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コトナルセカイ、オロチヲクラフハヨルムンガンド 上

 中井の号令と共に、お互いが遂に激突する。その最前線は勿論、中井真也。迫り来るオロチの構成員が奮う拳を走りながらも避け、剣の横凪ぎを屈んで回避して、奥に逃げようとしている翡翠の背中を捉えた。


 しかし、オロチの構成員の雪崩が塞ぐ!追いつけない!


「中井!こっちだ!来い!!」


 その最中、神山が中井を追い越しながらすぐさま振り返り両手を組み、飛び台となる事を選択した。その声に答えて走り出し、しかと左足で神山の組んだ手を踏みしめた。


「行って、こぉぉおおおい!!」


 踏みしめた足に対して、神山がタイミングを合わせて両手を振り上げ中井を投げ飛ばした。ドンピシャにタイミングが取れた跳躍が、オロチの構成員の壁を飛び越え、その先にいる翡翠の上空を捉えた!


「翡翠ぃいぃいいいい!!」


 拳を振りかぶり叫びを上げながら中井が翡翠の後頭部目掛け振り下ろす最中、翡翠がそれに気づいて腕を上げた。


 鈍い音が鳴り響く、右腕に阻まれた中井の右拳が、それでも二の腕にめり込み痛みを響かせる。着地する中井、振り返ってしまった翡翠の目と目が合った。


「らぁあぁあああ!!」


「うぐぇああ!?」


 打ち付けた右拳を開いて襟首を掴み、中井が翡翠向けて左のボディブローを放った。二発、三発と続け様に放ち、そのまま左腕を弓の様に引いて顔面へと振り下ろす。


 頭部が横に思い切り捩れて、骨の音が響く。打撃は専門ではない中井でも、意識が途切れたと思われたクリーンヒットだった。


 しかしーー。


「クソがぁぉあ!」


「おぐっ!」


 踏み抜く様な、突き刺す様な蹴りが中井の身体をくの字に折り曲げて、服から手を離させ後ろへと吹き飛ばした。床を転がるもすぐさま立ち上がる中井の目には、すでに逃げ果せて階段へと向かった翡翠の姿があった。


「待て翡すーーッッう」


 追いかけようとした瞬間、腹部に打撃を受けて、独特な遅れてくるダメージに中井は冷や汗を流した。腹筋を固めてなかったのもあるが、体が浮き上がる凄まじい威力だったのだ。


 優性召喚者、職業、能力、そんな言葉が中井の頭によぎりながらも、足に力をこめて立ち上がり、中井は階段向かって走り出した。


「中井だけ先に行ったか!いかな一人ではマズくないか?」


「しかしこの乱戦よ、手を焼くぞ」


 その様子を乱戦の最中見ていた町田は、目の前の一人の顔面に正拳を叩き込み沈め、近場の河上に声を上げた。河上は手持ち無沙汰に刀を手の内で振りながら、目の前の入り乱れた壁を眺めていた。中井一人で敵の本拠地の深部へ向かった、あまりにも危険だとわかる、しかしてそう簡単に辿り着けないと二人して歯痒さを感じた。


「なら俺が道を作る、ここはポセイドンとクライムに任せて貰おう」


 そこで、カイトは緩やかに歩きながら杖を地面に一突きした瞬間。TEAM PRIDEを火の魔法から守った白色半透明の壁が現れた。


「組み上がれ」


 カイトが二度、杖で地面を突く。そして半透明な壁が、小さな正六面体に分離しながら、くっつき、そして半透明なガラスの橋が、奥にまで渡された。しかも、それはまるで何処かの街の古い情緒ある橋の様相をしていた。


「これは……」


「カイトのユニークスキル、思い出創り(メモリークラフト)だ、カイトは現世の思い出をこうして組み上げる事が出来る、ポセイドンもカイトが建てたんだ」


「即興だとすぐ崩れる、さっさと渡れ二人とも」


 そうして促され、河上も町田も橋への斜面を駆けた。半透明ながら、足底に感じる確かな質感に少しだけ町田は奇妙さを感じながらも、中井が消えた奥の階段への橋を渡った。


「ん?おい見ろ町田くん、下、下」


「うん?うぉお!?」


 と、河上が何やら見つけて下を指差したので、透けて見えた真下に目を向けると。


「うぉおぁあぁあ!トニー・ジャァアアアアーー!!」


 神山が叫び声を上げながら、オロチの構成員の肩やら頭やらを踏みつけ、人波を渡っていたのである。正しくトニー・ジャーの如くアクションを決める様子には、普段平静な町田も閉口せざるを得なかった。


