表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
64/154

巡回任務と白のカード持ち


 赤茶色のレンガ造りの建物が並ぶこの国の首都アリストメイア。情緒あふれる美しい街並みに爽やかな風が吹く。空は快晴。眩しいぐらいの日差しが降り注いでいる。まさに散歩日和だ。


 ヨシュアたちが歩くのは島を南北に横断するクルトア通り。歩行者天国と化した大通りの、その両脇には商店がずらっと立ち並んでおり、アリストメイアでも有数の観光名所とされている。

 すれ違う人々はみな楽しそうに笑っている。手を繋ぎ、歩調を合わせ、時に顔を見合わせ、幸せそうな笑顔を浮かべている。若いカップルから親子連れ、それに孫と手を繋ぐ老夫婦の姿もあった。



 ヨシュアは、リコッタとミントと一緒にアリストメイアの街を巡回…… という名目の散歩に出ていた。遊んでいるわけでも、ふざけているわけでも無い。真面目にジークからの指示に従っているだけだ。


 ホテルから出発する前、ジークがヨシュアたちに話した内容はこうだ。



「いいかい? 今日のボク達の任務は、これからまる一日かけてアリストメイアの街を歩き回り、怪しい人物がいないかどうか探ること。つまり街の巡回任務ってことさ! そうそう、ちゃんとお店の中も巡回するようにね。あと、聞き込みも大事だから、いいね、少年?」



 お店の中も、つまり『街を観光するだけでなく、色んな店を楽しめ』ということだ。そして聞き込みとは、『街の人と楽しくお話しろ』ということだ。普通では考えられないが、ジークの言葉を意訳するとそうなる。


 ただ、ジークはこうも言っていた。



「ボク達の任務は巡回するだけ。勝手な行動は極力慎むこと。怪しい人物がいても手を出さず、近くの騎士に任せること。いいね?」


 

 これはそのままの意味だろう。なにせこっちはヨシュアも含め、メンバー全員が最低ランクの『白のカード持ち』である。

 さすがにジークも、これまで依頼を一緒にこなしてきたヨシュアのことは不安に思っていないだろうが、今日はリコッタとミントを連れて歩いている。もしものことを考えると、ジークにしてはまともな判断だと思う。

 

 そういった事情もあって、ヨシュアたち三人はレンガ造りの街を散策していた。リコッタとミントはこの時間を心から楽しんでいるようで、少し目を離すといなくなる。どうやらこの双子の姉妹は買い物が本当に好きらしく、気になる店に入っては商品を片っ端から漁っていた。


(まぁ、興味を持つことは良いことだよな……)


 二人が顔を見合わせて楽しそうに笑うのを横目で見つつ、ヨシュアは姉妹の好きなようにさせていた。



「見て見て! これ、まだこっちには無い新作だよ! さすがアリストメイアね!」

「こっちの帽子も素敵! ほらほら、リコッタちゃんも被ってみて!」



 二人が商品に夢中になっている間、ヨシュアは何をしていたかと言うと、店の店主やその辺にいる暇そうな客と世間話をしていた。名目とはいえ一応仕事で来ている。最近の出来事について意見交換も大事だろう。



「何か最近この辺で事件とかありました?」


「いんや、いたって平和なもんさ。なんたってこの街は聖騎士様のお膝元だからね」



 帽子屋の店先にて、ハット帽が似合う店主に話しかけると、客と思われる眼鏡の男が会話に割って入ってきた。



「いやいや、つい先日、目の前の大通りでひったくりがあったばかりだろ? 確か三人組のナイフを持った強盗。まだ捕まっていないって聞いたぜ? 観光客も大勢いたっていうのに、まったく物騒なもんだ」


「そうだった、そうだった。…… 確か一昨日のことだっけか? まだ捕まってなかったのか。そいつは困るね。治安が悪くなると客が寄り付かなくなる」


 

 強盗なんてすぐにでも捕まりそうなものだが、近くに騎士がいなければ意外と逃げられるものなのだろうか?



「────おーい、ヨシュアー! おいてくよー!」



 人々が雑多に行き交う大通りの向こう側で、リコッタが大きく手を振っている。

 いつのまにかリコッタとミントは、この店を出て、次の気になるお店へと向かっていた。二人の次のターゲットは、この店からそこそこ離れたところにある洋服店のようだ。店先にはいかにも若い女性が好みそうな派手な色のワンピースが並んでいる。

 ヨシュアは店主に別れを告げ、リコッタたちがいる店に向かおうとした、まさにその時だった。



 「きゃーっ」という女性の甲高い悲鳴。

 何処からともなく聞こえてきた声に、辺りは騒然とする。

 ヨシュアは声がした方向を凝視する。



 ヨシュアの目が捉えたのは走り去ろうとする二人組。

 遠く離れた場所、二人ともニット帽を深く被っているので顔はよく見えないが、体格から恐らく二人とも男性と思われる。

 前を走る黒髪の男の手には鞄が。格好に似つかわしくない女性ものの鞄だ。まず間違いなく話に聞いていたひったくり犯だろう。そいつらが人垣をかき分け全速力でこちらに向かってくる。

 白昼堂々と犯行に及ぶとは、何とも大胆なひったくり犯だ。逃げ足には相当自信があるらしい。



 だが、その犯行を止めようと果敢に立ち向う一人の少女がいた。

 その子は腰に携えた剣に手を抜くと、男たちに切っ先を向けた。


(────って、おいおい!)


