試されるヨシュア
まさかだった。
ニアやライを揺さぶるために、奴らはアミーテたち家族を狙っていたのだ。
「────ロイ!!!」
「分かってる!!」
ヨシュアが叫ぶと、すぐに後ろからロイの大きな声が聞こえた。その声色には相当な焦りが含まれていた。ヨシュアは後ろを振り向かなかったが、ロイがすぐにアミーテたちのもとへ向かったと足音で分かった。
ヨシュアはエンデュランスに向かって言う。
「なぜアミーテたち家族を巻き込む!?」
「何故って当然でしょう? あの家族はキミたちを匿ったのです。罰を与えられても文句は言えまい」
「たったそれだけの理由で関係の無い人を襲うのか?」
「確かにもう関係はないかもしれない。けれど、匿った時点で重罪だ。むしろ本気で彼女たち家族に何の罰も与えられないと思っていたのですか? もしそうだとしたら、流石に考えが浅はかであると言わざる負えませんね」
ヨシュアは唇を噛みしめる。ヨシュアたちはこの男を見誤っていた。危険な男だと警戒はしていたが、此処まで狂っているとは思わなかった。もしアミーテたち家族に危険が及ぶとしたら、それはヨシュアたちが滞在している時であり、もう既に街から去った後に襲われるだなんて考えもしなかった。
「交渉、出来るならしてもいいですよ。出来ますか?」
エンデュランスは分かり切ったことを口にした。自分たちが優位に立っていると分かったうえで言っているのだ。
エンデュランスは一度眼鏡をかけ直し、それから余裕の笑みを受けべて言う。
「どうやら交渉する気は無いようですね。ええ、それでも私たちは構いません。それでは予定通り、此処からは武力で訴えると────」
「待って!!!」
後ろからニアの声が聞こえてきた。非常に切迫した声だ。その声からニアが何を言わんとしているか分かったヨシュアは「ダメだ!」と声を上げる。
けれどもニアは止まらない。
「アンタの目的はアタシなんだろ!? 此処にいる人たちでもなく、ましてやアミーテたちじゃない! 狙いはアンタに逆らったこのアタシなんだろ!?」
「まあ、そうですねぇ。…… それで?」
「だったらアタシを連れていけ! 罰を与えたいんならアタシにしろ! 他の関係の無い人たちを巻き込まないでくれ!」
エンデュランスは手を叩いて喜ぶ。「その必死な表情、良いですねぇ! そそりますよ! で? それで? 次は涙ながらに『お願いします!』と訴えますか? それともこの前の続きとして、その場で全裸になってもらえますか?」
「エンデュランス!!!」
ヨシュアは叫んだ。もう我慢ならなかった。
ヨシュアは敵意を剥き出しにし、頭上には<魔封じの光剣>を展開する。
「もうその口は開くな! まともにする気も無い交渉なんて、こっちから願い下げなんだよ!」
「おや? いいのですか? キミの後ろに誰がいるか、分かって言っているのですか?」
「黙れ! 数で押し切れると思っているなら、それこそ浅はかだ!」
ヨシュアがそう言うと、エンデュランスの顔が今日初めて曇った。けれどすぐに表情を取り直し、再び口元に笑みを浮かべる。
「なるほど。それは気になりますね。知っての通り、ボクは好奇心旺盛なんです。だから…… 試させてもらいましょうか」
エンデュランスは指をパチンと鳴らした。それを合図に取り巻きの男どもが一歩前へ進み出る。男たちの手には鋭利な刃物が光っている。
「標的は馬車に乗っている奴らです。盾使いは無視しなさい。ああ、出来ればニアは生け捕りにしましょうか。その方がザウィードさんも喜ぶ。さあ、行きなさい!!」
そう言うとエンデュランスは白衣のポケットから小瓶を取り出す。ヨシュアはその小瓶に向け、素早くワイヤーを伸ばすが────
「おっと。それぐらいは予測の範囲内ですよ」
身を翻してはワイヤーを軽々と避ける。そして口の中に錠剤を何粒か放り込んだ。エンデュランスの喉元がこくんと動く。
その薬は随分と即効性があるらしい。すぐさま目で見て分かるほどに奴の体に変化が現れたからだ。
エンデュランスの目はカッと見開かれ、首や顔中に血管が浮かび上がった。さらには白衣の上からでもわかる程に筋肉が膨張を始めた。人間の体に起こる変化とは思えない程だ。あまりの異様な光景に周りの男たちも声を失っていた。
エンデュランスは男どもに「何をしているのです? 死にたいのですか」と低い声で言った。その声は脅しではなく、気に入らなければ味方でも本当に殺してしまうのではないか思わせた。
子分たちは我に返ったかのように慌てて前を向き、それからヨシュアを避けるようにして左右へと散って行く。ヨシュアから見て右に五人、左に六人だ。
まずは左の六人から。ヨシュアは一側足に飛び込むと、勢いそのままに先頭の男に飛び膝蹴りを喰らわす!
思いもよらぬスピードに直撃を喰らった男は後ろへ吹っ飛び、派手に転び、そのまま仰向けになって気を失った。
「あ? …… えっ?」
周りの男たちはまたしても言葉を失った。どいつもこいつも口を開け、足がすくんだように動けなくなっていた。そこへヨシュアは三本の<魔封じの光剣>をそれぞれ一本ずつ、近くにいた三人の足の甲に突き刺す!
「うえ? 何だこれ? 動けねえ!?」
「そこで大人しくしてろ!」
<魔封じの光剣>は肉体と地面とを同時に串刺しにすることで、相手をその場に固定できる。<魔法無効化>も使えない様な連中なら、それだけで数十分は無力化できるはずだ。
左側に残るのはあと二人。そいつらをヨシュアは盾とローキックで素早く料理し、地べたを這いつくばらせる。ここまで十秒もかからなかった。正確に言えば七秒といったところ。飛び蹴りが直撃した後から数え始めるなら六秒である。
ヨシュアは左側の六人を蹴散らすと、そこで一度意識を集中した。再び<魔封じの光剣>を展開するためだ。そして右側の五人へと標的を移し、ターゲット目掛けて一気に駆け出した。このスピードなら馬車に近づく前に余裕で追いつけるはずだ。
だが、その考えはエンデュランスによって阻まれることになる。坂の下にいたはずのエンデュランスがナイフを片手に、いつの間にかヨシュアの近くまで駆け上がって来ていたのだ。
驚くほど速く駆けてきたエンデュランスが、スピードを緩めることなくナイフで突き掛かって来た。
咄嗟のことではあったが、ヨシュアはそのナイフを<衝撃吸収>できっちりと弾く!
だがエンデュランスはそうなることを見越していたようだ。弾かれた体制のままエンデュランスはポケットに手を突っ込むと、見慣れぬ薬品を取り出した。瓶に入った紫色の液体だ。そしてそれをヨシュアの足元目掛けて投げつける。
嫌な予感がしたヨシュアはそれを受け止めることはせず、後ろへ跳んで躱した。
────直後、爆発!
それは小さな爆発ではあったが、忽ち周囲を白い煙が包み込むのであった。




