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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
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リコッタとミントと珍道中


 ヨシュアは図書館前にてマトと別れの挨拶を交わした後、すぐさま宿屋に戻った。そして前日に支度してあった鞄に、図書館から借りてきた本を詰めてすぐに宿を出発した。前日にきちんと準備しておいて偉いなと、ヨシュアは自分を褒めてやる。


 マトと出会えたことが嬉しくて少々話し込んでしまったこともあり、予定よりもだいぶ出発が遅れたが、走らずとも待ち合わせ時刻には十分間に合うだろう。それにどうせジークはいつも通り時間に遅れてくるだろうし……



 ────などと考えていたが、集合場所の馬車乗り場に行ってみると、意外なことにすでにジークはそこにいた。

 そしてジークはヨシュアの姿を見るなり人差し指でこちらを指しながら、開口一番に批判してくる。



「おいおい! キミ、来るの遅すぎるんじゃないかい!?」



 「いつも時間に遅れてくるのはどちらだよ…… 」と思いつつ、馬車乗り場に付近に備え付けてある時計に目をやる。うん…… 集合時間ピッタリだ。時間にはちゃんと間に合っているのだから、黙って文句を言われる必要はない。



「集合時間には間に合ってると思いますが?」


「レディーを待たせるなと言ってるんだよ、まったく…… 」



 ジークはやれやれと首を振りながら、明らかにオーバーなリアクションを交えて呆れて見せた。

 ジークが今日だけ早く集合場所に来た理由。それはおそらく、いや、間違いなく『女性メンバーがいつもよりもずっと多い』という、くだらないとしか思えない理由だろう。


 ヨシュアはメンバーを見渡す。

 今日はなんとヨシュアとジーク以外は女性ばかり。依頼は簡単だから<白のカード持ち>でもいい、ということでこうなったのだが…… はたして本当にこのメンバーでいいのか、今更ながらに不安になってくる。


(今日は劇団公演の警護の依頼だろ? こんなメンバーでホントに良かったのか?)


 だが、皆の顔色を見てみると、どうやら不安を感じているのはヨシュアだけのようだ。



 さっそくとばかりにジークが馬車に向かって歩き始める。

 その両隣をエスカとリディの二人がさっと陣取る。

 彼女たちはヨシュアより年上に見える。たぶん二十五歳前後、といったところだろう。が、化粧の関係か、それとも服装か、はたまた振る舞いなのかは分からないが、ヨシュアと一回り年齢が違うというだけあって随分と大人びて見える。


 そのすぐ後ろをリコッタとミントの姉妹が歩いている。

 二人はうまくジークに絡めずに少々不満げな表情を浮かべていた。


(たしか…… あの二人はジーク目当てで依頼を受けてくれたんだっけ……)


 なるほど、エスカとリディがジークの両脇をがっちりと固めてしまっているので、思うように話しかけられなくて焼き餅を焼いているようだ。特にリコッタの方はふくれっ面で、見るからに不機嫌だ。メンバーを集めた身としては、今日の組み合わせを少々申し訳なく思う。



 ヨシュアが必死になって依頼を受けてくれる人を集めていたあの日、受付のフレイヤさんが教えてくれた話では、二人は双子の姉妹でヨシュアと同い年の十五歳らしい。第一印象では二人とも明るい性格のように感じるが、姉のリコッタの方が気が強くしっかり者、ミントの方がおっとりとしているように思う。


 彼女たちは双子だけあってよく似ている。服もお揃いだ。

 白と水色とピンクを基調としたひらひらの服は、胸元がザックリと開いている。ミニスカートの長さもかなり際どい。腰には申し訳程度に剣がぶら下げてあり、防具は特になし。戦いの場には相応しくない装備に見える。

 まあ、見た目重視なのはエスカたちも同じだが……


 彼女らは双子だけど、リコッタの方は短めの栗色の髪を後ろでちょこんとくくっているので、見分けるのは簡単だ。それに胸もミントの方が二回りほど大きい。だから仮にリコッタが髪をほどいても、胸に詰め物でもしない限り見分けるのはたやすいだろう。




 一同は馬車の運転手の持っていた荷物を預ける。

 今日の運転手も表情を見るに優しそうな人で良かった。


 荷物を預け終え、我先にと馬車に乗り込むジーク。



 甘ったるい声で「ジーク様ー! 待ってー!!」と名を呼びながら、エスカとリディがまたも両脇を陣取ってしまう。

 まさに『両手に華』という言葉がぴったりな状況に、もちろんジークは今までになく上機嫌で、これにはヨシュアも苦笑いを浮かべるしかない。



 続いてヨシュアも馬車に乗り込もうと思うのだが、ヨシュアのすぐ前を行くリコッタとミントが何やらひそひそと話している。


(おいおい、そこで立ち止まるなよ。邪魔だろ)


 乗り口手前ではたと立ち止まる双子に対し、苛立ち…… とまではいかないものの不満を感じるヨシュア。

 それでも我慢して彼女たちの後ろで大人しく待っていると、二人は同時にくるりと振り返り、そしてヨシュアを見て悪戯っぽく笑った。


(えっ、何?)


