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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
66/154

聖騎士見習いの二人


 ヨシュアたちの窮地を救ったのはクノンとレオの二人だった。見習い試験で一緒になった二人である。懐かしい顔を見て、ヨシュアの顔に自然と笑みがこぼれる。

 屋上、ちょうどミントが立ち寄った女性服の店の上、から二人が飛び降りる。四、五メートルほどある高さを感じさせない、なんとも身軽な二人である。


 「こいつらを連行しろ」と、レオは周囲の騎士たちに指示を出している。二人は聖騎士の見習いに過ぎないが、この時点で一般の騎士たちより身分は上だ。



(さて…… と)


 再会を喜びたい気持ちはある。

 でも、その前に話さなければいけないことがある。



 ヨシュアは後ろを振り返りリコッタを見た。対するリコッタは虚ろな目で呆然と立ち尽くしていた。安堵と後悔が入り混じったような、何とも言えない表情を浮かべている。

 ヨシュアが自分の方を見ていると気付いたリコッタは、何か言いたそうに口を開くが、目が合うと気まずそうに逸らし、俯き、極まりが悪そうに黙ってしまった。



 ヨシュアは無言でリコッタに近づくと、俯く彼女の前髪を優しく掻き分ける。叱られると思っていたのだろうか、ヨシュアの思わぬ行動にリコッタは戸惑いを隠せない。



「え? ヨシュア? ちょっ……あの…… ────いたっ!」



 デコピン一発。

 リコッタは少しばかり顔をしかめる。



「”痛い”じゃねーよ。…… 何か言う事は?」


「…… ごめんなさい」


「ん…… 。じゃあ、もう一人にも謝ろうか」



 いつの間にかクノンがミントを連れてこちらに歩いてきていた。

 ミントはリコッタと目が合うと、姉に駆け寄り抱きしめ合う。互いの無事を喜ぶように。



「────リコッタちゃん!!」


「ああ、ミントちゃん…… ! ごめんなさい。ごめんなさい…… 」


「うん。大丈夫。大丈夫だよ、リコッタちゃん」


「私、私…… 」



 ミントは泣きじゃくるリコッタを優しく包み込むように抱き寄せる。一番怖い目にあっていたはずなのに、彼女は随分と大人だった。これではどちらが姉か分からない。


 ヨシュアはクノンの方を向き直り、礼を述べる。



「助かったよ。ありがとう」


「ふふっ、どういたしまして」



 にっこりと笑うクノン。あの日も見た柔らかい笑顔だ。

 けど、着ている服はあの日と全然違う。クノンとレオが着ているのは聖騎士見習専用の隊服だ。二人とも白を基調とした隊服に深緑色のマントを羽織っている。

 それは聖騎士が着るものとほぼ同じもので、細部のデザインと配色が違う程度の差しかない。つまりは、とても立派でカッコいいのである。

 隊服に身を包むクノンにヨシュアは「その服、とっても似合っているな」と言った。



「ホントに? 嬉しいな」



 クノンは嬉しさから顔をほころばせる。

 でも、その瞳の奥に少しばかり複雑な感情が見え隠れしていた。きっとヨシュアが試験に受からなかった時の出来事がどうしても心に引っかかっているのだろう。



「きっとヨシュアも似合うよ。今から来年が楽しみね」


「そうかな? それじゃあ来年と言わずに、レオから奪って着てみようかな」


「ふふっ。有言実行できるだけの実力があるから困りものね。相変わらずデタラメな強さだったし。あれだけ殴られておいて無傷だなんて、常識じゃちょっと考えられないわ」



 クノンはヨシュアの額を注視しながら言った。



「そうでもない。ちゃんと痛いよ」



 ヨシュアは額をさすりながら言う。

 あの時、ヨシュアを守ったのは言うまでも無く<衝撃吸収アブソープ>の魔法である。ただ、魔力を集めるなら手や足回りが定石だ。それを額や、体の中心である鳩尾を守るために<衝撃吸収アブソープ>を使ったのだ。さすがに完璧には防げなかった。



「ふーん…… でも、腫れるほどではないでしょ?」


「まあね。で、いつから見てたんだ?」


「えーと、ちょうどヨシュアが一発殴られたあたり…… かな?」


「そんなに早くから!?」



 まさかの一言にヨシュアは開いた口が塞がらない。

 実はヨシュアは、ウルキがナイフを抜いた時には二人の存在に気付いていた。だからあの時強気に出れたのだ。でも、クノンが言うには、もっと早くからスタンバイ出来ていたらしく、ヨシュアは思わず不平を漏らす。



