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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
116/154

遺跡の魔法陣

 小さな建物の群れを抜けて、ようやく辿り着いた遺跡中央。目の前には聳え立つ大きな建築物の入り口が広がっている。目指す頂上まで辿り着くには、幾つか階段を上る必要が有るそうだ。


 さてさて、それじゃあ入ろうか、とジークが皆に向けて言った。



「洞窟内に魔物がいないとも限らないからね。注意していこう」



 ジークの言葉を受け、ヨシュアたちは此処まで来た時と同様に隊列を組みなおす。


 遺跡内部は真っ暗で、少しひんやりとしていた。ヨシュアやアルルの魔法で先を照らしながら、ゆっくりと進んでいく。魔物の気配は感じないが、それでも緊張はする。皆の口数も少ない。


 壁は他の遺跡ほど風化してはいなかった。そして、遺跡の壁には古代文字と思われる紋様が所々に描かれていた。だが、やはり何について書かれているのかさっぱり分からない。ジークも、アルルも、ハロルドも、皆理解できていないようだった。



 通路を歩き、途中に見つけたいくつかの小部屋を見て回り、そして階段を上る。上のフロアでもまた同じように小部屋を見て回りながら階段を探す。頂上までその繰り返しである。



 此処に人が住んでいたのかどうかは、やはり良く分からない。石で造られた机や椅子、それに棚らしきものはあるが、それ以外には不自然なほどに何も無い。四百年も前だから残っていないのか、それとも誰かが持ち去ったのか。持ち去ったのなら、それは何処に保管されているのだろう。あるいは、ハロルドが言うように消されてしまったのだろうか。考えてもよく分からない。

 


「────光だ」



 何度目かの階段を上ると、折り返した先に上から注ぐ光が見えた。どうやら登り切った先は頂上のようである。

 階段を上ると、そこは予想通り外と繋がっていた。見渡す限りの青空と、それから遠く向こうに世界樹も見える。埃っぽい石室を通ってきたこともあって、空気がやたらと美味い。


 ようやく此処まで来たが、この頂上にいったい何があるのだろう?

 

 視線の先にはもう少しだけ、十段ほどの階段があって、その上に小さなドーム状の空間が確認できる。十メートル四方の空間に、四本の円柱と屋根が取り付けられた祭壇のような場所だ。ジークに促されるがままに、ヨシュアたちはその場所へと歩みを進める。



「…… 何だこれ?」



 ヨシュアは思わず声を漏らした。

 ヨシュアが目にしたのは、床一面に広がる一つの巨大な魔法陣。円形の魔法陣には、何やら細かな古代文字が所狭しと書き込まれている。それは幾何学模様きかがくもようを思わせる、一切の無駄の無い魔法陣であり、その美しさは何の知識も無いヨシュアでさえ、何らかの力や神秘性を感じるほどだった。


 ヨシュアの隣でニアが同じように立ち尽くしている。



「うわ、これは凄いね。正直遺跡とかには興味が無いけど、この模様にはちょっと圧倒される」



 うん、俺も。とヨシュアは言った。もちろん、アルルには聞こえないぐらいの小さな声で。



「何に使われてたんだろう? やっぱり儀式とかかな」


「何の儀式?」


「さあ、それはアタシには分かんないよ。言ってみただけだし。でもまあ、もしかしたら、あの世界樹に祈りでも捧げてたのかもね。ほら、ヨシュアには馴染みないかもしれないけど、エテルマギアの人々は毎日のように世界樹に祈ってるからさ」



 ニアは斜め前に見える世界樹を指さしながら言った。

 ニアは今でこそ此処にいるが、元々はエテルマギアの人間だ。宗教国家であり、世界樹攻略に最も力を入れている国でもある。


 ────神に祈りを捧げる一方で、神へ近づこうと世界樹攻略に乗り出す。

 矛盾した考えだと思ってしまうのは自分だけだろうか。アリストメイアで暮らしていると、その辺りの感覚がよく分からない。

 


 ハロルドが魔法陣に近づき膝をつくと、その模様に指で触れた。

 


「ああ、懐かしい。昔と少しも変わっていない。素晴らしい魔法陣じゃよ、まったく」



 ハロルドの言葉を聞いて、ふとヨシュアは思う。

 此処が本当に四百年前に建築されたとして、どうしてこれほどハッキリと模様が残っているのだろう? この魔法陣には少しも風化したあとが無い。やはり、何か神秘的な力で守られているのだろうか。

 

 

「確か起動するには燭台に火を灯すのでしたよね」



 とジークが尋ねる。



「ああ、そうじゃ。それも普通の火ではなく、魔法の火。淡く緑に揺れる炎じゃよ」



 言われるまで気づかなかったが、空間の四隅にある円柱には窪みのようなものが見える。その窪みはよく見ると燭台のようでもある。


 というか、起動って何だ?

 炎を灯すと何か起きるのか?


