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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
138/154

ミス・トルマリンコンテスト

 熱狂と共に開幕した豊穣祭は、早くも二日目に差し掛かった。

 今日のメインイベントは「宝石屋トルマリン」が主催するミスコンテストだ。各地域よりエントリーした九人の女性が、ステージ上で己の美を競い合うのである。ヨシュアは、依頼主であるソーニャのパートナーとして、ステージ裏で待機していた。


 コンテストの開始まで、あと二十分。

 ソーニャたち参加者は今、ステージ近くの控室にいる。ステージ裏のヨシュアからでもよく見える、簡素な小屋だ。そこでステージ開始直前まで、ドレスや化粧で着飾りながら、静かにその時を待っているのだ。

 そして、その時はもう間もなくやって来る。



 裏側からではステージの様子は見えないが、司会の声は良く聞こえる。だから今ステージで何が行われているかもわかる。今はちょうど、大食いコンテストの優勝者にインタビューしているところだ。


 スタッフの一人が「そろそろ候補者の皆さんにスタンバイしてもらって下さい」と言った。若そうな女性が控室へ走っていく。

 その走る姿を見て、いよいよか、と思うと、ヨシュアは自分が出場するわけでも無いのに、妙に緊張してきた。何とも落ち着かないのである。

 

 

 控室の扉が開く。

 狭い小屋の中から、青空の下へ。

 その姿を一目見て、ヨシュアは息を呑む。



 ────綺麗だ。



 なんて美しいのだろう。

 煌びやかなドレスを身に纏った候補者たちは、緊張した面持ちながらも前をしっかりと見据え、それぞれの思いを胸に舞台袖へと向かってゆく。ステージ裏は一気に緊張感に包まれた。 

 

 そんな中で、ヨシュアの瞳にフレイヤとリコッタの姿が映った。フレイヤはライトグリーンのドレスを、リコッタはレモンイエローのドレスを纏っている。二人はお互いの緊張をほぐし合うかのように、笑顔で言葉を交わしている。

 普段見かける姿とあまりにも雰囲気が違って、ヨシュアは二人から目を逸らすことができなかった。


 そんなヨシュアの視線にリコッタが気付いた。



「あ、ヨシュア…… えっと、どうかな…… ? 似合ってる、かな?」


「うん。初めて君のことを綺麗だと思った」


「ちょっと! 初めてってどういう意味よ!?」



 リコッタが頬を膨らませる。

 いつもより大人びて見えたリコッタだけど、中身はそのままの彼女だった。



「緊張してる?」


「うん、まぁ…… 」


「自信持っていいと思うよ。だから楽しんで来て!」


「そう…… だね。うん、そうする。楽しんでくる!」



 そうして、手を振ってリコッタとフレイヤを見送ったあと、ヨシュアは自分の依頼主であるソーニャの下へと向かった。

 情熱のバラの色である深紅のドレスに身を包んだソーニャは、高まる緊張感の中で、他の候補者たちと距離を取り、一人静かに始まりの時を待っていた。その姿は気高く、誇り高い。



「あら、ヨシュア」


「お疲れ様です、ソーニャさん」


「『お疲れ様』って、まだ何も始まってないじゃない」



 ソーニャは口元に僅かに笑みを浮かべた。

 でも、笑顔を見せたのはほんの少しだけ。張り詰めた空気はそのままだ。緊張している訳では無さそうだが、大丈夫だろうか?



「どんな気分ですか?」


「悪くないわ」


「プレッシャーは感じてますか?」


「もちろん。でも、それを含めて今日は楽しめそう。冷静を保とうとは思っているけど、どうにも興奮が抑えられないわ。あぁ、早く始まらないかしら」



 なるほど。妙に静かだと思ったけれど、そういう事だったのか。



「どうかしら? 勝てると思う」


「勝ちますよ。なにせ、他の候補者と比べてもオーラが圧倒的です。異彩を放っているといってもいい。戦わずしてソーニャさんの勝ちです」


「あら、べた褒めね。嬉しいことだわ」



 他の候補者たちも美人揃いだとは思う。けれど、妖艶な笑みを浮かべるソーニャを前にすると、どうしても見劣りしてしまう。観客の前で一列に並べば、ソーニャの美しさはより際立つことだろう。

 そんなソーニャに対抗できるとすれば、それは彼女と対極に位置する「あの人」しかいない。



「ねぇ、ヨシュア。フレイヤの姿はもう見た?」


「はい。とても素敵でした。さすがは一昨年優勝しただけある」



 ソーニャが燃えるような情熱で人々を魅了するならば、フレイヤは観客を優しく包み込む聖母のような魅力がある。目立つタイプでは無いが、いつの間にか心を奪われていた、なんて人も多いのだろう。



「でも、優勝はソーニャさんだと思います」


「ありがと。私も、私が優勝するって信じてるわ」



 候補者たちが呼ばれた。

 いよいよコンテストの始まりだ。







 ヨシュアはコンテストの行方を、ステージの斜め後ろ、舞台袖という特等席から見守っていた。スタッフが気を利かせてくれたのである。というより、スタッフもまたミスコンテストを見届けたいという思いからか、ヨシュアと一緒になってステージを見ていた。気になって仕方が無いといった様子だ。


 コンテストの流れは


「ランウェイ」

「自己紹介」

「特技披露」


 と続く。

 特技披露は、候補者それぞれが自分の強みを披露する場で、個性があって面白い。

 リコッタは「剣舞」を、フレイヤは「歌」を、そしてソーニャは「タップダンス」をそれぞれ披露した。候補者たちが自慢の特技を披露するたびに、観客席からは絶えず歓声の声が上がっていた。特にリコッタの剣舞は、剣の腕前に期待していなかった分、衝撃を受けたし、観客席も大いに盛り上がっていた。



 それでもやはり、今日一番の歓声はソーニャに送られたものだった。


 ソーニャが登場するだけで歓声が上がった。

 期待の眼差しがステージ上のソーニャに注がれている。普通なら緊張してもおかしくない場面だが、ソーニャは自信に満ちた表情をしていた。期待されればされるほど、ソーニャは輝くのである。


 そして始まるタップダンス。

 タップダンスとは「タップス」と呼ばれる金属板を、靴底の爪先とかかとにつけて床を踏み鳴らしながらリズミカルに踊るダンスのことだ。独特なステップを踏むダンスの動きに加え、心躍る音が魂を揺さぶるのである。ソーニャのタップダンスもまた、観客一人一人の心に火を付けていた。


 練習に付き合っていたこともあって、ソーニャの踊りは幾度となく見てきたが、今日は一段と気合が入っている。それに良い表情だ。ステージの舞台袖ではなく、観客席に座ってじっくりと見たかった。



 全員の特技披露が終わると、最後にもう一度、参加者全員にPRタイムが与えられ、そのあと投票の時間となった。ミスコンテストに審査員はおらず、一般投票だけで優勝者が決まる。投票箱には術式による便利な仕掛けがあるらしく、五分もあればすぐにでも結果が出るらしい。


 話に聞いていた通り、二人の司会者が適当にその場を繋いでいる間に、早くも投票結果が出たようだ。毎年優勝者の名前だけが読み上げられるということで、今年も一位のみの発表らしい。

 


「それでは発表に移ります。第十回、ミス・トルマリンコンテストの栄えある優勝は…… 」



 会場が静まり返る。

 優勝の行方を、ヨシュアも、観客も、その場にいた誰もが固唾を呑んで見守っていた。

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