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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
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秘密兵器


「出番がない?」


「まったくではないよ! けど、今回その盾が活躍することはあまりなさそうかな!」



 ジークはヨシュアの肩に手をつき、笑顔で戦力外通告を言い渡す。

 せっかくここまで来たのに、流石にあんまりだと思うヨシュア。ジークの後ろでは、この状況を面白がって笑うマシューの姿が見えた。



「それで、今回の作戦とはどういったものなんでしょうか?」


「よくぞ聞いてくれました! さすがアルル君! 気になるよねぇ!?」


「はいっ! とっても!!」



 語りたがり屋のジークと好奇心旺盛なアルル。二人の相性はホントにいい。



「はい、じゃあこれを少年にあげよう」



 ジークは持っていた荷物から、比較的長めの杖を取り出してヨシュアに手渡す。先ほどから気になっていた、ジークが背負う荷物からはみ出していた杖だ。特別変わった杖には見えないが……

 アルルも気になっていたようで、ジークにその杖は何かと尋ねる。



「これかい? フフフ、これはね、今回のために用意した、対<這い出る土竜クロールモール>専用の杖さ!」


「おおー! 専用マジックアイテムですか! まさに秘密兵器!」


「その通り!!」



 ジークが愉快そうに笑う。この笑い声で魔物が寄ってくるんじゃないかと若干不安になる。が、そんなことは気にせず、ジークは得意げに普通の杖との違いを語り始める。



 ジークが言うにはアルルが持つような<普通の杖>は、魔力を増幅させることを目的として作られており、術式などは特に組み込まれていないらしい。その分好きな魔法を扱えるが、相応に知識も必要になる。だから魔法使いがよく好む一方で、一般の人にはその力をうまく扱うことができない。言わば『宝の持ち腐れ』というやつだ。


 対して<専用アイテムとしての杖>は魔力を増幅させるだけでなく、特定の術式を展開する目的がある。魔力さえ注げば誰でも扱えるが、そのかわりに専用術式以外の魔法は使うことに適していない。



「なるほど。昨日なんとなく使ってた『軍隊蟻をおびき寄せる香りをまき散らす魔法の杖』と同じようなものですか?」


「そうそう、そういうこと。まったく、昨日のうちにもっと興味を持って聞いてくれたまえよ。『ジークさん、この杖は普通の杖とどう違うんですか?』ってね。『なんとなく使ってた』とか言ってるようでは、いつまでたっても成長しないよ、キミ?」


「うっ…… 」


(「興味を持て」…… か)



 ジークに指摘されて少しばかりショックを受けるヨシュア。これに関しては何も言い返せない。なにせヨシュアが今一番に気にしていることだからだ。昨日はマトに話すため、自分なりに色々と興味を持って物事を見たつもりだったが、まだまだ努力が足りなかったらしい。


 そんな三人のやり取りを後ろで退屈そうに見ていたマシュー。



「なぁ、結局作戦ってのはなんなんだよ?」


「キミも相変わらずだなー。ほんとこういうの興味ないよね?」


「あいにくと、俺が興味あるのは金だけなんで、なぁ、ボーレ?」



 マシューがボーレの緩んだ腹を手の甲でポンポンと叩く。



「まぁ、確かに俺も美人と食べ物にしか興味ないかな。ってことで、今晩一緒にお食事でもどうですか、アルルちゃん?」


おごってくださるのなら、ぜひ!」



 ちゃっかりとボーレに夕食を奢らせようとするアルル。でも、それでボーレは納得したようで、彼女の返事に小さくガッツポーズしている。マシューはその横で呆れた表情を浮かべていた。




 ジークが作戦を話し始める。


「少年が持つ杖は『地中にいるモグラにとって嫌な音を発生させる』という効果があるのさ。その杖を用いて、まずはモグラを横穴から引きずり出す。慌てて横穴から出てきたところを、縦穴の上に陣取ったアルル君の魔法と、その他の男どものマジックワイヤーで仕留める。シンプルだろ?」


「そんなうまくいくか? 相手はモグラの魔物だぜ? 横穴からじゃなくて下から穴掘ってきて、俺たちの背後を取ってきたらどうすんだよ?」


「その時は今来たあの細い洞窟の出口まで引き返して、少年を盾にしながら一匹ずつ迎え撃つ。…… けど、その心配は無用なんじゃないかな? だってほら────」



 ジークが地面を指さす。特に変わった様子はないようだが……


 マシューも同様に思ったらしくジークに向かって「何もねーじゃねーか」と不服そうに言う。

 するとアルルが突然「わかった!」と口にした。



「マシューさんの言うように『何もない』ことが重要なんですね! えっと、つまり『モグラが穴を掘った形跡がない』と。違いますか、ジークさん?」


「その通り! キミほんとに優秀だね!」



 ジークに褒められてアルルは嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。

 ジークは話を続ける。



「いいかい? 依頼人の話では採掘の音を聞きつけるたびにモグラたちが襲ってくるらしいじゃないか。それなのにモグラ塚と呼ばれる『モグラが穴を掘った後にできる盛り上がった土』がどこを見渡しても無いのはなぜか? それは、毎回モグラたちは人間が掘った横穴を利用しているからじゃないかな?」


「つまり今回もモグラたちは新しく穴を掘らねーだろうってことか?」


「モグラなのに穴を掘らないとか、なんとも怠惰だよねー」


「オメーが言うな!」



 マシューがボーレの怠惰の証ともいえる出っ張ったお腹をバシバシと叩く。



「ハハハ! まぁボクが言いたいのはつまりそういうことさ。さぁ迎え撃つ準備をはじめようか!」





 作戦を聞いた一同は、依頼人を安全な場所まで下がらせ、さっそく準備に取り掛かる。

 マシューとボーレはジークがあらかじめ用意していた<アローショット>の魔法結晶マナクリスタルを受け取って組み替えている。



「オメーも一応アローショットぐらい装備したらどうだ? どうせそれポイントショットなんだろ?」



 マシューがヨシュアに向かって言う。二人はもともと両手のマジックワイヤーに<ポイントショット>を装備していた。吸着効果のある光球は最も使いやすいので、どうせヨシュアも自分たちと同じようにポイントショット装備しているのだろうと思ったようだ。



「いや、俺は色々変化できる奴だから…… 」


「あぁ、そっか。お前ロイの野郎とおんなじで見習い試験受けた組か。ロイはもう諦めたみてーだが、お前はどうなんだ?」


「えっ、ロイはもう受けないんですか?」


「なんだ、知らなかったのか? アイツ今年は受けてねーぞ」


「はい。アレンさんからロイも聖騎士を目指して試験を受けたことがある…… とは聞いていたんですけど」



 ヨシュアはマシューの話を聞いて少しばかり残念に思う。

 ロイとの間にいざこざがあったとはいえ、同じ聖騎士を目指す同士が身近にいるという事実はやはり嬉しいと感じていたからだ。

 確かに今年の試験でロイの姿を見た覚えはなかったが、三百人近い受験者がいたため記憶になかっただけだと、ヨシュアは今まで気にしていなかった。



 ジークが「そろそろ始めるよ」と言った。ロイの事は一旦頭の隅に追いやることにする。任せられた役割は簡単なものだけど、アルルに万が一があればすぐに動けるようにしないといけない。ヨシュアは深呼吸して心を落ち着かせる。隣で同じように大きく息を吐くアルルと目が合う。二人はお互いの健闘を祈るようにして頷き合った。


 ────さぁ、作戦開始の時間だ。


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