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コトナルセカイ、オロチヲクラフハヨルムンガンド 中

 町田を置いて3人はオロチの居城たる廃ビルの外壁に剥き出しとなった非常階段を駆け上がった。鉄製の骨組みの階段を鳴らして駆け上がり、首魁たる逃げた翡翠の後を追う。


 そして次の階層へ辿り着き、中に入るや、再びその空間に中井達は目を凝らした。


「こっからは……ちゃんと整備されてるみたいだな」


 今や乱闘騒ぎとなった一階は資材が置かれ、2階の町田が任された階層は、ひび割れやらゴミが散乱して、正しく廃墟。しかしこの階層は打って変わって整備が行き届いている。


 磨かれた床に、シャンデリア。成金趣味なカーテンに、天井まで伸びた柱、悪趣味な壁紙のフロアに3人が踏み込むと、後ろの入ってきた入り口から音がした。河上が振り返れば、光り輝く透明な板が入り口を塞いでいた。


「塞いだらしい、自らの逃げ道を」


 不遜に笑いながら河上が言う、逃げ道を塞がれたのではない、自らの逃げ道を塞いだのだと中井と神山に向けて言った。そうしていると、確かに床を鳴らす音が響き渡った。


 3人が振り返れば、部屋の柱の影という影から、バンダナを口に巻きつけ、ギャングを気取る様な服装の男達が、鉄パイプやら資材を手に現れたのだ。


「また芸の無い、有象無象を集め……むっ?」


 河上が鞘から刀身を抜き放ち、中井と神山の前に陣取った。多人数の武器持ち相手となれば神山、中井では分が悪いと見た河上、しかしいざ前に立つや有象無象と評した者達の目を見て異質さに気付いた。


 皆、目が血走っている。息も荒い、なによりも額やら前腕の血管が浮き出ている。バンダナで遮られた口から涎を垂らしているのか、水滴が地に落ちていた。


「本当に鬱陶しい輩だなテメェらよぉ?」


 部屋の奥から声が響く、見れば翡翠がニヤつきながら右手に注射器を持ち、足元にはアンプルらしきガラス容器が幾つも散らばっていた。


「薬物……か?これまた凄まじい物が出てきたな?」


 薬物まで登場してくるとはと、河上が口端を吊り上げ笑う。血のついた注射針を舌で舐め取りながら、アンプルのひとつを踏みしめる翡翠、それに対して中井は顔をしかめた。


「こいつは特注でなぁ、現世のヤクにこっちの魔法薬品をブレンドさせた物だ、注入すりゃあ恐怖も痛みも感じなくなる、死ぬまで戦い続ける傀儡になんのよ」


「ぶっ飛んでんな、ヤクと魔法薬のブレンドとは……」


 神山が想像の範囲外の所業に呟いた。ジリジリと詰め寄る薬品により強化された構成員、これに神山が河上の横から出ようとするが……すらりと前に刀身が伸びてきて神山を止めた。


「神山くん、中井くん、2人であの首魁を仕留めて来い、有象無象は私が引き受ける」


 そう言い切った河上に、翡翠が舌打ちをするやまた奥の空間に歩き出した。それと同時に注射器を放り投げ……それが地面に落ちて割れた瞬間、薬品漬けの構成員達が一気に押し寄せてきた。


「左右からだ!行け!私が引きつける!!」


「はい!」


「うっす!」


 河上の号令を受けて、神山が左、中井が右の空間へと走り出す。そして河上は真正面よりオロチの構成員向かって突貫した。




 河上静太郎。


 生まれは、貿易会社の跡取り息子という恵まれた家に生を受ける。


 幼きより祖父と両親に、上流の人間として様々な芸術を与えられた青年。絵画、クラシック音楽、美食、近代芸術、演劇、様々な物を幼少から与えられて育ってきた。


 その青年が魅力されたのは。


 『日本刀』そして。


 『剣術』である。


 ガラスの向こうに飾られた刀身に魅入られたそれは、まるで妖刀に操られたかの如く。彼は祖父や両親に甘えて、様々な刀剣の書物に目を通し、鍛冶場にも自ら足を運んで刀剣が作られる様を目に焼きつけた。


 小学生となると彼は剣道着に身を包む。


 それからはひたすらに稽古の毎日。


 手の豆を潰して血を流し、床に汗の池を作り、両親も祖父も大変心配する程、彼は毎日鍛錬に勤しんだ。しかし、鍛錬だけではなかった。彼は師範代達から、流派に関しての様々なルーツや歴史を聞き、調べ上げ、自ら書物にしてまとめあげる程に入れ込んでいた。


