Act0-65 友達
PV7800突破です!
いつもありがとうございます!
暗闇を切り裂いて走る。
街道はとっくに真っ暗だった。
誰もいない街道。
いつもであれば、旅人さんや商人さん、この首都を拠点にしている冒険者のお兄さんやお姉さんの姿を見かけるのに、いまは誰もいない。
フクロウに似た鳥の鳴き声が聞こえる。
この世界にもフクロウはいるのかと思うと、少し感慨深い。
たぶんフクロウ型の魔物なのだろうけれど、異世界とはいえ、知っている鳥と近い鳴き声を聞くのは、少しだけ安心できた。
「カレンちゃんの言う通りだったね」
手を繋いでいるモーレが言う。
モーレは驚いた顔をしていた。
でも、まだ安心しきってはいないようだ。
そりゃそうだ。門番さんたちは、なぜか通してくれたけれど、追手が来ないというわけじゃないから。
でも追手は来ないんじゃないかなと思う。
だって俺がここにいるのは、エンヴィーさんが教えてくれたからだ。
「大通りをまっすぐ進んで、大門に向かってください。それで首都からは出られますので」
とても単純な内容だった。
というか、本当に出られるのかと思ったほどだ。
大門にも警備の兵隊さんはいるだろうし、大通りにだって、歩哨の人がいるはずだった。
なのに、エンヴィーさんはそのことには一切触れず、大通りをまっすぐ進めとだけ言っていた。
浴場を出るときは、早く行かなきゃいけないと思っていたから、細かいことは一切気にしていなかったけれど、いま思えば、穴だらけの内容だった。
正直、本当にそれで大丈夫かなとさえ思ったほどだ。
でもエンヴィーさんの言う通りに、大通りを進むと、歩哨の人には一切出会わなかった。
逆に裏道や路地を進むと、歩哨の人に出くわしてしまった。
子供がこんな時間に出歩くなと怒られた。
フードで顔を隠していたのと、身長からか、俺のことを子供と思い込んでいたようだ。
実際、この世界の子に比べると、俺の見た目はかなり幼いので、十五歳と言っても信じてはもらえなかっただろうから、あえて子供のふりをした。
「裏通りや路地には入らず、大通りから帰りなさい。私たちは裏通りにいるけれど、大声を出してくれれば、すぐに駆けつけるからね」
歩哨の人は、そう言って見送ってくれた。
子供らしく頷いて、歩哨の人と別れた。
いつもであれば、いつもの「すけひと」のつなぎを着ていれば、そこまで言われることはない。それどころか、お疲れ様と言われる。
どうやら歩哨の人は、俺=黒いつなぎを着ているという印象が強いようだった。
だが、いまの俺は着慣れた「すけひと」のつなぎを身に着けていなかった。
着ているのは、エンヴィーさんが用意してくれたという、真っ黒なローブだった。
浴場を出る際に、いつもの服だと目立ちますから、と言って、脱衣かごに入れてくれていたものだ。
夜道をモーレと一緒に移動するのに、黒い服はありがたかった。それにフード付きのローブなので、顔を隠すこともできた。
まるでモーレと一緒に逃げろと言っているかのような、あらかじめ、俺がモーレと一緒に行動するとわかっていて、用意してくれていたように思える服だった。
そのローブのおかげで、歩哨の人には、俺だということには気づかれなかった。気づかれないまま、大通りに出られた。
大通りには、予想通り、誰もいなかった。人の気配さえもなかった。
大通りは屋台や出店の通りでもあるから、店じまいをすれば、人がいないのは当然だった。
飲食系のお店は、夜になれば酒を出しているので、大通りから少し外れた場所にまとまっている。そっちであれば、人通りもまだあるのだろうが、大通りは閑散としていた。
しばらくは、大通りを進んだ。
だが、本当に大通りを進むだけでいいのかと思い、また裏通りに戻った。
ちょうど歩哨の人はいなく、そのまましばらく裏道を進んだところで、また歩哨の人と出くわし、子供のふりをして、また大通りに出た。
