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アイゼン・イェーガー  作者: 来生直紀
EP03/ 禁断の交友
24/93

#23

長らく更新が止まってしまい、大変申し訳ございませんでした。

とりあえず、再開いたしました。


まだ、どれくらい読んでいただける方がいらっしゃるかはわかりませんが、

できる限りは続けていきたいと思っています。



では(一応)予告通りに、人妻が出るお話です。


※追記:これまでの各#ごとの長さを、一部分割して調整したりしていますが、内容に大きな変更はありません。実際の更新部分は、EP03(#23~)以降となります。



- EP03 あらすじ -

高校入学からはや三ヶ月が経つも、相変わらず非リアな学校生活を送る盾。

あるときひとりでアイゼン・イェーガーの世界にログインしていた盾は、ガイストに襲われていたプレイヤーを助ける。これもリア充になるための修行と考えた盾は、オーリーというその儚げな女性プレイヤーと密かに親しくなっていくのだが、楓やクリスにその関係を怪しまれ……。




「ねぇねぇ遠野くん、今日からついに大型アップデート解禁が公開だよ!」

 騒がしい昼休みの教室。

 席替えにより幸運にもゲットした窓際の席で、俺がいつもと変わらぬ平穏なぼっち飯を食らっていると、後ろから伊予森さんが姿を現した。

 その目がきらきらと輝いている。

 俺はとっさに周囲を確認してから、再度伊予森さんに顔を向けた。

「えっと……な、なんの話?」

「なにって、アイゼン・イェーガーのことだってば。追加フィールドとか色々。チェックしてなかったの?」

「あぁ、そういえば……」

 それ以外になにがあるのか、といった様子の伊予森さんに軽く気圧されながらも、俺は手早く弁当を片付けて携帯で公式サイトにアクセスしてみる。

 外ではあまり使わない空中投影のレーザーディスプレイを、伊予森さんと一緒に見るために出力する。

 サイトにはアップデート内容として新規フィールド、新規武装などが告知されている。さらに期間限定の大規模共同戦線イベントなども予定されていた。

「ねっ、はやく行きたいでしょ? 今日学校終わったあとは、どう?」

 うきうきわくわく、とその顔に書いてあった。

 俺は返事をためらってしまう。

 ふたたび、周りに視線をめぐらせた。

 最近、こうして伊予森さんと話をしていると、クラスメイトからの視線を感じるのだ。

 だが今日は不幸にも、無言のプレッシャーだけでは終わらなかった。

「――楓って、遠野くんと仲いいよね」

 近くの席で昼食を囲んでいた女子のひとりが言った。

 突然向けられた砲撃が、(主に)俺と伊予森さんを直撃した。

「もしかして……実は付き合ってるの?」

 !!?

 あまりの精神的衝撃に、身動きがとれない。

「ほ、ふぉ、ふぉっ」

「ちがう!」

 俺のバルタン星人的うめきをかき消し、伊予森さんが叫んだ。なにもそんなに大声で否定しなくても……。

「あやし~。だっていつもなんかこそこそ話してるじゃん」

「ね~」

「だ、だからそれは……」

 とてもじゃないが会話に加わる勇気のない俺は、伊予森さんがんばれ! と心のなかだけで応援する。

「と、遠野くんに勉強、教えてあげてるだけ……」

「いつも? わざわざ?」

「だから、その……それは」

 伊予森さんは言葉につまる。

 ねぇどうなのそこんとこ? YOU白状しなYO! といった感じの女子特有のかしましさに押され、伊予森さんが後退する。旗色悪し。

 俺は震えていた。これがリア充世界のコミュニケーションレベルか。

 女傑たちのニヤニヤ笑いに壁際まで追い詰められた伊予森さんは、やけっぱちに言い放った。


「だって、遠野くんばかだから!」

 

 唐突な静寂。

 教室にいたほかのクラスメイトも、いっせいに俺たちを見た。

 な、なんてことを……。

 叫んだ伊予森さん本人も耳まで赤くなっていた。大声を出してそれはそれは恥ずかしいことだろう。まあばかな俺はもっと恥ずかしいんですけどね。

 まあ実際、先日の中間試験では下から数えたほうが早い順位だったし。

「そうなの、遠野くん?」

「おっ、そぅ、っす」

 いつものようにスマートな返答をすると、女子たちに苦笑いされた。


 

