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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
42/154

寄せ集めの傭兵たち


 ジークエンデから受けた依頼の二日目。

 今日はマーセナルより南に位置する<トーレス山脈>にて、魔物討伐の依頼を受ける。

 集合は朝八時。場所はギルドホーム前。そこから馬車に乗って現地まで移動する予定だ。


 もちろんヨシュアは集合時間までに朝の日課を終えていた。そしていつも通りウルプス川の河川敷にてマトに会い、いつもの長いすに座り、ニューポートで体験した出来事について彼女に話を聞いてもらっていた。






 

「────ということが昨日あって、それで『欲望』…… というより、まぁ『興味を持つ』ということって結構大事なのかな、って思ったんだけど、マトはどう思う?」


「『欲望』という言葉はちょっと怖い印象があるかも。…… 少し行き過ぎたイメージがあるから。でも、興味を持つことは大事だと思う。好きなことだから頑張れることは多いと思うし」


 

 マトはいつものようにヨシュアの右隣に座り、話に程よく相槌を打ってくれる。マトの落ち着いた綺麗な声は、この朝の空気と相まってとても心地よく耳に響いてくる。



「ヨシュア君は何か好きなこととか、最近気になっていることってある?」


「うーん、…… 何だろう?」


「本とか映画とか…… 」



 ヨシュアは考え込む。

 マトの質問は何も変わったことを聞いているわけではない。ある意味ごく当たり前の、日常の生活について尋ねているだけだ。しかもこの街に来たばかりなのだから興味を持ったことなんていくらでもあってもおかしくない。

 にも拘わらず、あんまりにもヨシュアが難しそうな顔をして考え込むので、マトは少し質問の内容を変えてみる。



「この街に来てから自由な時間は何をして過ごしていたの? 依頼とか鍛錬の時間じゃなくて、ちょっとした息抜きの時間とか……」


「うーん、暇な時は何してただろう? 街の地形を覚えるためによく散歩に出てた、かな? いざって時にすぐ駆けつけられるように」


「街を歩いているときに気になったお店は? 中に入ってみたりはした?」


「いや、全然。そういう風に街を見てなかったから。………… そっか、それがダメなんだな。『興味を持つ』というのは、もっと物事を知ろうと自分から進んで思わなくちゃいけなかったのか……」



 ヨシュアはまたしても考え込む。

 今までは騎士になることを目指して鍛錬一筋だったし、ある意味<魔法人形マギアドール>という遊び相手がいたから暇だと感じる時間もなかった。良く言えば『夢に向かって一心不乱に打ち込んでいた』ともいえるが、悪く言えば『世間知らず』なだけだ。



「そうだね。知ろうとするところから始めるのもいいのかもね。知識欲って一つ知ればそこからもっともっと知っていきたいと、自然に広がっていくものだろうから。それに物事をなんとなく見るばかりじゃもったいないと思うし……。そういえば、ニューポートの街並みは見てどう感じたの?」


「えっと、人が多くて…… あと、全体的に白っぽくて爽やかだった」


「えー、なにそれ。おかしな感想だね」



 あまりにも抽象的な感想に、思わずマトはくすくすと笑ってしまう。

 ヨシュアは慌てて「ほとんど探索する時間がなかったんだ」と滞在時間の短さを理由に言い訳をしたが、それでもマトはもう少し具体的に物事を見ないといけないと言う。



「きっと大事なのは『聞いて・見て・感じる』ということなんだと思うよ。………… そっか、それじゃあ明日またお話しできたなら、今日の依頼のこと、トーレスの山のことととか、みんなとお話ししたこととか、また私にお話ししてほしいな。今度はもっと具体的に」



 ヨシュアは「約束するよ」と言って頷いた。


 ────明日またいつものようにここで会って、そして今日の依頼で感じたことを少しでもマトに知ってもらおう。

 明日に向けてちょっとした楽しみが増えたような気分だった。








 <トーレス山>にて行われる討伐を依頼されたのは<黒い二刀流の軍隊蟻ダブルソードアント>という魔物だ。


 <黒い二刀流の軍隊蟻ダブルソードアント>は名前の通り、前足が二本の剣のようになっている大きなアリの魔物。体長は二メートルほど。巣は作らず、いつも隊列を組むかのように群れで行動する。過去の例から見ても百匹ほどの集団で行動していると予測されるため、今回の依頼は昨日より大人数で臨むことになった。



 

 今回の依頼を受けたのは全員で八人。


 前衛は盾使いのヨシュアと、剣使いで、コルト諸島からの知り合いであるハールとケイト。そしてギルドホームで声をかけた槍使いのアレンと、斧使いで緑のカード持ちのワレスだ。


 後衛は二人の魔法使いで、リリーナとモレノ。二人はそれぞれアレンとワレスとよくコンビを組んでいるそうだが、今回は魔法使い同士でペアを組んでもらうことになった。


 先日ギルドホームにてワレスの後ろにいた人物がモレノだ。

 風貌を見るになんとも冴えない印象が強い中年の男性で、身長はワレスより少し高く痩せ型。着ている服はボロボロで髪もボサボサ。あまり身なりを気にしない性格なのかもしれない。

 だが見た目とは裏腹に、実はマーセナルの街で数少ない魔法使いでもある。しかもワレスと同じ緑のカード持ちというから驚きだ。



 そして今回この作戦の指揮はもちろんジークエンデだ。

 ギルドに二人しかいない最高ランクの赤のカード持ちである。


 



