Act0-41 世知辛い現実
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いつもありがとうございます。
ボードに貼り出されていた依頼票には、稼ぎのよさそうなものは、あまりなかった。
今朝寄ったときにも、よさそうなものはなかった。だからこそダークネスウルフの「討伐」に踏み切ったわけなのだけど、まさか今朝よりもひどいことになっているとは思わなかった。
ちなみにダークネスウルフの「討伐」は、正式に言えば依頼じゃない。が、常駐依頼というものがあって、その中にたまたまダークネスウルフの「討伐」依頼があったというだけのことだ。
常駐依頼っていうのは、ギルドを通して、依頼されたものではなく、ギルド側が依頼人となって、常に出されている依頼のことだ。常に出されているという性質上、基本的には危険度は少ない。その分報酬は少ない。が、内容によっては、大きく稼げることもある。
たとえば、俺が生ゴミにしてしまった、デスクローラー等キャタピラー種の「討伐」依頼だ。依頼内容はあくまでも「討伐」であり、「討伐」した魔物の素材は、依頼を請け負った冒険者がすべて引き取れるというシステムになっていて、当然素材の中には、キャタピラー種の最大の魅力である糸も含まれている。加えて、少額ではあるが、報酬ももらえるという、美味しい依頼だった。
だが、キャタピラー種の「討伐」依頼なんてものは、そうそう貼り出されることはなく、仮に貼りだされても、すぐに請け負われてしまう。残るのは、ホーンラビットやミニチュアラットの「討伐」など、報酬も安ければ、素材も安い魔物のものばかりになってしまう。
それでも個人的に「討伐」するよりも、わずかばかりな報酬も加算されるので、受けないよりかはましだった。そもそもなんで常駐依頼の報酬が安いのか。それは実に単純な理由で、冒険者の力量を確かめるための依頼だからだ。まぁ、要は冒険者に対する、実力テストのようなものだからだそうだ。
テストすることが目的なのだから、当然報酬は安い。代りに、毎日貼り出される。テストを受けるかどうかは、個人個人の考えに任せる。受けなくても問題はない。が、常駐依頼は、その性質上ギルドへの貢献度が、ほかの、同じ危険度の依頼に比べて高い傾向にあるらしい。まぁ、力量を測らせてもらっているのだから、その分見返りもないといけないのは、ある意味当然だろう。常駐依頼の内容がすべてキャタピラー種の「討伐」というわけではないのだから。
常駐依頼をこなせばこなすほど、昇格するための貢献度は溜まっていく。が、常駐依頼ばかりでは、報酬があまりもらえない。かといって通常の依頼ばかりだと、報酬は多く貰えるが、貢献度はそこまで溜まらない。その辺のさじ加減をどうするかは、冒険者各々に任されている。
要は、さっさと昇格して、稼ぎをよくするか。堅実にコツコツと頑張って、実力を上げつつ、ランクも上げていくかってことだ。俺はさっさと昇格する派なので、常駐依頼を多くこなしていた。まぁEランク程度の依頼だと、常駐依頼とそう変わらないので、ならさっさと昇格するための貢献度を溜めようと思っただけのことだった。
でも、これからは違う。ようやくDランク冒険者になったのだから、常駐依頼はそこそこにして、あとは通常依頼で稼いでいこう。そう思っていたのだけど──。
「二日間の護衛で銀貨十五枚。薬草の納品銀貨五枚。ブラックウルフ狩猟銀貨十枚。……いいのがないなぁ」
貼り出されていた依頼票は、どれもこれも銀貨十枚程度のものばかりだった。それもだいたいが一日単位でかかる仕事ばかり。割がよくない依頼しか残ってはいなかった。
「すぐに終わるって仕事であればなぁ」