「なら、もっと早めに助けてくれよ」 


「ふふっ。ごめんなさい。でも、一応私はすぐに助けようとしたのよ? それなのにレオが”もう少し見ていたい”なんて言うから…… 」


「まったく…… アイツも相変わらずだな」


「認めてるのよ、あなたのことを」



 クノンはそう言って微笑み、「もちろん私もね」と付け足した。



「────おい、何を勝手なことを言っているんだ」



 クノンの後ろから、いつの間にか二人の側まで来ていたレオが不服そうに言う。どうやら事件の後処理も終わったようだ。交通規制も解かれたようで、歩行者の姿もちらほら見え始める。恐らくだけど、盗まれた鞄もきちんと持ち主の手に返ったことだろう。



「レオ、さっきは助けてくれてありがとう。あの場面でも寸分たがわず自在にワイヤーを操るなんて、流石だよ」


「フン。あれだけの事をしておいて…… まったく、嫌味にしか聞こえないな。あの様子ではナイフすら<衝撃吸収アブソープ>で無力化してしまったんじゃないか?」


「どうだろう? でも、試したくは無いな」



 レオの冗談を否定しないヨシュアを見て、レオは怪訝そうな表情を浮かべた。

 不意に後ろから袖を引っ張られてヨシュアは後ろを振り返る。見ると、目を赤く腫らしたリコッタが上目遣いでヨシュアの方を見ているので、どうしたんだ、と優しく尋ねてみる。



「あの…… 二人はヨシュアの知り合い?」


「ああ。二人はクノンとレオナルドと言って、聖騎士見習い試験を一緒に受けた仲間だ。…… 俺と違って、二人は今年の合格者だよ」



 紹介を受け、クノンは二人に向けて笑顔で小さく手を振る。



「あ、あの、私、リコッタと言います。こっちは妹のミントです。危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございました」



 リコッタは丁寧にお辞儀して、感謝の気持ちを二人に述べた。その後ろではミントも同じように頭を下げる。



「気にしないで。当然の事をしただけだから」


「クノンの言う通りだ。むしろ、あんな奴らを自由にのさばらせていた我々にも責任がある。怖い思いをさせてすまなかったな」



 意外、と言ったら失礼だが、レオはリコッタに優しい言葉をかける。騎士としての振る舞いなのか、もしくは、元々女性に対しては優しいのだろうか。

 ただ、そんなレオの優しさも、今のリコッタには心苦しかったようだ。



「いえ、私がいけないんです。私が軽率な行動をしたから、ここまで事件が大きくなってしまって────」



 小さな肩を落とし、俯きがちでありながらも、リコッタは自分がいけなかったと言う。

 それに対し、レオはハッキリとした口調でリコッタの言葉を否定する。



「それは違うな。キミが何をしたか、詳しいことは知らないが、悪いのは賊だ。それだけは間違いない」


「でも…… 」


「もし君がどうしても誰かに謝りたい、もしくは誰かに感謝を述べたいと、そう思うなら、それはヨシュアに伝えるべきだな」



(…… え?)


 いきなり自分の名前を呼ばれてヨシュアは戸惑う。

 そんなヨシュアの胸中を知ってか知らずか、レオはヨシュアの目を見ることなく話を続ける。



「俺たちが間に合ったのはヨシュアが時間を稼いだおかげだ。クノンも言った通り俺たちは大したことをしていない」



 思わぬ賛辞の言葉に、ヨシュアは気恥ずかしくて視線を泳がせた。



「────フン。長話をしてしまったな。行くぞ、クノン」



 そう言うと、レオは踵を返し、早足で大通りを北上していく。クノンはまた小さく手を振ると、急いでレオのあとを追った。


 二人の後ろ姿を見送るヨシュア。

 その袖をくいっと引っ張るリコッタ。頬を朱に染め、袖を握りしめたまま彼女は言う。



「あの、さっきはありがと…… 」


「いいよ。もう怒っても無いし」


「…… あと、ごめんなさい、疑ってて」


「疑うって…… 何を?」


「ヨシュアが聖騎士見習い試験を受けたこと、あれ、嘘だと思ってた」



 なんだそんなことか、とヨシュア。



「その反応には慣れてるから別に気にしないよ。…… さぁ、そろそろ巡回任務を再開しようか」



 ヨシュアはそう言って敢えて明るく笑って見せる。

 それならと、ミントは斜め前に見える飲食店を指さし「あそこで事件の聞き込みをしましょう」と、無邪気に笑いながら言った。その様子にリコッタもくすくすと笑う。



「もう…… あんな事件があったのにお腹すいたの?」


「うん。安心したら何か食べたくなっちゃって。ほら、行こ?」



 そうしてリコッタとミントが仲良く手を繋ぎながらお店の方に向かう。

 ヨシュアはその後姿を見ながら、人間が持つ強さと優しさを垣間見た気がした。


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