 ようやるわと思いながら町田と河上が橋を渡り切ると同時に神山も人並みから飛翔して、転がって勢いを殺して無事に着地した。


「よっ、神山くん」


「あれ!河上さん後ろに、えっ!?何あれすげぇ!!」


「いや、キミのスタント顔負けアクションのが凄いよ」


 河上が先程まで後ろにいた事から、やっと半透明な橋に気付いた神山に、町田がそっちのが凄いわと言ってしまう。ともかくTEAM PRIDE全員がオロチの本拠地の奥地、階上向かう階段前に集まれたのだった。


「雑魚散らしはポセイドンとクライムがやるだと、こっちはさっさと翡翠とやらの首を斬り落としに行くぞ」


 鯉口を鳴らし階段に走り出した河上に、町田と神山も追従する。それを見届けたカイトが、杖を一鳴らし床に打ち付ければ、橋はガラスのように割れて宙空にて消え去った。


「あいっかわらず、ナルシズムなスキルだな、細田」


 その傍らで砕けた橋を眺めていた赤田が、爪先を床に擦り付けながら呟けば、サングラスを外してポケットに入れて、杖を肩に掲げた。


「お前の性格よりはマシだ、未だに王様になろうとしてんのか、赤田」


「悪い?向こうの世界じゃ陰キャだったんだ、こっちくらい夢見ていいだろう?」


「その夢見てたら殴られて醒めさせられたんじゃなかったか?」


「まぁね、でもまだ夢見てる、頼ってくる奴居るからさ、叶えたいんだよ」


 互いに横並びになりながら、赤田はゆっくり先に歩き出し、左右に体を揺らし始めた。カイトはそれを見て杖をくるくると、まるでバトントワリングの様に弄ぶ様に回して、乱闘の渦へと入っていった。



「中井くん、先走ってまぁ、大丈夫だろうか」


「彼って結構激情家なのかねぇ、因縁かは知らないが」


 中井の後を追い、他のTEAM PRIDE面々は階段を駆け上がる。廃ビルの階段は正しく現世のそれで、途中には階層の境目を示す数字のプラ板があったが傾いていたり、蛍光灯の破片も散らばっていた。そのまま神山達は二階へと駆け上がり、光が照らす空間に出た。


「中井!居るか!?」


 神山がいの一番に空間へ出ると、その瞬間、神山の視界に飛んでくる背中が見えた。


「おぉあああ!?」


「むっ!!」


「おっとぉ!?」


 神山の胴体にぶつかり、足が後退しタタラを踏んだ。それを町田と河上が補助して背中を押さえれば、そこには息を切らした中井が居た。


「どうしたぁ中井、えらく苦戦してるな」


「うるさい」


 神山が笑みを浮かべて何があったよと尋ねる。悪態を吐く中井の向こう側で、サイドキックを放ったらしい、ツーブロックの黒髪の男が、蹴りを放った右足を片足立ちのままゆっくり、見せつける様に天井まで開脚してこちらを見た。


 神山と町田が、その男の姿に息を呑む。雨中の襲撃にて町田と対峙した、名も知らぬジークンドー使いの男がそこに居たのだ。


「これはこれは、TEAM PRIDE勢揃いで来るとはね?」


「誰だい?彼?」


「俺たち襲撃してきた輩の、リーダー格っぽい奴ですよ、河上さん……」


「町田さんが対峙した輩ですか、通りで鬱陶しいわけだ」


 中井が神山の身体から離れて、口元を拭い、地面に唾を吐いた。血が混ざった唾が床を汚し、中井は気が立って仕方ない様で、また名も知らぬジークンドー使いに向かおうとしていた。


「待ちなよ中井くん」


 そんな中井の肩を掴む者が一人。


「何ですか町田さん?」


「僕がやる、キミは翡翠を追うといい」


 町田恭二である、町田は中々に強く中井の肩を掴んで引き寄せて、中井の前に立った。町田は、両手首を左右片方ずつぐりぐりと回して、ジークンドー使いの前に立つ。


「あー、やっぱ根に持ってます?町田さん、二、三発殴られたの」


 神山は、最初の接敵時に劣勢に立たされていた事を根に持っているのだろうかと尋ねれば、首を捻り神山に言った。


「借りは返したいものでね、というわけだ、河上、神山くん、中井くん、先に行きなさい」


 そう言って町田が、ジークンドー使いへゆっくり歩み寄っていく。中井は翡翠が逃げた方向を知っているらしい、フロアを回り込む様に走り出し、ジークンドー使いの背後にある非常階段へ向かえば、神山と河上もそれに追従した。


