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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
ニアからの依頼編
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浮かべるのは微笑

「副作用?」



 ヨシュアは思わず聞き返した。エンデュランスはその目でザウィードが苦しむ姿を見つめつつも、焦る様子は一切ない。



「そうだよ、副作用だ。と言っても、いつもなら倦怠感と、それから少しばかり呼吸が苦しくなるだけなんだけどね。今日はちょっと様子が可笑しいね。ハイペースで飛ばし過ぎたせいかな? これはこれで実に興味深いよ」



 鬱陶しいぐらいに長く伸びる金髪をくるくると指でいじりながら、エンデュランスは言った。興味があるのはザウィードが抱える症状だけで、彼の心配は毛ほどもしていないらしい。

 その一方で、取り囲む子分の男たちはザウィードを見て落ち着きなく動揺している。彼らからしてみれば副作用は予想外だったらしい。


 また此方に向かって歩いてくるエンデュランス。

 ヨシュアは牽制の意味を込めて<魔封じの光剣(シールズ・エッジ)>を頭上に出現させ、「そこで止まれ!」と叫んだ。

 エンデュランスは歩みを止めた。けれど、それはどうやらヨシュアに気圧されたからではないようだ。彼は三度現れた<魔封じの光剣(シールズ・エッジ)>をしげしげと眺めている。



「ほう。まだ出せましたか。てっきりもう打ち止めかと思ったけど、どうしてこのタイミング何だい? どうしてザウィードとの戦いでは使用しなかったんです?」



 ヨシュアはまた口をつぐんだ。そんな不利になる事言える訳が無い。



「何か条件があるのかな? 左手一本だし、<衝撃吸収アブソープ>と同時に使うことは出来ないとか?」



 エンデュランスが一人で勝手に考察を始めた。無視されてもお構いなし。研究時も一人でブツブツと言っている姿が目に浮かぶようである。

 その間にもザウィードは苦しみ藻掻もがき、のたうち回り、口からはブクブクと泡を吹きだしている。…… 放っておくと死ぬんじゃないか?


 視線からそんなヨシュアの考えを見通したのか、エンデュランスが可笑しそうに笑う。



「はははっ。君は何を心配しているんですか?」


「何をって、お前は心配じゃないのか?」


「別に。ボクも彼も副作用は承知の上で薬を飲んだんだ」


「だからって…… 」


「そんなことより、取引と行きましょう」


「取引? こっちが有利なのにか?」



 可笑しな話だ、とヨシュアは思った。取引は互いに有利なカードを持っているからこそ成り立つ。だが、現状はどう見たって此方が有利に見える。

 エンデュランスの手足は封じ、ザウィードは泡吹いて倒れている。取り巻きの男どもは数だけいたって意味が無い。束になって掛かって来たって、ギルドの入団試験の時と同じように返り討ちにしてやるだけだ。そんな状況でまともに取引が出来るとは、ヨシュアはどうしても思えなかった。


 しかしエンデュランスは「残念ながら有利なのはこっちだよ」と余裕の笑みを浮かべて言った。



「キミたちの連れは、あの男を助けようと近くの街へ向かった。でもね、あの街はボクの支配下なんだよ。この意味が分かりますか?」



 ヨシュアはエンデュランスの言葉を計りかねて首を傾げた。



「ふふっ。分からないかい。あのね、つまりボクの味方は街中の人間ってこと。<念話テレパス>を使えばいつでも、今からでもニアたちを襲うことが出来るんだよ。君たちはまだボクの手のひらの上ってことなんだよ」



 わかったかい、とエンデュランスはわざとらしく言った。その言葉にヨシュアは胸がざわつく思いだが、それでもヨシュアは気丈に反論する。



「俺の連れは俺より強い。いくら人数を掛けても返り討ちだぞ」


「へー。そいつは意外ですね。でもね。強さはあんまり関係ないんだよ」



 そう言ってエンデュランスはニタリと笑う。



「理由は二つ。一つ目は、いくら強くても足手まといが二人もいたんじゃ抵抗も無駄だって事。囲まれたらお終いさ」


「ニアは足手まといなんかじゃない!」


「いやいや。あの戦意喪失っぷりはダメでしょう。プライドもズタズタだろうしね」



 エンデュランスはそう言って馬鹿にしたように笑う。それも大げさに。その仕草にヨシュアは苛立ちにも似た怒りを感じ始める。

 そんなヨシュアの気持ちを知ってか知らずか、エンデュランスは涼しい顔をして話を続ける。



「もう一つは、さっき言った通り街中の人間がボクの支配下だって事。つまりは、女子供ですらボクの命令には従うという事。例えばボクが『薬に毒を盛れ』と命じれば、医者は平気で患者を殺すのさ」


「お前…… まさか!?」


「いいや、まだそんな命令は出していない。けど、そうすることも出来るって話。そして、今の話を聞いて貰った上で取引をしようと言うだけの話ですよ」



 ヨシュアは左手の拳を固く握りしめる。エンデュランスが常に余裕の表情を浮かべているのにはちゃんと訳があったのに、その思考を読み切れなかった。



「さて、その顔を見ると、どうやら状況を正しく理解してもらえたようですね。お互い大事なものを握られている事だし、素早く取引に移りましょうか」


「いいだろう。そっちの望みは何だ?」



 怒りを押し殺してヨシュアはエンデュランスに尋ねる。すると何故かエンデュランスは顎に手を当てて「うーん…… 」と唸った。まさか、自分から持ち掛けてきたにも拘らず、取引内容を決めていなかったのではないか? そんな考えがヨシュアの頭をよぎった。


 そして恐らくだが、ヨシュアの憶測は当たっていたらしい。



「うーんと、実を言うとただ見逃してもらえればそれでいいんですよね。取引なんて大層な言葉を使ったんですけど」


「本当にそれだけでいいのか?」


「ええ。此処でボクたちを見逃してくれれば、あのライという男が目を覚ますまでは手を出さないと約束しましょう。子分の男どもにも言い聞かせておきますよ」


「…… 分かった。その条件を呑もう」



 そう言ってヨシュアは素直に頷いた。ヨシュアからすれば願っても無い取引だったからだ。この場でエンデュランスを制圧できればそれに越したことは無いが、無暗に危険を冒すべきではない。それに、この男は他にも何か奥の手を隠しているかもしれない。



 エンデュランスは両腕をだらんとさせたまま「それじゃあ、また近いうちにお会いしましょう」と言う。最後の最後まで嫌な微笑を浮かべたままに。

 そんなエンデュランスの言葉を無視するようにヨシュアは黙ったまま、静かにその場を後にした。

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