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最終調整と届いた正装

 本戦出場決定戦2日前……TEAM PRIDEの面々は最終調整に入っていた。


 早朝の事……シダト王国は首都、ルテプ外壁の南東は富裕層の邸宅地域。神山真奈都、中井真也、町田恭二の三人は朝練のランニングを行っていた。


 オロチとの抗争を終え、いよいよ展覧試合を前に最高のコンディションを作り上げに向かう。


「ダッシュ!」


 神山の号令と共に、中井、町田も走り出す。ランニングアンドダッシュという、基礎トレーニング。格闘技においては体力、心肺機能強化、そして一瞬に力を出し切り相手を倒し切るタイミングを作り上げる。


 三人の足が地面を蹴り上げる。そして神山、町田が横並びになる中、中井は暫くしてペースが落ちた。


「はっ、はっ、はっ!はぁああ……っ!」


 ここに来て、中井真也の意外な弱点が露呈していた。それは『スタミナ』であった。


 オロチの首魁、翡翠との戦いにおいても酸欠を引き起こしていた中井。これは、神山や町田の様な、正式なアマチュア試合に出た経験が無く、流れ着くまでの戦績はほぼ路上であった事に起因する。


 技術、基礎体力はあるが、長期戦の経験が無かったのだ。路上での戦いは試合と全く違う、だからこ中井の戦いは秒殺が常になっていた。掴んで極めれば勝ち、敵に同じ土壌があまり居なかった事、そして同じ土壌だが中井のレベルが格段に上だったのもあるだろう。


「は、た、体力おばけめ」


「けど前よりしっかり付いてきているな、中井くん」


 手を膝に着いて、息を荒げる中井が、戻ってきた町田と神山に悪態を吐いた。町田も呼吸が早いが慣れがあるのだろう、このトレーニングを始めた時よりも距離は伸びていると中井を褒めた。


「うーし、後は戻ってから軽く流す感じにしよう、町田さん、後でスパ頼みます」


 神山が背伸びや腕を伸ばしたりしながら、邸宅に戻り流し練で今日は終わろうと提案する。


「しかし、もう一月経つのか、予選から」


 町田も息を整えながら歩き出し、そう神山に言うと、中井もまだ息を荒くするも歩き出した。


「早いですね、オロチとやりあったのもありますけど……まあ、練習して休んで食事してミーティングして、いつの間にかって感じですけど」


 現代の娯楽も無い分生活習慣が出来上がり、それをこなす形になっているからだろうか、はたまた時計が無いからかは知らない。あっという間に試合の近くまで時が経っていて中井は頷いた。


「これ勝ったら本戦でしたっけ、シード4組と予選組4組でトーナメントして……だからあと4回勝てば優勝か……まだるっこしいなぁ」


「さっさと拳神、高原と戦いたいみたいだね、神山くん?」


「えぇ、決着つけるために」


 神山に至っては、アマ時代の好敵手がこの馬鹿げた世界の、馬鹿げた国で国家戦力になっていると知り、やる気を出していた。トーナメントを勝ち上がったら戦ってやるなどと上から言われた感じに拳も握りしめている。


「で、河上さんは相変わらずですか、町田さん」


 と、ここで中井が息を整え終わり、町田に河上の事を尋ねた。


「いや、今日はバイクがあったし、流石に身体を動かしていると思うよ?」


「バイク手に入ってから、コハクドで遊ぶか東の風俗街かの二択で、全く練習してないですよね」


 河上静太郎は……三人の様に練習やトレーニングを一切行っていなかった。バイクとガソリンが手に入ってから、コハクドにできた女と遊ぶか、ポセイドンに入り浸るかの毎日。昼間はソファで酩酊しているか、ベランダ近くでウトついて、夜中にはエンジンを鳴らして朝に帰って来る、全く試合など知らぬと言わんばかりの日々を送っていた。


「あの人が、スポ根並みの練習する画は浮かばないんだよなぁ……」


「僕も、あんなの見せられたらもう、才能のみって感じだもん」


 一度は対峙した神山、中井からしても、オロチとの戦いで見た剣戟や予選の実力に、あの美丈夫な容姿からして、練習から程遠い才能の塊にしか思えなかった。




 やがて、歩いてマリス邸宅もとい、TEAM PRIDE本拠地に帰って来た神山達は、中庭で河上静太郎の姿を見かけた。ベランダからはマリスとニルギリが河上を見つめており、中庭のサンドバッグを括り付けた木を前にして立ち、左手には愛刀の鞘が握られている。


 柄を右手に掴み、引き抜いて木を眺めていると、若葉が一枚、揺蕩いながら落ちて来た。


 そして、凪いだ。


 横一閃。


 振り切られた刃が、木の葉を真っ二つに両断する。刃風でたなびく事もなく、宙で二つに切られた木の葉。


 さらに河上は、間髪入れず振り下ろせば、一枚の葉は四つに分断された。そのままゆらりと鞘に刀身を納め、河上は一息吐いた。


「……心配、無いみたいっすね」


「空中の若葉四つ切りとか、召喚者で出来るやつ居るの?てか、昔の剣豪もできんのかよ……」


 河上静太郎に、一切の曇り無し。本当、よくまぁ勝てたな自分、手を抜いてもらったのだなと神山が力無く笑い、あまりの芸当に中井も苦笑する。そうしていれば、気配に河上は振り返った。


