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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
34/154

マトの提案


 時が過ぎるのは早いもので、時刻はすでに正午をまわっていた。



 昼食時の酒場は、朝の静けさが嘘のように活気に満ち溢れていた。

 その盛り上がりの中心にいるのは、なんとヨシュアだった。


 あとから来た陽気なスキンヘッドの男は『ワレス』というのだが、その彼が店内に入ってくる者たちに片っ端から声をかけては、ヨシュアが持つ依頼書を見せて協力者を探してくれるので、はじめ三十近くあった依頼の人員が次々と埋まっていく。



 ワレスに声をかけられた者たちは、呼ばれた理由が『ヨシュアからの依頼を受けて欲しい』という内容だと分かると、皆一様に『なんで自分が片腕の彼と一緒に仕事を?』と言いたげな表情を浮かべる。中には「お前その腕でちゃんとやれんのか?」とはっきり口に出して聞いてくる者もいた。

 

 だが、そのたびにワレスは「気になるんならボウズと一緒に仕事してみよーぜ!」と、その太い腕で背中をバシバシ叩きながら参加を促してくれた。ワレスの強引さは少しやりすぎな気もしたが、今のヨシュアにとって非常に有難いものだった。



 当初の予定では、せめて今日中に明日と明後日の予定だけでも…… と思っていた。だが、このペースだと夕方には全ての予定が埋まるのではないか、とすら思えてくる。

 あまりにも次々と決まっていくので、人員表に名前を書いただけでは顔と名前が一致しなかったほどだ。


 依頼の中には『環状根の修繕のお手伝い』や、『その日一日限定の街のパトロール団長のお仕事』、さらに『水源確保のための井戸掘りのお手伝い』などなど、およそ戦いを生業とする傭兵の仕事とは思えない依頼も数多く含まれている。けれど、意外とそういった敬遠されそうな仕事も簡単に予定が埋まっていくことに、ヨシュアは驚きを隠せないでいた。


 どうしてこんな仕事を喜んで引き受けてくれるのかと、つい疑問を口にしてしまったことがあるのだが、その人は「まぁ…… これがこの街と浮雲の旅団のいいところだからな」と言って、少し恥ずかしそうに笑って答えてくれた。



「よっしゃ! これでこっちの依頼も埋まったな!」


「あ…… 待って下さい。ここ女性の方がいません。ジークさんからは”依頼一つにつき、最低でも一人は女性の傭兵を雇うように”って……」


「なんだそりゃ!? あのジークの野郎、自分が赤のカード持ちだからって好き勝手言いやがって! …… うらやましいじゃねーか!!」



 ワレスの欲望を包み隠さないストレートな言葉に、その場にいた一同が大いに沸く。

 皆でああでもない、こうでもないと言いながら予定を立てていくのは、正直ちょっと楽しかった。







「やっぱりネックになるのは女性の傭兵か…… 」



 午後二時をまわった。


 あれからも多くの人の申し出があり、人員表は早くも八割がた完成したが、女性の傭兵だけなかなか集まりそうもない。

 そもそも旅団全体で女性が占める割合は三割程度しかおらず、高ランクの緑のカード持ちは三人。すでに断られたニアを除けば二人しかいない。


 午後から予定があるワレス達と別れて、少し静かになった店内で依頼表とにらめっこしながら休憩するヨシュア。

 後ろから声をかけられて振り返えると、この傭兵団には珍しい、同い年ぐらいに見える二人の若い女の子の姿が目に飛び込んできた。



「あの、ヨシュアさん…… ですよね?」


「はい、そうですけど」


「私たち、つい先日入団したばかりなんですけど、受付のフレイヤさんに、ここに来れば私たちでも受けられそうな依頼があるから、ヨシュアさんに声をかけるようにって言われて……」


「そうなんですね! 助かります! ちょっと訳あって、ちょうど女性の傭兵を募集していたところなんです!」



 ヨシュアはさっそくとばかり二人の女性にテーブルの空いた席に座ってもらって、依頼内容の一覧を見せる。

 この二人は名前は『ミント』と『リコッタ』。実は今回の事情をよく知るフレイヤが、少しでもヨシュアの助けになればと、わざわざ魔法文を使ってまでして呼んでくれた傭兵だった。


