因縁との対面
そして……時来る。
展覧試合、本戦出場決定戦。
予選で戦ったシダト練兵場は、予選の時とは違う熱気と雰囲気に包まれていた。
現在、予選を勝ち抜いた8チームが、今日4チームだけが本戦への切符を手にして、神聖闘技場に足を踏み入れる事ができるのだ。
つまりは、この中から新たに展覧試合を制するチームが出てきてもおかしく無いのである。予選落ちした闘士達、はたまた出場こそしなかった控えの闘士たちに、内地の関係者までもが練兵場に詰め寄り、2階観覧席の埋まり様は、予選の時みたいな関係者や出場選手だけのがらんどうとは全く違った。
その練兵場正面入り口にて、マリス・メッツァーと、執事ニルギリが立ち。その後ろにTEAM PRIDEの面々が立ち並ぶ。
「じゃあ、行くわよ皆」
「「「「応っ」」」」
そうして一行が練兵場に入れば、気付いた観客や関係者がざわつきだした。全員が劣性召喚者の異質なるチーム、それが本戦出場決定戦まで来たとなれば、注目を浴びても仕方ない。しかし……。
「クソが、調子に乗りやがって」
「なに、今日負けておさらばさ、勝てるわけがない」
あからさまに聴こえて来る、歓待や応援と真逆の侮蔑。まぐれ勝ちだ、違法薬物なりスキルを隠しているのだと、好き放題に言ってくる。
「ヒールレスラーとはこんな感じなのだろうかな?」
「いや、観客ありきっすからね、それよりタチ悪いですよ河上さん」
さながら、プロレスにおけるヒールとはこんな感じなのだろうか?河上はどこ吹く風、むしろ新鮮味で良いなとニヤケ面を見せるが、神山はプロレス自体観客も理解してのヒールという役割なので、これは本心から来てると苦笑いした。
しかし、自分たちはそう、この戦場というか、大会……いや、世界から見れば正しく『悪役』だろうなと神山はふと納得せざるを得なかった。
本来ならば、やれクラスやスキルで戦うのが当たり前の場所に、格闘技やら武術やらを持ち出して上回り、蹂躙する。それは異星人の侵略と言っても差し支えないかもしれない。
悪態吐きたくもなるか、神山は少しばかり笑った。それを横目に見た中井は……。
「うわっ、気持ち悪っ、不気味に笑うなよ」
と、からかいと本心が混ざった言葉をぶつけた。
「あ、いやごめん……」
「え?あ、え?」
しかし神山、普通に謝る。一言くらい言い返すかと思った中井は、梯子を外された様にキョトンとしてしまった。
「いやね、ヒールってのもいいじゃないかとね、観客の下馬評裏切るのって、格闘技……いいや、競技全ての醍醐味で燃えない?そう思ったらさ、これから本戦までそれを俺たちがやるから楽しいじゃん」
そう神山の話に、中井は……ああと笑みが伝染った。成る程と、これから観客なりこの世界の召喚者に、とことん現実叩き込めるという快感が待っているわけかと、少しばかり曲解はあるが理解して笑った。
「な、る、ほ、ど……いいね、そう思ったら楽しくなってきた」
「だろ、中井くん?というわけで、また秒殺頼むぜ」
「りょーかい」
クスクス笑い合う神山と中井、それを見て顎に手を当て頷く河上。町田は愛も変わらず押し黙り、試合の時を待つ。
それらを引き連れたマリスが、ふと、歩みを止めた。
「あ……」
そして絞り出す様な声をあげた。
「ん?どした、マリスさん?」
マリスが立ち止まり、神山が彼女の視線を辿る。そこに立つ、ドレスを着飾り扇を閉じて持ち、マリスの銀髪と相対する金髪の令嬢が、これまた背後に闘士らしき青年達を引き連れ、にやついてこちらを見ていた。
「町田くん見なよ、悪役令嬢のテンプレが居るぞ」
「あ、あくやくれいじょう?」
「シンデレラの継母とか、そんな立場っぽいやつ」
「あ、はいはい……確かに」
悪役令嬢なる聞き馴染みない単語を町田が首を傾げ、例えを河上が出して理解する町田。中井に至っては何やらもう、視界にその女性を入れた瞬間眉間へ皺を寄せた。
「お知り合いですか、マリスさん」
神山が金髪令嬢を見てから止まったマリスに尋ねる。そしてマリスが、身体を震わせて唇をかみしめており、ニルギリも敵意の眼差しを彼女に向け、マリスの肩に手を置いて、守るかの様に左足が前に出ていた。
これだけ反応を統括すれば、ああ、因縁があるのかと理解もする。そして、自信に満ちた笑みを浮かべ、その令嬢は背後の闘士達を侍らし、こちらへ近づいて来た。
「ごきげんお久しゅうマリス、あれからどうかしら?」
「ミラ……」
唇を噛み、血が滲み出すマリスに神山は流石に目を見開いた。金髪令嬢、ミラという名前らしいが、マリスは彼女と余程の因縁があるらしい。
「一年振りね、当主たる貴方の父上が殺されて、抱えの闘士を私が買い叩いて外壁落ちしてから」
それを聞いた神山、TEAM PRIDE一同はそれぞれが反応を示した。神山はえっ、と口から出てマリスに首ごと視線を向け、中井は少し唸るがそうなのかと理解し、町田はなんととその話に押し黙りが解け、河上は成る程とばかりに頷く。
