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それぞれの内情 上

 赤田の体勢が崩され、振り返れば神山の眼は血走り、ギリギリと歯軋りをしていた。そうして神山は、両の拳を合わせ、そのまま額の前に抱え上げる。そのまま左足を膝から抱え上げ、そのまま踏み下ろした。血を響かせるような、そんな左足のひと踏みに、周囲のクライムボーイズの面々も、何よりリーダーたる赤田正次自身も震えた。


「赤田さん、悪いけどこっからは容赦しねぇぞ!」


 低い腰、力強く踏み下ろされた足と振動。それを見て赤田は震えはしたが臆しはしなかった。気合を入れ直しただけで何が変わる、赤田はバク転と手をつけない足の勢いだけでの側転をして、神山との距離を詰めた。


「吐かせぇ!さっきまでやられっぱなしが、気合を入れ直して変わるものか!」


 遠心力を纏った右後ろ回し蹴りを赤田が放った、これがいけなかった。先程の様に暴れ散らした、変幻自在の蹴り分けをすれば、まだ神山を蹴りの嵐に飲み込めたかもしれない。しかしここで、大きな一撃を放った事により状況は変わってしまった!


「ぃぃっああ!」


 神山が取った行動は、回避では無かった。右側頭部を右腕で固めながら、思い切りに踏み込んだのだ、赤田の後ろ回しの踵が確かに、神山の右側の上腕部に命中した。


 したが、体ごとぶつかりにいった無理矢理の踏み込みにより赤田の体勢は崩された。


「っく!?


「イィアイッシィ!」


 そして間髪入れず、神山の左のミドルが背面腰部へと放たれる。鍛えに鍛えた足にて放たれた、神山の左ミドルに、赤田は思わず意識を手放しかねない痛みを

感じながら、地面に投げ出されたかの様に転がったのだった。


「ご、おがぁああ、ぉあああ!」


 腰を押さえてのたうち回る赤田、たった一撃、たった一撃の蹴りで一気に全て覆された事、その痛みに呻きを上げて、苦しそうに腕を地面に立てた。ローキックを食らった時点で、防御しても意味を為さないとは感じていた。しかしこうも、本気に蹴られたらここまで痛いのかと、立ち上がろうと赤田は膝を立てた。


 が、立てなかった。その痛みは立ち上がる気概すら奪い去るほどに、重苦しかった。腰から太腿の力が入らない、膝を立ててはいるが持ち上がらない。それでもと、歯を食いしばりながら足をわななかせ、何とか立ち上がった。


「ふぅ、ぅうう、ううう」


 噛み締める歯の隙間から息を漏らす赤田、それを見て神山が攻撃を止めるわけなどない。威圧するかの様に歩み寄り、赤田向けて近づいていく。


「くっああぁああ!」


 腰の痛みを押し殺し叫びを上げる赤田、左右に身体を振り近づく神山向けて、回転しながらの裏拳を放った。ここに来て、初めての腕を使った攻撃、しかし神山はそれを左手にて弾き上げた。


「イィイヤアア!!」


 そしてガラ空きになった脇に、左足で踏み込みながら体重を乗せた右の肘を放った。めり込む肘が、肉をさらに凹ませた感触は、肋骨を圧し潰した感触そのもので、赤田はその一撃を持って痛みにより意識を手放した。


「かっーー……」


 既に、赤田を鼓舞する打楽器代わりの得物を打ち鳴らす音は消えた。ゆらりと崩れ落ちる。勝負はついた、赤田は最早闘う力も、ましてや意識も残してはいない。しかし神山は最早、次の技に入っていた。


 崩れゆく赤田の顔面向けて、右へと腰を捻り、左の腕を折り畳み肘が赤田の顔面を通り抜けた。


 その一瞬、赤田の顔面が揺れ動きうつ伏せに倒れ伏す中、何かが二人を囲んでいたクライムボーイズの一人の胴体に飛来し、叩きつけられる様に付着した。


「あ、え?」


 その一人が、付着した何かに手を触れ、その手の内に零れ落ちたものを見てーー。


「ひ、ひぃぃいいいいい!!」


 絶叫した、その一人が手にしていたのは『鼻』だったのだ。神山が、赤田へ放った最後の肘打ちが、あまりの勢いと鋭さに、削ぎ落とされたのであった。うつ伏せに倒れ、痙攣する赤田の顔面から血が流れ出し血溜まりを作り出している。息を荒げた神山が、地面に唾を吐きながら、左へ、右へと首を向けた。


「じゃあ、帰るけど文句ある?」


 神山の言葉を聞いたクライムボーイズ達の面々は、顔を見合わせたりざわつきはしたが……。すぐに自らの得物を握り直して、神山を囲む円を狭め始めた。神山は笑った、そう来るかと、首魁をやられた組織は大概離散するものだが、クライムボーイズは違うらしい。