その歩哨の人たちは、俺を見送ることはせず、そのままそそくさと別の路地へと曲がって行った。
歩哨の人たちが、遠くに行ったことを確認してから、俺はまた大通りに出た。そして叫んだ。歩哨の人たちが出てこない程度の声量でだったけれど。
大通りをただ進むだけじゃ、モーレを見つけることはできなさそうだった。
だから、叫んだ。
見つけられても、歩哨の人が出てきてしまうかもしれなかったが、一か八かの賭けに出た。
すると、すぐ近くから、聞きなれた声が聞こえた。
すぐそばの屋台からだった。
内側に回り込むと、そこにモーレがいた。モーレは驚いた顔をしていたが、俺の知っているモーレだった。
そうしてモーレと合流し、なぜかすんなりと大門を潜り抜けて、俺たちはいま首都の外に広がる森を切り開いて作られたであろう街道を進んでいる。
とりあえず、追手はないとは思うが、仮に追手が来ていると想定すると、休んでいる暇はなさそうだった。
俺もいつまでもモーレと行動をともにする気はないが、ここまで来た以上は、安全な場所にまでモーレを連れて行き、別れる予定だ。
そのままモーレと一緒に生活するのも悪くはないけれど、俺には俺の目的があるから、一緒に生活することはできない。だが、モーレに生活費を渡してあげることはできる。
いま俺の懐には、金貨が二十枚近くある。
あの盗賊団を潰した報酬金とギルドマスターの言っていたもうひとつの案件の分も含めて、金貨十五枚の報酬になった。もともと持っていた金貨三枚分を加えると、金貨十八枚だった。
それだけあれば、遠くの街か村に行き、名前を変えて生活するための足しになるはずだ。その街か村につくまでの路銀にもなる。
予定としては、支度金として、モーレに金貨十枚を渡すつもりだ。
俺の懐には八枚分しか残らないけれど、今日からはCランク冒険者なんだ。残りの金貨二枚なんてすぐに稼げる。
なにせEランク時代でも、金貨三枚稼げたのだから、それからツーランク上のCランク冒険者であれば、金貨二枚なんて、あっという間だ。
ならやり直しをするモーレに、多くの金貨を渡すのは、当然のことだろう。もっと言えば、前祝いのようなものなのだから、これくらい気前よく渡すのは当然だった。
「とりあえず、明日の昼までは、休まず進もう」
今日は夜通し進むことになる。
追手がいるのかどうかはわからない。たぶん来ないとは思うけれど、確証があるわけじゃない。
モーレには悪いけれど、このまま明日の昼まで移動を続けたい。
本音を言えば、森の中を進みたいところだけど、夜の森は、うかつに入らない方がいい。ラノベやゲームでは、夜の森は危険度があがるっていうのが、定番だもの。
となると、街道を進むしかない。
少なくとも夜のうちは、街道を進むしかないだろう。明け方になれば、森に入る。そうすれば、追手が来ても、撒ける可能性は高いはずだ。
「ごめんな、モーレ。休ませてあげたいけれど、当分は我慢してくれ」
モーレの方を見ずに、まっすぐ前だけを見つめていた。
真っ暗な街道には、誰もいない。その街道をひたすらに走り続けようとした。そのとき。
「……なんで?」
不意にモーレが呟いた。
顔だけで振り返ると、モーレは涙目になりながら、俺を見つめていた。
思わぬ姿に、脚を止めた。
急に止まってしまったから、モーレとぶつかってしまう。それどころか、組伏される形で、道に転がってしまった。背中を強めに打ってしまったが、走れないわけじゃなかった。
「ごめん、急に止まって」
「なんで?」
止まってしまったことを謝りつつ、モーレに退いてもらおうとした。
だが、モーレは「なんで」というだけで、退いてはくれなさそうだった。
「モーレ?」
「なんで、私と一緒に逃げてくれるの?」
モーレはそう言った。その表情はいまにも泣いてしまいそうなほどに弱々しかった。