 中学生となり、手元に握りし木刀が、腰元に鞘を携え、真剣の稽古を始める事となり、静太郎は祖父と父に頼んだ。


『館の敷地内に、道場を作りたい』


 祖父と父、母親も笑ってその願いに応えた。


 こうして河上静太郎は、家の財産を利用して、自らの館の敷地に道場を建てた。自分だけの剣術道場である。『河上剣術会館』とまで名前を付けた。


 静太郎はその後、自ら全国各地の古流剣術家の継承者、師範代に頭を下げに行き、館に招いてマンツーマンでの指導を受け、その傍らでそれぞれの流派の話を書にまとめながら、消えゆく流派の為には『文化財保存』を名目に館内にミュージアムを作り、様々な値も付けられない古書や道具を彼らから預かり保管していた。


 ーーやがて、高校生となったある日。


 ひっそりと、確かに、日本剣道、剣術界に『ある噂』が流れた。


 ーー剣の道を行く者、向こう数十年の剣道、剣術の天下一を諦めよ。


 剣術界に河上静太郎の名あり。


 彼の者、数多の流派を体得せし天賦の才を持ち。


 彼の者、未だに成長する若木なり。


 彼の者、剣に狂いし剣鬼なり。


 数多の流派の者が断言す。


 河上静太郎の上に剣士無く。


 河上静太郎に並ぶ剣士無し。


 河上静太郎の下に、全ての剣士がある。


 努、忘れるなかれ。


 それでも天下の剣を目指すなら。


 河上静太郎が床に伏すまで待つ他無し。


 河上静太郎。


『現代最強の剣客』なり。




 そんな事など翡翠は知らぬ、知るはずも無い。たかだか一人の剣士が、劣性の、職業も能力も持たない劣性召喚者の剣士が、薬品により強化された召喚者の集団に相対する。


 馬鹿めと翡翠は振り返る最中ほくそ笑んだ、ぐちゃぐちゃの肉片になってしまえと。しかし、襲いかかった薬漬けの構成員達が、河上静太郎の眼前に到達するや、胴から首や足が離れて、断面から血を噴き出す様を、翡翠は少し振り返って見てしまったのである。


「ヒュォオァアアアア!!」


 振り抜いた刀身から血の線が宙を巡る。


 構成員は幸いだった、痛みも感じず、恐怖も感じる事無く、白刃が通り抜ければ命を散らして死に逝けるのだから。


 その叫びに中井と神山は光景を目に入れて、恐々とした。


 走る最中に聞こえた猿叫と、その中心で嬉々として剣を振るう、我らがTEAM PRIDEの剣士。


 予選で戦う様を見た、一度手を合わせて生き残った、捨て身でなんとか倒せた二人が、改めて河上静太郎の強さを認識する事になる。町田恭二が、紹介する時にも言っていたか。


『この世界の剣士を全て集めても、河上静太郎には勝てない』


 それを改めて二人は理解してしまったのである。そのまま合流して翡翠が消えた奥の部屋に入る最中、二人は言った。


「なぁ中井」


「なにさ」


「僕ら、やっぱり手を抜かれてたんだな」


「だろうね」


 お互い、河上と一戦交えた同士だが、やはり手を抜かれていたのだろうかと、後ろで行われているゴア映画の如き赤色の散乱から目を背け、二人は翡翠を追った。


「また階段かよ!」


 その先にあった鉄製の階段に神山が、いい加減飽きたぞと言いたげに叫んだ。神山を他所に中井が駆け上がり、神山もそれに続く。


 そしてその先は……またも空間があった。一階、二階がコンクリート剥き出しで、三階が大理石。


 四階は……現代の材質か?名前が分からないなと神山が床に目を向ければ、紋章が描かれていた。


 頭が八つの蛇、八岐大蛇。無頼闘士連合オロチが旗印。部屋の奥には金髪をガシガシと掻き回し、整えたツーブロックを乱す翡翠が握るは、中々の分厚さと大きさの、ロングソード。


