四聖との会合と過去の強敵
「JYAAaaa!!」
開幕を飾ったのは神山の右ハイキックだった。それを掻い潜り翡翠は中井に向かうと、中井向けて剣の突きを放つ。
それを中井は左手に纏わせた鎖で弾いて逸らし、そのまま右のストレートを顔面に叩き込んだ。
「クソがぁ!」
鼻血を垂らしながらも横に剣を振るう翡翠に、中井が鎖を引き伸ばしそれで受け止め、巻きつける。
「離せやぁ!」
「おおわぁああ!?」
構わず引き抜こうとした翡翠により、中井が身体を引かれ膝を付くが、剣は鎖から離れなかった。
「えぇいしゃぁ!」
「がぉごっ!」
そしてガラ空きになった腹に、神山の鎖を纏った右ミドルが叩き込まれる。くの字に折れ曲がる翡翠の肉体、そしてふらり、ふらりと翡翠が後ろに下がり、ただ剣だけをこちらに向けて間合いを取ろうとして、神山と中井は目が合い、頷いた。
「JYAAAAAAaaaa!」
「Ураааааааа!!」
神山が放つ左のミドルキック、そして中井が放つ右のロシアンフックが、翡翠の得物たる剣を互いに挟み込みへし折り、刀身が真ん中から割れて宙に舞った。
「あぁああ!あぁ!?」
何度も剣を振る翡翠だったが、刀身が折られたのにやっと気付いた。それを見て神山がゆっくり近づき、左拳からトントン、と軽く翡翠の顔を小突いて距離を測りーー。
「シィィイヤッ!」
右ストレートで顎を打ち抜き、右に身体を捻り左ボディを叩き込み、最後は右のローキックで畳み掛ける。ヨーロピアン式キックボクシングのコンビネーション、それにより遂に片膝をつき血と涎が混ざった物を垂らす翡翠。
それを見た中井が、遂に勝負を仕掛けた。走り込み、翡翠に飛びついた瞬間。神山でも目に追い切れない速度で、翡翠を巻き込んで床に転がる。
仰向けにされた翡翠の背中側から、中井の右脹脛が首に巻きつき、右足首を左膝裏にて挟み込み完全に固定、翡翠の左腕が右脇に挟まれて伸ばされたそれは、説明するのも難しい状態だった。これだけで頸動脈、肩、肘の三箇所が極められているのだ。
変型グラウンドコブラ、いや、横三角締めか?足の締め付けに、肩と肘を固められ、ギリギリと力が加わっていく。
「はぁああぁああらぁああああしょぉおおおらぁあああああ!!」
雄叫びをあげて、小さな身体に秘めた全ての力を絞り上げて一気に締め上げる。蛇が、遂に獲物を拘束し、砕きにかかり……。
「ぎぎげっ!?」
聞こえた、骨の音だ。肘が、肩が、首が、剥がれた様なベリリという音が響いた。翡翠の身体から力が抜け、痙攣し、白目を剥いた。それを見ずとも力が抜けたのを感じた中井は足を外し、横に転がり大の字になった。
「はぁ、あぁくそ……手間取らせやがって……」
息も絶え絶えに、中井は呟いた。それを神山が覗き込み、手を差し出すが、そんな気力もないと首を横に振った。それを見た神山は、中井の横に座り、ふうと息を吐きながら、両手足に巻きつけた鎖を解き始める。
「しぶとかったな……翡翠、だっけか?」
そう声をかけた神山だったが、中井は息を切らして応答も出来なかった。鎖を解き終えた神山は、右膝を立てて右肘を乗せて、呼吸を整えると、入り口からゆっくりと足音が近づいてくるのが聞こえた。
そして、案の定現れたのは。町田恭二と河上静太郎だった。まるで何事もなかったと言わんばかりの町田、対して拾い物の黒革ジャケットやら素肌、髪の毛に返り血を浴びと悪役レスラーのデスマッチ後の様になっている河上。
「なんぞ、もう終わっていたか」
河上は遅れたかと残念そうに笑って、柄尻を叩いて血を落とし、鞘に刀をしまうと、倒れ伏す首魁と座りこんでいる神山に倒れた中井2人を見比べる
