表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイゼン・イェーガー  作者: 来生直紀
EP04/ 第4話 王者凱旋
46/93

#45

 猟機が一歩足を踏み出す度、振動で周囲の建造物がわずかに揺れた。

 高い無人ビルによって暗い影の落ちた通りから、やや明るい大通りに差しかかる。一度停止し、オペレーター(イヨ)に判断を仰ぐ。 

『シルト、そこは進んで大丈夫。そのまま横断して2ブロック先で右折して』

「了解」

『チアはそこでいったん止まって。前方の高架道路を見ていて、敵の姿が見えたら知らせて』

『ぅ……うん』

 イヨの指示に従い、俺たちは都市のなかを慎重に移動していた。

 イヨの管制機は後方でジャマーを散布しつつ隠れている。

 向こうには管制機がいない。戦局全体を常にこちらだけが把握できているのは、この多戦いにおいて最も大きなアドバンテージだった。

 だがその分、管制機が撃破されれば一気に不利になる。

 俺の猟機は今回の改造で、総合判定は『D+』に向上しているものの、チアの猟機〈オクスタン〉はまだ『E+』で、敵チームとの機体自体の戦力差は明らかだ。(ちなみに管制機は判定評価の対象外である)

 管制機は武装を搭載できないため、基本的には逃げ隠れするしかない。もっとも、敵の動きを早期から把握できるので、味方を失わない限りは、そう簡単には追い詰められることもないのだが。

 戦闘開始からすでに五分。

 予感があった。

 そろそろか――

 先手を取ったのは、向こう側だった。


 そびえ立つビルとビルの隙間から、なにかが白煙を引いて舞い上がった。


『シルト! ラージミサイル接近!』

 予感的中。

 射程距離の長い大型ミサイルが上昇を続け、最高度に到達。

 はるか頭上の空中で、その弾体が分裂した。

 多弾頭ミサイル。

 おそらくヨヴァンの猟機から放たれたものだ。遠距離主体のミサイラーか。

 頭上からぞっとするような数のミサイルが、俺の猟機を包囲するように広がった。

 緊急後退。障害物を利用しミサイルを誘爆させる。

 サイドブースト。近距離でミサイルがビルに突っ込み次々と炸裂。爆風の衝撃で機体を揺さぶられながら、ミサイルを振り切ろうと加速した。

『――減速ッ!』

 イヨの鋭い叫びに、俺はブーストカットと同時に猟機の脚で強制ブレーキをかけた。

 直後、目前を重い衝撃がかすめた。

 すぐ足元のアスファルトがえぐられ、粉々に砕け散る。

「いまのは?」 

『02からの狙撃』

 イヨが呼称した02とは、リィハの猟機だ。

『――おっしぃ♪』

 挑発するように、リィハがオープンチャットでつぶやいた。

 やはり狙撃機か。

 狙いは非常に正確だ。味方機との連携もまるでお手本のようだった。

『チア、そっちに低速でなにか近づいている』

『! てっ、てっ、敵……?』

「俺が援護に行く。イヨ、ルートの指示お願い」

『了解』

 イヨに従い安全なルートを通り、チアの〈オクスタン〉の後方へと移動する。自機のレーダーでもその低速飛行体を捉えた。

 レーダー上で飛行体が進路を変えた。チアからこちらに接近してくる。

 出てみるか――

 シールドを構えながら高速で正面を通過。

 一瞬遅れて、飛行体から青白いレーザーが発射された。 

 シールドで防御。眼前で閃光が弾ける。

「遠隔兵器か」

 これは、リモートコントロールな可能な浮遊砲台だ。種類はいくつもあるが、あれは実際にプレイヤーが自律兵器に搭載されたカメラ視点でリアルタイムに制御できるタイプのものだ。

