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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
113/154

私もエントリーしています!

「あっ、ヨシュア! 久しぶりー」



 晴れた日、マーセナルの街を歩いていると、前から歩いて来たリコッタとミントの双子の姉妹に声をかけられた。姉のリコッタが大きく手を振っている。

 二人はお揃いの洋服を着ている。リコッタは水色、ミントはライトグリーンを基調とした色違いのペアルックである。フリルの付いたブラウスにフレアスカートがとても似合っている。



「そんなに久しぶりでもないだろう?」


「そんなこと無いよ、ねー」

「ねー」



 二人は顔を見合わせて笑う。今日も二人は仲のいい姉妹である。



「知ってますか、ヨシュアさん。リコッタちゃんがコンテストに出ることを」


「へー、そうなんだ。知らなかったよ」


「ぶー、何で知らないのよ!」



 そんなことを言われても、知らないものは知らない。

 リコッタは不満げに頬を膨らませている。



「あーあ、おねーちゃんのこと、怒らせちゃった」


「…… 俺が悪いの?」


「さっきまでご機嫌さんだったのに、今はこんなにも頬っぺたが膨れています。これがヨシュアさんのせいで無くて、いったい誰のせいだというのでしょう」



 ミントはとぼけるような口調で言った。相変わらずのマイペース。まともに相槌を打つと、延々と振り回されることになる。まあ、嫌ではないけれど。


 それにしてもリコッタがコンテストに出るのか。確かに二人は可愛いが、ライバルとなるのはソーニャとフレイヤである。

 そういえば、とヨシュアはミントに尋ねる。



「ミントは出場しないのか?」


「うん。私はね」


「リコッタはどうして出場しようと思ったんだ?」


「うーんとね、ヨシュアはソーニャさんのこと知ってる? 去年グランプリに輝いた人なんだけど」



 知っている。というより依頼主様である。知らない訳が無い。



「私ね、去年のコンテストを見て、来年は私も出場したいなぁって、ソーニャさんを見て思ったんだ!」


「つまり憧れってことか」


「うん、そういうこと。だから応援しててよね!」



 応援か…… 。依頼主がコンテストに出場するというのに、リコッタに味方してもいいのだろうか。いや、応援するだけならいいのか?



「いやー、でもほんと、ソーニャさんを生で見たらびっくりするよ!?」


「確かに、綺麗な人だよね」


「えっ、知ってるの?」


「知ってるも何も、今の俺の依頼主だし。毎朝一緒に街中を走ってるし」



 えーっ! と、大きく口を開けて驚くリコッタ。くりくりの目を更に丸くしている。

 隣ではミントが横目で姉を見ている。たぶんミントはソーニャとヨシュアの関係を知っていたのだろう。

 というより、何でリコッタは知らないのだ。それこそ知っておけとヨシュアは思う。二人が街外れに住んでいるとはいえ、ソーニャがこの街に来てからは、もう一月余り経つ。憧れの人の動向ぐらい知っておけと言いたくなる。



「ねぇ、私も一緒に走ってもいい?」


「いやいや、ライバルだろ?」


「ライバルじゃなくて憧れの人! それに高め合うってい素敵じゃない!」



 高め合うというのは同じレベルにあって初めて言えること。リコッタがソーニャに劣るという訳では無いが、少なくとも意識の差を感じずにはいられない。


 ただソーニャは刺激を求めている。提案するぐらいならいいかもしれない。



「じゃあ、話だけでもしてみるよ。ちなみにだけど、リコッタって走れるの?」


「ぶー! 私だって浮雲の旅団のメンバーなんだから走れるよ!」


「結構なペースで一時間ぐらい走るけど、大丈夫?」



 えっ、とリコッタは眉間にしわを寄せる。



「リコッタが思っているよりずっとハードだからな? それでもというなら話してみるけど、迷惑だけはかけるなよ?」


「よ、余裕だし。大丈夫だし。頑張るし」



 目を泳がせるリコッタ。ミントが声を出さずに笑っている。

 まあでも、人に憧れる気持ちは良く分かる。ヨシュア自身もガトリーに憧れたことが騎士を目指すきっかけだった。ソーニャさえ良ければだが、できればリコッタに協力したいとヨシュアは思った。







「へー、それでリコッタちゃんも一緒に走ることになったんですね!」



 馬車乗り場の長いすに並ぶように座って、ヨシュアとアルルは話していた。約束していた依頼の日である。


 まだ待ち合わせまでは時間がある。いつも通り早めに向かったら、既にアルルがそこにいた。何でも「油断するとすぐに遅れてしまうので」と、意識して早めに家を出たそうだ。



「うん。けどやっぱりというか、ソーニャさんの走るペースが速くてね。途中から歩いてた」


「それでも最後までついて行こうとするのは凄いと思うなぁ」



 感心したようにアルルは言った。目を細めて笑うアルルの横顔は相変わらず可愛い。柔らかそうな頬を見ていると、思わず指で触れてみたくなる。



「俺もそう思う。憧れの人と一緒に過ごすことが出来るのが嬉しいのか、とても張り切っているよ」


「憧れの人かぁ」


「アルルも憧れの人っているの?」


「はい、それはもう! ニルローナに住むおばあちゃんなんですけど、薬のことなら何でも知ってて。どうしてそんなに詳しいのか気になって理由を聞いてみたら「若い頃に各地を旅したからよ」と。経験することが何よりも大切だと言うんです。それで私も旅に出てみようって」



 そうだったのか。アルルが好奇心旺盛なのも、そのおばあちゃんが関係しているのかも。



「だから、これからも色んな所を旅してみようと思っています。そのうちニューポートやエテルマギアにも住んでみたいですね」



 ────えっ?


 聞いてはいけないことを聞いた気がした。

 止めておけばいいのに、ヨシュアはアルルに尋ねる。



「それって…… そのうちウィンベルの街から引っ越すってこと?」


「そうですね。初めからその予定でしたし」



 屈託なく笑うアルル。

 ヨシュアは愛想笑いを返すが、それ以降の会話は全く耳に入ってこなかった。

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