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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
ニアからの依頼編
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天秤にかけずとも

 ニアは首を横に振って「分からない」と答える。本当に何も思い浮かばず途方に暮れた様な顔をしている。


 そんなニアにロイは「分かんねー訳がねーだろ」とぶっきらぼうに言った。



「これはお前が決める事だ。お前以外決められない事だ。ライだって、間違いなくお前の意見を第一に考える。つまりは、お前が決めなきゃ話が進まねーんだよ」


「でも…… 」


「でも、じゃねーよ。逃げずに考えんだよ。それに、そんな悩むことじゃねーだろ。大事なのは『居なくなった父親』なのか、それとも『いつも側にいてくれるライ』なのか。天秤にかけずとも、答えは出てると思うんだけどな」



 ヨシュアは、ロイの言葉は無神経だと思った。今のニアの話を聞いていたにも拘らず、ロイの言葉には「母親との思い出」や「ニアたちがこれまでに掛けた時間の重み」という観点がごっそりと抜け落ちているような気がしたからだ。

 けれど、大事なことは意外とシンプルなのかもしれない。特に今の頭が混乱しきったニアには、これぐらい分かりやすい二択の方がいいのかもしれない。



「そうだね。危険だってわかった以上、お父さんにこだわるのは止めた方がいいのかもしれないね。アタシのわがままで、これ以上ライを危険には晒せないから…… 」


「そうそう。それに、どーせ父親と話せたって、既にお前のかーさんが死んじまってる以上、どうやってもモヤモヤとした気持ちは消えねーんだ。会おうが会うまいが、な。だったら、目の前にいる人を大事にした方がいいに決まってるぜ」



 フン、と鼻を鳴らすロイ。その隣でニアが可笑しそうに笑いながら「アンタがそんな風に考えるなんて珍しいね。恋人が出来てから、なんか心境の変化でもあった?」と尋ねた。ロイは「そんなんじゃねーよ」と否定するものの、耳は真っ赤で、恥ずかしがっているのは誰の目にも明らかだった。

 そんなロイが「けどまあ、失いたくないものは誰にでもあるんじゃねーの。…… 知らんけど」と、ぼそぼそと、けれど間違いなくそう言うものだから、その事がまた何だか可笑しくて、ヨシュアとニアは顔を見合わせて笑いあった。







 その日もライは目を覚まさなかった。そしてやっぱりニアはライの側を離れなかった。横になって眠り続けるライの前で、ちょこんと座り続けるニアを見ていると、ヨシュアは不覚にも彼女のことが愛おしく思えた。自身の弱さをさらけ出したニアを、出来る事なら後ろからそっと抱き寄せてやりたい衝動に駆られるのだ。(勿論、そんな勇気が実際にあるわけでも無く、胸の内にそっとしまい込むだけだった)


 何も進展しないまま時間だけが過ぎていく。何も変わり映えの無い夜がやって来る。

 昨日と同じように買い物に出かけ、スープと固い肉を頬張り、狭く暑苦しい部屋の中で横になる。アミーテの家族には申し訳ないけれど、とても快適とは言えない環境だ。それでも、こうして二日に渡って泊る場所を提供してくれるのは、今のヨシュアたちからすればこの上なく有難い話だ。


 一先ず眠りにつくことは出来たものの、ヨシュアはどうしても寝苦しさを感じては夜中に何度も目を覚ました。風は相変わらず強く、うるさいぐらいに吹き付けている。ハッキリ言って耳障りだった。けれど、だからといってどうすることも出来ず、ヨシュアは目をつむっては時間が過ぎるのを待った。そうしてまた睡魔がやって来ては浅い眠りにつくのであった。



 次の日の朝も随分と早くに目が覚めた。聞こえてくる寝息から察するに、他のみんなはまだ眠っているらしい。けれど、もう一度眠る気にはどうしてもなれそうにない。ヨシュアは上半身だけ体を起こすと、ゆっくりと周りを見渡した。

 するとヨシュアの目に、自分以外にも体を起こして座っている人物が目に入った。そして、その人物が誰なのか分かった時、ヨシュアは思わず叫びそうになる。


 ────ライさん。


 ライもヨシュアに気付くと、少し気まずそうな顔をして静かに頭を下げる。恐らくライは自分の置かれた状況を把握していないだろうが、それでも自分自身が周りに迷惑をかけたと自覚しているらしい。(勿論、ヨシュアはそれが迷惑だなんてこれっぽっちも思ってはいなかったが)


 ヨシュアは周りを起こさぬように立ち上がると、足音を立てないようにしてライの側まで歩く。そして彼の隣に座って小声で話しかける。



「よかった。目が覚めたんですね」


「はい。おかげさまで」



 また小さく頭を下げるライ。顔色は悪いものの、意識はハッキリとしているようで安心した。

 ライの隣ではニアが横になって眠っている。そんな彼女の姿を見て、ヨシュアはふと気になって尋ねる。



「えっと、ニアにはもう声を掛けましたか?」


「いえ。静かに眠りについておられるので、まだです」


「ライさん。それは気の使い方を間違ってますよ」



 実に彼らしいと思いながらも、ニアがどれだけライが目覚めることを待ち望んでいたか知っているヨシュアは、ニアの肩を揺らして「起きて」と声を掛ける。



「────んん、ヨシュア…… ?」


「ニア、起きて」



 まだ眠そうなニアが横になったまま右手で目をこする。ここ数日はライのことが心配で上手く寝つけなかったニアだが、今になってその反動が来ていたようだ。彼女はすっかり深い眠りについていたらしい。

 そんな寝ぼけまなこのニアに対してヨシュアはライを指さす。

 すると────



「ライ!」



 ニアは目を見開き固まった。かと思うと、跳びはねるようにして起き上がり、そのまま勢いよく全身でライに抱き着く。

 抱擁されたライは目を丸くして驚いたような顔をしている。どうすればいいか分からず、戸惑っているようにも見える。



「よかった! もう死んじゃうんじゃないかと思った…… 」



 ライに顔をうずめるニアが涙声で喜びを口にする。溢れ出した感情が止まらず、そのままライの胸で泣き始める。

 そんなニアを抱き返すことはしないながらも、ライの目は温かさで満ちていた。



「ご心配をおかけしました、ニア様」


「…… うん」


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