 砲台というよりは、小さな戦闘機といったところか。 

 かなり高価な兵装だ。おそらくはヨヴァンの重量機の兵装だろう。だが……。

 いまいちコンセプトが見えない。

 遠距離主体とはいえ、敵陣地を爆撃するミサイルとこの自律兵器では、あまり相性がいいとは言えない。同時に使うにしても、自分で自分の兵装を失うリスクが生じる。

「……イヨ、03のこと、どう思う?」

『単純に、かく乱しやすい武装を選んでいるのかも』

 たしかに、その可能性はあった。

 だがデュエルマッチでのランカー、という神代のプロフィールを思い出す。

 必ずしもデュエルのときと同じ機体に乗っているとは限らないが、どうにも不気味だった。

『シルト、危険だけど、視認して確認してほしい』

「わかった」

 俺も同じ考えだった。

 レーダー上では、猟機の具体的な武装などは確認できない。そこはオペレーターではなく、ドライバーが直接見て把握するしかない。

機体を反転させ、敵陣へ向かって地上を疾駆する。

『――03、接近。シルトの位置把握してる』

「こっちも捉えた」

『シルト、上に出ないように気をつけて。――チア、敵機が見えたら撃って。もうすぐシルトの猟機と交戦する』

『……わかっ……たっ』

 高架道路下の暗いスペース。ビルの陰から03が接近。

 息を大きく吐いた。レーザーソードを出力。対物理特化の〈五式重盾『鐵』〉を構える。

 緊張の一瞬。

 二機が同時に加速した。

 正面に、敵機が踊り出る。

 出現したのは、都市迷彩色の重量猟機。

 敵機が発砲。

 視界に無数の弾丸が広がる。散弾だ。直後激しい衝撃。二回来た。だがダメージはない。シールドで防御できている。

 連装ショットガンか。

 同時発射弾数といい衝撃力といい、かなり破壊力重視のものだ。

 深追いはしなかった。すぐに離脱する。ヨヴァンも同じ行動をとる。慎重だった。

「……そういうことか」

 一瞬だったが、敵機の全身を見ることができ、俺はその設計思想を理解した。

 非常にユニークだった。

『どう?』

「使いきりの武装を満載してるよ。面白い」

『使いきりの……? それって、パージ前提ってこと?』

「うん、もうミサイルは積んでないよ」

 最初の多弾頭ミサイルも、そのあとの遠隔兵器も納得した。いま、ヨヴァンの猟機はすでにミサイルのランチャーも、他の遠隔砲台も積んでいなかった。

 すべて、高性能だが使用回数の少ない武装をセレクトしている。

 そして使い切ったらすぐにパージ。

 当然、機体の重量は軽くなり、機動力が上がる。

 武装も必然的に変わるため、戦闘スタイルをがらりと変えることができる。

 さらに腰や脚部にもハードポイントを増設して、可能な限り武装を満載していた。ショットガンのほかに近距離用のグレネードランチャーも装備している。一見、思いついたまま全部乗せてみました、といったような装備だが――

 行き当たりばったりではない。

 奇をてらった戦術に見えるが、よく練られている。あの連装ショットガンも敵が自分から接近してくることを見越して装備していたにちがいない。

 これならデュエル、チームバトルの両方で活躍しても不思議はない。

『そう簡単には通さないですよ』

 ヨヴァンも余裕を示すかのように話しかけてきた。

 さらに03はシールド装備だ。生残性も高く設計されている。

『シルト、01接近、9時方向、02が反対側で高度をとってる』

 狙われてるな、と直感した。

 01はハルの猟機だ。

 あれの相手をしているときに狙撃されるのは、なんとしても避けたい。

 しかも動きを見ている限り、リィハの02はチアの多脚猟機とちがって、空中機動力が高い。上から狙われると一方的な状況にもなりかねない。

『02、シルトを追尾してる』

『わかった。――チア、俺が引きつけるから、上空の02狙えるかやってみて』

『りょ、りょぅかぃっ』

 俺はレーダーと目視で、02の位置に神経を注ぎながら移動した。

 相手が狙撃手なら、単純な話、自分と相手に直線を引かせなければいい。とくに障害物の多いこのフィールドなら、こちらに利がある。

 レーダー上の02が急加速、のちに空中で停止。

 撃ってくる――

 俺はそばに建つビル越しに、02のいるあたりの上空を見上げた。この位置なら射線はとれない。

 構わず02が発砲。


 砲弾がビルを回避し飛来した。


 な――

 弾丸はわずかに頭上をかすめた。轟音とともに、背後の倉庫に巨大な穴を穿った。

 俺は一瞬、呆気にとられた。

 弾が、曲がった……?

