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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
43/154

軍隊蟻討伐戦①


「────そのまま、遅れずについてこい!」



 マナの木が生い茂り、木漏れ日がわずかに差し込む程度の薄暗い森の中。足場の悪い山道を転ばぬように気をつけつつ、ヨシュアは全速力で駆けまわる。

 そのすぐ後ろには<黒い二刀流の軍隊蟻ダブルソードアント>が九匹。ぞろぞろと列をなし、今まさにヨシュア目掛けて襲い掛かかろうとしていた。


 ヨシュアは左腕に盾を巻き付け、左手には杖を持っている。

 その杖はジークが用意したもので、マナの木を削り出し、先端に深緑色に輝くマナクリスタルを取り付けたものだ。アルルが持つような汎用性に長けた杖とは違い、『軍隊アリが好む甘い香りを発する』という専用の術式がクリスタルに刻まれている。この杖が扱える魔法はこれのみだが、扱いはとても簡単だ。



【少年、五十メートル先、左に見える坂を下れ】



 遠く離れた場所にいるジークから、<念話テレパス>で指令が飛んできた。

 <念話テレパス>とは仲間同士で脳内会話ができるという便利な魔法である。

 効果範囲はおよそ一キロメートル。制限はあるものの、今回のように現場で作戦を伝え合うなら十分だ。

 数ある魔法の中でも最近発案された注目の魔法で、聖騎士見習い試験でも<念話テレパス>の試験を行うべきだ、という意見が出るほど画期的な魔法でもある。ただ、あらかじめギルドカードなどでフレンド登録しておく必要はある。





 ヨシュアはジークの指示に従い左手に見えた下り坂を一気に駆け降りる。

 坂、と呼ぶには傾斜の急な、地肌が丸見えの斜面だ。


(────うわぁ…… !?)


 勢いが付きすぎて転びそうになるのを、なんとか左腕でバランスを取る。


 そんなヨシュアの後ろをぴったりと付いてくる九匹の軍隊アリども。体長二メートルを超える、ヨシュアよりも大きな虫の魔物だ。

 テカテカと光る黒塗りの体、強靭なあご、名前の由来にもなっている、鋭く尖った前足。六本の足は体の大きさの割にはほっそりとしているが、とても強靭である。

 奴らはその六本足を器用に使って、急な斜面を物ともせずに付いてくる。少しでもスピードを緩めれば追い付かれることは必至。転倒した時のことなど考えたくも無い。



 <黒い二刀流の軍隊蟻ダブルソードアント>は、十匹前後の班に分かれて行動する習性がある。女王アリの部隊を中心に、他の部隊が四方に散ってエサ場を探し歩くのだ。

 班ごとに分かれるといっても散り散りになる程に離れるのではなく、ある程度仲間同士で距離を保って行動する。普通に戦闘を行えば、すぐに仲間を呼ばれて囲まれてしまうことだろう。だからジークは、ヨシュアを囮に使い、一部隊ずつ群れから引き離そうというのだ。


 ジークが双眼鏡で確認した限りでは、奴らは部隊を九つに分けているようだ。部隊一つにつき十匹前後。単純計算で総勢九十匹の軍勢といったところか。そして今ヨシュアが引き連れているの部隊が五つ目。こいつらを仕留め切れば、ちょうど半分は討伐したことになる。



(────はぁ…… はぁ…… 、もう少しで予定地点のはず…… )


 ヨシュアは苦しそうに唾を飲み込み、それから大きく息を吐いた。

 味方が待つ予定地点までは数百メートルで辿り着くはず。そこで魔法による奇襲を仕掛け、仕留め切れなかった魔物を近接武器で攻撃する手はずとなっている。

 毎回、万全を期すために、襲撃地点まで片道一キロほどの距離を連れまわすので、もう五キロほどは走っただろうか。足腰に自信のあるヨシュアにとって、普通なら疲れを感じるほどの距離では無い。が、足場が悪く、坂道も多いという悪条件の中を終始全速力で駆けまわり、そして何より”命を狙われている”という、絶えず後ろから感じるプレッシャーがヨシュアの精神と体力を徐々にすり減らしていく。



 目の前には道を塞ぐように大木が横たわっている。ヨシュアはそれを、右足にぐっと力を込め、ひとっとびで跳び越える。

 ────が、着地でバランスを崩し、あわや転倒しかける。


(…… っとと、危ねぇ…… )



