さあ、戦争を始めよう 下
白き壁が炎を防ぎ霧散させて、透過して消えていく。何事かとTEAM PRIDEの面々が、声が聞こえた背後を見た。そこには、杖の持ち手をかざし、右手の甲と持ち手の宝石から光を放つ、銀髪にサングラスの男が立っていた。
「カイト!来たのか!?」
河上が声を上げた。オロチと敵対するルテプのグループの長、カイトがそこに立っていた。カイトは杖先をカンっと地面に突き鳴らせば、奥にて見える翡翠をサングラスをずらして睨みつけた。
「元々俺たちの喧嘩だからな、静観したかったが、まさか本当に向かうとも思ってなかった……引っ張られた形だが来たぜ?」
そう言うと、扉から続々と同じ白をベースに海の波を模様とした衣装を着込んだ、ポセイドンの店員達が続々と流れ込んできた。皆が皆化粧をしているあたり、ビジュアル系バンドメンバーの集合にも思わせられてしまう。
「ちっ!ポセイドンのクソどもが、数だけで対等になったとーー」
「翡翠イィイイイ!!」
数だけ集めやがってと宣う最中、その声は翡翠の横から響いた。積まれた資材の上を飛び交い、跳躍した人影が、翡翠目掛けて飛び掛かり足を振り下ろす。
面を食らいながら翡翠は腕で防御して、人影は落下すると同時にバク転、バック宙と距離を取り、そのミリタリーロングコートをこれ見よがしに翻して、TEAM PRIDEの前に降り立つ。
「赤田さん!?つーことはクライムまで来たんっすか!!」
同じくオロチと敵対関係にあり、シダト国転覆を狙うレジスタンスの長、神山と対峙したカポエラ使いの赤田正次の参上に、神山が声を上げた。
その返答とばかりに、入り口ではない破壊された窓枠から、次々と同じミリタリーファッションの少年達が、資材の上を飛び交い、翡翠達オロチ達を見下ろしていた。
「全くだ……このまま両陣営共倒れを見ておけばよかったのだがな、いよいよ本気でオロチの首を取れると見たから……甘い汁を吸いに来ただけよ」
「心配だから助けにいくと言ったのは赤田だ」
「細田!言うなボケ!」
理由の嘘をカイトから即座に暴かれて、声を荒げる赤田が、三歩下がって列に加わった。
「翡翠、これは予想できたか……まさかいきなり本拠地に全員来るとは思わなかったか?俺もだ、来る気は無かったが……引っ張られた」
カイトはサングラスを外して胸ポケットにしまいながら、翡翠に言葉を投げつける。
「しかしだ、テメェが現地の女を、召喚された女達を攫って働かせている事実、邪魔してきたが今日で終わりにしよう……」
続いて赤田が手首を捻りながら音を鳴らして言い放つ。
「本当の召喚者の自由の為、オロチにはその国の為の礎となってもらうよ」
TEAM PRIDEの独断先行に引きつけられ、チームが合流した。
劣性召喚者でありながら、優性召喚者と互角以上に渡り合う格闘家、武道家チーム『TEAM PRIDE』
この世界で傷付いた女性を守る為、海の神を名前の店の元に集まった召喚者グループ『ポセイドン』
そして、劣性故に虐げられる召喚者の自由を勝ち取る為、国家転覆を狙うレジスタンス『クライム・ボーイズ』
三つの集団の連合軍を前にした翡翠、そして『無頼闘士連合オロチ』達は、苛立ちを募らせた。
「ふざけてんのか、テメェらよぉ?あぁ?勝てると思ってんのか!!」
翡翠は苛立ちをいよいよ爆発させて、啖呵を切り出した。
「テメェらの大半が職業も技能も持たねぇこの世界じゃあクズ以下の存在が、俺たち優性相手にやりあえんのかよ!!」
翡翠は笑みを浮かべながら啖呵を切り続けた。
「寄せ集め如きに何ができる!知らねぇのか、この街を貰ってから俺のバックにはなぁ、国が付いてんだよ!国から俺は認められてんだ!略奪も簒奪も殺戮も自由を与えられてんだ!!」
いよいよ翡翠は背後関係まで語り出した。オロチの行い全ては、国が、シダト国が認めた合法であると、悪はそこにないとまで宣い出した。
「それだけじゃねぇ、テメェら糞どもの動きを察知した中央が、いずれ国家最強戦力闘士の『四聖』もここに送ってくるだろうよ!テメェらが俺たちに勝つなんざ万に一つもありぇねぇんだよダボがぁあ!!」
翡翠は、そこまでTEAM PRIDE以下連合軍に、言い切ってから、すぅと息を吸って宣告した。
「テメェらに残された道は二つだ」
「俺たちに媚び諂って生きるか!全てを明け渡して逃げるか!」
「劣性召喚者と外壁落ちの召喚者の有象無象に何ができるか」
「よーく考えて決めろや、あぁ!?」
『服従』か『逃走』か。
翡翠から与えられた二つの選択肢、それを聞いた中井真也は……背後を見た。
相手の背後に屯すは、加護と力を与えられた者達。
僕達の背中には、与えられなかった者達と、与えられながらこちらに立つ者達。
そして僕達は……与えられなかった者達だ。
この世界は残酷だ。
与えられた力の有無で全てが決まってしまう。それは、紛れも無い事実だ。僕達は所謂、搾取される側であり、家畜に等しいのだろう。
そして何より、敵は最早この国である。
ただの悪党ではない、権力を持ち、力を持ち、何より背後には国が控えていた。
即ち、負けは見えているのだ。最初から勝ちの無い戦いであるらしい……。
だがしかし……それとは別に目の前のこの輩には腹が立って仕方ない。権力を傘に、力を行使し、思い通りがままとするこの輩を……僕も、横に並ぶ皆も、背中に立つ人々も許さないだろう。
僕はゆっくりとそいつに歩み寄り……。
「ぶげぁあああ!?」
丁重に、顔面を足底で蹴り抜いてやった。
「答えはこれだ、チンピラ共」
それを聞いた神山も、町田も、河上も……その背後に立つ男達も。
皆が蹴り倒されたチンピラの背後で立つ男達を睨み付ける。
「来いよ真正面から、お前らチンピラ召喚者に何ができるか、教えて貰おうじゃないか?」
それは、僕たちがひたすらに拳を振るった日々の話。この世界で加護も異能も与えられなかった僕たちと、そんな何もかも持った奴らとの、血で血を洗う抗争劇。
「そして、三年後の翡翠……3年前と同じ、あの時と同じ言葉をもう一度、お前に言わせてもらう」
僕は両手を大きく広げ、オロチの面々に、背中に居る皆に向けて、言い放った。
「Давайначнемвойну」
以後、この国でも大事件として記録された、召喚者同士の戦争じみた抗争劇。
『優劣戦争』と名付けられた抗争が切って落とされた。
そして、僕は一度神山を見てから、すうっと一息を吸い込んで言い放つ。
「行くぞぉ!テメェらぁあああああああああ!!」
「あー!?俺言いたかったのに!!」
神山が前に、チンピラ集団の時に上げた狼煙を僕は奪い去った。それと同時に、神山が驚きながらも号令に合わせて走り出し、町田も、河上も、ポセイドンも、クライム・ボーイズもオロチに向かって突撃したのだった。