『――シルト、02は可変翼徹甲弾(APVW)を使ってる』

 すかさずイヨが答えた。

 俺の困惑は、その言葉ですぐに解きほぐされた。

「なるほど……」

 猟機の狙撃砲は発射する砲弾を選ぶことができるが、そのなかのひとつに、可変翼徹甲弾というものがある。

 弾丸に発射後の可変翼の動きをインプットしておくことで、通常なら直線軌道(重力に引かれて放物線は描くが)の弾丸を、任意の方向にカーブさせることができる。 

 珍しい弾を使う、と思った。

『もう一発来るよ。あれはきっと威嚇弾だけど、01と03が広がってる。たぶんそっちが本命。挟撃に注意して』

「了解」

 イヨは当たらないと踏んでいる。

 だが俺は、もう一度試してみたかった。

 さきほどと同じように、ビルを壁にしつつ地上をブーストダッシュで移動する。

 大通りに面したビルの手前まで近づく。通りの向こうを見上げるが、リィハの02の機体は見えない。また来る――

 02が発砲。 

 またしても砲弾がビルの壁を抜けた。

 シールドに直撃。

 衝撃に機体が浮き上がった。

『――当たったの?』 

 俺は思わず、乾いた笑いがもれた。

 一発目とは、軌道がちがった。反対側のカーブを描いていた。

「イヨ、たぶん02は、手動で弾道入力してる」

『マニュアルで? まさか……』

 イヨの声も驚いていた。

 可変翼徹甲弾は、ミサイルのように相手を追尾するわけではない。

 補正の角度、方向、補正開始の距離などを事前に入力し、それに従って可変翼が動作し弾道を修正するという代物だ。もし毎回その弾道を変えたければ、激しい戦闘の最中、撃つたびそれらをマニュアルで入力し直さなければならない。

 だが、リィハはそれをやっている。

 さしずめ、曲がる弾を操るスナイパーだ。

「さすが、あいつの仲間か」

 戦いの前のあの余裕は、決して虚勢ではない。

『ごめん、見抜けなくて……。先に落としたいね。――チア、そっちから狙ってほしい』

『やって……みる』

 イヨの指示に従い、チアの猟機が曲がりくねった高架道路を上っていく。幸い機体の全高がほかの猟機より低いので、道路の外壁に機体を隠せていた。

 だがチアの〈オクスタン〉のスナイパーライフルは、標準的な徹甲弾装備だ。

 狙うためには、射線を取るしかない。

『チア、そのまま進むと直線に出る。頭を出した瞬間、たぶん向こうが撃ってくる。敵は高度をとってるから狙いにくいと思うけど、自分の速度は落とさないで。あとは……がんばって!』