【おいおい、もう少しと言うところで転ぶなよ?】


【分かってますよ】



 好きで転びそうになっているのではない、と文句の一つを言ってやりたいところだけど、そんな言い合いをしてる場合じゃない。ジークの言う通りあと少し。もうひと踏ん張りだ。


 今ヨシュアが走っているトーレス山には所々倒れたマナの木が見られる。きっと軍隊アリに幹ごと食い荒らされて腐ったのだろう。魔力補給のためか、奴らはマナの木を幹ごと食い荒らす習性があるのだ。今回も多くのマナの木が無残にもギザギザの虫食い状態にされていた。本当に厄介極まりない魔物だ。

 また軍隊アリは雑食で、基本的には何でも食べる。しかも数の多さと体の大きさから、群れ全体が食べる量は虫の魔物とは思えないほど多く、もし退治せずに放置すると、一月も経たないうちに山一帯の生物を食い尽くしてしまうことだろう。




 少し広めの平坦な道を走り抜けるヨシュア。

 足元の地面がチカチカと緑色に光る。

 ヨシュアは気にせず走り抜ける。


 ────数秒後、後方で響く爆発音。


 振り返ると、一列に並んでいた軍隊蟻の内の二匹が爆発に巻き込まれ宙を舞っている。他の軍隊アリたちも突然の出来事に取り乱した様子だ。

 そう、ここが襲撃予定地点。反撃の時間である。







「────ボウズが来たぞ! おめーら、準備はいいか?」



 数十メートル先、軍隊アリを引き連れるヨシュアの姿を確認したワレスが、近くにいるメンバーに「もうすぐだぞ!」と声をかける。その声を聞いて、剣を握りしめるハールの手に自ずと力が入る。

 今、ハール達は襲撃予定地点すぐ近くの茂みに隠れ、ヨシュアが獲物を連れてくるのを息をひそめて待っている。その間、ハールはずっと緊張しっぱなしだった。


(うわ…… またうじゃうじゃと気持ち悪い…… )


 よくあんなバケモノを引き連れて走れるな、とヨシュアに対し畏怖の念のようなものを抱くハール。今も怖くて震えているハールからしてみれば、ジークから言い渡された囮の役目を喜んで引き受けたヨシュアの考えがまるで理解できなかった。


(囮なんて危険な役目、よくやるよ…… 。あんな気持ち悪くて恐ろし魔物を引き連れて走るなんて俺には絶対に無理だ。考えただけで震えが止まらない。こんな調子で、俺もいつか彼みたいになれるのだろうか…… )


 胸によぎる不安。

 その時、前方から大きな爆発音が聞こえてきてハッとする。

 魔法使いの二人が地面に仕掛けていた<術式地雷トラップボム>が発動したのだ。そして、その爆発音は一斉攻撃の合図でもある。



「行くぞ、野郎どもっ!!」



 ────やるしかない。

 ワレスの雄たけびに合わせ、前衛の三人と共にハールは茂みから飛び出した。目の前には戸惑う軍隊アリのバケモノども。狙うは奴らの側面、つまりは後ろ足だ。


 軍隊アリと戦う時に気を付けるべきは、剣のように鋭く尖った二本の前足と、マナの木を噛み砕くほど強靭な顎の部分だ。だから軍隊アリと戦うときは正面に回ってはいけない。


 けれど、軍隊アリの動きは意外と俊敏で、そう簡単には回り込ませてはくれない。


 だから狙うは側面の足の部分だ。

 奇襲を仕掛け、まず始めに片側だけでもいいので二本とも後ろ足を斬り落とす。こうすれば軍隊アリもうまく動くことができない。奴らの前足は振り下ろすことは出来ても、腕を外側に向けて真横へ剥ぎ払うことはできない。その点からも側面からの奇襲はとても有効なのだ。

 あとは側面や背後から、比較的守りの薄い関節部分からバラしていけばいい。鎧のように固い胴体の部分に付き合う必要は無いのである。


 

 ────しかし……



「…… くそ! うまく斬れない!!!」



 他の傭兵たちと一緒に茂みから飛び出したハールも、隣りで戦うワレスをまねて手にした剣で横一閃に斬りかかる。だが当たりどころが悪いのか、それとも単に力の差か、ワレスのように上手く足を斬り落とすことができない。

 胴体ほど頑丈では無いにせよ、その巨体を支えるだけあって、足の細さの割には見た目以上に頑丈なのだ。


(なんで!? さっきはうまく斬れたのに!)


