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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
ニアからの依頼編
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命より大切なもの

 マナの木が青々と生い茂る山道を一人駆け回り、再びオルリベスの街へと戻ってきたヨシュア。

 この街で新しく作成したメンバーズカードの裏に示されたニアの居場所を頼りに訪れたそこは、何の変哲もない民家だった。特に看板や標識らしいものも出ていない。病院という訳でも無さそうだ。


 立ち尽くしていても仕方ないと思い、ヨシュアは扉をコンコンとノックする。すると、扉の奥から覗くのは見覚えのある顔。確か名前は────



「あっ、ヨシュアさん!」



 先に名前を言ってくれたのはアミーテ。ギルドで受付をしていた、自分よりも背の高い女の子である。黒髪で地味な印象だけれど、スカートを履いているからか、随分と女の子らしくなったというか、初めて会った時と比べて幼く見える。勿論悪い意味ではなく、むしろヨシュアの目には好意的に映った。

 そのアミーテがヨシュアの顔を見るなり会釈してくれるので、釣られてヨシュアも頭を下げる。



「えっと、此処にニアと────」


「お二人なら中に。さぁ、上がってください」



 話の先を読んでアミーテは家に招き入れてくれる。ヨシュアは礼を言って中へとお邪魔させてもらう。

 家に上がるとアミーテの母親らしき人に頭を下げられた。何を言うでもないけれど、その目は温かく、見知らぬ人間であるはずの自分を受けれてくれているようにヨシュアは感じた。


 家の中はお世辞にも広くない。そのため、角を曲がるとすぐにニアとロイの姿が目に入る。ヨシュアは思わず「ニア!」と少し大きめの声で彼女の名を呼んだ。



「あぁ、ヨシュア!」



 座っていたニアが此方を向いて立ち上がろうとするよりも先に、ヨシュアはニアの隣、ロイとは反対側に座り込む。

 「よかった。アタシ心配で…… 」という彼女の姿は、マーセナルにいた時には決して見せなかった一面だ。散々泣いた後だからか目元は腫れあがっており、その瞳はまた涙で潤んでいる。


 三人の目の前ではライが横になっている。意識はまだ戻っておらず、上半身は裸で、傷口の辺りには包帯が巻かれている。顔もまだ赤く、息を吸う事でさえ辛そうだ。

 そんなライの痛ましい姿をじっと見つめていると、隣に座るニアが小さな声で話し始める。



「さっきまで医者が来てくれてて容態を見てもらってたんだ。傷口の手当と、別の飲み薬ももらって…… 」



 飲み薬、か。

 ニアの言葉に、ヨシュアは先ほどのエンデュランスの言葉を思い出さずにはいられなかった。彼は<念話テレパス>を使えば医者に毒を盛らせることも可能だと言っていた。「まだそんな命令は出していない」とあの時言っていたが、信じていいのだろうか?

 それでも今のニアの弱った横顔を見ると、流石に「その医者は怪しくなかったか?」なんて野暮なことを聞くことは出来ない。



「医者が言うにはね、助かるかどうかは五分五分が良いとこだって。でも、こうしてライの辛そうな顔を見ていると、本当に助かる可能性があるのかすら怪しく思えて…… 」


「ライさんがニアを置いて死ぬわけない。大丈夫だ」


「うん。そうなんだけどさ」



 気休めしか言えないヨシュア。それを分かったうえで頷くニア。

 そんな二人のやり取りをもどかしく思ったのか、ロイが「あー、もう!」と口を開く。



「やれることはやったんだ! 信じて待とうぜ!」


「確かに。珍しくロイの言う通りだな」


「珍しく、は余計なんだよ」



 そんなやり取りも程々に、ヨシュアは二人からこの家に来るまでの経緯を聞いた。

 話によるとアミーテが随分と気を利かせてくれたようで、街に戻る前にフレンドコールがあったという。

 何でもアミーテはギルドホームから抜けた後、ずっとヨシュアたち三人の位置を確認してくれていたそうで、合流したはずのヨシュアとニアが二手に分かれた時に何やら嫌な予感がしたらしい。だからアミーテは、街の入り口辺りでニアとロイの事を待ってくれていたそうだ。