 剣を抜いたのはまさかのリコッタだった。

 彼女は走ってくる二人組に向かって「お前たち、そこで止まれ!」と叫んでいる。

 だが、リコッタを見た男たちの口元には笑みが零れていた。


(あのバカがっ!!)


 ジークの忠告を忘れたのか、それとも剣を抜けば怖気づくと思ったのか、どちらにしろリコッタの行動は無謀でしかない。

 店先に避難したミントがリコッタの名を叫ぶ。が、リコッタは男たちに剣を向けたまま動く気配はない。



 ヨシュアは走り出していた。

 たぶんリコッタからは前を走る男が邪魔で見えていないが、二人組の犯人の内、後ろを走る白髪の男の手にはナイフが握られている。このままいけば最悪の場合、ただの盗みどころの騒ぎでは無くなってしまう。



「────止まれって言ってるでしょ!?」



 内股の勇者は口調こそ強気。

 だけどその声は震えていた。



 前を行く男は、その重そうな鞄をリコッタに向けて投げつける。

 予期せぬ行為にリコッタは戸惑いながらも体全体でそれを受け止める。

 が、その時右手に持つ剣を道端に落としてしまう。


 ニタリと笑う男。

 そいつは走りながら大きく振りかぶると拳を固く握った。


(────間に合えっ!!)

 

 リコッタの顔面目掛け繰り出される渾身の右ストレート!

 だが、その拳がリコッタの顔面を捉える寸前、彼女の体が不自然に宙に浮いたかと思うと、強い力に引かれ後方へとすっ飛んでいく!



「きゃっ!?」



 驚きぎゅっと目をつむるリコッタ。



「おい、怪我無いか?」


「え? ヨシュア?」



 薄っすらと目を開けるリコッタは、声の主がヨシュアだと知り驚いた表情を見せる。彼女は今、ヨシュアの腕の中だった。


 そう、あの時ヨシュアは、リコッタが殴られる直前、彼女の背中にマジックワイヤーの<ポイントショット>を取り付けては思いっきり引き寄せたのである。



 前を見ると、鞄を奪われた男がこちらに向かってきていた。何とも諦めの悪い奴だ。



「それ貸せ!」



 ヨシュアは戸惑うリコッタからの返答を待たずに、彼女が抱える腕の中から鞄を引っ掴むと、それを高々と空へ放り投げる。それを見た男は鞄の落下点で足を止め、受け止めようと両手を挙げて構える。


(そこだ…… !)


 ヨシュアは鞄に気を取られている隙にマジックワイヤーを構えると、先端を<ポイントショット>に設定し、目の前の男に向け射出する。



 ────だが、意外にも男は素早くそれに反応したかと思うと、半身になってワイヤーを躱し、そのまま一気に加速してヨシュアに殴りかかって来た!


(…… !)


 不意打ち。

 尋常じゃない男の速さ。

 それは先程の走りより数段速く、盾は間に合いそうもない。

 

 それならばとヨシュアはカッと目を見開く。

 

 男が右の拳を握る。

 体ごと捻り込むようにして放たれる右ストレート。

 スピードの乗ったそれをヨシュアはギリギリまで引き付ける……


(…… ここっ!)


 ヨシュアは男の拳を首だけ捻るようして躱すと、男はバランスを崩し前のめりになった。


(…… そこだ!)


 すかさずヨシュアは男の鳩尾みぞおち目掛けて右膝蹴りを見舞う!



「ぐぅっ!? うえぇぇぇ…… !!」



 人体の急所に交差法気味に膝蹴りを喰らい、男は膝から崩れ落ちると、その場でうずくまり悶絶した。

 後ろではリコッタが言葉にならない悲鳴のようなものを上げている。だがヨシュアは気にせずマジックワイヤーで男の体を雁字搦がんじがらめにして拘束する。





「────そこまでだっ!!」



 男のものと思われる声がしてヨシュアは顔を上げる。そして目の前の光景を見て唖然とした。もう一人の男がナイフ片手に女の子を人質として捕えていたのだ。

 しかもその女の子は────



「ミントちゃんっ!!?」



 後ろでリコッタが叫ぶ。

 そう、男が腕を回し首元にナイフを突きつけてる相手は、リコッタの妹。今にも泣きだしそうな表情でこちらを見つめるミントの姿がそこにはあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