 最後は精神論だった。 

 だが仕方ない。攻撃にはある程度のリスクもとらなければならない。

 俺は大きく迂回して移動し、01と03を引きつけた。02はこちらの狙い通り、チアを狙える位置に移動している。

 チアが高架道路の直線に出る。

 その瞬間、チアは速度をさらに上げて進入した。

 02の狙撃弾が宙を切り裂く。

 道路のアスファルトが爆発したように粉々に砕け散った。

 〈オクスタン〉の後ろ脚の装甲が弾け飛んだ。

 直撃ではない。

『いま!』

 チアが高速走行のまま、スナイパーライフルを発砲。 

 砲弾はゆるかな放物線を描き、上空へと昇った。


 全周モニター上に、HITの表示が重なった。


『チア、ナイスッ!!』

 イヨが嬉しそうに叫んだ。

 あの遠距離で、しかも動きながらの対空狙撃。

 高難易度のそれを、チアは初撃で成功させた。

 ダメージを受けたリィハの猟機が高度を下げながら後退し、ビルの陰へと隠れていく。

 当たるはずはないと思っていたのだろう。

 単純なスナイピングの腕なら、おそらくチアの方が上だ。

 ただ問題は、圧倒的に経験――なにより対人戦の経験が不足していること。


 01と03の動きが変わった。


 俺に対してけん制射撃をはじめていたヨヴァン――03が反転し、一気に速度を上げた。

 狙いを変えたか。

 チアが力を発揮したために警戒された。やむを得ない展開だ。もう様子見はしないだろう。最短時間で攻撃を仕掛けてくる。

 互いの手のうちがわかるにつれ、戦闘の流れは早くなる。

 ヨヴァンの猟機が脚部に搭載していた細長いランチャーから、低速の砲弾を連続で発射した。〈オクスタン〉の正面に着弾。

 直後、激しい炎が燃え上がった。

 ナパーム弾。

『ひっ……!』

 燃え盛る灼熱を前に、チアの〈オクスタン〉がバックブーストで後退する。

 駄目だ。スラスターを吹かし過ぎだ。

 危惧した直後、チアは背中からビルの壁面に激突した。

『……ぁッ!』

「チア、怖がらないで。見た目よりダメージはない」

『わ、わかっ……』

 かろうじてチアは答えた。まだパニックには陥っていない。

 追いついた俺が03に衝撃弾ショックグレネードを放つ。03の堅牢な盾に阻まれる。

 チアが反撃のスナイパーライフルを発砲。一発目は外れ、二発目も03がビルの陰に隠れたため当たらない。

 さきほどの神がった狙撃と比べて、チアの射撃は精彩を欠いていた。

 いや、向こうも気づいている。

 チアが初心者だということを見抜いて、あえてプレッシャーのかかる派手な攻撃を加えている。

 チアの射撃能力低下は痛い。

 だがそれ以上に、俺は気がかりな事項があった。


 ハルだ。


 どうもいまいち、積極性が感じられない。いまもヨヴァンと協力してチア機に攻撃を畳み掛ける機会はあった。

 レーダーを見る。01は他の二機をカバーするように広く動き続けている。

 慎重に戦っている、といえばそれまでだが。

 なにかを狙っているのか。

 俺はとっさに不安を感じた。

「イヨ、位置はバレてないよね?」

『それは、大丈夫なはず。まだ敵の探知圏内には入ってないし、気づいてたら動きでわかる』

 管制機は発見された瞬間、まず間違いなく敵の猛攻を受ける。

 ハルたちの動きを見る限り、気づいた様子はない。

 悪寒がした。 

 様子(、、)はない――?

 01は俺とチアのほかの二機に任せるかのように、距離をとった。

  

『――待ちくたびれたよ』


 とっさに叫んだ。

「イヨ! 見つかってるっ!」

01の移動速度が倍化した。

 この速さ――アフターブースト。

 網目状の市街地に突入。ビルとビルの隙間を速度を落とすことなくジグザクに駆ける。尋常ではない操縦技術。またたくまに俺とチアの後方へと抜けた。

 完全に安全地帯にいたはずのイヨの管制機〈ヴィント〉が、その正面にいた。

『うそでしょ』 

 イヨが全速後退、だが01に追いつかれる。

 マップ表示とステータスでイヨが攻撃を受けているのがわかった。もってくれ、と祈った瞬間、俺はリィハの02の位置に気づいた。そのときようやくハルの本当の狙いに気づいた。

