パーティーの始まり
ついに会場入りしてしまった。結局聖女様とは顔を合わせてない。安心したような寂しいような。
「あの、これ、はしたなくないですか……」
「うーん、困りますね。魅力的すぎますよ。どうしてそんな前衛的なドレスを?」
魅力的って……また嘘ついてる。こんな風にスカートを縦に裂かれてしまったら、脚が丸出しだよぉ……
「ファトナトゥールの店主さんがやったんです。ズバッと……」
「ほほう。さすがのセンスですね。もしや聖女様の指示かも知れませんな。」
他人事だと思って……
代官府かぁ。教師に就任した時以来かなぁ。あの頃とはお代官様が変わってるけど。
「何よあの女……」
「あんなに脚を出して……」
「はしたないわね……きっと平民よ……」
うわ、何か睨まれてるよぉ……あの人たちって貴族かなぁ……怖いよぉ……
「しかも肩も丸出し。左右非対称のドレスなんて聞いたこともないわ……」
「あれで男を誘惑してるつもりなのよ? 無理無理……」
「どこの子かしら? これ見よがしに……」
隅っこに行こ……
「さ、ウネフォレト先生。踊りますよ。」
もう!? いきなり!? 偉い人に挨拶とかしなくていいの!?
「ダ、ダンスですか!? 私踊ったことなんて……」
「私もです。ですが、問題ありません。ダンスとは技巧ではなく心が大事だそうです。音楽に身を任せ体を動かすことがダンスの真髄だそうです。さあお手を。」
どうやったらいいんだろ……あ、レインフォレイトさんの手……あったかい。
「見てよあれ。あれで踊ってるつもりみたいよ?」
「笑えるわね。男の方はマシな顔してるわ」
「やっぱあの女って平民ね。踊ったことないみたいだわ」
やっぱり何か言われてるよぉ……平民のくせにお代官様のパーティーに来てごめんなさい……
「体を動かすのって楽しいですね!」
もう! 人の気も知らないで! でも……
「楽しいですね!」
ダンスって楽しいな。音楽もいい。レインフォレイトさんが呼んでくれなかったら一生知れなかった事だよね。
あ、音楽が止まった。もう! いいところだったのに!
「お代官様の登場です。端に寄っておきましょう。」
「は、はい!」
今のお代官様って遠くから見たことしかないんだよね。若いのは知ってるけど……
会場の大扉が開き、二人の美男美女が見えた。うわぁ、あれがお代官様か。めっちゃ切れ者って話だよね。冷徹そう……
そして奥方様……優しそうなのにゴージャス。クタナツを含む広大な辺境フランティアを支配する辺境伯のご長女様なんだよね。凄いなぁ……住む世界が違うよ。
『諸君! 今宵はよく来てくれた! 余計な話をする気はない! 無礼講だ! よく飲みよく食べよく踊れ! そして明日の活力とせよ! それでは! 乾杯!』
よく通る声だなぁ。拡声の魔法を使ってるんだから当たり前か。
「さあ、先生。まずは飲みましょう。お酒もありますよ。」
「い、いえ、私は紅茶でも……」
紅茶は紅茶で高いんだよね。めったに飲めないから、飲んでみたいし。それに、こんな場所で酔って醜態を晒したら……クタナツで生きていけなくなっちゃう。
あ、美味しい。
「それにしても、見れば見るほどきれいだ……しかし、できれば化粧などして欲しくない、複雑な気がしますな。」
「はあ、それはどういう事情で?」
「他の男に見せたくないという独占欲ですよ。あなたの美しい姿を独り占めしたいというね。」
恥ずかしいことを恥ずかしげもなく……よく言えるなぁ……でも何だろう。嬉しいのかな……私まで恥ずかしくなってきた。
「あっれぇー? ミシュリーヌじゃん?」
「あーっホントだぁー! なんで平民のあんたがこんな所にいんのぉー?」
げ、同級生だった上級貴族だ……結婚してクタナツから出て行ったんじゃなかったのぉぉぉーー!
「さ、誘われたもので……」
「へぇー? あんたなんかを誘う物好きがいたんだぁ? それにしても何よこのドレス?」
「どんだけ男ぉ誘うつもりぃ? 品ってもんがないんじゃない? これだから平民はさぁー」
悔しーい! 言い返したい! でも何て言えばいいのぉぉぉーー!
「こ、このドレスは……」
聖女様から貰ったものなんだから! って言いたいのにぃぃぃーー!
「へぇー? 生意気に大粒の金剛石なんか着けてさぁ。これ、めちゃくちゃ高いよ?」
「ははぁん? いい金蔓を手に入れたってことね? でもカットの仕方が古くない?」
ぷぷっ、この子達。これが本物だと思ってるんだ。バカだなぁ。上級貴族のくせに目が利かないなんて恥ずかしいなぁ。
「どうも、物好きです。ミシュリーヌはいただいていきますね。ダンスの時間ですから。」
「えっ!?」
「はっ!?」
あっ! ミ、ミシュリーヌって呼んでくれた! 嬉しい!
えっ!? 音楽が止まっちゃった!? 踊り始めたばかりなのに? もー!
あれ? また大扉が開いてる。ああっ、聖女様だぁぁぁーー!




