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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
入団編
14/154

海賊と空飛ぶヨシュア

 ずっと遠くで何かが起きている。ヨシュアは<五感強化センスブースト>を使って視力を強化し、視線の先で何が起きているか確かめる。


 ここからおよそ五百メートルほど先の道の上、ヨシュアの目に映るのは馬車を襲う海賊たち。

 長い黒髪の女と背の高い男の二人が、それぞれ槍と両手の短剣で応戦してはいるが、海賊たちは五人。数の上で明らかに負けている。ヨシュアが見た時にはちょうど何か荷物が奪われているところだった。

 ヨシュアはスピードを上げ、急ぎ戦いの現場へと走り出す。







 時は少しだけ遡り、馬車が襲われる少し前。


 馬車に乗る二十三歳の青年ヤナフはアーセナルの職人だ。

 ヤナフは銀細工によるアクセサリーを作って生計を立てており、今回も注文をうけて作ったアクセサリーを隣の島であるアリストメイアに届け、代金を受け取ってマーセナルにまで戻る道中だった。



 最近この環状根の長く狭い道の上で海賊行為が横行していると聞く。騎士も警戒して巡回しているが、圧倒的に人数が足りていないのが現状らしい。

 そのためヤナフはマーセナルの傭兵ギルドに相談して、二人の護衛を雇っていた。



 一人はニアという槍使いの少女で、ヤナフよりずっと若そうに見える。深みのある赤ワインのような色のマントに、艶のある長い黒髪を紅い髪飾りでひとくくりに束ねているのが印象的だ。

 身長はそれほど高くないし言葉遣いもくだけた感じだが、凛とした顔立ちや振る舞い、それに派手さは無いが身なりの良さから、どことなく貴族のようなオーラを感じる。


 もう一人はライという男性で、歳はヤナフより少し上に見える。手には弓を、腰のあたりには短剣を携えている。黒髪短髪で身長も高く、少し目つきは悪いが、非常に落ち着いていて頼りになりそうだ。

 どうもライはニアの付き人のようで、ニアのことを一度『お嬢様』と呼んでニアに怒られていた。どういう関係か聞いてみたかったが、詮索してはいけない雰囲気を感じたので止めておくことにした。




 ────事件が起きたのは正午を少し過ぎたころだった。


 途中、休憩所に立ち寄りながら順調に進んでいくヤナフ達。

 向かいに座るライは寡黙でそれほど口数は多くないが、隣に座るニアは意外と話しやすく、ヤナフの仕事に興味を持ってくれたおかげで馬車の車内の雰囲気は悪くなかった。時折話に入ってくる運転手のおじさんも気さくな方でよかった。



 そうして和やかに進んでいた時、ちょうどアリストメイアとマーセナルの中間地点辺りで、いきなり現れた海賊に襲われた。

 初めに異変に気が付いたのはニアだった。何もいなかったはずのところから突如として現れた海賊たちに囲まれてしまった。


(こんな見晴らしのいい場所で、いったいどこに潜んでいたんだ!?)



 ニアがすぐさま外に出て長い槍を華麗に操り応戦する。ライも両手に短剣を持って戦っていた。

 ヤナフは馬車の中でお金が入ったカバンを大事に抱える。ようやく軌道に乗ってきたアクセサリー業も、元手を失えば続けられない。このお金だけは絶対に守り通さなければ……!