「助太刀も要らなかったみたいだな」
「町田さんこそ、雪辱は果たせたみたいで」
町田が歩み寄り、神山に手を差し出せば、無論神山は握り返して引き上げられ立ち上がる。中井もやっと息を整えたか上半身を起こしたので、町田が肩を差し出して立ち上がらせた。
「中井くん、随分やられたか?」
「結構ね、あちらこちらに叩きつけられたり、投げ飛ばされた」
「気持ち悪さは?」
「無いです、町田さん」
バックポジションからの耐久が中井のスタミナを奪っていた様だ、寝技は耐久戦になるとそれが辛いのだろうなと町田が背中を叩く。
「さ、倒したし……カイトと赤田に伝えるか、こっちの勝ちだってーー」
この抗争、勝ち鬨を上げるかと神山が言い出した瞬間。4人が確かに聞いたのは、呻き声であった。
神山達が振り返れば、そこには白目を戻して首が変な方向に向いた翡翠が、グロテスクにも首から音を鳴らして方向を戻しながら、外された左肩や左肘をぶらつかせ、立ち上がる姿があった。
「ま、て、やぁあ……まだ、俺は、オロチは……負けちゃいない、終わっちゃいないんだよぉ」
神山と中井は、二人揃ってマジかよと目を見開く。町田は中井の肩を支えたまま、執念深い敵の首魁を見つめ、河上は口端を吊り上げた。
「さよか、なら……延長戦はこの河上が相手しよう」
終わらないと吐かすならば、俺が幕引きをしてやる。河上が鍔を押し上げ柄に右手を掛ける。
「河上、さん……僕が……」
「無茶するな中井、休んでなさい」
因縁は最後まで蹴りをつけようと、町田の肩から中井が離れようとしたが、町田が胸板を押さえて落ち着けと諭す。
「下の輩では足らんかったのでな、お前はすぐに倒れてくれるなよ?」
下の十数人斬り殺してまだ足りんのかこの死に狂い剣士はと、神山、中井、町田がやはり引いた。そしてするりと刀身を鞘より抜いた刹那ーー。
ーー光が、空間を覆い尽くした。
「うおぁあ!?」
「うあっ!」
「くっ!?」
「むぅうう!!」
四人とも、その光に目を覆う、同時に強風まで吹き始めて服をたなびかせた。風が止み、静寂に包まれた空間で、TEAM PRIDE達は皆光を遮る手を退けて目を開く。
そこには、白い服を纏った、四人の青少年達が、翡翠の前に立っていた。
「は、は!間に合った!勝ちだ!俺の、オロチの勝ちだぁ!」
翡翠が声を上げる、いきなりの勝利宣言だった。
「テメェら最初から負けてたんだよ!四聖が来た以上、テメェらも、ポセイドンも、クライムも終わりだ!四聖、さっさと俺を助けろ!このエリアの防衛に来たんだろうが!」
四聖、カイトが話していた、姫の膝下。国家戦力の闘士が遂に現れたのだ、即ちこのコハクドと翡翠を守る為に。
タイムオーバーの宣告を受けたTEAM PRIDE。しかし、彼らは……。
来たか!とばかりに闘志をたぎらせていた。
神山はその場を飛び、両手をぶらつかせてから、小指より拳を握り構えを取ると、息を吐く。いつでも来やがれ、すでに腹は決まっていると笑みを見せる。
だが……事態は急展開を迎えた。四聖と翡翠に呼ばれた一人の、あどけない顔をした一番背の低い少年が、クスクス笑ってTEAM PRIDEに背を向けて翡翠に振り返ったのだ。
「翡翠さん、あんたの負けだよ、潔く降参しな?」
「あーー?」
その少年が翡翠の顔に手のひらを向け、その瞬間には翡翠の肉体が衝撃波により吹き飛び、壁面に叩きつけられ、壁に血が散乱した。
衝撃の強さから、背面か、はたまた後頭部を砕かれて血を撒き散らし、ずるりと壁から翡翠はずり落ちて、うつ伏せに倒れた。
数秒の出来事に、TEAM PRIDEの面々は硬直する。
