闘士街コハクドと、混沌たる世界
「おれのこえが、きーこえるかー」
「このいのりがーきこえるかー」
「まけるまえに、にーげるのかー」
「じっといきを、こーろすのかー」
「ゆめをすてて、いーきるならー」
「たたかわずに、いーきるならー」
「「おまえはもう、死ーんでいるー」」
「るっさいなぁ!もう!振り落とすよ神山くん!河上さんもコーラス乗るなよ!」
塗装されていない、されど幾度と馬車やらが通り出来ただろう異世界の夜の街道を、ライトが照らし、喧しい音を立てて2台のバイクが行く。中井が運転する後ろで神山が口ずさむものだから、もう一台の運転をする河上はそれに乗じてコーラス部分を担当、なんとも世紀末チックな歌を二人で歌い上げていた。
「えー、ダメか?世紀末なバイク乗ってるし、合うかと思ったんだけど」
「イヤうるさい、只々うるさいんだよ、バイクのエンジン音吹かしても聞こえるって結構な声だよ」
「ふむ、では曲を変えようか」
「河上さん?曲じゃないんだけど、河上さん!?」
風に吹かれ、駆け抜けながら横並びに運転する河上が喉を鳴らして、違う曲を歌おうとした。
「はっはっ!バカサバイバー、生きのコレコレ!」
「バカサバイバー!Baby……」
「なんでウル◯ルズ……」
河上らしからぬ曲のチョイスに霹靂しながらも、中井は左手でシフトレバーを握り、左つま先でギアペダルを上げ、シフトレバーを離してアクセルを捻り、そのまま横並びの河上と町田のバイクから更に前を走れば、河上もまたアクセルを捻り、中井、神山組に追い付く。
「しかし……剣が出てきて、魔法が出てきたと思ったらバイクまで出てくるとはな、ほんと、この世界は馬鹿げているな」
神山は跨るバイクに対して、何よりこの世界の有様の混沌にため息を吐きながら中井にそう言った。剣と魔法のファンタジーに、まさかの世紀末改造バイクが現れたのだ、この混沌具合の馬鹿馬鹿しさに、神山は頭が痛くなりそうだった。
「ファンタジー名乗りながらバイク出て来たり、マシンガンやらロボ兵器まで出てくるゲームもあるんだ、これくらい許容したら?」
対して中井は、一例を出して許容しろと、慣れろと神谷に言う。それを聞いた神山は成る程なと、納得せざるを得なかった、あれも確かに途中から機械やら出て来たなと。
「ファイナルの方か、言われてみたら……因みに中井は?」
「は?何が?」
「ファイナル派かドラゴン派か?」
「どっちもやった、神山は?」
「ドラゴン派、町田さんは!」
「何がだ!」
「ファイナル派かドラゴン派か!」
「ゲームはした事ない!」
「河上さんは?」
「ウィザードリィとグランディア」
「渋っ!?」
「ジャスティンとフィーナが船で語り合うセーブデータ、まだそのままにしてあるぞ」
それぞれの青春を彩ったゲームの端話、この世界もそんな世界が具現化した様な世界なのだろう。混ざりに混ざった世界で、なんとも不安定な事か。そんな世界の道をバイクで疾走し、自分達に刃を向けて来た輩と戦いに行く所なのだが、なんとも意気揚々なものであった。
「それにしてもだ、彼らは来なかったか」
その話を遮る様に、河上の後ろに乗っていた町田が、最早見えない背後のルテプ方角を見ながら呟いた。結局、ポセイドンも、クライムボーイズも来る気配が無い。
「足ないんじゃない?それか走ってくるとか」
「戦国時代じゃねぇんだぞ中井、バイクがあるし、車ぐらい持ってんじゃね?ていうか魔法でひとっ飛びとか、そんな道具でもあったり……しねぇか?」
「ありそうだな……どうする、それ使われて先に来てたら?」
「恥ずかしいやつだな、それ」
中井と神山は、二人して来ないのだろうと思いつつも、もし来たら来たで、常識外の移動手段にて先回りしているのではなかろうかなどとも考えた。それで先に到着していたら、それはそれは恥ずかしいなと神山は少しばかり笑った。
「ははっ、今から組織潰しに行く人間の会話じゃねぇや」
「違いない」
今から命懸けの戦いをしに行くのに、何とまぁ穏やかな会話の雰囲気だなと神山が中井に伝えれば、中井はクスリと笑った。そうしていれば、いよいよ街道を抜けた。
その先に広がる景色を見て、TEAM PRIDEの面々は、改めてこの世界の混沌たる凄まじさを目にすることとなった。
「おい、待て……あれ、あれがコハクドか!?」
中井の後ろに搭乗していた神山が、先に見えた街の様相を見るやそう言い放った。その異常さ、異質さに、中井が緩やかにバイクのブレーキをかけて、ギアをニュートラルに戻して停車する。
河上、町田組の車両も同じだった。中井はキーを回しエンジンを切ると、スタンドを下ろしてバイクから降りて、神山もそれに続く。河上も町田もバイクから降りて、全員が横並びに彼方に見ゆるオロチの本拠地『コハクド』を見た。