 わずかに遅かった。

 後退した〈ヴィント〉が進入した大通りの先に、02がいた。

 02が狙撃砲を発砲。

 直後、〈ヴィント〉の耐久ゲージがゼロになった。

『ごめん、シルト――』


 << FRIENDLY DESTROYED >>


 最初に撃破されたのは、イヨの管制機だった。


『悪いな、これで三対二だ』

 ハルの声には冷徹な笑みが込められていた。

 ――そうか。

 最初からずっと、イヨの管制機の位置を探っていたのか。

 ジャマーの稼動範囲も稼動時間も有限だ。例えレーダーで探知できなくても、自機が視認できる範囲にいないことがわかれば、しだいにその位置を絞れてくる。

 ハルは、どこかの時点でそのおおよその位置をつかんでいた。

 そして確実に撃破するため、あえてすぐには攻撃を仕掛けてこなかった。戦況を見ながら頭のなかでイヨの位置取りをイメージし続け、その裏で味方機を静かに動かし、ここぞというタイミングで仕掛けてきた。

 流石だった。

 非常に“冴えた”戦い方だ。


 これで、三対二。


 いや、実質的な損害はそれ以上だ。

 出撃前、イヨが管制機で出るか最後まで迷った。

 単純な戦力増のために、イヨに猟機で出てもらう選択肢もあった。だが本来の適性を考えてイヨにはオペレーターで臨んでもらった。

 だがその実力を知っているからこそ、ハルは真っ先にイヨを潰してきた。

 次の狙いは、

 02が反転し、急加速。同時にチアと遠距離で消極的に撃ち合っていた03も動きを変えた。二機で前後からの挟撃。

「チア!」

 まずい。

 一対一の狙撃戦とはちがう。中・近距離で二機に囲まれたら、チアは確実にやられる。

 チアのもとへ向かおうと、アフターブーストの点火スイッチに指をかけた。

 だが、

『俺を忘れるなよ』

 ハルの〈テンツァー〉が、眼前に立ちはだかった。

 両手のハンドガンが火を吹く。

 シールドに衝撃。 

 最悪の状況だった。

 イヨを追ってきてたために、チアとの距離が開きすぎていた。俺と01が、チアたちの戦闘区域と分断されていた。

 ここまで計算していたのか。

 戦ってる時間はない。空中のレールを足場にして跳躍、空中で大きくスラスターを吹かしビルの陰へ入る。だが着地した瞬間、回りこんでいた01の姿を捉えた。すかさずハンドガンの弾幕が飛来。やむを得ず後退する。

 逃がさないか――

 チームメンバー機のステータスに視線を走らせる。

 チアの猟機の耐久ゲージが、みるみるうちに減少していく。02と03の攻撃を受けている。

 なぶり殺しだ。

 なまじ起きている光景が直接見えない分、それは生々しく無惨なものだった。

『た、たて――』

 チアの声は恐怖で裏返っていた。

 〈オクスタン〉の耐久ゲージが瞬く間にレッドゾーンに達する。

 防ぐ間もなく、それはゼロになった。

 撃破認定。

 戦果を確認した01がすかさず後退、02、03との合流を図る。俺はそれを妨害することもなく、目の前に歴然と提示された戦況を受け止めていた。


『――これで、三対一だ』


 ハルが言った。

 はっきりと、俺に言い聞かせるような言葉だった。

 それは言外に、降伏を促していた。

 まだやるつもりか、というハルの内心が聞こえてくるようだった。

 俺は操縦席でスティックを握り締めたまま、固まっていた。

 三対一、か。 

 ずいぶんと不利な状況に追い込まれた。しかも向こうはリィハ機以外はほぼノーダメージときている。個々の技量も非常に高い。

 本当なら、イヨとチア、三人全員で生き残って勝ちたかった。

 だがそれはもう適わないことだ。

 むしろ、ほぼ初心者といっていいチアがあそこまで戦ってくれたのは予想外だった。相手に一矢報いただけでも十分だ。ふたりとも、よくやってくれた。

 仕方ない――

 俺は小さく息を吐いた。

 そしてハルの間接的な降伏勧告に対しての、返答を口にした。   

  

「だから?」


 これから起きる戦いに、俺の心がうずいていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