「TEAM PRIDEの皆様、まず、我々はあなた方に敵意はありません、此度はこの件に関して、終息させる為に参りました」
二人目の青年は凛々しい、物語に出てきそうな青年だ。白い衣装の左腰にこれまたゲームに出てきそうな大層な剣を携えている。彼が、敵意は無く、話をしたいと言い出したのだ。
「私は四聖の一人、剣神、御剣玉鋼と申します……以後お見知り置きを」
四聖の一人が名を名乗る、それを聞いた瞬間。あ、これまずいなと神山は、河上を横目に見た。
河上がもう斬りかかりに行くのではと、心配したからだ。しかし、河上は抜いていた刀をゆっくり納刀して、腕を組んだ。
「それで、四聖が何用で?我々を治安維持の名目なりで退治しに来たのでは無いのか?」
町田が中井の肩を支えながら尋ねる、カイトの話なら、闘士街にて事が起これば、治安維持に四聖が動き鎮圧する事になっている。ならば自分たちを制圧しに来たのでは、それに対して御剣は答えた。
「いえ、我々は……翡翠の捕縛と、あなた方のこれ以上の闘いを止めるために来ました」
「何故だ、そもそも襲撃したのはこちらーー」
「翡翠が闘士街を仕切るに至らない、雑魚野郎だからでーす」
その話に割り込んできたのが、翡翠を弾き飛ばした小柄の少年だった。TEAM PRIDEの面々を、いや、全てを嘲る様な笑みで少年が嬉々として話し始めた。
「姫様はこの戦いを見て翡翠、以下オロチ達に闘士街の運営力とそれらを取り仕切る力無しとみなしましたー、よってこのコハクドはー、君達TEAM PRIDEが新たに取り仕切る様にとお達しになりましたー!よっ!おめでとう!ぱちぱちー!」
少年通り越してクソガキ味が見えるこの少年が拍手をしてから、ゆっくり頭をさげる。
「どうもTEAM PRIDEの皆様方、僕は四聖の一人、魔将の篠宮倉人って言います、シダト最強のアークメイジでーす!」
自ら最強の魔法使いを自負する篠宮、そしてその背後には2メートル越えの巨漢と、黒髪を逆立てた少年が居た。
「姫様はあなた方に、このコハクドの支配権、自治権を与えると申されました……これにて、この戦いを収めてくれればと」
御剣が話の続きを言うには、オロチとの一件はこれにて終いにする様にと、姫様は言われているらしい。
「オロチは?翡翠はどうなる?」
となれば、オロチのメンバーや翡翠はどうなるのかと、町田が御剣に尋ねると、御剣は即座に答えた。
「翡翠以下、オロチのメンバーは召喚者刑務所に収監致します、自治権を与えたとはいえ、他国、他民族の誘拐、禁止薬物の製造と擁護はできませんので」
「む、つまり利用されたか、我ら?」
刑務所があったのかと町田が頷いていると、河上が気付いた。その厄介な沙汰を俺達が制するまでこいつら待ってたのかと、負ければ鎮圧、勝てば翡翠を捕縛できてどちらに転ぼうが良しとなる図式を河上は見たのだ。
「どう思うかはあなた方次第ですよ……では、我々はこれより翡翠以下オロチの捕縛に参りますので……」
御剣は一礼すると、神山達の横を横切り出した。篠宮もスキップで横切り、巨漢は神山達を見下ろして歩き出し、そして最後の一人が横切った時ーー。
「あ?お前……高原泰二か?」
黒髪を逆立てた少年に、神山は尋ねた。
そして横で立ち止まり、神山に顔を向けた。
「神山……お前までこっちに来てたんだな?」.
「いや、それ俺の台詞、何?なんでお前、四聖なんてなってんのよ?」
「神山くん、知り合いかい?」
神山と話し始めた四聖の一人に、河上が知り合いなのかと尋ね、神山は言った。
「えぇ、こいつは高原泰二……俺のアマ時代に剛腕って呼び名で有名だった同期のアマチュアの一人ですよ……俺も一度ぶっ倒された相手です」




