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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
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アルルの興味は尽きることを知らない


 依頼を終えたヨシュアたちは、依頼人に無事討伐が完了したと報告する。報告を聞くとマーカスさんは身振り手振りを交えてジークを褒めちぎり始めた。



「いやーさすがジークエンデさん! たったこれだけの人数で、よくあれだけの数の<這い出る土竜クロールモール>たちを討伐してくださるとは…… たいへん恐れ入りました!」


「いやいや、当然のことをしたまでだよ。最高ランクの<赤のカード持ち>であるボクにかかればこれぐらいは当然さ! ねっ、アルル君!」


「はいっ! その通りです!」



 一匹も倒していないのによく言うよ、とヨシュアは心の中で呟く。しかも、間違いなく今日一番働いたアルルまでジークに話を合わせるものだから、ヨシュアはどうも納得いかなかった。




 炭鉱で働く人々が有難いことに諸々の後処理を引き受けてくれるらしい。ヨシュアたちはお言葉に甘えて昼食をとることにする。

 焼けた死体の匂いが残っているようで、あまり食欲が無かったヨシュア。けれど、一度外に出て新鮮な空気を吸うと、それもあまり気にならなくなった。



 外はまだしとしとと雨が降り続けている。



 依頼人に教えてもらった、この近くで働く人が頻繁に利用するという軽食屋に立ち寄る。店員のおすすめだというパンとスープを頂きながら、ぼーっと窓の外を見つめるヨシュア。そんなヨシュアの隣に座るアルルが尋ねる。



「どうかしましたか? 何か面白いものでも見えますか?」


「いや、特に何も。それにしてもさっきの魔法すごかったね」


「ありがとうございます! 今回はジークさんに炎魔法全開で良いと言ってもらってたので、思いっきりやっちゃいました!」



 アルルは先ほどの戦闘を振り返りつつ、ヨシュアに褒められて嬉しそうにしている。



「それにしても、決して悪い意味じゃないんだけどさ。アルルって意外とバトル向きの性格というか、作戦とはいえ結構進んで攻撃するよね。俺は騎士を目指しているし、傭兵の仕事とはそういうものだと割り切っているけど、一般の人は魔物と戦うことに抵抗ある人もいるって聞くし────」



 ヨシュアは話しの途中で後悔し始める。言葉を紡げば紡ぐほど、アルルに少し意地悪な問いかけをした気がしたのだ。

 だからヨシュアは、慌てて今の話を無かったことにしようとする。



「いや、やっぱり今の話は忘れて。なんか答えにくいこと聞いてしまったよね。今回は俺の方から参加してほしいと頼んだのに、ちょっと配慮が足りなかった」



 ヨシュアは後悔を口にする。

 が、アルルは特に気にする様子もなく問いに答えようとする。


 

「いえ、かまいませんよ。そうですね…… 確かに魔物相手とはいえ、私だって命を奪うことにためらいもあります。…… でも、『生きる』ってそういうことなのかなって、私は思います」


「そういうこと…… ってどういうこと?」



 ヨシュアはアルルの言葉の意味を捉えきれず、つい気になって聞き返す。



「えっと、つまりですね、あくまで私の考えですけど、『たくさんの矛盾を抱えるなかで、それでもより良い明日に向かって手を伸ばし続けること』…… それが『生きる』ってことなのかなって、思うんです」




 難しい言葉、というよりは抽象的な表現なので、いくら考えてもアルルの真意までは理解できない。おそらくアルル自身もこれ以上具体的に説明できないような、これはそういうデリケートな問題なのだろう。


 アルルの言葉を受けてヨシュアは考え込む。


 鉱山を取り返すために邪魔な魔物を殺す。

 薬草を手に入れるために邪魔な魔物を殺す。

 山を荒らされると困るから邪魔な魔物を殺す。



 確かに人は生きる目的だけでなく、時には利便性であったり、時に己の欲求のためであったりと、ちょっとした理由で人は生き物を殺す。すべては人間の都合だ。それを見て見ぬふりをしているだけだ。アルルも多分それをわかっている。だから「たくさんの矛盾」という言葉を使ったのだろう。


 命を奪うことは罪だと、自己中心的な人間の愚かさだとわかったうえで、それでもより良い明日を掴みたいとアルルは言った。人の欲求をあえて否定しないところに彼女の意志の強さが見える、ヨシュアはそんな気がしたのだった。







 昼食を終えた一行はまた鉱山に戻る。当初の予定通り、採掘を手伝うためだ。マシューとボーレが炭鉱マンたちの指導の下、ツルハシを持ってマナジストの採掘に挑んでいる。それをヨシュアがトロッコで運ぶ。

