奪うのは尊厳
ノベプラが落ち着いたので、またちょこちょこと更新していきます!
よろしくお願いします!!
────そんじゃあ誠意を見せてもらいましょうか。
悔しい。ただひたすらに悔しい。
自分を見下す男に大切なものを握られているという事実が悔しかった。情けなかった。何もできず、何一つ叶えられず、ただじっと流れ落ちそうになる涙を必死になって堪えた。
「土下座、しなくてもいいんですか?」
エンデュランスは敢えてゆっくりとそう言った。ニアは男の顔を直視できず、顔は地面に伏せていたが、それでも男たちがニタニタと卑しい顔で笑っているだろうことは声色で分かった。
ニアに選択肢は無かった。解毒剤を手に入れるためには土下座するしかなかった。土下座すれば解毒剤がもらえるという保証は何処にも無いが、それでもニアに出来るたった一つの事は、屈辱に耐える事だけだった。
ニアは自分にもたれかかるライを地面にそっと横たえる。ライの意識は朦朧としており、顔は赤く呼吸も乱れている。もう手遅れなんじゃないか、という考えが嫌でも頭によぎった。そんな不吉な予感を頭から必死の思いで追い出すと、ニアは正座した姿勢のままエンデュランスに向き直る。
そしてニアはゆっくりと頭を下げた。
「どうか、私に解毒剤を分けてください」
ニアが声を震わせながら訴えると、周囲を取り囲む男たちが一斉に笑い声をあげた。わざとらしい馬鹿笑いだった。ニアに屈辱を与えるがために、敢えて大きな声で笑っているのだろう。そのことはニアも良く分かっていたが、それでもニアは胸がざわつくのをどうにも抑えることが出来なかった。
────悔しい。
ニアは誰にも聞こえないぐらい小さな声で呟いた。
ニアはこれまで、ライと共に世界中を旅してきた。全ては行方不明になった父を捜すためだった。そのため、一つの所に長く定住することは無かった。だから親しい人間は数えるほどしかおらず、それ故困難に出くわした時はいつも自分たち自身の力で乗り越えてきた。
それなのに、肝心な時に限って自分たちの力はまるで通用しなかった。そして、ニアにはこんな時に頼れる人間はいなかった。
一向に止まない笑い声の中、ニアは頭を下げたままじっと羞恥に耐えていた。そこへ誰かがニアの頭を強く押さえつけてきた。それはニアの額と鼻先が固い地面に押し付けられるほどだった。
「ニアちゃーん。そのお願いの仕方はないんじゃないかぁ?」
この声、この手の大きさ。それはエンデュランスではなくザウィードのものだった。
「俺はニアちゃんより馬鹿だが、それでも土下座の仕方ぐらいは知ってるぜ。ちゃんと相手の目を見て”エンデュランス様、歯向かってごめんなさい。もう二度と愚かな真似はしません”…… だろ?」
そう言ってザウィードはニアの頭をガシガシと叩く。その度に鼻先が地面に押し付けられて痛い。
此処まで何とか堪えていた涙が、一気に溢れ出してきては土の上に落ち、瞬く間に黒いシミになった。涙すら堪え切れない自分が情けなく感じて、余計に涙が止まらなくなった。
いくら惨めだろうと、やはりニアには選択肢が一つしか用意されていなかった。涙で濡れる顔は見せたくはなかったが、それでも顔を上げなければならなかった。
顔を上げるとまた一斉に笑われた。きっと恥ずかしいぐらいに顔は真っ赤になっているのだろう。涙と鼻水が止まらない顔は、きっと酷い有様なのだろう。それでも気丈に振る舞おうと、ニアは精一杯の平気な顔をしてエンデュランスを見た。それなのに視界が涙で滲んでしまって、エンデュランスの姿がぼやけて見えた。
「ほほう。これはまたそそりますねぇ。さあ、解毒剤が欲しければ、私にみっともなくおねだりしなさい」
「はい…… 」
ああ、今まで積み重ねてきたあらゆるものが崩れていく。ニアはハッキリとそう感じた。
貴族という身分はとうに捨てた。その代わり、此処までどんなに辛いことがあっても自分とライの二人で乗り越えてきた。壁を乗り越えるたびに誇れるものが出来た。それが今、音を立てて無残に崩れていくのをニアは感じていた。自分は負けたのだと自覚せざるを得なかった。
「エンデュランス様。歯向かって申し訳ありませんでした。もう二度と愚かな真似は致しません。ですから、どうかその解毒剤を私にお与えください」
「────ふむ。言葉遣いは随分とましになりましたね。ただ、いまいち誠意が見えませんね。まだ”悔しい”とか思っていませんか?」
「えっ?」
「負けた君に尊厳などありません。”悔しい”とか”恥ずかしい”とか思ってはいけないのです。そうですね、この際ですから、裸にでもなってもらいましょうか」
「は、裸!?」
「そうです。服を全部脱いで、それからもう一度土下座してください。そうすれば、今度こそ解毒剤を渡すと約束しましょう」
息が詰まる。これ以上声が出なかった。怒りと悔しさでどうにかなってしまいどうだった。いや、いっそ感情の全てを失えたならどれほど楽だったろうか。
ザウィードがしゃがみ込み、ニアの顎に手を当てる。
「聞こえたか、ニアちゃん。土下座だってよ。誠意を見せろってエンデュランスさんが言ってるぞ」
「あ、あぁ…… 」
声が上手く出せずに返事が出来ない。そもそもどうすればいいのか分からなかった。理解し難い命令の前に、脳が正常に作動していなかったのだ。
そんなニアをザウィードは呆れた目で見ていた。かと思うと徐に立ち上がり、それから二歩、三歩と歩いたかと思うと……
なんとザウィードは横たわるライを力いっぱい蹴飛ばし始めた!