「悲しいわねぇ、お金があっても義理がないと貴女の元から去った闘士達が、今は貴女が新たに連れた闘士と戦うんだから」
「義理が無いのは事実よ、けど応えたわ……だから、私はこうしてここまで来たの」
身体をわなつかせるマリスに、話の流れを神山は掴みまとめ上げた。
つまり、このミラの後ろに居る闘士達は『元』マリス家抱えの闘士であり、一年前にこのミラが引き抜いた。
マリスは元は当主ではなく、父親が当主だったが殺された。そのまま当主となる筈が、ミラにより引き抜かれた挙句、外壁に落とされたというわけだ。
しかし……殺されていたのか、マリスの父親はと、神山は初めてそれを知った。
「それにしてはまぁ、お粗末な闘士達ねぇマリス?確か、全員劣性召喚者と聞いたけど、どうやって2回勝ったのかしら?」
それはさておき、ミラなる貴族令嬢はマリスの後ろに控えるTEAM PRIDEの面々に視線を一人一人に向け、扇を広げるや目元だけを見せ、口元を隠しながら笑う。
「あぁ、大会委員か相手チームに金なり渡したの?それとも体でも捧げたのかしら!」
口舌により斬られ、マリスの怒りに火がついた。自分が集めた、そしてついて来てくれた闘士達を蔑まれた事にだ。賄賂を疑われても良かろう、身体を売ったと蔑まれても良い。
しかし、マリスは神山達を馬鹿にされた事に声を荒げた。
「訂正なさい!彼らは実力で勝ち上がってーー」
と、ここでマリスの肩を誰かが叩いた。
「何よ!えーー」
後ろを振り向いた瞬間、マリスが、次いでマリスのそばに立つニルギリが驚いた。
自らの闘士達、TEAM PRIDEの面々が、全員表情を硬らせてミラを睨みつけたのである。
「ヒッーー」
その敵意、殺意に思わず後退りするミラに対して、出て来たのは神山と中井だった中井は早足にマリスの右を抜けるや、ミラのドレスの襟を両手で鷲掴みにした。
「きゃああ!」
そのまま、廊下の壁に叩きつけるや中井は思い切りミラを持ち上げた。襟首が閉まり、ミラの足が地を離れ、パタパタと必死にもがき始めた。
「ミラ様!貴様ぁ!」
背後に立っていた闘士の一人が、あまりの事態に思わず反応が遅れて剣を抜き放つ。しかし神山がすぐさま両腕を伸ばすや、左脇に剣を握る相手の右腕を挟み込み、頭を押さえ、身体を右に捻ると、勢いつけて床に叩きつけられた。
「よいしょ」
「げぁああ!?あ!がぁああ!」
そこから背中に膝を押し付け、背中を逸らせば、腕十字の形となり神山が相手を制する。
「遠山ぁ!!」
「くそ、お前らいい加減にーー」
主人と闘士の1人が拘束されて、残り3人のち2人が助けに入ろうとした矢先、神山と中井を超えた影が一つ。
そのまま音を立てて抜き放った刀身が、すでに2人の首に当てがわれていた。
「は、あ?」
「なんだよ、これ?」
「動くなよ?動けば……斬る」
闘士すらも見極めれぬ素早き抜刀にて、河上静太郎が2人を制した。対して、それを見た残り1人のミラの闘士は、この惨状を見て当主たるミラを、仲間を助ける事なく傍観していた。
「あが、ぎ、ああ」
「なぁおい、誰がお粗末だって?」
中井は宙吊りにした貴族のミラを睨みつけて見上げ、襟を掴む手に力を込める。既に頸動脈も締まり、気管も締まっている。窒息なり失神まで時間は無いだろう。
それでも中井は容赦無くミラを吊り上げて問いただした。
「あっちでも居たんだよ、テメェみてえな偉そうなクソ女がよ、クソみてぇな奴に腰振って偉くなった気なアマ、そんな奴は男諸共二度と普通に生活できなくしてやったよ」
「ひゅあが、や、やぅぇ、あ、あが」
「その口でもう一度さぁ、言ってみなよ?おそまつなとうし、ってさぁ?おら言えよ!行ってみろやオラァァ!」
試合も前にマリスの因縁がTEAM PRIDEに火をつけてしまった。マリスはやっと状況を飲み込め、はっと気を取り戻すと皆に一喝した。
「や、やめなさい貴方達!一ヶ月前も同じ事になーー」
その刹那だった、唯一傍観を決め込んでいたミラの闘士の内1人が、ニヤリと笑い腰を落とした。左右の腰に携えた剣の柄に手をかけ、抜き放つ。
「マリスさん危ない!!」
それに気付いて、町田がすぐさま前に出た。そして見た、河上を飛び越え、吊るされた主人にも目も暮れず、一目散にマリス目掛けて剣を振り上げる。
片方は透き通る水晶の如く、片方は鈍い黒に輝く剣がマリスに襲いかかる。それに対して町田が庇おうと前に立った。
受け流すか、間に合わん!
相打ちで攻撃、間合いの外!
もうひと踏み前に、体重が偏り遅い!
「ちいいっ!」
腕を交差して防御体制に入る町田、最悪両腕落とされても蹴り倒して反撃してやると、痛みに覚悟を決めた。
が、その刃は町田に届かなかった。町田の前を影が遮った。
「ニルギリさん!?」
両手を広げ、主人と闘士の盾にならんとしたニルギリ。
そして……。
金属のぶつかり合う音が聞こえた。




