振り回されるヨシュアとミストの策略
ジークエンデの依頼を受けなければ多くの人に迷惑がかかる。
だからヨシュアは仕方なくジークの頼みを引き受けることにしたのだが……
さっそくとばかりジークは満面の笑みを浮かべると、ミストから渡された依頼一覧をヨシュアの手から奪い取り、その紙に魔法のペンで何やら文字を書き加えていく。
鼻歌を交えて楽しそうにすらすらと紙に書き込んでいくので、ヨシュアは気になって覗き込んでみる。
「ジークさん、依頼内容の隣に書き込んだ数字はいったい?」
「人数だよ、に・ん・ず・う。二人で全部こなすわけにもいかないだろう? 仕事内容によってあと何人必要かを書き込んだのさ!」
「文字の色が違うのは?」
ジークは紙に数字を書き込むとき青と緑と黒の三種類を使い分けていた。
「この色はギルドカードの色さ。…… あのさ、ちょっとぐらいは察してくれたまえよ。いいかい? 難しい仕事もあれば、そうでない仕事もあるからね。それに応じて集めるべき傭兵のランクも変わってくるわけさ!」
「なるほど。それじゃあもしかして黒い文字は『白のカード』持ちでもかまわないということですか?」
「そうそう、その通り! 白い紙に白色で書くと見えなくて困るからね。ちなみに青色は『青のカード』か、もしくはそれより高ランクの『緑のカード』持ちならいいよ」
そう言いながらすべての依頼に色のついた数字を書き込むと、その紙をなぜかヨシュアに渡す。
ヨシュアは嫌な予感がしつつ、確かめるようにジークに尋ねる。
「なんで俺に渡すんですか?」
「そりゃあ君がメンバーを集める役だからに決まっているじゃないか!」
「いやいや。普通依頼に対して傭兵を選定するのは受付の仕事なんじゃ…… 」
ヨシュアはそう言って向かいに座るミストを見るが、ミストはその視線を無視しながら立ち上がり、「紅茶ごちそうさまでした」とだけ言って、その場を去ろうとする。
ヨシュアはそんなミストを後ろから慌てて呼び止めると、ミストはこちらを振り返ってため息交じりに言った。
「それはもう受付の仕事じゃありませんよ」
「いやだってこの前ミストさん自身が言ってたじゃないですか! ギルドカードのランク分けは自分のレベルに合わない無茶な依頼を引き受けて命を落とすことが無いようにと、受付で依頼をランクごとに仕分けしているって、言ってたじゃないですか!」
「でももうそれジークさんに色分けしてもらったから、あなた一人でも大丈夫でしょう」
「そうかもですけど…… そういう問題なんですか!?」
必死に食い下がるヨシュアに対し、ミストはまた大きなため息をつきつつ、右手の人差し指をピンと立てる。
そのまますーっと、ヨシュアの方に人差し指を向けて言った。
「はぁ…… 。まだ分かりませんか、ヨシュアさん? それはもうあなたの仕事なんです。つまり『傭兵探し』をするところからがジークさんの依頼なんですよ。そうですよね、ジークさん?」
「えっ…… ああ! もちろんだとも! もうすでに依頼は始まっているぞ、ヨシュア君!!」
(こいつ…… 咄嗟に話を合わせたな…… !)
ジークは「はじめからそのつもりだった」と言いたげに作り笑いを浮かべごまかす。
このジークのわざとらしい反応から推察するに、ミストの話は明らかに作り話だったが、どうやらうまいこと策にはめられたらしい。これ以上二人に抗議しても無駄そうだ。
ミストが受付業務に戻ったあと、ほどなくジークも「会食の予定があるから僕はこれで!」と調子のいいことを言って立ち去ろうとする。
しかも去り際に、
「ああ、そうそう言い忘れるところだった。すべての依頼においてパーティメンバーを集めるときは必ず一人以上は女性で頼むよ。男性ばかりだとむさ苦しくて僕のヤル気も半減しちゃうからね。じゃあ明日現地でまた会おう!」
と都合のいいことばかり言って足取り軽やかに店を出て行ってしまった。
その場に取り残されてしまうヨシュア。
依頼はさっそく明日の朝から始まるので、今日のうちにできる限り人数を集めておく必要があるが────
(俺、まだこの街に来たばかりだから、知り合いほとんどいないんだけどな…… )
ヨシュアはこの街に来てできた親しい知り合いといえばニアとライとマトと、それから隣町のアルルにハールにケイト、あとは三人の受付嬢ぐらいだった。他の傭兵はというとまだまだ距離がある気がする。
というのもヨシュアは他の者たちから、片腕でありながら傭兵団に入団したヨシュアに対して、どこか探りを入れるような視線で見られているような、そしてどこか腫れものを触るような扱いをされているような気がしてならなかったのだ。
もちろんこれはある程度仕方がないことだとは思う。
が、やっぱりヨシュアからしてみればあまりいい気分ではないし、だからといってこちらから積極的に話しかけて仲良くなろうという気にもなれなかった。
(さて、どうしたものか…… )
