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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
入団編
28/154

これからもどうぞ宜しく


「それじゃあ、俺たちはこれで……」



 ハールから、ギルドの受付嬢に呼ばれていると知らされたヨシュアとアルルは、ティアの父であり今回の依頼人でもあるドミニクと共に<浮雲の旅団>のギルドホームまで向かうことになった。

 ティアの母であるタニスが、出発するため馬車に乗り込むヨシュアとアルルを見送る。



「ヨシュアさんも、アルルちゃんも、本当にありがとうございました。色々と慌ただしくてお礼もできていないので、また今度ゆっくりと時間を作れたらと思っています。…… 娘も喜びますので、またぜひいらしてくださいね」


「はい、近いうちに遊びに来ますねー!」



 アルルは馬車からタニスに向けて元気に手を振る。ヨシュアも笑顔で頷いた。







 馬車に乗ること約十分。ヨシュアとアルルとドミニクの三人は<浮雲の旅団>のギルドホームに到着する。

 店内に入って左奥の受付に向かうと、三人に気が付いた受付嬢から早くもお叱りを受けた。



「ヨシュアさん! それにアルルさんも! まったく…… 無事だったからよかったものの、とっても心配したんですから!!」


「すみません、ジルさん」


「『すみません』……じゃないですよ! ここで待つ方の身にもなってくださいよ! もう……!」



 ジルはヨシュア達の顔を見るなり、怒ったような、けれどどこか少し嬉しそうな表情で言った。本当に心配していてくれたようで、ヨシュアはジルの言葉に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。彼女の言葉を聞かずに飛び出したことを考えるとなおさらだった。


 ジルはこのギルドの受付嬢の一人で、ヨシュアが昨日この街に来たときにギルドの説明を担当してくれてた。ヨシュアと同じ赤い髪に、大きな瞳とポニーテールから明るい印象を受ける。最初に声をかけてくれたということもあって、三人の受付嬢のなかでもヨシュアが一番親近感を感じているのがジルだった。



「あの、奥にいる男性は、もしかして今回の依頼人の方ですか?」



 ジルの話を遮るように話し始めたのは受付嬢の一人で、向かって右側に立つフレイヤだ。少しおっとりとした口調の女性で、たぶん三人の中で一番年上だ。長い栗色の髪と垂れ目、そしてちょっと主張が激しめの大きな胸からは、とにかく優しそうな印象を受ける。

 そんなフレイヤに笑顔で尋ねられて、ドミニクは一瞬彼女に見とれていたが、すぐに我に返ってこう続けた。



「あ…… はい。俺…… 私が今回の依頼を出したドミニクというものです。今回の依頼は私が無理言ってアルルさんに頼んだ依頼であり、その無理故にヨシュア君にも迷惑をかけた…… 。つまり今回皆さんにご心配をおかけした原因は全て私にあります。どうか二人を責めないでください……」


「そうはいきませんっ!」



 きっぱりとそう言い切ったのは受付のミストだった。おそらく最年少。一番背も低く百五十センチも無いだろう。長い黒髪を後ろで二本くくりにしており、口調はきつめ。ジト目…… というのだろうか、とにかく目元から受ける印象もきつめで、控えめの胸といい、なにもかもフレイヤと対照的といえる。


 真ん中に立つミストは小柄ながら一番威圧感を感じる。もちろん見た目とか服装とかではなく、その口調ゆえにだ。



「いいですか、皆さん。なぜこの傭兵ギルドという組織があるのか、そしてなぜ皆さんの持つギルドカードにはランク分けがされているのか、今一度よーく考えてみてください! これは、皆さんのためでもあるんですよ!! そもそもギルドカードのランク分けは、傭兵の方々が自分のレベルに合わない無茶な依頼を引き受けて命を落とすことが無いようにと、そういう意味があるんです! だからすべての依頼を一度このギルドに集めたうえで、私たち受付の者が依頼をランクごとに仕分けしているというのに…… それなのに皆さんときたら、勝手に依頼を引き受けてしまうなんて……」


「ですからそれは私が無理やり彼女たちに……」


「だとしてもです! ハールさんたちに聞きましたよ。もしヨシュアさんが駆けつけるのが少しでも遅かったなら、今ごろ全員魔物に殺されていたかもしれないと!」



 小柄な少女の剣幕にヨシュアもアルルもただ黙って、大人しく頷いて聞いていた。ミストと初めて会うドミニクも圧倒されている様子だった。


「それにヨシュアさんもです! こんなこと言いたくありませんが、あなたは『片腕』だということをもっと自覚すべきです! たいそう自分に自信があるのかもしれませんが……」


