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片腕の盾使い、騎士を志す  作者: ニシノヤショーゴ
豊穣祭編
110/154

食材を求めて②

 森の木々に身をひそめるヨシュアたち。

 視線の先に見えるのは蜂の巣と、その巣から出てくる蜂の群れ。マーセナル本土では見られない、緑と黒の縞模様が特徴的な蜂だ。普通よりサイズも一回り大きい。

 ただ、大きいといっても体長は十センチにも満たない。この島には他に<忍び寄る蜂(ハインドビー)>という蜂も生息しているが、それよりはずっと小さい。


 目当ての蜂の巣まで、目算で三十メートルほどだろうか。



「じゃあ、行ってくる」



 ヨシュアが左手に持つのは、あらかじめアルルに作ってもらったマジックアイテム。草花に詳しい彼女が、蜂が好むという特別な甘い香りを作り出してくれた。アイテムは箱型。箱の中にはニオイ袋が入っていて、今は香りを発していないが、袋に刻まれた術式に魔力を込めれば強烈な香りが発せられる、という仕組みになっている。


 箱の上には小さな穴が空いている。蜂が通れる程度の穴だ。箱にも特別な術式が刻まれていて、箱に迷い込んだ蜂は自力で外に出れないようになっている。ニオイに囚われたら最後、という訳だ。

 こういった罠はマーセナルでは見かけない。アルルが言うには「ニルローナでは広く知られた罠で、何も特別なものではありませんよ」ということだが、それでも彼女がこれだけのものを簡単に作成してしまう器用さには本当に驚かされる。そもそも彼女は傭兵でも猟師でもないのだから。



 風向きを考えながら箱を地面にそっと置く。それから術式を起動し、ヨシュアはすぐにその場を離れた。服に香りが付いてしまってはいけないからだ。

 ただその姿が逃げ帰るように見えたのか、戻ってくるなりロイにからかわれた。



「違う違う。ニオイが付いたら追い回されてしまうだろ? 俺におびき寄せられたら、せっかくアルルが作ってくれた罠も上手く機能しないじゃないか」


「あー、全部説明しなくても分かってるって。冗談だよ、冗談。でもあの罠、ホントに効くのか? あれが上手くいかなきゃ面倒なことになるぞ?」


「大丈夫。アルルが作ってくれたものだから」


「アルルって、あの薬師だろ? 罠づくりに関しちゃ素人じゃねーか」


「ああ。でも俺は信じてるよ」



 ふーん、とあまり信じていない様子のロイ。でも、こればっかりは見ていてもらうしかない。

 …… と、そんなことを話していると、巣から大量の蜂が、文字通り湧いて出てきた。そして黒い塊となり、我先にと匂いのする箱へ一直線に飛んでいく。


 うわー、とヤードが顔をしかめる。



「巣の中にあんなにもいたの?」


「…… らしいね」



 これにはヨシュアもちょっと唖然としていた。箱はそれなりに大きいが、それでも箱の中に納まりきるだろうか。少し心配だ。


 そんな心配を余所に、蜂たちは甘い香りに誘われて箱の中へと吸い込まれていく。すーっと消えていく様子はちょっと面白い。

 最初の一匹を吸い込んでから待つこと三十秒ほど。入り口付近で詰まっていたとはいえ、早くも全ての蜂が箱の中へと囚われた。



「ほら、言った通りちゃんと効果があったろ?」



 だな、とロイが素直に頷く。ロイもまた興味深そうに箱を眺めている。



「出てくる様子もねーな」


「だよね。アルルさんって本当に凄いね。しかも可愛いし」


「あ? それいま関係あるか?」


「関係は無いけど、可愛いかどうかは重要でしょ!」



 さも当然、といった様子でヤードは言った。そしてそのまま「ヨシュアもそう思うでしょ?」と尋ねてきた。

 いきなりだったこともあり、ヨシュアは少し戸惑いながら「まあ、否定はしない」と、何とも曖昧な返事をする。


 そんなヨシュアの反応を見てなのかどうかは分からないが、ヤードはさらにヨシュアに尋ねる。



「そういえばさ、ヨシュアはアルルさんのこと好きなのかい?」


「え?」



 何でだ? 今まで誰にも話したことないのに。

 ヤードはきょとんとした顔をしている。深い意味はないのだろうか? それなら…… 



「どうだろう? そういう風には考えたことなかったけど、美人だとは思うし、尊敬もしてる」


「付き合えたら嬉しい?」


「え? ああ、まあ…… 」



 本当に、何を思って尋ねてきてるのだろう? 何か確信でもあるのか? いつの間にかロイもこちらを見ているし。本当にやり辛い。



「だよね。マトちゃんをロイに取られたしね。やっぱり狙うならアルルさん?」



 おっと。今の一言はロイも敵に回した。苛立ってはいないけど、あまり良い思いをしていない顔である。こんな迂闊な発言をするあたり、もしかしなくてもヤードは何も考えていないみたいだ。



「こいつの知り合いってことなら、ニアもいるだろ。今はいねーけど」


「そういえばニアたちは今、エテルマギアにいるんだっけ? 豊穣祭には帰ってくるのかな?」


「どうだろう? 手紙でやり取りはしてるけど、向こうでの暮らし次第だと思う」



 ニアとライは、ニアの父親と一緒に故郷のエテルマギアへと帰っている。母親の墓参りと、それからお世話になった人への挨拶をした後、親戚の家で暫く過ごすと聞いている。父親と数年ぶりに再会したのだから、故郷でゆっくりするのは良い事だと思う。

 


 そんな感じで会話しながら罠を見守ること数分。巣から出てくる蜂の姿はもう見えない。一応まだいるかもしれないと注意しつつ、ヨシュアは蜂の巣に近づく。



「刺されないように気を付けなよ」と、ヤードが心配そうに言った。



「大丈夫。もし刺されても、少しぐらいの毒なら<自己再生キュアコンディション>で治療できるから」


「ああ、そうだったよね…… 二人はそうだよね。じゃああとは二人に任せよ」


「おめー、まだ<自己再生キュアコンディション>が使えないのかよ。あれだけ取得しろって言ったじゃねーか」



 そう簡単に身に付かないよ、とヤードがねる。

 そんな二人をよそに、ヨシュアは蜂の巣を揺らしてみる。うん、出てこない。一応もう少し激し目に揺らしてみるも、やっぱり出てこない。もう巣の中に蜂はいないみたいだ。こんなにも簡単に手に入れられたのは全てマジックアイテムのおかげ。帰ったらアルルに感謝しなければ。



 ────なんて考えてたら、後ろからロイに声をかけられる。



「おい、ヨシュア。変なの釣れたぞ?」



 変なのって何だ? と思って後ろを振り返ると、それはもう多種多様な魔物に囲まれているではないか! 甘い香りに引き寄せられたのかもしれない。



「アルルの奴、蜂以外もおびき寄せやがって…… !!」


「そんなことは後! 早く逃げなきゃ!」


「おし、ヨシュア、お前責任とって先頭突っ切れ!」



 と、ロイがヨシュアの背中を押す。

 まあ、先頭に立つことに依存は無いけど。



「分かった。全力で駆け抜けるから遅れないようについて来てくれよ!」



 足の速さならヨシュアが一番。後ろからはとっても焦るヤードの声が聞こえた。

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