 ハールは焦る。その隙に軍隊アリは攻撃の為に回り込むそぶりを見せる。とても危険な状況だった。

 

 ────けれど、その危機をいち早く察知したのはワレスだ。

 「ちっ!!」と舌打ちしつつ、すぐさま彼のもとに駆け寄ると、大斧で左足を豪快に斬り払ってハールのピンチを未然に防ぐ!



「はぁ…… はぁ…… 。まったく、焦んなよ! 俺とお前とじゃ体格も武器も全然違うんだ! だからもっとこう、…… ほら、なんかあるだろう!?」


「…… はいっ!!」


  

 





 ヨシュアは<術式地雷トラップボム>の発動を見届けるとすぐに甘い香りの散布をやめ、皆のサポートに回ろうとする。

 ただ、どうやら出番は無さそうだった。



 引き連れてきた九匹のうち、<術式地雷トラップボム>で二匹を吹き飛ばし、ワレス達四人がそれぞれ一匹ずつ足止めしている。それなら残りは三匹いるはずなのだが……



 ヨシュアの視界を横切る炎の魔法。

 茂みの奥から一直線に飛んできたそれは、リリーナとモレノ、二人の魔法使いによるものだ。


 放たれた二つの直進する炎弾は木々の隙間を抜け、二匹の軍隊アリに直撃。

 たちまち大きな赤い火柱を立てて燃え始めた。



 ────<加速する炎弾イグナイトバレット・ファイア

 それは矢のように一直線に唸りを上げて飛んでいく炎属性の魔法だ。

 直径三十センチほどの丸い火の玉は、距離が離れているほどスピードも威力も上昇する性質があり、離れた場所から奇襲するのにぴったりな魔法だ。属性は炎弾の他に、雷光弾や氷弾など切り替えて使い分けることもできる。



 炎弾が二匹を素早く始末する。残るはもう一匹だけだ。

 そいつは炎の魔法が一番危険だと判断したのだろう。シャカシャカと六本足を動かし、近くにいるアレンやケイトでは無く、リリーナたちに向かって猛スピードで迫っていく。



 その姿を見て、ヨシュアもまた駆け出していた。

 森の木々を抜け、魔法使いたちと軍隊アリの間に割って入る。



「────ここから先へは行かせないっ!」



 立ち塞がるヨシュア。

 軍隊アリは構わず二本の黒刀を同時に振り下ろす。



(…… そこっ!)


 インパクトの瞬間、一瞬だけ淡く緑に光る盾。

 それは<衝撃吸収アブソープ>の成功を意味していた。


 怯んだのか、それとも戸惑ったのか。

 軍隊アリはその動きを止めた。


 ”ひゅるる”といった音を聞き、ヨシュアは後方に跳び退すさる。

 刹那拍子をずらして降り注ぐ魔法の炎弾。

 それは先ほどの直線状の軌道とは違い、放物線を描いて命中した。


 ヨシュアが後ろを振り返ると、モレノが小さく左手を挙げていた。



 ────<追尾する炎弾ホーミングバレット・ファイア

 それはバレット系の魔法の一種で、緩やかな曲線を描きながら相手を追尾する便利な技だ。

 スピードと威力は<加速する炎弾イグナイトバレット・ファイア>に劣るものの、放物線を描く起動を上手く利用すれば、前衛で戦う味方にぶつけることなく目標に攻撃できたりする。

 モレノが<追尾する炎弾ホーミングバレット・ファイア>に技を切り替えたのも、ヨシュアに当ててしまわないようにするためだった。







「いい連携じゃないか!! 素晴らしいよ、みんな!!」



 九匹の軍隊アリ全てを討伐し終えると、ジークが手を叩きながらやってきた。そしてヨシュアの左肩をポンポンと軽く叩きながら言う。



「キミ、”ここまでは”いい働きをしているね! もう全体の半分近くは倒したよ! とはいえまだ肝心の強敵が残ってる。みんな、気を引き締めていこう!」



 にっこりと笑うジーク。何も知らない人たちが外から見たら、まず間違いなく一番油断して見えるのはジークだと言うだろう。だが、当の本人はいつものように上機嫌である。

 けれど、言っていることは正しい。まだ一番の難敵である『女王アリ』が残っているのだから。


(軍隊アリの女王。魔物でありながら魔法を扱う存在、か…… )


 ヨシュアは初めて戦うタイプの魔物との戦闘を思い浮かべながら、しばしの休息をとるのだった。


軍隊蟻討伐戦、全四話、大幅に改定しました。

大筋は変えていませんが、自分なりに納得できる描写は出来たかなと。

また自分のレベルが上がって書き直す、なんていう嬉しい誤算があればいいですね。

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