「片腕だから信用できないと? あのな、俺はこう見えても聖騎士見習い試験でいいとこまでいったんだぞ?」


「……でも落ちたんですよね? 『惜しいところまでいったのに受からなかった』ということは、それはつまり『片腕』が原因なんじゃないんですか?」



「うっ、それは……!」




 片腕だからとバカにされたような気がしてついムキになって反論したヨシュアだったが、ヨシュアが一番気にしている部分を言われてしまっては何も言い返せない。



「まぁまぁミストちゃん。みなさんも分かってくれているようですし…… 。こうやって無事に帰ってきてくれたんですから……」



 まくしたてるように話し続けるミストを、フレイヤが止めようとする。だが、この言葉はかえって火に油を注ぐ結果となる。



「『無事に帰ってきたからよかった』ではすまないんですよ、この問題は!! 今回のケースだって、魔法文でもなんでもいいから真っ先にギルドへと報告をくれてさえいれば、誰か別の者を派遣することだってできました。もし仮に誰も予定が合わなかったとしても、ギルドから軍に頼むという方法だってとることができたんですからね!」



 なるほど、そんな方法もあったのかとヨシュアは思った。確かにここは傭兵の街とはいえ、軍の者がいないはずがない。軍人ならば夜番を担当しているものだっていたはずだ。



 その後も小一時間ほど叱られ続けたヨシュアたち。あんまりにも長いので、ジルとフレイヤは途中から通常業務に戻って他の者の対応をする中、ミストはそれでも事の重大さをヨシュアたちに説き続けた。

 ミストが言うには、特にヨシュアのような『誰かが危険だと分かると体が勝手に動いてしまうタイプ』はいくら言い聞かせても足りないぐらいだと言って、延々と同じような話を聞かされる羽目になった。

 あまりにも突き刺さる正論の数々に、最終的に三人は、心の底から「もう勝手に依頼の受け渡しはしません」と口に出して誓ったのだった。




 お叱りを受けた後、今回のお礼に何かご馳走しようとするドミニクに、そんなことはいいから早く妻と娘のもとへと帰るようにと、ドミニクを諭すヨシュアとアルル。二人の優しさに何度もお礼を言うドミニクを見送ったときには、もう十四時を過ぎていた。

 お腹を空かせていた二人は、ギルドホームに併設された酒場で遅めの昼食をとることにする。



 他の客がアルルのボロボロの服を不思議そうに見ていたが、アルルは特に気にする様子はない。

 二人は一階の空いているテーブル席に座ると、昨日出会った丸眼鏡がよく似合う小柄な女の子が接客しているのが見えた。


 ────たしかジルの話では、彼女の名前はマトといったか。



「うーん…… 疲れたぁ。お腹もぺこぺこだぁ…… 朝なんも食べてなかったしなぁ…… 」



 テーブルに座るなりアルルは店員を呼ぶ。どうやらアルルはこの店によく来るのか、マトとは知り合いのようだった。



「あっ、マトちゃん! とりあえず生ビール一つ!」



 アルルの言葉にヨシュアは思わず「えっ? お酒!?」と聞き返す。

 お酒は二十歳を過ぎてからというのは、ヨシュアがもともと住んでいたレントの村も、ここマーセナルの街も変わらないはずなのだが……



「あれ、昼間からはやっぱりおかしかったですか? なんだかんだティアちゃんも無事だったし、ちょっとぐらいいいかなーって思ったんですけど…… 」


「いや、そうじゃなくて、年齢的に……」


「私二十一歳なんで問題ないですよ?」



 アルルの一言に言葉を失うヨシュア。

 てっきり自分より二つ三つ上ぐらいで、まだ十代だと思っていた……


 ヨシュアが驚く様子を見て、アルルはヨシュアの考えを察したようだ。



「あれ、もしかしてまだ十代だと思っててくれてたんですか? もしそうだったら嬉しいことですね!」


「いや、あの…… はい、その通りです。年上だとは思っていましたが、それでもあんまり歳変わらないのかなーと」


「いやだなー。そんなに改まらなくてもいいですよ。あっ、でも私は誰に対してもこんな感じの話し方なんで、そこは気にしないで下さいね」



 アルルは全然気にしない様子で、自然な笑顔を見せる。たしかに思い返してみると、年下であるマトやティアに対してもあまり口調に変化がなかったように思う。



「でもアルルさん思ったより上の方だったし…… 」



 ヨシュアも少しぐらい年上ならあまり気にしないのだが、さすがに六つも上となると話は変わってくる。それでもアルルは気にしないでと言った。



「今まで通り”アルル”って呼び捨てにしてくれていいですよ。…… そういえばヨシュアさんは今おいくつなんですか?」


「俺は十五…… もうすぐ十六です」


「あら、それならたしかマトちゃんと同じですね。違いましたか?」



 アルルが何気なく、隣で注文を待っていたマトに尋ねると、彼女は小さく頷いた。



「そっかぁ…… 同い年の男女、いいですね! …… そうだ! 今度ヨシュアさんの誕生日にパーティ開きましょう! ということで、これからもどうぞ宜しくお願いしますね! ヨシュアさん!」



 アルルの何気ない「同い年の男女」という一言に、ヨシュアとマトはそれぞれ自分の顔が紅くなっているような気がして、とても目を合わせることができなかった。そんな二人の初々しい姿をアルルは微笑ましく見守っていた。


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