「おはよう諸君、いい天気だな、朝練にはいい気温だ」


「河上は酔いつぶれてばかりだったろう、まるで毎朝練習しているみたいに言うな」


「手厳しいな町田くん」


 町田の悪態に河上は笑った。


「帰って来たわねマナト、練習前に一度中に入ってくれるかしら」


 そして、TEAM PRIDEのオーナー、雇い主のマリスが手を叩いて、一度屋敷に入って来る様に言うのだった。


 何だろうかと、神山以下、TEAM PRIDE一同はベランダで靴を脱いでリビングに上がる。そしてふと、神山達はニルギリが、せっせと何やら運んで来てソファに置いていた。


「あ、これって」


 中井は、それが何かとすぐに気付いた。


「えぇ、貴方達の試合用のど、ドウギ?ユニフォームが出来上がったの、サイズが合うか試着して頂戴」


「おぉ!なれば早速袖を通さねばな!」


 予選後に行った仕立て屋から、試合用の道着類が完成して届いたのだ。それこそ予選はほぼ私服で戦っていて、用意も糞も無かったが、いよいよやっと見繕う事ができる。河上はソファに置かれた自らのだと間違いない袴と道着を掴み、早速充てがわれた自室に走って行った。


 中井も、赤色の上着に鼠色の長ズボンと、注文した通りのカラーリングと、生地の確認をして感嘆した。


「すごいな、ちゃんとした生地だわ……」


「うむ、丈からなにまで現世の道着と遜色無い」


 町田も純白の上下を広げて頷いて、二人も試着をと部屋に向かった。


「俺は今のでいいから無いんだよねー、ここで待ちますか」


 神山は空いたソファに腰掛けて、三人が着替えるのを待つ事にした。それこそ神山は拳奴時代から使っている無地のハーフパンツの様なズボンをそのまま試合用ユニフォームとして使っていた為、特にマリスへ指定はしてなかった。


「マナト、貴方のもあるわよ」


「え?」


「セイタローから聞いたの、きっくぱんつ?かしら?作らせたわ」


 だが、マリスは神山のキックパンツまで作らせていた様だ。河上さんが言い出したらしいが、マリスはニルギリに目配せをすると、ニルギリは両手にそれを大切に持ち、神山に差し出した。


「これは……」


 神山は渡されたキックパンツを広げ、目を見開いた。


「着替えて来て、デザインは私とセイタローで考えたの」


 マリスに言われ、神山もまた自室へと向かった。




「まさか、この世界でこれに袖を通す日が来るなんてね」


 最初に出て来たのは中井真也であった。


 ズボンは鼠色の長ズボン、上着は赤色でさらに帯も赤色である。


 ちなみに、サンボは本来、下は半ズボンかつシューズを履くのだが、中井はサンボ以外にもブラジリアン柔術、グラップリングも扱う為、長ズボンにして柔術着に近い組み合わせにしていた。


「似合ってるわよシンヤ、着心地は?」


「違和感無いです」


 帯を引き締めて立つ中井に頷くマリスが、サイズ感や着心地を確認していると、奥からゆっくり町田恭二が現れる。


 伝統派空手着に身を包む町田恭二は、中井が見た瞬間におおと唸らせた。着慣れているとでも言うのか、新品なのだがまるで前からずっと使っている様に思える。


 それくらい自然な出立ちな中、中井は気づいた。


「町田さん、帯、もしかして現世の?」


「ん、ああ、御守りがわりにな、持ち歩いてたそれを締めたんだ」


 そう、帯だ。町田恭二の締めるそれは、正しく黒帯であった。しっかりと刺繍で『町田恭二』と縫われているが、何より何度も締めて所々禿げて白色が見えている。黒帯を締めてからも、毎日鍛錬していたのがそれだけでわかってしまう。


「おー、おー、やっぱり似合うねお二人さん」


 けらけらと笑って河上も歩み出て来た、そして中井と町田は、その出立ちに驚きを通り越して固まってしまった。


「おや、どうした二人とも?」


「あの、うん、河上さんまるで映画の俳優みたいです」


「なんだ?着慣れた感じはあるが、こう……役者みたいな感じというか」


 そう、河上静太郎は美丈夫の剣士である。それが剣術袴に剣術着と、さも侍の装いをしているのだ。むしろそれは、演劇やら映画の役者の様な雰囲気を醸し出してしまっていたのだ。


 薄命の美剣士、みたいな感じに見えて仕方ない。実力こそ本物だが、容姿故にまるでコスプレに見えて仕方ないのだ。


 しかして河上は、そうかそうかと笑みを見せるのだった。


 そして……神山が最後に来た。TEAM PRIDEの面々、なによりマリスまでもが、その出立ちに押し黙った。


「何?なにか言ってくれないかな?」


 キックパンツだけ渡された神山だったが、何と脱いで上半身裸でキックパンツという試合の出立ちでやってきたのだ、別にキックパンツだけでよかったのだが。


「いや、何故脱いだ?」


「逆に脱がないといけないだろう、キックパンツでこれが僕の装いだし」


 中井に顔を顰められた神山が胸を張り、胸板を見せつけて来る。裸族だったのかこいつと、中井は視線を逸らす中、マリスが赤面して言い放つ。


「もう、上着てきなさいな」


「そっすか……」


 マリスに指摘されて、神山は奥へ少ししょんぼりとしながら戻って行った。そして、マリスと河上のデザインしたキックパンツについては、神山がそんな出立ちで出てきたが為に、評される事は無かったのである。



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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正  振り切られた刃が、歯を真っ二つに両断する。 「えぇ、貴方達の試合用のど、 正  振り切られた刃が、葉を真っ二つに両断する。 えぇ、貴方達の試合用のと、 いつの間にか更…
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