199xからの贈り物
「少人数の奇襲……勝てる見込みはあるのか?」
河上による早急なる決着として、奇襲を提案されたカイトは怪訝な顔で河上を見た。それに対して河上静太郎は、策があるとか、勝つ見込みはどうだとか、その辺りから話すのだろうなと誰もが思っていた。
「ああ、河上静太郎が、私がこちらに居る、ならば勝てるに決まっているさ」
その台詞で、神山も中井も町田も、カイトから赤田まで全員がずっこけた。
「な、何ですかその!俺一人が居るから勝てるって傲慢さと自信!?どこからその自信が出てるんですか!!」
これには中井が幾ら何でも酷すぎると声を荒げた。町田は河上はそんな奴なのだと、この発言が本気である事に諦めの溜息を吐いた。
「しかしてそれは真実よ、お前達とて優性だの能力持ちだのに負ける気も、チンピラ風情に負けてやる気も皆無であろう?」
そして皆の心中をこの優男にして剣狂いは見事に貫いてみせた。なんとまぁ凄まじい場所を言の葉で突いてくるのか、河上静太郎という男は。相手がいかな能力を持とうが、ましてやチンピラ集団なぞに屈服など毛頭からする気などない、それが全員の抱えている腹の内であるとそれを燻らせてくる。
「ポセイドンも、クライムとやらも、オロチとは今の今まで小競り合いしかしていない、となればこのタイミングで本気の奇襲を掛けてくるなどという考え、あ奴らには毛頭なかろうよ、全戦力を持って……彼奴らを奇襲して打ち砕く、二人の懸念する四聖とやらが来る前に、首魁を討ち取りに行けば良い」
そして河上は続けた、今でこそ小競り合いが続いて互いに慣れすらできている、そしてオロチはまさか、こちらが真正面から襲撃に来るなどとは思ってもいないだろう。だからこそ今、この時に奇襲を掛けるべきなのだと。そしてコハクドとやらへ、四聖が来る前に全てを終わらせればいいと。
言う事は容易いものだ、河上の強気な話は鼓舞をしてくる。
「セイタロー……本気で行く気?」
「止めるかなご主人?」
その話を遮ったのは、TEAM PRIDEの雇用主であり主人、マリスであった。マリスは河上の前に立ち彼を見上げて訪ねたのだ、本気で戦う気なのかと。対して河上は、止める気かと笑みを見せた。その綺麗な目がしばらく河上を見つめてから、マリスは他の面々に目線を配る。
一度戦いを終わらせたとは言え……実は皆燃え足りないとばかりに疼ついている。それがマリスにも分かってしまう。先程の話で、マリスはTEAM PRIDEがオロチと戦うのを止めた。
展覧試合出場の件もあるが、何よりもマリスが懸念しているのは、彼らと『四聖』との接触だった。先程話した中で、来る輩を迎え撃つまでは考えていたマリス、此方から先手を掛ける気も、向かわせる気も全く無かった。
だが……マリスは何となしに理解していた、言って止まる者達ではないと。多分ここで、自分が『行くな』と止めても、明日には部屋に居ないだろうと。
しかし、今からずっと、展覧試合中もオロチの妨害が来るならば、放って置くわけにもいかない。自分の目的は展覧試合にて勝ち進み、優勝を掴み取る事である。マリスは、ふうと息を吐いて口を開いた。
「マナト、シンヤ、キョウジ、セイタロー……本気で行く気なら……私から言える事は一つよ?勝ちなさい、勝ったやつが正しいのがシダトの絶対の掟なの、ただ勝ってしまえば何事も全て私達が正しいという事になる……その気があるなら私は止めない、行ってきなさい」
主人からの命令に、TEAM PRIDEの面子は皆目を輝かせた。
なんとも単純で、分かりやすい命令だろうか。行くなら勝ってこい、シンプルで力強い命令に、河上は勢いよく鼻息をして、カイトと赤田に振り返った。
「と、いうわけだご両人、我々TEAM PRIDE、今よりオロチと戦争をしかける故、その気があるやつだけ来るといい」
河上はそれだけ言って、ポセイドンの出入り口に向かった。神山も歩き出し、中井もポケットから水色のベレー帽を被り出してその後に続き、町田も少しばかり棒立ちになっていたが、やがてはその足で三人の背中を追った。
「赤田よ、どうする?お前の言う好機とやらでないか?オロチを潰せるぞ?」
「馬鹿言うな、勝てやしない、勝てるものか……有象無象はどうにかできても、本来の優性連中じゃあ負ける」
対して、本来なら敵対している集団を束ねる長二人、頭を抱えて呆れ果て、互いに毒を吐きながらも、向かわせた主人の少女に視線を向けた。