 二人はまだ新人ということで白のカード持ちでしかない。

 が、それでも今のヨシュアには十分に有難い。

 しかも嬉しいことに、二人は他の女性の知り合いにも声をかけてくれるというのだ。



「そんなに協力してもらっていいんですか?」


「はい、もちろんですよ! 私たちにとっても高ランクの傭兵の方々とお仕事させてもらえるのは、大変勉強になりますし、安全だし、それに…… ジークエンデさんもいると聞いていますし!」



 二人と話をして分かったことなのだが、意外なことにジークは女性からの信頼が厚い。

 特に若い女性の多くは、ジークエンデに憧れて入団したものも多いと聞くから驚きだ。

 確かにジークが纏うオーラは高貴さを感じる一方で、話してみるとすごく親しみやすい。背も高く顔立ちも整っていて、加えて(恐らく)お金持ち…… ともなれば、当然と言えば当然なのかもしれないが。




 あと埋まっていない予定は四つ。

 やはり足りないのはいずれも女性で、しかもコルト諸島への依頼は緑のカード持ちでなければならない。

 だが、ここまで予定を埋めれば、あとは明日以降ジークと直接会って、相談しながら決めていくのもいいだろう。



 けど、ここまで順調に埋まっておいて思うのもなんだが、引き受けてくれた人のほとんどはワレスの強引さとフレイヤの優しい気配り、それとジークエンデの人望による者たちばかりだった。

 ヨシュアは自分の人望の無さに悲しくなる。まあ、この街に来て十日ほどなのだから当然なのだが────




「お疲れ様、ヨシュア君。これ、マスターから差し入れです」



 店員として働いていたマトがコーヒーを持ってきてくれた。どうやらマスターが気を遣って淹れてくれたらしい。

 カウンターの奥で軽く手を挙げて笑うマスターに「ありがとうございます!」とお礼を述べて、有難く頂くことにする。



「凄くにぎやかだったね」


「ああ、朝話した悩みが嘘みたいで驚いてる」


「もう予定は埋まったの?」


「あとちょっと。でもここからが大変そうなんだよな……」



 ヨシュアはまだ埋まっていない予定と、その理由を簡単に話してみる。

 すると彼女から考えてもみなかった答えが返ってきた。



「コルト諸島の採取のお手伝いはアルルさんに頼んでみるのはどうかな? アルルさんはカード持ちじゃないけど、今度また行きたいって本人も言ってたし。傭兵とは別枠の”同行者”として一緒に来てもらうのはダメなのかな? ちょっと失礼な言い方だけども、ジークさんなら、どんな形でも女性が来てくれたら良さそうだし……」


「確かに…… 意外とその通りかもしれない! 明日ジークさんにあって確かめてみるよ」


「それから、これもジークさんや受付の人に確認をとらないといけないと思うんだけど…… 」


「なに?」


「最終日のパン屋の開店セールの呼び込み、私もお手伝いできるよ?」 


「ほんと!?」



 マトの提案にヨシュアは喜びの声を上げる。

 実はこの日は、アリストメイアにてちょっとしたイベントが開催されるため、警備の人員で人手が割かれており、こちらの依頼を引き受けてくれそうな人が見つからなかったのだ。



「うん。その日はお休みだから。ただ私は傭兵じゃないから依頼を受けてもいいのか分からないけれど……」


「いや、とっても助かるよ! そのことも含めて明日ジークさんに相談してみるから待ってて」







 そして夜になった。辺りは薄暗くなり、街灯に明かりがつき始める。夜行性の人が多いこの街は、朝よりずっとにぎやかだ。



 あれから一旦家に帰ったヨシュアは、<魔法人形マギアドール>と納得がいくまで鍛錬を重ねた後、再びギルドホームの酒場までやってきていた。それは、とある人と待ち合わせをしていたためだ。

 ヨシュアが空いている席を探してテーブルに着くと、ほどなくその人はやってきた。



「────お待たせしました、ヨシュアさん!」


「いや、本当ならこちらから行くべきだったのに、わざわざ来てくれて助かるよ」



 ヨシュアが呼んだのは黒いマントを羽織った金髪の女性

 ────そう、アルルだ。

 

