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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
入団編
22/154

リトライ


「ニア! それにライさんも! どうしてここに!?」


「ジルに頼まれたのよ。大陸近くで発生した緊急コールなのにアンタ一人で飛び出していったって」


「ジルさんに? でも、どうして…… 」


「そりゃ、アンタまだ白のカードだし、入団してただの一度も依頼をこなしていないんだから、信用無くて当たり前じゃない。だからわざわざ私たちが泊まる宿まで魔法文を飛ばして知らせてきたってわけ」




 ニアが言う<白のカード>とは、ギルドでもらえる<メンバーズカード>の色のことである。


 カードはポイントをためることでランクが上がり、同時に色も変わる。先日入団したばかりのヨシュアが持っている白色は一番下のランクであり、次にハールやケイトたちが持つ青色、ニアやライが持つ緑色、そして一番上のランクが赤色となっている。


 それぞれの色にはちゃんと由来があって、白色は枯れたマナの木の色を、青色はこの世界を潤す樹海の水の色を、緑は世界中をマナで満たす世界樹の葉の色を、そして赤は世界樹よりも高い位置にあるとされる太陽の色を表している。



 また<魔法文>とは、特別な紙を使って書かれた手紙のことである。どのあたりが特別なのかというと、紙の裏側にうっすらと魔術式が印字されており、住所を書いて魔力を込めると、魔法文がひとりでに鳥のように形どられて住所まで飛んでいくのである。

 ギルドが使う魔法文はさらに特別製で、住所ではなくメンバーズカードめがけて飛んでいくので、仮に住人が外出していたとしてもすぐに本人まで届くようになっているのだ。

 つまり今回は、ジルによって書かれた魔法文を受け取ったニアたちが、すぐに馬車に乗ってヨシュアのもとに駆けつけてくれたということである。



「まぁジルに頼まれたとはいえ、アタシはアンタ一人でも大丈夫だと思っていたし、実際そうなってたわけだけどね」


「いや、かなり助かったよ」



 ヨシュアの「助かった」の一言に不思議そうな表情を浮かべるニア。


 一方のアルルは突然現れたヨシュアの知り合いと思われる二人組にはじめ興味を持っていなかった。病気に苦しむティアのことを想うと他人の知り合いなんて今はどうでもいいからだ。

 だが二人の会話を聞いて、ニアとライが傭兵だと知ると、アルルはいてもたってもいられずヨシュアに尋ねる。



「ヨシュアさん、もしかして…… !」


「ああ。希望が見えてきた! さあ急いで準備をしよう」








 ハールとケイトの二人にボートの準備をしてもらっている間に、ヨシュアとアルルは来たばかりのニアたちに事情を話し始める。

 話を聞き終えるとニアは二人に言った。



「ふーん。なるほどね…… 。いいわ。協力してあげる」


「いいんですか!? ヨシュアさんもそうなんですけど、もっとこう色々と……」



 ニアが即決したことにアルルは少し驚く。危険な場所への依頼なのだから、報酬面など色々と聞かれると思っていたからだ。

 アルルは疑問をそのまま尋ねるが、ニアはそれに笑って答える。



「報酬? ああ、いいのいいの。確かにそういうの大事だけど、今回は特別。……ヨシュアには昨日借りがあるから、早めにきちんと返しておきたいの。だからお礼を言うならヨシュアに言って」


「別に気にしなくてもいいんだけど……そういうことなら有難く頼らせてもらう」



 ニアの言葉に後ろに立つライも静かに頷く。

 ヨシュアとしては借りなんか作った覚えはないが、この状況でニアたちの力を借りれるのは非常に大きい。アルルは何度も何度もヨシュアたちに頭を下げた。




 ハールとケイトがボートの動力源となる<魔法結晶マナクリスタル>を再び持ち主から借りてきてくれた。(二度目ということもあってかなり嫌そうな顔をされたらしい)


 ハールから『魔法結晶マナクリスタル』を受け取ったヨシュアは二人に言う。



「ありがとうございます、ハールさん。それで二人には、あの……」


「わかっています。ここで待ちます。…… 悔しいけど、俺たちじゃ力不足で足手まといになるのは目に見えているから。だからこんなこと言うのもあれなんですけど、アルルさんのこと、よろしくお願いします」


「任せてください。必ず無事に戻ります」




 そうして一行は再びコルト諸島を目指す。


 ライに操縦を任せボートに乗って出発する四人の、すでに小さくなった姿を見ながら、ハールは隣に立ち黙ってボートを見送るケイトに向かってポツリとつぶやく。



「俺たちほんとダサいな」


「ほんと、何しに来たんだろうね」


「もっと強くなりたいな」


「うん。それに魔物のこともっと知らなくちゃいけない」



 二人はまだ青のカード持ちになったばかりの新米なのだから、今回の結果は仕方がないものがある。けれど、それでも二人の胸の内にはアルルの力になり切れなかった悔しさが広がっていた。







 再びコルト諸島を目指すアルルはボートに乗ってからというものの、じっと遠くに浮かぶ目的の島が見えてくる前から、島がある方角を見つめたまま静かに座っていた。緊張した面持ちのその姿にヨシュアは心配になる。



「あんまり今から気負い過ぎない方がいいよ。そんなに拳を握りしめてると肝心なときに動かないんじゃないか?」



 ヨシュアはアルルの膝の上に置かれた、固く握られ赤くなっている両手を見て言う。その手は先ほどの探索で泥まみれの傷だらけになっていた。

 アルル本人はヨシュアに指摘されるまで気づいていなかった様子で、彼女は少し恥ずかしそうに笑った。




 程なくして、いよいよコルト諸島が近くに見えてきた。

 アルルの案内で先ほど見つけた島の裏側までボートを回す。

 ヨシュアは三人の顔を見ながら最終確認を行う。



「それじゃあ確認だけど、これからの目的は<シラツユグサ>の入手。場所は分かっているが魔物の存在も多数確認されている。俺たち三人の役目は魔物からアルルを護衛すること。基本は見つからないように慎重に行動するが、もし戦いになったら俺がアルルを守るから、二人は囲まれないように魔物の数を減らしてくれ。それからもし<巨大な両腕の大熊ジャイアントアームグリズリー>のような大型の魔物が現れたら俺が引き付けるから、その時はアルルのことを頼む」


「わかったわ。……けど、ほんとに大型の魔物が現れた時アンタ一人に任せてもいいの? …… そりゃ昨日の戦いでアンタが凄い奴だとは知ってるけど、アタシ達海賊相手の水中戦しか見てないし、やっぱり片腕だと大変なんじゃない?」


「実際に戦っているのを見て、もし俺が苦戦していたら、その時は助けてくれ」


「ああ、なるほどね。りょーかい。けど、やけに素直じゃん」


「俺は『片腕』だから、できないことは仲間にお願いしないと生きていけないからな。だからニア、もしもの時は頼んだ」



 ヨシュアはそういって笑うが、一瞬だけ浮かべた険しい表情をニアは見逃さなかった。ニアは片腕でありながら聖騎士を目指すヨシュアの葛藤を垣間見た気がした。


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