 あのあと、伊予森さんに「ちょっと来て」と言われ、人気のない階段の踊り場まで連れてこれられた。

 なにかこう、カツアゲされそうな感じの雰囲気。

「きょ、今日は千円くらいしかなくて……」

「……なんのこと? それより、遠野くん。さっきはごめんね」

「え? いや、まあ、べつに……」

 まったくの嘘ではない。ときどき勉強を教えてもらっているのも事実であったし、実際、俺のような非リアの男子と伊予森さんみたいな華やかな女子が密やかに話をしているというのが特殊な状況であるという自覚はあった。

 罪悪感がこみ上げる。

「……あのさ、伊予森さん」

「なに?」

 さきほどのことを思い出していた。

 ああいう風にひやかされるのは、正直、好きじゃない。

 伊予森さんだって、気持ちよくはないだろう。だから俺は、思い切って口にした。

「教室じゃ、あんまり話さないほうが、いいかも」

「……どうして」

 伊予森さんの顔がくもる。

「ほら、伊予森さんに迷惑かなって。さっきみたいに誤解されて見られたりするし、そういうのは、いやだろうし、さ」

 俺のごもごもした言葉に、伊予森さんの眉がつり上がる。

「なに言ってるの?」

「え……」

「人の目なんか気にしてないってば。わたしが好きで話しかけてるんだから」

 あっさりと、伊予森さんは言った。

 それがあまりにも唐突で、俺はぽかんとしてしまう。

「好き、で……?」

「え?」

 数秒間、まじまじと、伊予森さんと見つめあう。

 先に沸騰したのは、伊予森さんだった。 


「そういう意味じゃな―――――――――――い!!!」

「し、知ってます!!」


 びびった。 

 二重の意味で、どきどきしてしまった。

 伊予森さんは紅潮した顔でなにかを言いかけ、しかしそれを飲み込んだような表情で、話を切り替えた。

「そ、それで本題だけど、今日も帰ったらすぐやるでしょ? 色々とアップデートされたの見てみたいし」

「そ、そうっすね……。あ、でも、それって」

「なに?」

「いや、あの……また、いつもみたく、ふた、ふたりで?」

「そうだけど……え?」

 俺と伊予森さんの、ふたりで。

 これまでに何度もあったその状況が、俺はなにかべつの意味を帯びているような気がしてしまった。

 また目が合ってしまい、あわてて逸らす。

「そ、そうだ! それじゃあ今日は、クリスちゃんも誘ってみる?」

「ああうんうん。い、いいんじゃない?」

「じゃ、じゃあ私が連絡しておくね」

 このぎこちなさはなんだろう。

 まるで俺のコミュ障が伊予森さんにまで移ってしまったかのようだった。

 

 

