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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
117/154

世界で一番危険な場所

 ────世界樹。


 それは世界の理であり、この世界に生きるもの全てに恩恵を与える、神にも等しい絶対的な存在である。幹の太さは直径で十三キロメートルにも及び、天候さえ良ければ、環状列島のどこからでもその姿を拝むことが出来る。



 魔素。それは世界樹が生み出す特別なエネルギーだ。その魔素は、環状列島に住む生物に多大な影響を与えている。そして世界樹近くで暮らす生き物ほど、受ける影響は大きくなる。


 世界樹のあるエルベール大陸に生息する魔物は、どれも危険な生き物ばかりだ。他の島の生物たちと比べて巨大で、強靭で、そしてずっと進化している。知能も驚くほどに発達している。人間如きが束になったところで、エルベール大陸の魔物にはとても敵わない。




 ヨシュアたちが来てしまったのは、まさにそんな島だった。絶体絶命。ボートも無ければ、脱出する方法も無い。



「…… 俺たち、どうやってきたんだ」



 覚えていることといえば、魔法陣の放つ光が紫色に変わったことぐらい。そして眩い光に視界が覆われたかと思えば、気付いたら此処にいた。何かしら原因はあったのだろうが、それが何なのかは見当もつかない。


 ふと気になって、ヨシュアは足元を見た。



 ────これ、魔法陣か?



 ヨシュアたちが立つ地面には魔法陣らしきものが浮かび上がっている。黒い土なのに、やけにハッキリと模様が刻まれている。石膏で塗り固められたみたいに、その模様の周囲の土は固く、ちょっとやそっとじゃ崩れそうにない。


 その一方で、辺りを見渡しても燭台は見当たらない。魔法陣とセットで存在すると思っていたが、違うのだろうか。長い年月の間に失われてしまったのか、あるいは遺跡の魔法陣と用途が違うのか。



 腕の中のアルルは震えていた。初めて見る怯えきった姿に、ヨシュアは胸が熱くなる。



 ────俺がしっかりしなければ。



「大丈夫、とはさすがに言えないけれど、でも、何とかしてみせるから」


「ヨシュアさん…… 」



 潤んだ瞳が此方を覗く。ヨシュアは感情に任せてアルルを抱き寄せる。



「きっと異変に気付いてジークさんたちが助けに来てくれる。だから、それまで二人で生き残ろう」


「…… はい」







 紫色の光が魔法陣に浮かび上がった。そしてそれは輝く光の柱となって、二人を覆い隠してしまう。



「…… 少年!」



 魔法陣の外側にいたジークは叫んでいた。

 何かが起ころうとしている。自分の力が及ばぬ領域で、若い二人が何か良からぬことに巻き込まれようとしている。



「少年! 返事しろ!」



 ジークはもう一度叫んだ。仲間を失う事は、ジークにとって何より耐えがたい事だった。そしてまさに今、自分の手の内から仲間の命が零れ落ちようとしている。何故かは分からないが、確かにそんな気がした。言いようの無い恐怖が胸の内を支配していた。



 やがて光が消えた。

 同時に二人の姿も消えた。跡形も無く、まるで初めからそこにいなかったかのように。ジークを始め、そこにいた全員が言葉を失っていた。



「…… 見てっ!」



 突然、ニアが遠くを指さしながら叫んだ。ジークはその指の先を見た。

 …… 光だ。一筋の光が遠く向こう、世界樹の真横から空に向かって伸びている。そしてその光の色は、今しがた目撃した紫色によく似ていた。



「まさか…… 」



 そんな訳が無い。だが、見たままを信じるなら、そういう事になってしまう。



「ジーク!」



 ニアが叫んだ。続く言葉は聞かなくても分かる。



「分かってる! 分かっているが…… !」



 この戦力で助けに行けるのか? あの光は世界樹からかなり近い場所で見られた。つまり、かなり奥地まで踏み込まないといけない。たった四人で、しかもハロルドを守りながらだ。



「一度戻ろう」


「ジーク!?」



 ニアがたじろぐ。



「ちょっ、アンタ、自分が何を言っているのか分かっているの!?」


「分かっていないのはキミの方だ。このままエルベール大陸に乗り込んでも返り討ちだ」


「だからってヨシュアを見捨てるの!?」


「見捨てるものか! 必ず救出する。その為にも今は冷静になる必要がある」


「ヨシュアたちに必要なのは時間だ!」



 ニアが食って掛かる。



「ヨシュアたちは船がなくちゃ帰れないんだよ!? それなのに遠ざかるなんて、そんな馬鹿な話があるわけない!!」


「船だけあっても、捜索隊が組めないのでは意味が無いだろう!?」


「だけど…… !」



 ニアが言葉を詰まらせる。焦りから生じる苛立ちを何処にもぶつけることが出来ず、憤りを感じているようだった。

 だがそれはジークも同じだ。



「頼む。此処はボクに従ってくれ」



 ジークはニアに頭を下げた。それしか出来ることが無かった。



「アンタは卑怯だ…… !」



 震える声でニアはそう言った。だが、それ以上は何も言わなかった。


 そうしてジークたちは、世界樹に背中を向けるようにしてデゼル島を後にすることになった。必ず助ける、そう心に誓った。

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