 この街に不慣れなニアたちの為に医者を呼んでくれたのもアミーテだった。「ホントに、後でもう一度お礼を言わなきゃ」とニアはしんみりとした表情で言った。



 「まっ、それもこれも全部、アミーテを助けた俺たちの手柄だな」とロイが言うと、ニアがすかさず「偶々なのに随分と偉そうね」と言って少しばかり笑顔を見せる。



「それにしても、アンタたち随分と仲良くなったのね」


「別に仲良くはねーけど、お前がいなくなってから、こっちも色々とあったんだよ」



 「恋人が出来たりな」とヨシュアが付け加えると、ニアの奥からワイヤーが飛んできた。突然のことながら、ヨシュアは体を後ろに逸らすことで何とかそれを躱す。二人に挟まれたニアは苦笑いだ。







 少し一人にしてほしいというニアを家に残し、ヨシュアとロイは一旦外に出た。時刻は十五時を過ぎた頃で、夕方まではまだ少し時間がある。じりじりと肌を焦がす太陽が少し煩わしく感じた。



「で? ニアがずっと心配してたけどさ。アイツら強かったのか?」


「そうだな。俺は相性が良かったみたいで苦戦せずに済んだけど、確かにアイツの体は刃物が通らなかった」


「…… マジで?」


「嘘じゃなくてホントの話だ。なんでも薬で肉体を強化したらしい」



 ああ、なるほどな、とロイが一人で納得する。きっとエンデュランスの白衣姿から、怪しげな薬品を扱う姿を想像したに違いない。

 そんなロイにヨシュアはナイフを取り出して見せた。そのナイフは先ほどの戦いで使用した物であり、刃先がボロボロに欠けてヒビが入っている。



「何とか攻撃できないかと<魔法無効化ディスペル>をナイフに纏わせて斬りつけてみたんだが、見ての通り、ナイフの方が欠けてしまったんだ。魔法でなく薬で肉体の強度を上げたという奴の話は本当らしい」


「刃物すら通さねーとなると、ニアとライが歯が立たないのも頷けるぜ。俺だって勝てるか分かんねー。お前もじゃあ、結局は隙を見て逃げてきたのか?」



 いや、そうでは無くて、とヨシュアは事の顛末をロイに一通り説明する。

 薬の効果時間が切れた事、薬には副作用がある事、この街はエンデュランスの支配下であって油断は出来ないという事、そのあとエンデュランスと「お互いを見逃す」という簡単な取引をした事…… 

 ロイは頷きを返すでもなく、ヨシュアの話を隣でじっと黙って聞いていた。それからロイは他人事のような口調でヨシュアに尋ねる。



「ふーん。それで? 目的のニアとライは見つかったけど、この後どうすんだ?」


「ライさんが目を覚ますまでは、アミーテの家に厄介になろうと思う」


「そんな事は言われなくても分かってんだよ。俺が聞いてるのはその後。ライが目覚めた後の話をしてんだよ」


「それは…… ニア達から話を聞いてから判断することになる、と思う」


「アイツらがリベンジするっつったら、せっかく見逃してもらったのに、また危ないところに飛び込むのか?」



 ロイはいつになく慎重な様子だ。傷ついた二人を見て、ロイなりに何か思う所でもあったのかもしれない。



「それは分からないけど、今回の件に関しては俺たちだけで判断することでも無いだろう」


「かも知んねーけど、大切なら首輪付けてでもマーセナルまで連れ帰ればいいじゃねーか。無理やりだろうが何だろうが、死ぬよりマシだろ」



 そうかもしれないと思いつつも、ヨシュアはやはり先にニアたちの話を聞くべきだと思った。命よりも大切なものがあるのかどうかも含め、全てはニアたちが決めるべきだと思うのだ。そして傭兵であるヨシュアは、ニア達から助けを求められれば、彼女たちの願いに出来る限りの力で応えたいと思うのだ。

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