余りの急な出来事に呆けてしまっていたニアも立ち上がり、ザウィードに対して涙ながらに懇願する。
「待って!! お願いだから止めて!!」
「ああ!? うっせーぞ。お前がさっさと脱がねーからだろうが!?」
「わかった。脱ぐ! 脱ぐからこれ以上は止めて!!」
「チッ。ならさっさとしろ!」
腕にまとわりつくニアを強引に引き剥がすと、ザウィードはエンデュランスの隣にまで下がって、それから腕組みをしてニアをじっと見つめる。その目はニアが裸になるのをじっと待っていた。
周囲を取り囲む男たちは、先程とは一転して静かにニアを見つめている。”その時”を固唾を呑んで待っているのだ。
ニアはマントに手を掛けた。震える手が上手く動かない。けれど、それでもニアはなんとかマントの金具を外して脱ぎ捨てる。すると男どもから「おーっ」と下品な歓声が上がる。ひゅーっ、と口笛を吹く者もいた。
ニアの動きはぎこちない。恥じらいも捨てきれていなかった。けれど、エンデュランスもザウィードも黙っていた。ぎこちなさを含めて楽しんでいるようだった。ニアが時折見せる恥じらいと怒りの表情がまた男たちをそそらせていたのだ。
ブラウスに手を掛ける。下から上へ、白い肌からおへそが覗くと歓声がまた一段と大きくなった。そのままブラウスを捲し上げると、小ぶりの乳房を隠す下着が衆目に晒された。透け感のある、レースの付いた黒の下着だった。
首元を通り、長い黒髪をなびかせながらブラウスを脱ぎ捨てる。すると、冷たい外気が肌に触れた。ニアは思わず背中を丸め、腕組みするみたいに両手を組んだ。
勿論、ニアの体を縮こまらせたのは寒さのせいだけではない。ニアに注がれる男たちの視線に耐えきれなかったのだ。
今やニアの上半身を覆うものは黒い下着だけ。薄い布切れだけが辛うじてニアの大事な部分を隠していた。露になった白い素肌は、羞恥と怒りでほんのりとピンク色に染まっていた。
「まだ下着は脱がなくて結構ですよ。その前に、まずはスカートを脱いでもらいましょうか」
お楽しみは後に残しておこう、と言わんばかりにエンデュランスから指示が来た。ニアはその言葉に素直に頷き、スカートのジッパーを降ろす。すると、はらりとスカートが地面に落下した。
地に落ちたスカートから足を抜く。そのままブーツと靴下も脱いで裸足になる。
男たちがじっくりと舐めまわすような視線でニアを見つめている。その視線が肌に突き刺さるようで、思わず顔を背けてしまった。怒りより惨めさと恥ずかしさが勝っていて、抵抗する気持ちもすっかり消え失せてしまった。大人しく指示に従い、早く解毒剤を手に入れたい一心だった。
「いいですねぇ。随分と貧相な体ですが、私は好きですよ? さて、では皆さんお待ちかねのようですし、そろそろ下着も脱いでもらいましょうか」
エンデュランスはそう言ってわざとらしく小瓶を振って見せた。その動きに合わせて液体が揺れている。怪しげな色をした青い液体だ。
「さあ、我々の前に生まれたままの姿をみっともなく晒しなさい!」
ニアは黙って頷く。そして両手を背中に回し、下着の留め具へと手を伸ばした。震える細い指が何とかそれを外す。
両腕を乳房に当てる。ブラの紐がだらんと垂れ下がっている。この腕をのかせば、ブラはスカートと同じようにはらりと落下することだろう。そして、その瞬間を男たちは待ちわびているのだろう。きっと男たちの頭の中は、今はまだ見えない乳首を想像しては、期待に胸を膨らませているのだろう。
ああ、嫌だ。けれど他に道はないのである。
そうしてニアは、交差させた両腕をゆっくりと胸の前から解くことに決めた。自分に出来る事はこれしかないのだと、惨めな自分に言い聞かせるようにして……
明日も投稿予定です!




