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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
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魔術の指輪


「あの、ジークさん?」



 馬車に乗った一行は多くの人たちが手を振るなかを進んでいく。隣ですれ違うように<巨大な岩肌の野牛モノリスバイゾン>が引く牛車もゆっくりと動き始めているようで安心した。



 先ほどからずっと気になっていたこと。最後に<巨大な岩肌の野牛モノリスバイゾン>の動きを止めたあの光り輝く魔法の槍について、ヨシュアの向かい側に座ってくつろいでいるジークに尋ねてみた。



「あれかい? あれはボクの必殺技さ!」


「『必殺技さ!』……じゃなくて、もう少し具体的に」


「必殺技は他人に教えるものじゃないだろう?」



 散々ヨシュアの戦いぶりを観察していたというのに、自分は肝心なことを教える気は無いらしい。


 そもそも始めから少し可笑しいと感じていたこと、それはジークが武器らしいものを何1つ身につけていないことだ。ほぼ全員が両手に標準装備していると言ってもいいマジックワイヤーすら装備していない。戦いの場であるにもかかわらず、昨日出会った時と同じように長袖の白シャツを着てタイトなボトムスを履いているだけで、防具らしきものも見当たらないのだ。



「……その指輪に秘密があるんですよね?」



 マリーはそういってヨシュアにウインクする。



「あっ、こらこらー、マリー君? そんな簡単に教えちゃダメじゃないか!」


「すみません。ただ私さっきの戦いでヨシュア君のファンになってしまったので、ついつい……」



 答えをバラされたジークはマリーを叱るものの、言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだ。

 もしかしたらジークは力を隠しておきたいのではなく、むしろ知ってほしかったのかもしれない。ジークの性格を考えてみても最終的にはヨシュアに教えるつもりで、だけど教えるまでは反応を見て楽しむ予定だったのだろう。まったくこの人は……


 ヨシュアはジークの左手につけられた3つの指輪に視線を移す。彼の左手の人差し指と中指と薬指にそれぞれ3つも指輪が光っている。高そうな腕時計以外はあまり装飾品を身に着けていないジークにしてみれば、確かに不自然だ。

 けれど、その指輪が魔法に関係しているのなら、それも納得できる。



「あの槍はその指輪のどれか1つに関係する魔法なんですか? それとも3つ全てであの1つの魔法なんですか?」


「いやいや。あの槍の魔法自体はボクのオリジナルの魔法さ!」



 ジークはそういうと左手をだらんと下げたまま、右手を前に伸ばして手のひらを上に向ける。すると『ビュン』という独特な効果音と共に光の槍が現れた。(ジークの左隣に座っていたトムは、いきなり自分の真横で光る槍があらわれると「うわぁ」という声と共にのけぞり、目を大きく見開いて驚いていた)



 槍の長さはおよそ1m50cmぐらいだろうか。だが先ほどの戦いで見た槍と少し色が違う。今は黄色に近い色をしているが、先ほど見た時はもっと青白く、なにやら電流みたいなものを纏っていたように思う。

 たぶんここから指輪の力で何かするのだろうと予想しながら尋ねてみる。



「その槍がジークさんのオリジナル魔法だとすると、指輪はどのように関係してくるんですか?」


「いやいや……待ってくれたまえよ、ヨシュア君。キミ正気かい? そんなことよりまず聞くことがあるだろう?」



 指輪の秘密より先に聞くこと……ヨシュアはジークの言いたいことが本気で分からず首を傾げる。そんなヨシュアの様子にジークはたいそう呆れた表情でこう続けた。



「名前だよ、な・ま・え!!  『ジークさん! そのオリジナル魔法の名前は何と言うのですか!!』……だろう、普通は!!」



 「なんだそんなことか」という言葉を何とかギリギリのところで呑み込んだヨシュアは、ジークの機嫌を損ねないように「オリジナル魔法の名前を教えてください」と言って軽く頭を下げる。一瞬不服そうな表情を浮かべたヨシュアを見て、隣に座っていたマリーとエルクは、ジークにバレないように口元を隠しながらくすくすと笑っていた。