 しかし現実は残酷だ。


 さすがに二人で五人の海賊は抑えきれない。

 ましてヤナフと運転手を守りながらだ。


 自由に動けないニアとライの弱みに付け込み海賊は揺さぶりをかける。そうしてできた二人の隙をつき、海賊の一人が馬車に乗り込んできた。

 絶対にお金だけは守り抜こうとするヤナフをあざ笑うかのように、海賊はヤナフの顔面に拳を見舞う! そうして報酬の入った鞄をあっけなく奪われてしまったのだった。



 鞄を奪った海賊は、もともと用意してあったと思われる別の袋に鞄ごと無理やり押し込めて、仲間に合図を送る。

 いつのまにか海上には、大型のボートを用意して待機する海賊の仲間がいた。その海賊は袋に取り付けたワイヤーを巻き取る。

 実は海上のボートと用意されていた袋は一本のワイヤーで繋がっていたのだ。

 ヤナフのお金が入った袋はワイヤーに引っ張られ、環状根の道の上からおよそ五メートル下の海面に落下する。



 用意された袋は耐水性に優れ、海に落ちても中の品物が濡れることは無い。そうして見事な手口でヤナフのお金を奪うと、海賊たちは素早く海に飛び込み逃げていった。

 ここまで二分足らずの早業だった。


 海に飛び込みボートに乗り込もうとする海賊たちを見て、ニアがライに向かって叫ぶ。



「ライ! あいつらを射殺せ!!」


「……! すみません、ニア様! 弓が……!」



 ニアの言葉に応じすぐに馬車に弓を取りに行ったライだったが、海賊の方が一枚上手だった。

 ヤナフから金を奪った盗賊は、馬車に乗り込んだ時に弓を見つけていた。これで狙われては厄介だと思った海賊は、矢をひっかけるつるの部分を斬って、矢を放てないように細工してあったのだ。



「ちくしょう! アイツら……!」



 ボートまで泳いでいく海賊を見ながら、ニアは何もできなかった悔しさに唇を噛みしめる。

 このまま海に飛び込んでも到底勝ち目など無い。追う手段が無いニアたちはまんまとお金を取られてしまったのだ。

 幸い運転手も雇い主のヤナフも無事だが、これでは……!



 ────そんな時だった。



「ちょっとこれ持ってて!!」



 いきなり現れたその男は持っていた小さな鞄をニアに押し付けると、助走をつけた後に一気に駆け出して、猛スピードでボートへ向かって男は跳んだのだった。



「無茶よ!!」



 ニアが叫んだ時には手遅れで、もう男は海に向かってダイブしていた。








 荷物を女に預け、海賊のボート目掛け助走をつけて跳んだヨシュア。

 さすがにいくら<身体強化フィジカルブースト>付きの助走をつけても跳んでも、直線距離で五十メートルほど離れたボートまでは遠く届かない。


 そこでヨシュアは左手に装備してあったマジックワイヤーを射出。先端を鉤爪型の<クローショット>でボートの後方に取り付けると、緑に光る魔法のワイヤーを巻き取るようにしてボートへと急接近していく…… !



 海賊たちは全員ボートに乗り込み、成功を喜んでいた。

 あとはワイヤーを巻き取り金を回収してボートを発進させるだけ……


 ヨシュアが跳び込んできたのはそんな時だった。


 ボート後方にワイヤーが引っかかる音が聞こえた。視線を空に移すと、知らない誰かが緑に光るワイヤーを手繰り寄せながらこっちに向かってくる。

 いち早くそれに気が付いた海賊のリーダーであるオーズは、咄嗟にボートにおいてあった弓と矢を手に取り、ヨシュアに向けて矢を放つ!


(不味い…… !!)


 弓を向けられたヨシュアはワイヤーを解除して盾を構える。


 慌てて放たれた矢の軌道は正直褒められたものでは無い。

 だが、片腕しかないヨシュアを牽制するには十分だった。

 

 実際は、放たれた矢はヨシュアの右に逸れていったが、ワイヤーを解除してしまったヨシュアは推進力を失い、ボートよりずっと手前の海面に、大きな水しぶきを上げながら落下した。ヨシュアに両手があれば盾とマジックワイヤーが両立できたので、もっとうまく接近できたのだが……



