自由騎士
「なんでそんな浮かない顔してんの?」
「そんなこと無いよ」
尋ねたのはニア。久々に会えたことを喜びたい気持ちはヨシュアにもある。けれど今はそれどころでは無かった。近いうちにアルルに会えなくなるかもしれないのだ。
集まったのは七人。ヨシュアとアルル、ニアとライ、ジークとエルデ、そして依頼人のハロルドである。今はボートに乗って、コルト諸島の三番目の島「デゼル島」を目指しているところだ。
ジークが手配したボートというだけあって、いつも乗っているボートよりずっと速くて静かな船旅になった。大きさもかなりのもので、本来ならクルージングに使う船らしい。普通のボートなら三時間はかかるところを、この船なら半分の時間で辿り着けるだろう、などとジークは自慢げに話していた。
「私たちもこれを借りれたら追跡する翼竜に追われることも無かったんでしょうね」
アルルは懐かしそうに言った。
彼女は以前、ティアの病気を治す為にコルト諸島に乗り込んだことがある。初めに訪れた時は魔物に追われ、島から逃げるようにボートを走らせたのだが、島から脱出した後も追跡する翼竜に追われることとなった。血の匂いに引き寄せられていたのである。
アルルと出会ったのは、まさにそんな時だった。
「懐かしいね」
「懐かしいですねぇ。いやー、あの時はホント助かりました」
「そんな改まらないでよ」
「いえいえ、大切な事ですから、何度だって言いますよ!」
にっこりと笑うアルル。彼女の笑顔はいつだって太陽の如く眩しい。
アルルは他の人々、ニアたちやジークたち、それにハロルドともよく話す。分け隔てなく、誰にでも眩しい笑顔を向ける。アルルと話す人々もつられて笑顔になっている。
ハロルドと話すアルルをぼんやりと眺めていると、またニアに話しかけられた。
「アンタ、ずっとアルルのこと見てるね」
「…… そんなことないよ」
「そう? それなら別にいいけど、ジークが”ヨシュアはアルルのことが好きだ”なんて言うから」
アイツ……
何を勝手に話しているんだ。しかも間違ってはいないのが余計にややこしい。
「さっきは仲良く会話してるように見えたけどさ、何か問題でもあった?」
「見ての通り、ちゃんと仲良しだよ。でもまあ…… 」
別に隠すことでもないか。
そう思ったヨシュアは今朝のことを正直に話すことにした。もちろんアルルのことが好き、という事は隠したが。
一通り話し終えると、ニアはボートの手すりに寄りかかりながら言った。
「ふーん、なるほど、引っ越しねぇ…… 。そんなに好きならついて行っちゃえば」
「いや、だから好きとかじゃなくて! しかもアリストメイアで騎士になったら好き勝手に旅することもできないだろ」
「そっか、それもそうだね。でも、それならそれでさ、騎士を目指すことにこだわらなければいいんじゃない?」
なっ、いきなり何を言い出すんだ?
ニアには出会ったその日のうちに聖騎士への憧れを語ったことがある。ヨシュアが騎士を目指して努力を重ねてきことも知っているはず。それなのに、どうして突然そんなことを言うんだ?
「ああ、そんな怪訝そうな顔しないで。別に夢を諦めろって意味じゃないよ。たださ、誰かを守りたいと思った時に、騎士にこだわる必要はあるのかなって。アタシ達は今までいろんな国を旅してきたけど、傭兵ギルドって案外どこにでもあるんだよ。だからアルルが旅するならさ、ヨシュアもついて行ってさ、その行く先々でギルドに加入して騎士になっちゃえば?」
ヨシュアはニアの言葉を黙って聞いていた。絶句していた、という方が正しいかもしれない。
今まで聖騎士になる事以外考えたことが無かった。見習い試験に落ちた時は落ち込んだものの、夢を諦める気は全く無かった。ここマーセナルで傭兵として日々を過ごしている間も、聖騎士になる夢を忘れたことは片時もなかった。
それなのに今、ヨシュアの心は揺れていた。
「アタシ思うんだけどさ、ヨシュアって騎士より傭兵の方が向いてると思うんだよね。もちろん、片腕だからとかそんな理由じゃなくてさ」
「えっと、どういう意味?」
「ヨシュアって、何か問題があるとすぐに飛び出していっちゃうでしょ? でも騎士だったら持ち場の関係もあって、自由に助けに行けないんじゃないかな。上司からの指示を待っているヨシュアとか、ちょっと想像できないなって」
「確かに、ニアの言う通りかも…… 」
「こんなこと言ったら怒るかもしれないけど、騎士なんて心の在り方次第だよ。それならさ、世界中を旅する”自由騎士”なんて名乗るのもいいかもね。まあ、生活は安定しないかもだけど」
────自由騎士……
思いつくまま、心のままに、誰に咎められることなく人を助ける騎士、か。なんて良い響きなのだろう。
ボートの上から見える水面は太陽の光を浴びて輝いている。視線の先には新しい島が見え始めていた。
アルルは少なくとも豊穣祭まではウィンベルの街に残るはず。結論はその時までに出せばいい。今は目の前に迫った探索に集中しようとヨシュアは思った。