 なにやら浮ついた心地のまま授業が終わり、寄り道せずに帰宅した。

 すこしして、伊予森さんから電話がかかってきた。

「あ、クリス、来れないんだ?」

『なんか、今度ピアノの習い事でテストを受けるみたいで、練習しないといけないんだって。しばらくそれで忙しいみたい』

「へぇ、そうなんだ」

 習い事。自分には縁のない単語に、俺はふぬけた反応をするしかない。

 クリスも色々と大変のようだ。ゲームばかりやっているわけにもいかないだろう。

 じゃあ、やっぱり伊予森さんと二人でということか。

 と思ったが、

『あのね、それでなんだけど……実は……』

 伊予森さんはとても申し訳なさそうに、事情を話した。

『妹が学校で熱出しちゃって、早退してきたみたいで。ちょうど親も昨日から出かけてていないから、私が看病しないといけなくて』

「そう、なんだ……」

『ほんとごめんね』

「いや、ぜんぜん。気にしないで」

 なるべくさらっと言って、通話を切った。

 なんだかタイミングが悪いときは重なるものだ。

 クリスも伊予森さんもだめ。ほかには……いないな。

 誘う人が早々に尽きてしまった。

 自分の交友範囲の狭さを、改めて思い知る。

「みんな、色々あるよな……」

 それにしても、小学生より忙しくない高校生というのは、どうなのだろう。

 胸が痛くなってきた。

 おっと、まずいぞ。これは深く考えてはいけないことだ。やめておこう……。 

 俺は現実から目を背けながら、ひとりVHMDを装着し、アイゼン・イェーガーの世界にログインした。


 *


 街を歩きパーツショップをひやかしたあと、俺はドックに戻って自分の猟機を眺めていた。

 細身のフレーム。腰には右にレーザーソードの刀身、左にハンドガンを、背中には先日購入したシールドがマウントされている。

 シールド自体は申し分ない。

 ただ中距離に対応できるライフルを装備しておいたほうがいいかもしれない。

 レーザーソードもできれば強化したかった。

 だがなにをするにも、先立つものが必要だ。

 先日のあの“黒の竜”との戦いでほぼ全壊した機体の修理費で、なけなしの資金もジャンク素材も底をついてしまっていた。

 こういう貧乏プレイというのも初期の感覚だな、と懐かしい気分に浸っていたとき、俺はふと、とある青い刀身を持つソードを思い出した。

 『 RAIKIRI Type10 』

 それはかつて俺が使っていたロングレーザーソードの品名だ。ゲーム内に二つとない一品、それを製造したマイスターのことを思い出す。見た目はちんちくりな少女のアバターの彼女は、いまどこでなにをしているのだろうか?

 過去に思いをめぐらせながら、俺はべつのフィールドへ転移した。


 

 ウエストユーラシア第2031封鎖区域・クルシュ砂漠

 比較的難易度の低いフィールドで、資金稼ぎにジャンクパーツ集めでもするかとやってきた俺は、予想外の光景に遭遇した。

 だだっ広い荒野で、一機の白い猟機が、複数の敵に襲われている。

 飛行型のガイスト。

 白い猟機に随行する機体はない。チームではなく単独のようだ。

 あるいは、全滅した後か。

 たしかに敵の足は速い。

 飛行型の敵は照準が定めづらいのが難点だ。FCSの性能がある程度高ければ、偏差射撃補正に任せて撃ち落とすこともできるのだが。

 白い猟機はそれも望めないのか、手にはそれなりにまっとうな中距離ライフルを手にしながらも、敵から逃げる一方だ。

 どうしよう。

 見なかったことにするのは、たやすい。

 これまでも、そうしてきたことは何度もあった。基本的に、知らない人と会話したくないし接したくない。それがオンライン上であってもだ。

 だが、それでいいのだろうか。

 ずっとそのままで。なにも、変わらなくて。

 迷った末に、俺は、ペダルを踏みつけた。

 飛行ガイストは白い猟機を執拗に追尾している。俺はブースターを吹かして飛翔し、低空飛行していた一機に真上から乗り付けた。

 それを足場にしてさらに跳躍。踏みつけの衝撃で敵はふらふらと蛇行し墜落する。

 飛行型はその能力と引き換えに、耐久性は低いものが多い。攻撃を当てることさえできればそれほど火力は必要としない。

 俺はレーザーソードを振るってもう一機を両断。さらに落下しながらハンドガンを抜いてもう一機も撃墜した。

 逃げ惑っていた猟機が、ようやく停止する。

 なにが起きたかわからない様子で、周囲を確認していた。

 やがて猟機の頭部が、こちらを捉える。

『――――あ、あの。助けて、いただいたのでしょうか……?』

 オープンチャットで話しかけられた。

 まずい。 

 やっぱり、無視して逃げてしまおうか。

 いや、待て。リア充になるためには、きっとこういう他人とコミュニケーションを避けたがる性分から変えていかないといけないのかもしれない。

 それにこの前も伊予森さんに言われた。

 話しかける勇気がなければ、だれかと親しくなることなどできない、と。

怖がるな。

 見知らぬ人に話しかけることくらい、造作もないはず……!

『だ、大丈夫であり、ありまするか……?』

 緊張のためか、妙な言葉遣いになってしまう。

 くそっ、恥ずかしい。ああ、やっぱりやめときゃよかったかも……と早々に後悔しはじめていたところで、

『ええ、もちろんです』

 プレイヤーが猟機を降りてきた。

 ますます緊張してしまう。

 まとめられた長い髪が胸元に流れている。

 その女性アバターからは、しっとりと落ち着いた雰囲気がただよってきた。

 見知らぬ他人の視線に、ますます逃げ出したくなる。

 待て。だめだ。逃げるな。ここでびびってしまったら、なにも変えられない。

 俺も猟機を降りる。女性が近寄ってくる。

「あの……助けていただいて、ありがとうございました」

 彼女は丁寧に頭を下げて言った。

 視線を向けてプロフィールを閲覧する。

 アバターネームは、Aury と表示されていた。

「オーリーと言います」

「し、シルト、でェす……」

 声が裏返る。

 滑稽な俺に対して、オーリーは上品に微笑んだ。


 それが、彼女との出会いだった。



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