 戸惑うヨシュアをよそに、リコッタとミントは何やら訳ありな笑顔を浮かべたまま小走りで馬車に乗り込む。


 するとどういう訳か、二人はわざとらしく一人分の間隔をあけて座るではないか!



「えっと…… リコッタさん? それにミントさんも、二人はいったい何をしてるんですか?」


「ヨシュアさんの席はここでーす!!」

「ここでーす!!」



 そんなことは言われなくても見ればわかる。

 開いている席はそこしかないのだから。

 聞きたいのは「どうして一人分スペースを開けて座るのか」ということだ。



「なにそこで突っ立っているんだい? ただでさえ遅れてきたんだ。早く座り給えよ」



 ジークがからかう。今までヨシュアに見向きもしなかったエスカとリディも、この状況を面白がるようにヨシュアの動向に注目している。リコッタとミントも終始ニコニコと悪戯な笑みを浮かべている。


 ため息をつきながら、覚悟を決めてリコッタとミントの間に座る。

 左隣りにリコッタ、右隣りにはミント。まさに『両手に華』である。



「こういうの嫌でしたか?」

「嫌でしたか?」


「────いえ、ただ前に座る人の視線がどうもね…… 」



 ヨシュアと向かい合うように座るジークは明らかにこの状況を楽しんでいる。

 その視線が気に入らない。



 不意にリコッタがヨシュアの左腕をとって体を寄せてきた!

 前のめりになるリコッタの胸がヨシュアに当たる




 ────ようで当たらない!

(これがミントなら当たっていただろう)



「まぁまぁ、向こうは向こうで楽しむみたいなんで、こっちはこっちで楽しみましょうよ。ね、ヨシュアさん?」



(こいつ、急に一体何なんだ…… )


 とりあえずとヨシュアは左手で自分の右袖を体の内側に引き寄せる。

 リコッタを真似て右袖を掴もうとしたミントだが、ヨシュアの先読みによって寸前のところで右袖をとれず、悔しそうに頬を膨らませている。



「ヨシュアさんはどんな女性が好みですか?」



 リコッタがヨシュアの表情を伺うようにこちらを見つめてくる。

 リコッタは右手で腕をからませるだけでなく、いつのまにか左手をヨシュアの太ももの上に乗せていた。

 ヨシュアも男だ。好きとか嫌いとかは別としても、こんなことされると自然と鼓動が早くなってしまう。


 正直に言えばこの状況は嫌じゃない。けれど、リコッタの本心が見えないのは気味が悪い。とりあえずこれ以上好き勝手させるのは良くない。



「少なくとも距離が近すぎる女性は好きじゃないですね」


「むぅ…… わかりましたよー」



 リコッタがヨシュアの腕を離して、席にきちんと真っすぐ座り直す。



「で、どんな女性が好みですか?」

「好みなんですか?」



 リコッタはまっすぐヨシュアの瞳を見ながら、繰り返しヨシュアに尋ねてくる。話を逸らしても追及してくる辺りは少しアルルと似ているかもしれない。

 けれど、アルルのことはそれなりに分かっているつもりだ。アルルが質問を重ねるのは抑えきれない好奇心からだ。反対に、リコッタが急にヨシュアに対しての態度を一変させた意味が分からない。



「ヨシュアさん?」



 いつのまにか、またリコッタは身を乗り出すようにしてヨシュアに近づいていた。

 決して先ほどのように触れるわけではないが、明らかに距離が近い。胸元からは、かろうじて寄せて集めた胸の谷間が見え………… なくもない。



「ヨシュアさん?」



 右隣からミントがリコッタの真似をして詰め寄ってきていた。

 彼女の胸元は寄せる必要が感じられないほど激しく主張している。

 …… 同じ姉妹なのに何を食べたらここまで差が出るのだろうか? 少々姉のリコッタに同情する。


 ヨシュアはまた一つため息をつくと、黙って立ち上がり、運転席の方に移動した。



「ん? どうしたんだい、少年?」


「荷物をちょっと」



 向かい側で女性二人とイチャつくジークをしり目にヨシュアは運転席に移動すると、運転手の足元の鞄の山から自分の物を掘り出し(残念ながらヨシュアの鞄は一番下にあった)、鞄の中から一冊の本を取り出す。今朝借りてきた『ダンジョントラベラーズ』の最新刊だ。