「中井ぃ……テメェほんと、どこまで邪魔しやがる」


 中井に問いかける翡翠は、呆れやら怒りやら、諸々混ざりに混ざった顔をしていた。


「何様のつもりだよ、あぁ?ヒーローでも気取ってんのかよ、テメェはよぉ……」


 翡翠の話に中井は……何も喋らなかった。神山からすれば、話の内容が分からない、だからこのまま聴き続ける他なかった。


「楽しいかよ、なぁ楽しいかよ!人様の人生奪っておいて!?テメェがオレ達を嬲る権利があんのかよ!!」


 嬲る、と聞いて神山は前に立つ中井の背中を見た。現世でヤンキー狩りをしていたらしい中井、しかしその内容は端でしか聞いていない……が、壮絶だった事は何となく分かる。


 しかし『嬲る』という単語が出てしまう程なのかと、神山は中井の言葉を待った。




 中井真也は……現世を思い出していた。


 英和田町という、自分が流れ着く前に住んでいた関西のとある町だ。


 その町を一言で表すなら……。


『悪の巣窟』とでも言うべきか。


 港町という荒くれ者と、昔から根を張るヤクザ、博徒、テキ屋の町で。昔から、英和田の町に生まれたら、良くて港町の工場勤め、悪い奴らはチンピラかヤクザにしかなれない、そんな町だったらしい。


 若いうちから酒にタバコに非行に走り、無免許でバイクに跨りそのバイクは何処から盗んだやら。馬鹿をして事故死をしようとも、親ですら呆れて何も言わずに、やがて卒業したらヤクザから迎えが来る。


 しかし、平成から始まった開発と暴対法により、ヤクザが力を失うや、開発に乗じて半グレやらギャングやらが勢力を上げていった。


 そうして開発され、綺麗な街並みと昔情緒が残る裏側では、川底の汚濁が如く闇が覗く。それが、彼の流れ着いた町であった。


 その町で、彼もまた『闇』に踏み入ってしまった。


 オロチも、その一つでしかない。


 始まりも朧げだが、対峙する理由は明確だったなと、中井は思い出した。


「あるな、権利」


 中井は、さも当たり前であるとばかりに翡翠へ言ってのけた。


「始まりがどうだったかは忘れたが……僕も眠い夜中に、馬鹿みたいに音を鳴らされたら寝れないし、黙らす理由にしては十分だったよ」


 そして腕を組みながら翡翠に話続ける。


「て言うか何さ、今更あんた被害者ぶってるわけ?あんたも、僕も所詮は同じ悪、どチンピラもいいとこだろうに、看板借りてヤク捌いて、ヤー公に尻尾振って、挙句には私兵に使われて壊滅されたら世話ないわな……」


 ひとしきり言い終わり、中井は組んだ腕を解いて左手を伸ばして指先を曲げて挑発する。


「来い、そしてこの世界でもう一度、お前の全てを壊してやる」


 それを聞いた翡翠は、ザリザリと床に剣を引きずりながら歩き始めーー。


「ぶっ殺す!」


「安直な台詞だなぁ!」


 互いに走り出し、遂に接敵する。


 乱雑なチンピラの喧嘩とばかりに、剣を横なぎに振るった翡翠。それをダッキングで掻い潜り、早速襟を掴んだ中井が右の拳を思い切り鼻柱に叩きつける。


 音が鳴り、静止する2人。そしてニヤリと笑った翡翠が、潰れ鼻のまま襟首を掴むや、額を中井の顔面に叩きつけた。


 線を描いて吹き出す中井の血液、そしてのけぞりながらも中井はギロリと翡翠を睨み返し。


「Ураааааааа!!」


「がぁあああああ!!」


 互いに頭蓋骨をぶつけ合い出した、頭突き合戦と共に飛び散る血液、二度、三度とぶつけ合い、四度目とともに互いは後ろによろけ、睨み合った。


         TEAM PRIDE 先鋒

          

        中井真也 (コマンドサンボ)


            VS

      

       無頼闘士連合オロチ総長


          翡翠(喧嘩)


         Are You Ready?


           FIGHT!!


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正 河上と一戦交えた同士だがわやはり手を抜かれていたのだろうかと、 正 河上と一戦交えた同士だがやはり手を抜かれていたのだろうかと、 よろしくお願いします。 ああっ神山くん相手…
[一言] 河上さんも剣術界ではものすごくもちあげられていたんですね。マジで河上さんのドキュメンタリーの企画とかあったりして。中井くん自分を悪と言っちゃうんだ。まあ外道な事はやってたから自覚はあるんだろ…
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