数時間程度で終わって、銀貨十枚であれば、割はいい。なにせ終わったあとに、また別の依頼を受ければいいだけのことだ。しかし残っているのは一日単位。終わっても、すぐ次の依頼ってわけにはいかない。そのうえ貢献度もあまり稼げない。いわば、外れ依頼ばかりが残っていた。
「まぁ、無理もないさ。もう昼を過ぎているんだから、割のいい依頼なんか残っているわけがない」
クーさんが俺の頭に手を乗せながら言う。たしかに、もう日は徐々に陰り始めていた。そんな時間に割のいい依頼なんて残っているわけがなかった。
「それにだ。Dランクまでの依頼じゃ、どれもこれも似たようなもんだぜ? 大きく稼ぐには、Cランクにもならんと無理さ。たとえば、ほれ、この依頼とかな」
クーさんはCランク冒険者以上限定と書かれた依頼票を手に取る。内容は人探し。報酬は金貨五枚となっている。期間は一週間。一週間で見つかっても、見つからなくても、依頼は終了。見つかれば、報酬を上乗せするとなっていた。
「こういう依頼はめったにはないが、一週間で確実に金貨五枚を稼げる。こんな依頼なんて、そうそうないぜ? そしてこういう依頼を受けられるのは、Cランク冒険者になってからだ」
「わかっているよ、そんなこと。でも、昇格したから、少しはましな依頼があるかなって」
「ほう? じゃあ、これからはDランク冒険者か。よかったじゃないか」
「よくないよ。まともに稼げる依頼がないもの」
「まぁ、時間がよくなかったな、としか俺には言えねえな。それよりも昇格祝いに、なにかおごってやろうか?」
クーさんが飲食スペースを指さす。そこにはクーさんのお仲間さんたちのほかに、ほかのクランのお兄さん、お姉さん方もいる。どうやら俺が昇格したことを、すでに知っていたようだ。クーさんが代表して、俺を誘いに来たってところなのだろう。祝ってくれるのは嬉しいけれど、少しでも多く稼いでおきたかった。
「ううん、気持ちは嬉しいけれど、やっぱりなにか依頼を受けるよ」
「そうか。まぁ、そこんところは、カレンさんの考え次第だから、俺はとやかく言わねえが」
そう言いつつも、クーさんはなにやら言いたげな表情だった。
「なに?」
「カレンさんにも事情があるってのはわかっているが、あんまり無理をするのはどうかと思うぜ?」
「無理なんてしていないよ?」
この二週間毎日欠かさず、常駐依頼を複数こなしてはいたけれど、全部難しくないものばかりだった。今日はたまたまダークネスウルフの「討伐」だったけれど。それだって無理をするような内容ではなかった。なにせほとんど問題なく、「討伐」できたんだ。無理なんてしているわけがない。
「……そうか。まぁ、本人がそう言うのであれば、外野はとやかく言う筋合いはないか。だが、ひとつだけ言わせてくれや」
「うん?」
「俺たち、冒険者は体が資本なんだ。しっかりと体を休めることも、仕事のうちだ。つまりはだ。休めるときは、きっちりと休んでおけよ」
「休んでいるよ? 宿ではぐっすりと眠っているし」
一日の依頼をすべて終え、拠点とさせてもらっている宿に戻れば、俺はいつも泥のように眠っている。それで疲れは取れる。だから問題はない。
「そういうことじゃないんだが。あー、まぁ、ほどほどに頑張っておけってことだよ」
クーさんは、ひとしきり唸ったあとに、ため息を吐き、また俺の頭を撫でた。本当にいかつい顔と性格が合っていない人だ。だからこそクーさんのお仲間さんたちは、クーさんのことを兄貴と呼んで慕っているのだろう。
「うん、そうする。じゃあ、俺また常駐依頼でもしておくかな」
「まぁ、そんなところかな」
クーさんが苦笑いをする。困っているというのはわかる。が、だからと言って、俺は俺のやることを変える気にはなれない。
「じゃあ、またね、クーさん」
「ああ、またな、カレンさん」
常駐依頼のひとつを取り、俺は受付に向かった。
「……なにもなければいいんだがなぁ」
クーさんがため息混じりになにかを言っていたけど、やっぱり俺には聞き取れなかった。