「なぁマリスさん、あんた曲がりなりにも雇い主だろ、この世界の……力の差くらい理解してますよね?」
結局止めなかった彼らの主人、マリスに赤田は食ってかかる。馬鹿なことをしたなと、負けが見えているだろうと。対してそれを銀髪の令嬢は、すんなり言い返した。
「理解も何も、それを含めて私は彼らと契約したの、彼らなら、優性の召喚者との差なんて無いような物とね」
マリスはそう言いながら杖先でコツコツ床を突いて鳴らしつつ、カイトと赤田に体を向けた。
「私も、殺された父のそばで闘士を見てきたわ、いずれ家を継いで、展覧試合に参じる為に……何より貴方の様な、向こうの世界で技を使う方々も知っている」
マリスに赤田は話し続ける。
「ブドー、カクトーギ、この世界には無い力の形、優性召喚者の中に使う人が居ても、クラスとスキルの前に捨て去った力、それが優性召喚者を倒せる唯一の力なの、貴方の足もそうでしょ?」
マリスは赤田に向けて柔らかな笑みを向けて、赤田に宣うのだった。
「それに、自分の所の闘士が負けるなんて思う雇い主なんていないでしょ?マナト達は必ず勝つの、私が雇った闘士が負けるわけないもの」
お花畑なのか、確たる自信なのかマリスは二人に笑ってみせた。赤田はその理論に苦笑したが顔を見せない様に首を捻り、カイトはサングラスの下で白い目を見せた。
「つーかさ、今から行くの河上さん」
「何だ、神山くんは誰か別れを言う女でも居るのか?」
「居ないですけど、中井は?」
「いや僕に振る?それこそ、町田さんはフェディカさんに別れは?」
「帰ってくるからいらんだろう」
「強気だなぁ、町田さん」
もう夜の帳が落ちそうな、そんなシダトの東の境界線で神山達は並びながらポセイドンから出て来つつ、各々言葉を交わした。今からすぐに、オロチの本拠地を叩きに行くと言った割に、雰囲気は柔らかだった。
「て言うか、コハクドまでどう行くのさ、まさか歩き?」
その最中、中井はそもそも件の街までいかにして向かうのかを河上に問いかけた。よもや歩く気かと尋ねると、河上はクスクス笑って答えた。
「何を馬鹿な、移動手段なら馬車なり呼べばいいさ、金ならあるし、大枚叩いてでも向かわせる、正門の馬車小屋まで行くぞ」
河上が言うには馬車を使うらしい、しかしだ、こんな夜中に出してくれるのだろうかと考えながら神山が歩いていると、ふとある事が気になったのだ。
「あれ!?つーかあいつらここまでどうやって来たんだ!!」
そう、先程叩きのめして簀巻きにしたオロチの輩は、どうやってここに来たのか?そもそも、このルテプ内の構成員なのかすらも聞いていなかった、聞き出しておくべきだったが今更戻って聞くのも、何だか格好がつかないと、神山は今になって頭を抱えるのだった。
「知らん、とりあえず行くぞ、明日の朝にはもう首魁を討ち取ってやらねば」
そんな事知るかと河上は意気揚々と、足を動かすので、神山達もとりあえずそれは考えない事にした……のだが。
その数十分後、神山達も、更には河上ですらも想像を絶する光景に頭が真白にされてしまうのだった。
ルテプ正門は、未だに開けられている。門番たる衛兵も居ないのは、ルテプの外壁側への警備が疎かで、内壁の優性召喚者達へ割いているからだろう。TEAM PRIDE面々は、馬車小屋から馬車を借りる気で居たのだが……。
「いやいや……」
その正門前にあった『それら』を前にして、神山真奈都は呆れた笑いを上げながら唸った。
「いや、無いよね、あり得ない、つーか現世より趣味悪い」
中井真也は『それら』の姿形に見覚えがあり、そして現世の物よりも趣味が悪いと評して頭を掻いた。
「この世界、ファンタジーだよな、中世とかの……一気に時代進んだぞ、進みすぎて世紀末だ」
町田恭二は時代考証からしてこの世界に『それら』が存在してはなら無いと腕を組みながら目を細めた、何より時代を先取りして、荒廃した世界を思い浮かべた。
「愛で空が落ちて来そうなバイクにバギーだな」
そして河上静太郎が、臆面無くそれらの正式名称を口にするのだった。
そう、TEAM PRIDE達の目の前、正門近くに停められて居たのは……自動二輪車、つまりバイクに、自動車だった。しかも、凄まじい改造が施されていた。ヤン車、族車を通り越した、199X年に核戦争が起きた世界から飛び出て来たバイクやバギー達だった。