 マシューたちはしきりに「こういった作業こそ魔法で簡略化できないのか」とぼやいていたが、なんだかんだ言いながらも真面目に働いていた。



 一方のアルルは、<魔法結晶マナクリスタル>の採掘を体験させてもらっていた。さすがに大きな結晶では無く、通常サイズのものだけど、それでも楽しそうに作業している。

 天井から生えるクリスタルの採掘には、当然ながらまず天井付近に手を届かせる必要がある。そこで作業員は背中に鞄のようなものを背負うと、両肩のベルトの部分から天井に向け、真上に二本マジックワイヤーを伸ばして固定。そのまま天井付近までワイヤーを巻き取ることで、体を天井付近まで引き上げるのだ。



「おおー! これは凄い! 体が浮いてますよ! それに両手も自由に使えますし…… あっ、ヨシュアさん!見てください、これ凄くないですか!?」



 トロッコで運搬作業中のヨシュアに向けてアルルが手を振る。彼女はワイヤーを使ってぶら下がりながら、子供みたいに手と足をバタつかせてはしゃいでいる。その様子を下から炭鉱マンたちが温かい目で見守っている。


 アルルの声にヨシュアは顔を上げるが、見てはいけないものを目撃しかけて、慌てて下を向く。



「ちょっ、アルル!? その服でそれはちょっと……!」


「え? どうしてです…… ? あぁ…… !!」



 彼女は失念していた。自分がミニスカートを履いていることを忘れていたのだ。

 アルルは慌ててスカートを押さえながら顔を真っ赤にする。タイトなスカートなので下着が丸見え…… とまではいかなかっただろうが、さすがにこれはいくらアルルでも恥ずかしかったようだ。

 その恥じらう表情も含め、炭鉱マンたちはアルルに生暖かい視線を送っていた。






 

 なんだかんだハプニングがありつつも、ヨシュアたち一行は依頼を無事に終える。くたくたになったマシューとボーレが我先にと馬車に乗り込む。

 そんな中でアルルは依頼人たちに丁寧にお礼を述べていた。



「今日は色々と体験させていただきありがとうございました! 普段何気なく使用する<魔法結晶マナクリスタル>が、一体どのようにして採取されているのかを間近で見ることができて、とても勉強になりました!」



 アルルはこの作業中、ずっと依頼人の隣で<魔法結晶マナクリスタル>やマナジストについて熱心に質問していた。気になったことがあればすぐに誰かに尋ねる彼女の姿勢は見習いたいものだ。



「いやいやこちらこそ、魔物退治お疲れさまでした。アルルちゃんほどこの仕事に興味を持って質問してくれる子もいないから、おじさんもとっても楽しかったよ」


「ホントはもっと色々とお話ししたかったんですけど……」


「もし時間があるのなら、このあと<魔法結晶マナクリスタル>の加工作業を行うんだが、少し体験していくかい?」


「いいんですか!? …… ああ、でもそうすると帰りの馬車が無くなっちゃいますね……」



 アルルは左手を口元にあてて難しい顔をしている。幸い今は雨が上がっているが、空はまだ雲がうっすらと覆っていて、この後も晴れるかどうかは分からない。

 アルルはしばし葛藤していたようだが、やはり欲求には勝てなかったようだ。



「────まぁ、それでもいいか! 見学したいです! お願いします!!」


「ほんとキミも物好きだね! いいよ、色々と体験させてあげよう!」



 本当にアルルの興味は尽きることを知らない。ヨシュアは自分とは大違いだと思った。

 ────いや、だからこそ、アルルのこの姿勢を学ばなければいけない。



「あの! 俺も一緒に行ってもいいですか?」


「ああ、もちろんいいが、キミも帰りは大丈夫かい? 別に一日ぐらい泊めてあげてもいいけど……」



 依頼人のおじさんは左手の腕時計を見ながらヨシュアの心配をしている。確かにもう西日が眩しい時間帯に差し掛かっている。あと二時間もすればこの辺りも薄暗くなることだろう。

 けれども、そういった心配はヨシュアには無用だ。ヨシュアは依頼人と、それからアルルに向かって言う。



「いえ、自分の足でちゃんと帰れます。…… よかったら帰り、また背負ってあげようか?」


「あっ、いいんですか!? 助かります!」



 ヨシュアとしては半分冗談のつもりだったが、アルルは真面目な顔して礼を言う。もちろん本気にしてもらっても構わないのだが……

 そんな二人のやり取りを、依頼人は不思議そうに眺めていたのだった。


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