「いいだろう! そんなに聞きたいなら教えてあげよう! この魔法の名前は……そう! 『グングニル』だよ!」


(……グングニル……どっかで聞いた名だな……)



 グングニルという名前に心当たりがあるヨシュア。するとジークは続けて名前の由来を得意げに語り始める。



「グングニルと言うのはね、外の世界で語り継がれる北欧神話に出てくる最高神<オーディン>が持つ必中の槍の名前から来ているんだ! ボクの槍の素晴らしさを見た外の人々が『その輝く槍は、かの有名なオーディンの槍…… まさにグングニルだ!!』なんてあんまりにも褒め称えるからね、仕方がなく改名したんだよ!!」


「……グングニルの前はなんて名前だったんですか?」


「『ファイナルランサー』だよ。こっちの名前も最後の切り札っぽくてカッコいいだろう?」



 ジークはそういって自慢のオリジナル魔法について、過去のエピソードを交えながら得意げに語る。


 グングニルが北欧神話から来たものだと知った時は「オリジナル魔法のわりに名前はよそから取ってくるのか」などと思ったが、その前が『ファイナルランサー』などという安直な名前だと知った今は、グングニルに改名して正解だとヨシュアは思った。



「それでその……グングニルと指輪にはどういった関係が?」


「フフフ、……それじゃあ特別に見せてあげようか!」



 ジークはそういうと右手の光る槍に左手を添える。

 指輪のうちの1つ、薬指にはめられた指輪が青く光った。

 すると、先ほどは分からなかったが、光る槍に何やら文字が浮かび上がる。

 そして先ほど同様槍は青白い光を帯びてバチバチと音がし始めた。



「なるほど……つまりその指輪は『魔術式を追加する効果がある』ということですね? しかも指輪が3つということは、もしかして槍に3つの種類の性質を付け加えられて、その時々によって使い分けられると?」


「そうそう、そういうこと! あとの2つの性質は……まぁこれから2週間のどこかでお披露目するよ!」



 ジークはわざともったいぶるように言いつつも、自分の話を聞いてもらえてやはりうれしそうだ。だが、ヨシュアはジークの話半分に、もうすでに興味はジークの指輪にしかなかった。



(魔術式の使い方には、こういった後付けのようなこともできるのか。てっきり実態のあるものにしか術式は刻めないと思っていたが……もっと知識を増やせばより良いアイデアも思い浮かぶかもしれない。とりあえず帰ったらこのことはアルルに要相談だな。あっ、そういえば……)



 ヨシュアは昨日マトやアルルと話した内容を思い出して、事の経緯と共に2人の参加を特別に認めてもらえないかとジークに尋ねる。



「……なるほど、カード持ちじゃなくても参加したいと……そんなにボクと仕事がしたいというのなら、まぁ今回は仕方が無いな! いいよ、ボクの名において許可しよう!!」



 別に2人はジークと一緒に仕事がしたいと言ったわけでは無いのだが、ヨシュアはそのことはあえて伏せておくことにした。……2人には後できちんと説明して口裏を合わせてもらうとしよう。



「ただ、1つだけ条件がある。もう一度だけでいいから3人の『緑のカード持ち』の女の子全員に声をかけて参加を促すように、できるね?」



 ジークが追加で条件を出す。なぜそこまでこだわるのかと少し気になるが、結果はどうあれ誘えばいいだけならと思い、ヨシュアは素直に頷くことにした。





 お昼を少し過ぎた頃、ようやく前方に大きな島が見えてきた。ヨシュアも初めて見るその島の名はニューポートだ。別名<貿易と欲望の街>と呼ばれている。

 滞在予定時間は短いが、それでもどんな街の風景が待っているのかと期待を胸に、ヨシュアは馬車の外の風景を眺めながら、傭兵という立場ではあるものの、いましばらくの馬車の旅を楽しんでいた。


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