色々と言いたい事はある。この世界、石油燃料出回っているのかだとか、態々こんな改造している意味はとか……こんなものが出回っていながら何故、ファンタジーの世界から抜け出ていないのか。
神山はそれらのバイク達を眺めながら、それらを確認する様に歩き出す。どこの会社の、どのバイクかという原型すら見当たらない改造が施されているバイク達、ガソリンタンクも凹みや傷があるし、ハンドルもノーマルなんて無い。
しかし、足は足だ、これなら馬車に揺られて何日間など必要無かろう。神山は、とりあえず停めてあったバイクに跨った。キーは差しっぱなしなあたり、防犯意識もクソもない。
「神山くん、バイク乗れるのか?」
跨る神山を見て町田は尋ねた。それに対し、神山はニヤニヤと笑って答えた。
「無いけど簡単だろ?キー回して、エンジン掛けて、アクセル開ける、これ使ってコハクドまで行こうぜ」
そうして神山は鍵を回して、それによりフロントライトにバックライトが灯った。そして神山は……。
「……あれ?エンジン掛からない?おい、壊れてるのか?」
そこから何もできなかった、それを見て河上は口元を押さえて笑いを堪え、町田もまた首を傾げながらバイクに近づいた。神山はガソリンタンクを叩いたり、アクセルを回したりとする中、町田が神山を覗き込んだ。
「キーちゃんと回した?」
「回しましたよ、あれ、逆?」
町田の一言をもってして、河上は腹を押さえ震え出す。その瞬間……。3人の耳に喧しいエンジン音が響き渡った。
エンジン音の鳴り響く先では、中井がバイクの一つに跨り、アクセルを空吹かししてハンドルを握っている。それを見た神山と町田に、中井は冷たい目を向けるのだった。
「バイクはキー回したら、セルでスタートするかキックスタートするんだよ、車と違うんだから……」
「中井くん、バイク乗ってたの?」
中井に、バイク乗っていたのかと河上が尋ねれば、中井は皆から視線を外してスタンドを払いながら言う。
「鬱陶しい珍走団の友達気取りが、免許取れ取れツーリングしようって煩くてね、黙らす為に取った。で、どうする?誰か後ろ乗る?それとも今から普通自動二輪免許取りに行く?」
「いや、絶対自分で運転してやる!中井、エンジンの掛け方教えろ!」
中井の煽る様な言葉を聞いた神山は、カチンと来たのか神山は絶対自分が運転してコハクドまで行くと言い出した。それを聞いた町田が、絶対危ないだろうなとあからさまな危険を感じて、神山から離れた。
「はい、じゃあセルスイッチ押して、そしたらエンジン点くから」
「セルスイッチ?どこ!?」
「右ハンドル側のそれ」
「これか!」
中井の指示で神山がセルスイッチを押した、キュルキュルと音を立てて、やがてエンジンが掛かり喧しい音を立てる。
「よーしよし、次は!」
「左のレバー握りしめて、クラッチレバー」
「あ?これブレーキじゃねぇの?」
「クラッチ、ちなみにブレーキは右のレバーと、右足のペダルがそう、じゃあクラッチ握って、」
普通自動二輪の講習が行われている中、河上と町田は、絶対何かやらかすなと神山の背中を注視し続ける。
「クラッチ握ったら?」
「今ニュートラルだから、左足のギアペダル踏んで一速に入れて」
と、ここで河上が町田を更に離れる様にと肩を引っ張った。いまの中井の説明から河上は、中井がわざと説明を抜いた部分がある事に気づいたのだった。それを神山には報せず、神山は言われた通りに一速へギアを入れた。
「よーし、じゃあエンジン回してクラッチレバー離して」
「よっしゃぁああー!!いくぜぇええーー!!」
初めて走らせるバイクの前に神山もテンションがあがり、アクセルを思い切りに捻り、エンジンを唸らせ、そして左手のクラッチレバーを離した刹那。
「あ、クラッチはゆっくり離さないと」
神山を乗せた車体は唸りをあげ、いななく馬の様に前輪側が持ち上がり、急加速に神山が後ろへと投げ出された。そしてウィリーしたままのバイクは、そのまま土あれの道路を早いスピードで抜けていき、途中で思い切り横転したのだった。
「ウィリーして吹っ飛ぶから気をつけなよと、遅かったね」
「中井ぃい!?お前絶対今のわざとだろ!!」
「あーっはっはっはっはっ!!」
「河上さんも笑わないでくれますぅ!?」
こうして、何十台の内1台をおしゃかにして2台を拝借したTEAM PRIDE一行は、中井と河上が運転、中井の後ろに神山が、河上の後ろに町田が乗り、オロチの本拠地たるコハクドへ、馬鹿げた異世界に似つかわしくない世紀末バイクで向かうのであった。