今の時刻は朝の九時。
時間はまだまだあるようで、でもきっと恐らく動き出すには遅すぎるぐらいだった。
とりあえずヨシュアは知り合いを頼るため、ニアとライにメンバーズカードを使ってフレンドコールを行う。
この機能は、ただただメンバーズカードを使って『フレンド登録した相手に自分の居場所を伝える』ということしかできないが、この機能をギルドホームで使えばそれは「ギルドの酒場にて今すぐ話したいことがある」という意味としてちゃんと伝わるはずだ。
そして特に用事がなければ二人なら来てくれるはず。今日二人に依頼の用事が入ってないことは、さっき受付のフレイヤに確認したが、果たして……
ほどなくしてギルドの扉を開ける音がしたので、期待を込めて入口の方を見てみると、そこにはいつものように深紅のマントを羽織ったニアと、ニアの後ろから付き従うライの姿があった。
ヨシュアは喜び、さっそく二人を手招きしては丸いテーブル席に座る。
「ごめん急に呼び出して。来てくれて嬉しいよ」
「いいわよ、そんなの。で、ここに呼び出したってことは何か傭兵の依頼がらみで頼みたいことでもあるの? それも魔法文では言いにくいようなこと?」
ニアの勘は鋭かった。事情説明だけなら確かに魔法文でもよかったが、フレンドコールの方が早く伝わるし、なにより直接会ってお願いしたかった。
「さすがニア。話が早くて助かるよ。実は────」
ヨシュアはニアとライに今朝起きた出来事をかいつまんで話した後、ミストから渡されジークが書き加えた依頼の一覧を二人に見せた。
一覧を見るなりニアは目を細めながら、ヨシュアを憐れむような表情を浮かべた。
「うわー。これはなかなか…… いや、かなり大変ね。依頼内容のレベルはともかく、明日からほぼ毎日、朝も昼も夕方も予定が埋まってるじゃない。よくこんなの引き受けたわね?」
「だって仕方ないだろう? 俺が引き受けなきゃ依頼を出した人たちが困る」
ヨシュアが口をとがらせながら不服そうに言う。詳細を知らないから簡単に言えるのであって、あの場にいたらニアたちだって引き受けると言うしかなかったはずだ、とヨシュアは思った。
だが、どうやらニアの考えは違うらしい。
「どうだかねー。案外あのジークのことだから、一人でなんとかしちゃってたかもよ? アイツなんだかんだいって赤のメンバーズカード持ちだから」
言われてみると確かにそうかもしれない。
いや、むしろそうでなければあまりにも無計画すぎる。
ヨシュアに断られても何か別の手立てがあったと考えても不思議では無かった。
しかし、もうすでにジークからの依頼を引き受けてしまった。抗議しようにもジークはどこか別のところに行ってしまっているので、早くても明日現地に直接行かないと会えない。
「…… とにかく力を貸してほしいんだ。ニア、ライさん」
ヨシュアはそう言って二人に頭を下げてお願いをする。
二人は貴重な高ランクの傭兵だ。全体で三割もいない緑のカード持ちである。
しかもニアはその中でも数少ない女性の緑のカード持ちだし、ニアが来てくれればライだって来てくれる。ヨシュアにとっていいことづくめだった。
けれど、そんなヨシュアのお願いを無情にもニアは断った。
「申し訳ないけど、アタシたち、依頼の内容にはいつもこだわっているの。だから今回はパス。…… それにアタシ、あのジークエンデのことあんまり好きじゃないのよねー。いっつも何企んでるのか分からない顔してるし」
まさかのニアに断られてヨシュアはうなだれる。
もう答えは分かっているようなものだが、一応ライにも依頼を引き受けてくれないかと聞いてみると、ライはとても申し訳なさそうな表情を浮かべながら「ニア様が引き受けないのであれば…… 」と言って黙ってしまった。
だがヨシュアも簡単には引き下がれない。
「もちろん、全部じゃなくていいんだ! どれか一つでも……!」
だがニアは「この話はもうおしまい」と言わんばかりに首を横に振るだけだった。
◆
ヨシュアが傭兵探しで苦戦する一方、ジークエンデは町はずれの喫茶店である人たちに会っていた。
ジークを待つのは男二人と女が一人。皆それぞれ手入れの行き届いた良質な装備を身につけている。
「やぁ、お待たせ」
「お待ちしてましたよ、ジークさん。彼はどうでしたか? 引き受けてくれました?」
「もちろん! 渋々ではあったけど正義感が強いのか、頼み事は断れない性格みたいでね。だからちゃんと計画通りさ。…… ここ最近は困ったことに色々とギスギスしてるからねー。だから彼にはいい刺激となってもらうために程よく利用させてもらうとするよ」
ジークは椅子に深く腰掛けて楽しそうにほほ笑む。
「計画のために生じてしまうムリは予定通りキミ達に任せるからね。うまいことやってくれよ?」
「わかっております。我々に任せてください」
「ふふ、頼もしいね。…… さぁ、楽しい二週間にしようか!」




