しできるような、そんな気配が漂っていた。きっと今の自分では足手まといになると思った。

 それに、ヨシュアならきっとエンデュランスに勝つと信じてもいいはずだ。盾使いは粘り強く、どんな時でも諦めない。時間が経つほどに追い詰められるのはきっとエンデュランスの方だ。最初の一撃を凌いだのなら、きっとそのままヨシュアはエンデュランスを封殺してしまうはずだ。都合の良い解釈にも思えたが、ニアは自分の予感を信じることにしたのだった。

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