 神山は再び構え直しながら周囲を見る、何人か倒しながら、逃げ道を探して逃げようと。誰からだ、どこから来ると神山が周囲を警戒した。


ーーその最中であった。


「はーいそこまでよー!」


 クライムボーイズの本拠地に、明るい声が鳴り響いた。神山を囲っていた面々も、気を削がれその明るい声の方角へ顔を向けた。


「いやいや、まさかと思ったけど遅かったかーー、あー、派手にやってるねぇ神山くん」


 人混みを無理矢理に押しのけて来た声の正体に、神山は構えを解いて息を思い切りに吐いた。


「か、河上さん……何でここに?」


 現れたのは、TEAM PRIDE唯一の剣士にして、現代最強の剣客、河上静太郎だった。河上はいつも通りに左手に鞘を持ち肩に置く形で黒鞘にしまった愛刀を携えており、息を切らす神山の前に立ちながら、倒れ伏す赤田を見下ろした。


「いやね、カイトと話をとりつけてクライムボーイズの本拠地を教えてもらったんだけどさ、もう神山くんの叫びが聞こえたもんだから手遅れを感じつつ歩いて来た……そして手遅れみたいだね」


「すんません、喧嘩売られたんでやっちゃって」


「やっちゃったかー、しゃーなしだなーカーミヤマくぅーん」


 けたけた笑う河上を前に、神山は苦笑いした。突如の乱入者が、神山と同じTEAM PRIDEの人間であることは、クライムボーイズの面々も皆知っていた。だからこそ、首魁をやられてのうのうと返すなどと出来るわけがない。


「おい、何笑ってんだよテメェら……状況分かってんのか!」


 円の中の1人が声を上げて、河上がそれに応えるかのように振り返る。声を上げた人物は、神山を路地でナイフをチラつかせ案内した青年だった。この場から逃げれると思っているのかと言いたげだったが、河上は足元にて痙攣する赤田を見て、その腕を引き上げ立たせる。


「お前らこそ状況分かってんなかなー、俺が誰の使い走りでここに来たか分かってるわけ?ポセイドンのカイトが話したいからって来てみれば、うちの奴に何手を出してんの?」


 河上はその青年に食って掛かるかの様に、言い返した。


「分かる?TEAM PRIDEはポセイドンと同盟関係なんだわ、この件でポセイドンはクライムと事を構えるかもしれないわけだ、理解してる?」


「何!?」


 クライムボーイズの青年は驚愕した、TEAM PRIDEがポセイドンと同盟を結んでいるという話など、聞いた事が無い。しかし目の前の河上静太郎の情報は、と言うよりはTEAM PRIDEのメンバーの情報は、クライムボーイズ内で共有されていた。


 故に、河上静太郎がポセイドンのお得意様であり、オーナーなカイトと旧知の仲である事も知っていたのである。


 あり得ない話ではない、河上静太郎との仲から紹介されてポセイドンと手を組んだ事も。そして、クライムのメンバーは、この場で神山との交渉が破れて実力行使に出たリーダーの赤田の指示からすれば、既にポセイドンとの同盟がある為断ったが為に赤田が動いたのだと思わざるを得なかった。


 無論それはクライムの面々による先走りと思い違いであり、河上の出まかせである。それに対して神山が、河上に尋ねようと首を向けた瞬間、理解しろと鋭い眼差しによりアイコンタクトを交わし、神山が押し黙った事により、事実として認識させたのである。


 実際は神山が飾り気も無く、真実を話して後日に話をしたい旨を伝えたが、まるで手玉に取られたように感じた赤田正次の逆上が原因である事など知る由も無かった。


「まぁ良かったよ、神山がやられてなくてさ、これならまだ、俺がカイトに話を通せば君らへの対応も変わってくるだろう、というわけで彼を連れて行くが……構わないね?」


 そして河上は、クライムボーイズの面々に、赤田を連れて行く許可を取った。いや、これは強制だった、反論は即ち死を意味すると河上の眼光に、クライムボーイズのメンバーは、潔く出口までの道を開けるのだった。


「よいしょ……あれ?ちょっと、鼻が無いけど?」


 河上が左肩を抱え、赤田を立たせれば、未だに血を流す顔面と、鼻が無い事に気付いた。


「さっきの肘でどっかに飛んで行ったみたいです」


「え?肘打ちで鼻削いだの、神山くん?」


「普通は無理ですけど、タイミングがドンピシャだったんで」


「鼻無しは駄目だな、おーい、鼻どこに行ったか知らない?」


 神山が徒手で削ぎ落とした鼻を探す河上は、その手に持っていたメンバーの1人を見つけ、そこまで赤田を引きずりながら行くと、あったあったとそれを取り上げ、胸ポケットに入れるのだった。