 疑問を抱えつつも、ヨシュアはアルルと手分けして燭台に深緑色の炎を灯す。

 すると…… 



「凄い。起動した…… 」



 またしても自然と漏れ出る感嘆の声。

 燭台に炎を灯すと、それに応じるかのように魔法陣が光ったのである。それは模様に沿って、炎と同じ淡い緑色をしていた。


 今から何が起きるのだろう。胸の辺りが妙にざわつく。もしかしたらとんでもない出来事に立ち会っているんじゃないか、という気がしてくる。いけないことをしているような不安がよぎる。



「ねぇ、これ、今から何が起きるの?」



 ニアが落ち着かない様子でジークに尋ねた。



「残念ながら何も起こらない」


「はい?」


「起動はできる。だがそれだけ。それ以上は何も起こらないのだよ。もちろん本来は何か用途があったのだろうが、その用途とは何なのか、記録は何一つ残されてはいない」



 ふーん、あ、そう、とニアは気の抜けた返事をした。

 でも、気持ちは分かる。ヨシュアも同じように、期待が萎んでいくのを胸の内に感じていたからだ。


 その一方で、ハロルドは淡く輝く魔法陣の模様を指でなぞっている。それも、とても愛おしそうに。

 そんなハロルドにアルルが尋ねる。



「あの、私も触れてみていいですか!?」


「おお、勿論じゃよ。さあ、こっちに来て指でなぞってごらん」



 手招きを受け、アルルはハロルドと同じようにしゃがみ込むと、指でそっと魔法陣に触れた。



「わぁ、ちょっと温かい。ほんのりとですけど、温かみを感じます」


「そうなんじゃよ。優しい温かさじゃろ?」


「はい、そう思います。あの、ハロルドさんは以前此処に来た時も、魔法陣を起動してみたんですか?」


「ああ。その時も何も起こらんかったが、こうして指で触れ、さらには寝転がってみたもんじゃ」


「そうなんですね! 何だか楽しそう!」



 二人はずっと以前から友達だったかのように笑いあっている。きっと、二人の間に歳の差なんて関係ないのだろう。気の合う仲間との会話を楽しんでいるみたいだ。



 ご老人! とジークがハロルドを呼んだ。「この後の予定ですが…… 」

 ジークに呼ばれてハロルドは立ち上がると、そのまま魔法陣を後にする。ヨシュアは、ハロルドと入れ替わるようにアルルの隣に腰を下ろした。



「ホントだ。確かにあったかいね」



 ヨシュアはうっすらと光る魔法陣に手をかざしながら言った。



「神秘的ですよね。ハロルドさんに習って、このまま寝転がっちゃおうかな」


「アルルならそう言うと思った」



 そう言うと、アルルは無邪気に笑った。悪戯がバレた子供のような笑みだ。



 それでは失礼します、と誰に言うでもなく独り言のように呟いて、アルルは魔法陣の上にうつ伏せに寝転んだ。

 突然、異変が起きたのは、まさにその時だった。



 魔法陣の放つ色が変わった。

 淡い緑から、淡い紫色へ。

 かと思うと、その光は段々と強く成ってくる。



「────アルル!」



 ヨシュアはアルルに手を伸ばした。

 訳が分からないが、この上にいてはいけない気がした。


 アルルの手を握り、抱き寄せ、その場を離れようとした。

 それなのに…… 



「あれ? え、なんだ?」



 どこだよ、此処は。


 目の前の景色が変わった。同時に、周りの空気も重苦しいものに変わった。

 遺跡にいたはずが、いつの間にか背の高い木々に囲まれている。まるで鬱蒼うっそうと生い茂る森の中に放り込まれてしまったかのよう。葉っぱは緑色が濃すぎて、もはや黒色に近い。



「よ、ヨシュアさん、あれ…… 」



 目を大きく見開いたアルルが、震える手でヨシュアの後ろを指さす。

 振り返ってみると、ヨシュアの目に飛び込んできたのは見上げるほどに大きな木。いや、それはもはや壁である。しかもそのテッペンは雲よりも上だ。



「まさか、世界樹…… ?」



 そんな馬鹿な、という思いと、それ以外ありえない、という思い。

 その木は、他と間違えようがない、圧倒的なスケールを持った大木。世界樹と呼ばれる御神木である。それがたった数キロ先に見えるのだ。


 それはつまり、エルベール大陸に来てしまったということ。デゼル島から、どういう訳か空間を跳躍し、この世界で最も危険だと言われる大陸に足を踏み入れてしまったということ。



「ど、どうしましょう、ヨシュアさん…… 」



 アルルが腕の中で震えている。とんでもない事が起きたと、言いようの無い恐怖を感じているのだ。それは彼女の好奇心すらも鳴りを潜めるほどの不安と恐れをアルルにもたらしていた。


 大丈夫だ、という短い言葉が、どうしても口から出てこなかった。

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