 ────なのだが、



 例のごとくジークエンデは今日も集合時間に遅刻した。



 何はともあれ、一行を乗せた馬車は進路を南に取り、まっすぐ目的の山を目指す。山に近づくにつれて途中から舗装されていない道を走ったようで、馬車は幾度となくガタガタと揺れた。


 一時間ほど揺られた後、<トーレス山>の入り口に到着する。

 馬車から降るとすぐにワレスが不満を漏らす。



「かぁー。尻が痛いってーの。まったく、戦う前からこれとはな」


「し、仕方がない。そ、それに、この山での依頼を受けるときはいつものこと、だろう…… 」


「まーそれもそうだけどよ。いい加減もうちょっとましな道を作りやがれってんだ」



 ワレスの言葉に、モレノがぼそぼそと小さな声で相槌を打つ。

 そういえばモレノは馬車の中ではずっと俯いて一言も話していなかったように思うが、もしかしたら極度の人見知りなのかもしれない。

 もしそうだとしたら、そんな調子で今日一日皆と一緒に依頼をこなせるのか少し不安になってくる。いつもペアを組んでいるワレスとの連携は大丈夫だろうが、今日ペアを組むのはリリーナだ。


 それに、なんとなくだけど全体の空気が重い。寄せ集めのパーティということもあるが、あまり会話が弾まない。馬車の中ではジークとワレスの二人だけがずっとしゃべっていた。いつもならケイトも会話に加わりそうなものだが、ハールもケイトも緊張しているのか今日はずっと表情が硬い。



「はぁー…… こんなパーティメンバーで今日一日戦い抜けるのかな? なんかみんな暗いよ? …… ワレス君だけは元気だけど。ねぇヨシュア君?」



 わざとらしくため息をつきながら、ジークがヨシュアに話を振る。今まさに同じことを考えていたとはいえ、ジークに言われると素直に頷く気になれない。

 しかも今のジークの言い方では、パーティメンバーを集めたヨシュアに非があるようではないか。もとはと言えばジークがメンバー選定を押し付けたのが悪い。


 そんなジークの一言にワレスも気に入らない部分があったようだ。



「おいおい、いつも言ってるけどよ、俺の方が年上なんだからよ、その”ワレス君”呼びだけはやめろよな」


「えー、いいじゃないか、それぐらい。そんな細かいこと気にする人だっけ?」



 いつもの調子の二人。

 彼らは戦いの場において何も心配する必要は無さそうだが────

 


 そもそもヨシュアはみんなの戦っている姿を見たことが無い。ハールやケイトともコルト諸島で知り合っただけで、一緒に戦った訳では無い。


 アレンの目にはこのメンバーがどう映っているのだろうか?

 ヨシュアは少し気になって尋ねてみる。



「今日のメンバーどう思いますか? 俺、初めて一緒に仕事をさせてもらう人ばかりで……」


「正直不安しかないな」



 即答。

 隣でリリーナも黙って頷いている。


 実はこの時リリーナは、ある意味当然ながら、ヨシュアのことも信用していなかった。

 本人の前で口には出さなかったものの、片腕というだけでやはりハンデがあるのは否めない。ウワサでは凄いと聞いているが、それでも直接自分の目で確かめないことには信じられないと思っていたのだ。


 本当のことを言う代わりに、リリーナはヨシュアにこう告げた。



「実は私たちも他の人とあまり組んで戦ったことが無くて。だから私たちもワレスさんやハール君たちの戦い方を知らないの。でもジークさんがいるからたぶん大丈夫よ。不安は消えないけど」



 リリーナの一言にヨシュアはさらに不安を覚える。

 思っていた以上に寄せ集めの即席チームだったらしい。

 それでも「ジークがいるから大丈夫だ」とリリーナは言うが…… 昨日のジークの魔法は確かに凄かったが、それだけで信頼する気にはまだなれない。



「────まぁ、傭兵やってればこういうことはよくある。他の街の傭兵とだって組むことはあるからな。だから一緒に戦うなかで理解を深めていけばいい」



 アレンは今日みたいなことはよくあることだと割り切っているようだ。


(なるほど。覚悟を決めるしかないようだ。それに、どうせ誰と組んでも俺の役割はそう大きく変わることなんて無いしな)

 

 今更悩んでも始まらない。それにどんな状況でもヨシュアがすべきことは変わらない。どれだけ悩んでも、片腕のヨシュアにできることと言えば『その身を盾にしてパーティメンバーを守る』ことしかないのだから────



 そんなことを考えていると、ジークが「ハーイみんなーちゅうもーく」と声をはり上げ、手を叩いて全員の視線を自分に集める。



「さぁ、これから山でアリンコの退治に向かうわけだけど、その前に、簡単に今回の作戦の役割だけ伝えておこうか! とりあえずヨシュア、キミの今日の役割は………… ズバリ! 『囮になること』!! 今日の作戦のキーマンはキミだから、頑張って山の中を駆け回ってねー!」



 ジークはそう言ってニッコリと笑いながらヨシュアの肩に手を置く。

 ヨシュアは目を丸くする。まさか『パーティメンバーを守る』こと以外で役割を与えられるとは思っていなかったからだ。



 ────だが、役割なんてなんでもよかった。



 キーマンだと言ってもらえた。

 頼りにされているなら期待に応えたい。


 ヨシュアはジークの言葉を噛みしめ、決意を新たに軍隊蟻討伐戦に臨む……!


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