 海に落ちたヨシュアを見て、オーズはもう一度矢を構える。海面から顔を出してきたならば確実に射殺してやろうと思ったからだ。



 だが、いくら待てどもヨシュアは一向に海面に現れない。海賊の仲間の一人が言う。



「上がってこないな。もう死んだんじゃないのか?」


「いや……もう少し……」



 オーズは弓を構えたまま動かない。すると海面に浮かび上がってくるものがあった。

 よく見るとそれはヨシュアが持っていた盾だった。



「なんだ。やっぱり死んだんじゃないか? なあ、お宝回収してもうボートを出してしまおうぜ」


「…… そうだな。騎士たちが追ってきても厄介だしな」



 オーズは構えを解くと、操縦席にいた仲間に出発の合図を送る。奪った鞄に取り付けられたワイヤーを巻き取りつつ、ゆっくりと進み出すボート。



 追ってきたのが誰かは知らないが拍子抜けだったなと、海賊たちが警戒を解いたその時だった。水中から何かが飛び出してくる水しぶきの音と、ほぼ同時にボートの側面に何かがひっかる音が聞こえる。


(…… これは、さっきの!?)


 オーズが気付いた時にはすべてが遅かった。ボートの行く手を先回りしつつ、水中から秘かに近づいたヨシュアは、海賊たちが乗るボートの左側面まで来ると、マジックワイヤーをボートの左側面に引っ掛け、巻き取りながら海の底へと思いっきり引っ張る!!



 不意に傾いたボートの上で海賊たちはバランスを崩して盛大に転ぶ。転んだ海賊たちは海に落ちまいと必死にボートにしがみつくが、海賊たち全員が左に寄ったことで、ボートの重心が左側に大きく傾いてしまう。

 海賊たちはヨシュアの狙いに気がつき、慌てて体勢を立て直そうと思うも、一度傾いたボートを立て直すのは容易では無かった。そして、そのままボートは転覆してしまった!!




 水中に投げ出された海賊たちは、慌てて海面に顔を出す。



「う、ぷ、…… はーっ! はぁ…… はぁ…… あいつは…… あいつはどこ行った!!」



 オーズは息も絶え絶えになりながらもヨシュアの行方を追う。

 だがヨシュアは男たちに見つからないよう潜水で一気にボートから離れ、そのままずっと離れたところに顔を出した。

 ヨシュアはあえて海賊たちに左手を大きく振ってみせる。そして左手に短剣を握ると、奪った金とボートを結ぶワイヤーをたった一振りで切断しみせた。



 ヨシュアはそのまま海に浮かぶ盾を回収すると、奪われた荷物と共に泳いでその場から離れる。

 追いつけないことを悟ったオーズは、あたりを見渡して海面に浮かぶ弓と矢を見つけると、素早く構えて矢を放つ。が、水中から、しかも濡れて重くなった矢ではまるで届かなかった。

 他の海賊たちも両腕に取り付けたマジックワイヤーで荷物を狙うが、これもまったく当たる気配がなかった。これがレオナルドのようなマジックワイヤーの名人だったなら、荷物を取り返せていたかもしれないが。




 ヨシュアは荷物を自分の左手のワイヤーと結び引っ張りながら、もといた環状根の下まで戻っていく。荷物を引っ張りながらとはいえ、<身体強化フィジカルブースト>と鍛え上げた脚力のおかげで、海賊たちより泳ぎはずっと速い。

 ヨシュアはみるみる海賊たちを引き離すと、そびえ立つ環状根の下まで泳いできた。

 見上げると先ほど荷物を預けた槍使いの女がこちらを覗き込んでいる。



 ヨシュアはマジックワイヤーを一気に一番上まで伸ばすと、ワイヤーと両足で高さ5mはある環状根の絶壁を軽快に登る。人工的に作られた壁と違って、真っ白な環状根の側面には凹凸があるので登りやすかった。

 登り終えたヨシュアはそこにいた人たちに尋ねる。



「荷物も引き上げます?」


「あ…… えっと、お願いできる?」



 ヨシュアは女の頼みに答えると、マジックワイヤーと荷物を<ポイントショット>で結びワイヤーを巻き取るようにして引き上げる。

 その様子を見ながら女はヨシュアが片腕であることに初めて気が付く。



(なんなの、こいつ? 片腕なのに、すごく強い。服ももう乾いてるし、脚力も尋常じゃない。きっと魔法が使えるんだ。こいつ、もしかして聖騎士!?)



 そんな女の視線に気が付いたヨシュア。ふと二人の目があう。



 これがヨシュアとニアの出会いだった。


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