 ヨシュアは本を片手にリコッタとミントの間に座ると、二人とあえて目線を合わせることなく無言で本を読み始めた。



「え? …… この状況で本読んじゃうんですか!? せっかく楽しくお話ししようと思ったのにー!」



 リコッタがヨシュアの左腕を両手で掴んで強引に揺さぶる。ミントもそれに倣って右袖を掴んでヨシュアを揺さぶる。

 体が大きく左右に揺れたが、ヨシュアは気にせず本を読み続ける。久々の新刊だったが、繰り返し読んでいたシリーズだけあって、意外とすんなり物語の世界に入り込むことができた。







 ヨシュアが本を読み始めてからというものの、リコッタとミントがいくらヨシュアに話しかけても「さぁ…… 」とか「へー…… 」とか「別に…… 」といった生返事しかもらえず、リコッタは不満を募らせる。



 実はリコッタは、エスカたちが邪魔でジークにまとも相手にされないと分かるとすぐに、ミントを巻き込んで、ヨシュアをかるーく攻略してやろうと思っていた。

 そして、ジークの目の前でヨシュアと楽しくイチャイチャすれば、ジークの気を自分たちに惹くことができるのではないか…… と考えていたのだ。

 だからヨシュア攻略はあくまでも『ジークに取り入るための足掛かり』のつもりだった。



 それなのに────


(なんなの! このヨシュアって奴!! いつもなら同世代の男たちなんて、ちょーっとからかってやればみんなイチコロだったのに!! 私とミントちゃんの”必殺! お色気攻撃!!”にもまるで興味ないし、そればっかりか本を読み始めるとか、完全に無視されるなんて悔しいっ!! ……… こうなったら!!)



 リコッタは思い切ってヨシュアが持つ本を取り上げようと手を伸ばす!!


 しかし!

 リコッタの行動を目端で捉えていたヨシュアが一瞬早く本を右にずらす!



「ミントちゃん!」

「はい!」



 リコッタの合図でミントもヨシュアの本を奪おうと手を伸ばしてきた。

 ヨシュアは本を読みながら、左右から伸びてくる二人の手をかいくぐる。

 完全に馬鹿にされていると感じたリコッタは、ついムキになってヨシュアから本を取り上げようとする。ミントもそれに倣って身を乗り出して本を奪いに来る。



 そして────



 ミントがバランスを崩しヨシュアにもたれかかるような体勢になる。

 柔らかな胸がヨシュアの顔面を覆う。

 さすがのヨシュアも固まってしまう。



「よっしゃー!!」



 ヨシュアの動きが止まった隙を逃さず本を奪い取るリコッタ!


 「コホン」と軽く咳ばらいを一つ。

 そして「ミントちゃん?」と声をかける。

 もたれかかったままだったミントがヨシュアから離れて姿勢を正して座り直す。

 ヨシュアは無表情を貫くが、その顔は少々赤い。


(ふふーん! やっぱりこいつも男ね! ミントちゃんの豊満なボディを前に平常心を保っていられる男なんて存在しないのよ!)


 勝ち誇ったような表情を浮かべるリコッタ。

 ここが勝負所とばかりに強気でヨシュアに取り入ろうとアピールを開始する。



「ようやくこっちを見てくれましたね! さぁ、お話ししましょう!」


「それ、返してください」



 ヨシュアはあくまでもマイペースを貫こうとしているが、その紅潮した顔でいわれてもなぁと、リコッタは内心馬鹿にしていた。



「ねぇ、私たち、自分でいうのもなんですが、結構可愛くないですか?」


「そうですね。二人とも可愛いと思います」



 リコッタは心の中でガッツポーズをする。ようやくヨシュアに自分のことを認めさせることができたようで、当初の目的も忘れて満面の笑みを浮かべる。

 嬉しさを噛みしめるリコッタだったが、ヨシュアの言葉はまだ続いていた。



「ただ…… 」


「え? ただ…… なんですか?」


「ただ、どういった魂胆で俺に近づいてきたのかが分からないので、とっても気持ち悪いですね」



(え? 私が『気持ち悪い』…… ですって?)



 ヨシュアの言葉に今度はリコッタがショックで固まった。

 もちろんヨシュアが言った『気持ち悪い』とは見た目の話では無かったし、それはリコッタも理解していたが、それでも面と向かって『気持ち悪い』と言われるなど、一人の年頃の女の子として屈辱的でしかない。


 固まったまま動かないリコッタ。

 その隙にとヨシュアは本を奪い返すと、何事も無かったかのように続きを読み始める。



「────おーい、リコッタちゃーん?」



 うなだれるリコッタ。

 ミントがいくら呼び掛けてもリコッタは立ち直ることができない。初めての敗北を味わった気分だった。

 そして同時にリコッタは心の中で誓うのであった。


(見てなさい、ヨシュア! この三日間で絶対アンタのことを攻略してやるんだから!!)

 

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