「なぁに、悪いようにはしないさ、話が終わったらすぐ帰すよ」


 クライムの面々にそれだけ伝えて、河上は神山にも赤田を肩を担がせ、赤田を連れ去るのだった。残された面々は、心配しながらも、2人を止める事などできず、唯々見送るしか出来なかった。




『ふざけんじゃあねえぞ、勝手に呼び出しといて人様に優劣を付けんじゃねぇ!』


 いつだって、あいつは眩しかった。真っ直ぐで実直で、その癖に知恵があるから周りはあいつを疎んじた。俺は知っている、あいつは眩しすぎたんだ、だからクラスの奴らは真っ直ぐに見れなくて、目を逸らしたんだ。


『幻滅したよ、能力だのクラスだので、昨日まで一緒だった友達を足蹴にするなんて、僕はもう知らない、彼について行くから』


 いつだって、あいつはクラスの中心だった。皆が彼を頼り、皆が彼を祀りあげた。けどそれは、都合の良い奴という意味合いで、この世界で化けの皮が剥がれた奴らを見て、クラスを見捨てて出て行った。


 僕は、僕も、羨ましかった。頼られるあいつが、強いあいつが、この世界に来てまでも自らは血の底を這うしか無くて、誇れるものも無かった。だから、ひたすらに、ひたすらに這って、立ち上がって、やっとここまで来た。


『王様気取りてぇなら勝手にしろや、だがなぁ、俺の前にしゃしゃり出たその時は、俺の領分に踏み入ったその時は、こんな物じゃあ済まさねぇ、分かったか赤田ぁ!』


 対等になれたと思ったら、全てを覆されて叩き伏せられた。どこまでも世界は無情だ、生まれに育ち、全てが最初から決まっているんだ、この世界ならと思ったが、それも遮られている。


 それを知っているのに、まだ足掻いている自分が居るのは、中々に滑稽だった。




「うぁーー」


 そうして、赤田正次が目覚めた時、目にした天井は自らの知る廃墟とは違う、綺麗な天井であった。背中を支える柔らかな材質と、清々しい程に調子の良い体、先程自分に何があったのかを思い出し、上半身を持ち上げた矢先、こちらを見る者がいた。その者を見て、赤田はここがどこだかを察した。


「くそ、寝起きから嫌な奴見ちゃった、相変わらずの格好だね細田」


「カイトで呼べ、赤田……手酷くやられたみてぇだな」


 赤田が目覚めた場所、それはシダト東のクラブ、ポセイドンであった。そして目の前にはオーナーのカイトが、椅子に座して杖を突き、赤田を見守っていたのである。


「鼻が削がれ、腰骨は亀裂が入り、肋骨もやられてた……河上が運んで来て俺が居なけりゃ死んでたわけだ」


「礼は言わないから」


「好きにしな、糞根暗」


 互いに互いを知っているかの様に、悪態を吐きながら会話するカイトと赤田。自分がいかに壊されたかを思い出しつつ、赤田は鼻やら脇腹を気にして触れる。傷跡無しに見事復元されていて、赤田は舌打ちした。


「はぁ、くそ……ボロボロにされたわけか、久々だよ全く」


「喧嘩を売る相手を間違ったな赤田、次からはよく見て突っ掛かれ、アイツらは俺でも手に余る」


 カイトはそう言い立ち上がり、首をくいと動かした。


「下でTEAM PRIDEの面々が待ってる、お前もオロチとの話をしたかったんだろう、降りてきな」


 そう言い捨ててカイトは、階段を降りて行った。赤田は眉間に皺を寄せて、舌打ちをしながら立ち上がり、そのまま歩いて二階から下のフロアを見下ろした。そこには、階段を降りて行くカイト、そして先程まで自分と戦った神山、そして他の面子どころか、それらを束ねる貴族の少女まで待っていた。


 こちらが主導権を握るはずが、この場はもう自分では何も出来ないなと、赤田は苛立ちながらも仕方なしと諦めを込めて溜息を吐きながら、階段を降りて行った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  アレ?  獲物がたくさん居るのに斬らずに帰るの?  この人、本当に河上さん?  まさか・・・・・・狂った!?(*゜Д゜)\(・_・) オイオイ。
[一言] 肘で鼻を削ぎ落とせるんですね… ポセイドンのカイトと赤田さん知り合いだったんですね。 普通なら協力して糞姫たちに立ち向かっているのに反目しあっていたのは色々訳ありなんですね。
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