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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
浮雲の旅団編
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最強の傭兵 ジークエンデ


「ちょっと、どこに行くんだい、キミ!? テーブルはあっちだよ!?」



 後ろから呼び止める声を無視して、ヨシュアはまっすぐ受付まで歩いていく。

 あの見ず知らずの男のペースに付き合っていても仕方がない。受付の人に聞けばあの人が誰か知っているだろう。本人に尋ねるよりその方がよっぽど早そうだ。



「どうしましたか?」



 ヨシュアが受付に行くと、そこに立つミストが何食わぬ顔をしてヨシュアに尋ねる。入り口での二人のやり取りを見ていただろうにと、ヨシュアは不満に思った。



「”どうしましたか?”じゃないですよ。あの人誰なんですか?」


「ああ、ジークエンデさんですね。この傭兵ギルド<浮雲の旅団>に二人しかいない赤のメンバーズカード持ちの傭兵ですよ」


「あの人が赤?」



 あの飄々とした風貌の男が最高ランクの傭兵だと聞いて、ヨシュアは耳を疑った。

 「本当ですか?」と尋ねるヨシュアに、ミストは淡々とした表情で「嘘じゃないですよ」と答える。



「えっと、それであの人、ジークエンデさん? が、勝手に俺のことを『二週間自分の付き人にする』とか言い出しているんですけど…… 」


「諦めてください。あの人の暴走は誰も止められませんから」



 ミストは他人事のようにさらっと言ってヨシュアを突き放す。

 ────どうやらミストはヨシュアを助けようという気は微塵も無いらしい。


 それならと店内を見渡してジルの姿を探す。

 が、なぜか姿が見当たらない。

 その様子からヨシュアの思考を読み取ったミストが答える。



「ジルさんなら探してもいませんよ。私たちにだって休みの日ぐらいはあるんですから」



 それは困った……

 ならばとヨシュアは視線をミストの隣に立つフレイヤに向ける。

 ヨシュアと目が合ったフレイヤはにっこりとほほ笑みつつ、ヨシュアの助けて欲しいというサインをやんわりと断る。



「フレイヤさんに頼ってもダメです。今日は二人だけなんですから忙しいんです」


「いやいや、この朝の時間はいつも暇じゃないか!」



 ヨシュアの必死の訴えにもミストは知らんぷりだ。

 二人のやり取りをどこか少し距離を置いて見ていたフレイヤがミストを諭すように言う。



「まぁまぁミストちゃん。ヨシュア君も困ってるようだし。それにジークエンデさんはミストちゃんの担当じゃない…… 」


「確かに私が一番お話しする機会が多いとはいえ、別に誰があの人を担当するかなんて厳密には決められていません」


「でも…… ジークエンデさんの暴走を止められるのはこの街でもミストちゃんだけじゃない。とりあえずヨシュア君にこれまでの経緯だけでも説明してあげたらどうかしら? ね、ミストちゃん?」



 フレイヤの言葉に大きなため息をつくミスト。

 たいそう不服そうな目でヨシュアを見ながらミストは言う。


「仕方がありませんね。…… 十五分だけ、お付き合いしましょう」





 ジークはヨシュアが来るのを新聞を読みながら待っていた。

 長い足を組み、テーブルには紅茶とサンドイッチが置かれており、その一角だけ優雅な大人の空間が出来上がっていた。

 そんなジークは、ヨシュアと共に酒場のテーブルまでやってきたミストの姿を見て驚いた表情を見せる。



 ミストはジークにかまわず椅子に座ると


「自分できちんと経緯を説明できないジークさんのために”仕方がなく”私が同席します。とりあえず私はロイヤルミルクティーを要求します」


 と、さも当然の権利のようにジークに言った。

 ジークはなぜか小声でヨシュアに尋ねる。



「…… なぜ彼女をここに連れてきたんだい?」


「いや、だって二人じゃ話進まないじゃないですか」



 先ほどまでの陽気なジークとはまるで別人のように大人しくなるのを見て、先ほどフレイヤが言った「ジークの暴走を止められるのはミストだけ」という言葉が本当だったと理解した。


 ミストがわざとらしく咳ばらいをするので、ジークは慌ててヨシュアに銀貨を渡して「これで自分とミストさんの飲み物を注文するといいよ!」と言う。

 すかさずミストはヨシュアに言った。



「あ、私のロイヤルミルクティーは砂糖とミルク多めでお願いします」



 ヨシュアは「なんで自分が」という気持ちを心の奥にしまいつつ、カウンターまで行ってロイヤルミルクティーを二つと、それから勝手に自分用のサンドイッチをジークのお金で注文する。

 出来上がるまでの数分、待っている間に二人はどうしているだろうと振り返って後ろのテーブルを見てみるが、会話している様子は全くない。


 戻ってきたヨシュアから温かいロイヤルミルクティーを受け取ったミスト。満足そうに笑みを浮かべると、香りを楽しみつつ一口飲んで、それからさっそく本題に入る。



「今回わざわざジークさんがヨシュアさんに付き人をお願いしている理由は二つあります。一つはいつも一緒にいるパーティメンバー三人がジークさんに愛想を尽かせて逃げてしまったこと。もう一つは、パーティメンバーがいないにもかかわらず明日から二週間傭兵の依頼をたくさん引き受けてしまっていること。まぁ、要するに馬鹿なんです」


「うわぁ…… 」



 ミストの辛辣すぎる一言にヨシュアは絶句する。

 ジークからの話を聞いてみない限り判断はできないが、もしミストの話したことが本当なら、たしかにこの人はどうしようもない馬鹿なのかもしれない。



「いやいやいやいや…… 待ってくれたまえ、ミスト君! 傭兵の依頼は、メンバーが突然いなくなる前々から引き受けていたものなんだから仕方ないじゃないか!」


「でも私は病気やケガなどもしものことがあるから、あんまり先々の予定を引き受け過ぎないようにと、ずっと前からあなたに言い続けてきましたよね?」



 ミストの相変わらずの正論マシーンぶりにジークは返す言葉がない。


 「あとは二人でどうぞ」とミストは言うと、ミストはシークがすでに引き受けてしまっている仕事の一覧表だけヨシュアに渡して、紅茶を片手にミストは自分の世界に入ってしまった。




 ────とりあえず渡された紙に書かれた仕事内容に一通り目を通して見る。


(えっと…… コルト諸島の生態系調査にマナの木伐採のお手伝い、ニューポートまでの運送の護衛にクリスタルの採取、それにパン屋の開店セールのお手伝い…… 。ほんとに二週間予定でいっぱいじゃないか。しかも別に最高ランクの傭兵がわざわざやらなくてもいいような仕事も多くないか?)


 ヨシュアはため息をつきつつジークに尋ねる。



「どうして初対面の俺を仕事のパートナーに選んだんですか? このギルドには他にもたくさん人がいると思うんですけど」


「いやだってキミ、どうせ暇だろう? その腕じゃまともに依頼だって受けられないだろうしね」



 ジークの少し無神経な言葉に少しムッとするヨシュア。だが、この程度でいちいち腹を立てていては話が進まない。

 ジークのために依頼を引き受けてやる義理はヨシュアには無いが、たしかにこのままではジークに依頼をした大勢の人に迷惑がかかる。それだけはヨシュアも避けたい。



「…… わかりました。俺にやれるだけのことはやりましょう」



 ヨシュアがそう言うと、ジークは急に元気になってヨシュアの肩を何度も叩いて喜ぶ。

 その様子をミストは冷めた目で見ていた。


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