「何と……これはたまげたな」
町田が感嘆の声を漏らし、彼方の街の『光』を見て目を細める。久しく見ていない懐かしい輝きに、手を目の前にかざした。
「たまげたじゃない、何だよあれ、いや待った……カイトさんも機材動かしてたし、予想できる範疇だったんだ」
しかし、中井はカイトが、ポセイドンにて様々な機材を使っていたという事実を思い出し、街の有様があり得ないと断ずる事は出来なかった。
「いよいよ何でもありになって来たな、次は空中庭園でも出すか?地下都市とかもありそうだ、下手したら時代劇まで出て来そうだぞ?」
河上ですら怪訝な表情で、街を見つめる。そして抜けて来た街道を見てから、また街に首を向け、顎に手を置いてこの混沌を受け入れようとしたが、やはり河上ですらついていけない様だ。
四人が彼方に見た街、オロチの本拠地コハクド。そこは、シダト国の首都、ルテプの暗がりとは真反対の、人工の光により照らされていたのだった。
そう、コハクドには『電気』があったのだ。炎の灯りとは違う、目を焼きそうな光に照らされた街を前に、TEAM PRIDEの面々はしばらく立ち尽くした。
「あ、あのさ、俺今気づいた」
その最中だった、神山が皆に気付いた事実を伝える。何だ、どうしたと中井が、町田が、河上が神山に目線を送ると、神山は地面を指差して言った。
「地面が塗装されてる、アスファルトだ」
「あ……」
神山の言葉に、皆足元を見た。そして目にしてしまった、アスファルトに塗装された地面がそこにあった。ここでやっと、TEAM PRIDE一行はあたりの景色の変化を目の当たりにして、気付いたのである。
ルテプからここまでの街道は、さながら中世の馬車が踏み鳴らした轍の道だ。それがいきなり、アメリカの荒野の思わせる道になっている。くっきりと別れてしまっているのだ。
そこから早かったのが河上静太郎だった。河上は、ルテプ方角の道へと小走りに戻り、左、右と見て顔を怪訝に歪ませた。
「どうした河上、何かあったのか」
河上の行動からして、何かを見つけたのだろうと理解した町田が河上に近づいて尋ねる。神山も、中井も町田に追従して河上が何か気づいたのか聞く事にした。
「見ろ、この街道と道路の境目、そして左右……」
河上が先程まで走っていた街道、そしてアスファルトの境目を指差して、そのまま左右を見てみろと示す。神山達は言われるがままに見て、河上が言わんとしている事を理解しようとした。
「え、綺麗過ぎじゃない?まるで定規で引いたみたいにーー」
一番最初にたどり着いたのは中井だった。自らが発した台詞にはっと気づいて、目の前の街道と広がる木々、そして背後のコハクドに繋がる道路を見て実感を得た。
「あぁ、まるで適当に作った街みたいだな、方眼紙みたいにきっちり、アフリカの国境並みに真っ直ぐに途切れていて、繋がっている」
「うわ本当だ!気持ち悪ッ!!」
神山も改めて河上に説明されて、その奇妙な境界線に後退りした。町田は、その境界線を見ながら、ふと足元にある小石を見つけた、樹々生い茂る街道へ蹴り入れた。するとどうだ、石はその境界線から消え去ってしまったのだ。
それを見て町田はさらに、街道側の土を境界線を超えて踏み締め、アスファルト側に引きずってみた。土の線が引かれるどころか、全くアスファルトに土色が付着しない。背後のバイクにも、林道を走り抜けた土が付いている筈が、全く無いのだ。
「ここ……コハクド側とルテプ側で、次元が違うのかもしれない……というか、こんなツギハギばかりの世界かもしれないな、この世界は」
町田が、河上が口にしていた『多次元宇宙』の話から、この馬鹿げた世界は、様々な場所やら次元を、適当に繋ぎ合わせた世界なのかもしれないなと、町田は足を持ち上げて靴の裏を皆に見せれば、全く泥が付着していないのを見せた。
皆が町田の靴裏を見る中、神山はポケットから手帳とペンを取り出し、この事態と事実を記帳し始めた。
「何してんの?」
「メモだよ、この世界に流れ着いてからずっとしてるんだ、訳のわからねー事、分かった事とか……アマチュアの時も練習内容やらメモしてて、癖でな」
中井は神山がペンを走らせるメモを覗き込めば……中々綺麗な字で書かれているのを見て、意外だなと呟いた。
「さて、この辺にしてだ……行くか」
来て早々、この馬鹿げた世界の、真実の断片を垣間見た一同。しかし、今の目的はそうではない。暗がりの荒野を眩しく照らす街、コハクド。敵対の意思を見せた闘士の集団がその街に居るのだ。河上の号令を持ってして、TEAM PRIDEの面々は再びバイクに跨り、コハクドへ走り出した。