 昼間マトと話して、アルルにも依頼の協力をお願いしたいという要件と、そして実はもう一つ、わざわざ来てもらってまでお願いしたいことがあるのだが……


 その前に、椅子に座ろうとするアルルの服を見てヨシュアは声をかける。



「あれ、それって新しい服?」


「そりゃそうですよー! この前の服はびりびりに引き裂いちゃいましたから、さすがにあれはもう着れません」



 前回アルルと出会った時は黒を基調としたワンピースを着ていた。あの時は島での戦闘で魔物と逃げるために、長かったワンピースのすそを自分で膝の上あたりまで切り裂いてしまったと聞く。



「それはそうだけど、なんというか前と比べると随分と雰囲気が変わったというか…… 」



 一方で今回アルルが着てきたのは黒のマントに、七分丈の白いシャツ、それに膝上あたりまでの短めのスカートだった。長めのブーツとスカートの間から顔を覗かせた白い柔肌がなんとも眩しい……



「────どこ見てるんですか、ヨシュアさん?」


「えっ、あっ、いや、別に…… 」



 ちょっと意地悪っぽくヨシュアに詰め寄るアルル。

 ヨシュアは気まずくなってなんとかはぐらかそうとするが、逆に怪しくなってしまったみたいだ。

 アルルはそんなヨシュアの素直な反応を見て笑っている。



「この前は長すぎて自分で切っちゃいましたから、今回は初めから短めにしてみたんです。どうですか? 似合ってます?」


「……とってもいいと思います」


「こっち見てないじゃないですか。ちゃんと見てから判断してくださいよー!」



 アルルは不服そうにして、椅子に座るヨシュアの瞳を覗き込むように見ている。両手を膝に付くようにしてかがむアルルの胸の谷間がどうしても気になって直視できない。



「ち、近いです! でも似合ってると思ったのはホント! 特に黒や紫を基調とした服に、その…… 白のシャツがアクセントになってて、えっと、だから…… とっても似合ってます!」



 ヨシュアは思いついた言葉を必死に繋ぎ合わせる。

 慌てすぎて気づかぬうちに普段と口調が変わっていたほどだ。

 口から出た言葉はもちろん本心だが、女性の服にコメントを述べた経験なんて今まで無かったから、うまく伝えられたか怪しい。それでもアルルは「それはよかった!!」と言って喜んでくれた。ヨシュアはほっと胸をなでおろす。


 とりあえず二人は夕食のオーダーを済ませると、さっそくヨシュアは本題に入った。



「魔法文の内容の通り、今日はアルルにお願いしたいことがあって来てもらったんだ」


「はい、一つは依頼の件についてですねっ!」



 あらかじめ魔法文にて簡単な事情の説明をしていたのだが、せっかくなのでもう一度事の経緯と共に説明する。

 アルルは依頼の一覧が書かれた紙を受け取ると、さっと上から下まで目を通す。



「────なるほど、それで女性である私を…… ああ、これはまた大変ですねぇ。…… わかりました。コルト諸島へは私ももう一度行きたいと思っていました。話によるとジークさん次第だそうですが、ぜひ一緒に行きましょう!」


「ありがとう! すごく助かるよ!」


「それから…… 同じ理由でこの『マナクリスタルの原料採取のお手伝い』も私同行してみたいです! 単純にどんな作業を行うのか興味本位なんですけど…… そんな理由でもよければ、私にもお手伝いさせてくださいっ!」


「もちろん! とても有難いよ! 明日さっそく聞いてみる」


「あと、このパン屋さんのお手伝いも、マトちゃんがお手伝いするのなら私も行こうかなー」



 アルルの言葉にヨシュアは身を乗り出して感謝を述べる。アルルは「ほかならぬヨシュアさんの頼みですからねっ!」といつものように笑って答えた。


 ヨシュアはほぼすべての予定が埋まった一覧表を見つめながら、たった一日でこれほど多くの人に協力してもらえたことに、嬉しさのあまり感動で胸が熱くなる。



「……さて、もう一つ私に聞きたいことがあるんでしたよね?」


「ああ、そうなんだ。アルル、俺に魔法を教えてくれないか?」


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