「あ?なに、もしかして無視して通してやるとでも思ってんのかよ!」


 しかし、ジークンドー使いの男がこのフロアから抜け出そうとした中井達を通さぬと、目を光らせた瞬間だった。


 緑色の、まるで何かしらの気か、魔法を帯びた残像が出るほどのスピードで、回り込もうとした中井達の前に回り込んできたのだ。


「うぉおあ!?何だそれ!阿修羅◯空かよ!?」


 超スピード移動に神山が思わず声を上げる、回り込まれた中井は舌打ちをしつつも、すでにジークンドー使いの右足が抱えられ、蹴りを放とうとしていた。


 しかしーー。


「遅いな、ブルース・リー気取り」


「あーー?」


 その横から左の拳が、ジークンドー使いの右頬にめり込み、肉体が宙に浮いた。


「エェイシャアア!」


「ぐぉはぁ!?」


 気合い一閃、床を転がるジークンドー使い、その傍らには左手をしかと伸ばして拳を放った町田恭二が前屈立ちで立っていた。


 ビュバッ!と左拳を引いて腰元に置き、右手を前に出して残心する町田に、中井は呆気に取られ、神山は目を光らせた。


「で、出たぁぁああ!町田さんの弾丸飛び込み突きぃ!!スッゲーキレと間合いだよマジで!!」


「無駄足踏むな中井くん、ここは任せろ」


「うっす、すいません町田さん」


 神山のミーハーを聞き流し、中井は会釈して奥の非常階段へ向かった。神山も慌てて中井の背中を追うと、河上も付いていく最中、町田を一瞥して左手を上げた。


「さっさとぶっ倒して来い、町田」


「無論」


 差し出された左手に、左手を上げて強く叩きつけ音を鳴らした。


 倒れたジークンドー使いを見下ろし、町田はすう、と一息を吸い上げると、その場を飛翔し。


「チィェリャアアアアア!!」


 倒れ伏す相手に拳を突き立てんと振り下ろせば、ジークンドー使いは横に転がり、着地した町田の顔面に素早く蹴りを放つ!


 スパァアンッ!と軽い音が鳴り響き、ジークンドー使いの足の甲は、町田の前腕に遮られ、顔面には届かなかった。


 それでは終わらないと、遮られた右足を引いて再び地を蹴り、ジークンドー使いは連続で蹴りを放つ。右、右、右と腕を蹴り続けて、最後は押し込む様なサイドキックを放てば町田との距離を空けて、ステップを踏み着地した。


「ほんっと、うざったい奴だねキミさぁ?僕に一発どころか何発も入れやがって」


「あぁ、あまりに遅いのでな……スロー過ぎて欠伸が出る」


 ステップを踏むジークンドー使いを前に、町田はジリリと地面を踏みしめ、腰を軽く落としながら左手を前に伸ばした。


「名乗れブルース・リー、いやジャン・リー気取り、町田恭二がお前を倒す前にーー」


 現実の流派の開祖から、それに及ばずと架空のキャラクターに格落ちさせて挑発する町田に、ジークンドー使いはいよいよ歯を軋ませながらも笑った。


「女が下着見せつけながら戦う格ゲーキャラの男キャラ扱いすんじゃあねぇよ、上等じゃん……条忍圭志、オロチの特攻隊長だ、吐いた唾ぁ飲むなよコラァアア!!」


 ジャン・リー気取りのジークンドー使い、そして無頼闘士連合オロチの特攻隊長、条忍圭志はいよいよ持って火をつけられた町田恭二に、再び残像を残す踏み込みからの左拳を放った。


 が、その刹那。条忍の左手は既に軌道が斜め上にズレ、左脇腹に衝撃が伝わっていた。


「え、はかぁっ!?」


 条忍の左拳、前腕を町田の左前腕が受け流し、それと同時に右の縦拳が脇腹にめり込み、踏み込んだ前足を次の瞬間には町田の右下段回し蹴りが、膝裏を捉えて打ち払い着地を許さなかった。


 景色が二転、三転する最中、タタラを踏む条忍の視界に、天に掲げられた町田の右足が見えて、その踵が眼前に迫ってきてやっと条忍はそれを何とか腕をクロスさせて阻む事ができた。


 相手の左拳に上段揚げ受けからの、右縦拳突き。さらに足払い気味の下段回し蹴りから、余裕を見せつけるかの様に、右踵落とし。


 踵落としから足を抜き放ちバックステップして、残心する町田が、ステップを踏みながら右手親指で鼻を拭うふりをしつつ左手の人差し指を、クイクイと動かした。


「さっさと来い、少しは楽しませろジャッキー・ブライアント気取り」


「誰がバーチャファイターだこらぁあああ!!」


 条忍の怒りの咆哮が、オロチの本拠地に響き渡った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正 「雑魚散らしはポセイドンとプラウドがやるだと、こっちはさっさと翡翠とやらの首を斬り落としに行くぞ」 「あいっかわらず、ナルシズムなスキルだな、細川」 正 「雑魚散らしはポセイ…
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