望み
「────なるほど、だいたい分かったよ」
ジークは目をつむり、「なるほどね」なんて風に相槌を打ちながら何度も頷ずく。全部把握した、みたいな感じの表情だ。
それから紅茶を一口啜り、ヨシュアの考えを聞こうとする。
「それで? 昔話を聞かされて嫉妬でもしたかい?」
「いや、別に嫉妬なんて…… 」
と言いつつ、確かにさっきは胸中穏やかでなかったヨシュア。でも、そのことは勿論伏せておく。
「先に告白しちゃえばいいじゃないか。そしてキミが彼女の心の傷を癒す。そうすればすべて解決だよ」
「ロイはどうするんです?」
「先に好きな人を取られたんだから、別の人を好きになるんじゃないかな?」
「…… それ、解決になってるんですか?」
ヨシュアは訝しむような表情でジークを見た。
でもジークは「キミはまだまだ子供だな」と呆れ気味に言う。
「いいかい? 恋愛は早い者勝ち。取った取られたの世界だ。好きな人を他人に取られるなんてこの世じゃ日常茶飯事。別に珍しいことでもなんでもない。だから気に病む必要は全く無いんだ。ちなみに、先に告白するというのは最強のアドバンテージなんだよ。だから、ロイの事なんか気にせずキミが先に告白してしまえばいい」
「…… いやいや。尤もらしいこと言ってますけど、まず”マトのことが好き”という前提から間違ってますから」
「違うのかい?」
ジークは疑いの目を向ける。その目は「違わないよね?」と言いたげで、どこか確信に満ちていた。
「────どうでしょうね。出会ってまだ間もないし」
「でも、世の中には一目ぼれという言葉もあるよ。どれだけの時間を共に過ごしたかは確かに大事だけど、告白の必須条件ではない。そしてもう一度言うけど、先に告白した方が圧倒的に優位に立てるんだ。好きなら先に行動に起こすべきだよ」
「”優位に立てる”って、別に戦ってる訳じゃ…… 」
「恋愛は戦いさ」
さらっと、さも当然のように言うジーク。
「それとも、キミは恋愛においても守りを固めるのが好きなのかい? ボクは正直その戦い方はおススメしないなぁ」
「はぁ…… 、とりあえず俺とマトとの関係は置いておいてください。今はマトとロイの関係が良好になればそれでいいんです」
「無理だね」
「えっ?」
「キミとマト君の関係を抜きにして、ロイとの関係修復は有り得ない、と言ってるのだよ」
そこまで言って、またジークは一口紅茶を啜る。
ヨシュアはジークの言葉の続きを静かに待った。
「…… ふぅ。いいかい? キミも知っての通り、ロイの苛立ちの原因、その一因はキミにある。とばっちりみたいなもんだけどね。でも、だからこそキミ抜きに話を進めても根本的な解決にはならないよ。本気で問題を解決したいなら、キミとロイとの話し合い、もしくは意見のぶつけ合いが必要だ。喧嘩してでもね」
「穏やかじゃないですね」
「まあね。でも、彼の性格を考えれば、喧嘩になってもおかしくないよ」
────確かに。充分有り得る話だ。
「まあ喧嘩したくないなら、初めに言った通りマト君に告白して先に奪えばいい。所謂”戦わずして勝利”、と言う奴さ」
「その方向は無しでお願いします」
「ええー? 結構いい案だと思うんだけどな…… 」
ジークはわざとらしく驚いてみせる。
でも、何と言われようと、その意見に同調する気にはなれない。
「まぁ、キミをからかうのはこの辺にして────」
「からかってたんですか!?」
こっちは真面目に質問していたのに! と憤慨するヨシュア。
「半分ね。でも、今言ったことは全て真実さ。その上で、キミ達が抱える問題を解決する良い案が無いわけでも無い」
「本当ですか!?」
「お気に召すかは分からないけどね」
ジークはそう言って試すような視線を投げかけてくる。意見に乗るかどうかはヨシュア次第、と言いたげな目だ。だからヨシュアは「とりあえず話だけでも聞かせて欲しい」とジークに頼んだ。
「いいよ。それじゃあ、誠意を込めて語らせて頂こうか」
◆
「────本当に、この作戦でキミはいいのかい?」
「はい」
ジークの「お気に召すか分からない」という作戦の概要を聞き、少しばかり悩んだうえで、最終的にはジーク立案の作戦に乗ることにした。
「キミが得るものは少ない作戦だと思うし、ボクがキミの立場なら、この作戦には乗らないけどなぁ」
「そうですね。でも、もう決めました」
「そっか。まあ、作戦決行は明日の夕方。仕込みの時間も考えると、そうだね…… 明日の朝ならまだ引き返せる。一晩よく考えることだね」
そう言い残すとジークは立ち上がり、伝票を持って席を後にした。
一人その場に残されたヨシュア。
目をつむり、ジークに言われた通り、もう一度よく考え直してみる。
(────大丈夫。これでいいんだ。後悔するかもしれないけど、でも、これでいいんだ)
作戦決行は明日の夕方。
場所はギルドホーム前の大通り。
ヨシュアは、そこでロイと仕合を行う気でいた。




