クライムボーイズとの接触
地方都市にオロチの手掛かりあり、それを掴んだ神山は一度屋敷へ戻る事にした。河上はポセイドンのカイトから話し合いの約束を取り付けに向かっているし、とりあえずこの事は話しておこうと、クライムボーイズの収穫こそ無かったが、オロチの情報は手に入れたのだ。
中井と町田はスラム街で聞き込みをしている、夕方までには集まり話を纏めようと、屋敷の住宅街まで神山は歩いていた。
しかし今日も暑いなと日差しの強さに目を細め、ジリジリと肌を焼く感覚と、漂うなんとも言えない臭気が、タイを思い出させてくる。小腹も空いたし、屋台で何か食べようかなと少しばかり辺りを見回した。
焼き魚、焼き鳥、焼きサンドイッチ……腸詰、思えばこの異世界には現世と変わらない物が多々ある。エビだってそうだ、エルフだのドワーフだの居るならば、ドラゴンのステーキだとか、モンスターの肉とかあってもいいだろうにと、屋台を見て回る。
神山はそうして目に着いたのは、一つの屋台だった。中々の人々が、嬉々として屋台の前で串を持ち、何やら食べていた。弾ける音に、匂いからして揚げ物だろうかと神山はその屋台に近づいた。
そこでは、ゴワゴワと熱を孕んだ油の中に網を入れ、掬い上げて出てきたのは手羽元のフライドチキン……だけでは無い、腸詰から肉片やら、何まで一緒くたに揚げられており、店主はトングで網から挟み上げそれぞれのバットへと無造作に分けていた。それを囲んで客は串で貫き、近くのツボにあるソースに浸したり、そのまま食べていた。
いいな……この、いかにもなローカル臭がする店。いわゆる串カツに似通った形式の屋台で、神山は少し食べていく事にした。
「すいません」
「あいよ、銅貨十枚な、鳥の足も食べたいなら二十枚、それで全部食べ放題だよ」
揚げ物を作る店主から食い気味に説明された。まさかの食べ放題の店だった、前払い制、銅貨十枚で鳥の足以外食べ放題、全部食べ放題なら銅貨二十枚とは、リーズナブルにも程があった。神山は自らの財布より銅貨を二十枚探して、店主に渡せば、店主は鉄串を神山に渡し、鍋へまたまた違う肉を入れていった。
山積みにされている様々な揚げ物、それを串で刺して好きに食べるスタイル。神山はまず手羽元の一つを突き刺した。刺して顔の前にまで近づけただけで分かる、揚げたての湯気と熱気に構わず、まるで通い詰めた客の様にかぶり付いた。
そして無言ながら、心中ではこう思うのだ。
『国や世界が変われど手羽元の揚げ物の旨さに変わりなし』と。ザクザク系の衣に、ジューシィな肉汁、それだけでもう満足だ。ありったけ食えとでも言わんばかりにバットの中の揚げ物達が湯気立っている。
目の前に骨を入れる壺もあるので、それへ骨を捨て、次はと四角形のフライを突き刺し、すぐに噛み締めた。ほくほくホロホロ崩れるそれは、白身魚のフライ。塩気があるが、タルタルソースが欲しくなる。
そして別のバットには、一つ一つが小さい揚げ物があったのを、3個ほど団子の様に連ならせて一気に噛んでみた。肉汁とは違う、くどいそれは油だった。多分脂身だろう。ジャンキーで胸焼けしそうだが癖になる。
色々あるなと、神山はとりあえず次々に食べていく。すると……ふと、隣の男が顔を覗き込んでいる事に気付いた。
「……なにか?」
嫌にじろじろと見てきたので、声をかけた。髭面の男だ、この世界の住人らしい濃い顔立ちの中年の男、その男が目を瞬かせながら、あっ、と声を上げた。
「あ、あんたマーナートか、風のマーナート?」
その名前を呼ぶものだから、屋台の店主も、食べていた客達も、屋台の外の路地をちょうど歩いていた民衆も、皆が神山を見たのである。
『風のマーナート』とは、神山がこの異世界に来てから平民の娯楽である闘技場にて呼ばれた異名であった。所謂『剣奴』神山は徒手でのみの試合に出ていたので『拳奴』として約二ヶ月、十二試合を無敗で勝ち抜いた神山に、闘技場の観客が呼び始めた名前。
まるで風の様に、相手をすり抜けるが如く攻撃を避け、暴風の如きコンビネーションの打撃で相手を仕留める様より名付けられた。『マーナート』はあくまで彼の本名の呼び間違いだが、彼自身もある理由で意外と気に入っていたので、そのままリングネームとして使っていたのである。
「あぁ、そうっすけど」
「やっぱり、もう闘技場出てないからどうなったのかと!やめちまったのか!?」
そして、風のマーナートとしての神山は、やはり人気があった。中央落ちの召喚者でありながら、あらゆる拳奴を相手に破竹の連勝を上げたのだから無理もない。屋台で食べていた者達も、道行く人々も、神山を見ようと集まってきたのだ。
これは飯食うどころじゃあないな、惜しいが情報集めの事もある、少しばかり離れるかと串を店主に返して神山は小走りに屋台を出た。
「ああ待ちなよ、せっかくだから1杯奢らせてーー」
ああいった感じに絡んできた輩は、話が長くなると神山は何となくだが感じ取った。屋台自体はいい感じだから、また顔を隠して食べに行こうと思って神山は適当に走った。
別に逃げなくても良いはずだが、それでも神山は足を止めずに小路へと入る。追ってくるほどしつこいわけでもない様だったので、神山はとりあえず屋敷にさっさと帰る事にした。
「待て」
だが、小さな出来事はまるで連鎖する様に起こるものだ。小路の奥を遮る様に、一人の青年が佇んでいたのだ。
さて、神山はこの地に来て様々な服装を目にして来た。シダト国内現地人、平民の簡素な服に、中央闘士達が来ていたそれぞれのチームの服、バイカーの様な革ジャンも居れば、銃士の様な貴族姿も居た。目の前に現れた青年の服を一言で表すなら……『ミリタリー』とでも言うのか、アースカラーを基調とした古着で固めており、青年はこの熱帯の国でオリーブ色のモッズコートを羽織っていた。目を引いたのはその顔立ちだ。現地人ではない、日本人の顔立ちに神山は目を見開く。
「神山真奈都だな」
「そうですが、何か?」
目の前の青年は自分と同じ召喚者だと、神山はそう理解して名前もそうだと頷いた。その瞬間、後ろから何かが落下する音を聞き、神山は振り返った。小路のの出口側に、もう一人のミリタリーファッションの輩が現れた。
振り返った瞬間、膝を屈ませていたところを見ると、左右どちらかの家屋の屋根から飛び降りてきた様だ。
「このままついて来て貰えるだろうか、手荒な真似はしたくない」
奥側の、先に声をかけて来た青年が、袖からナイフを覗かせてそう言った。神山はああと、頭を抱えたくなった。
負けていると、逃げれないと、刃物を持った相手が目の前に、背後の輩もそうだろう。これが例えば素人だとかチンピラならまだ良かった。しかし神山の目が、彼らが自らと同じ『やってる』人間で、下手な反撃は怪我をすると察してしまったのである。
「いいけど、一つ聞いていい?」
というわけで、大人しくする事にした。だがせめて、彼らがどちらの人間かだけ、聞く事にした。
「何だ」
「あんたがたは、オロチの人間?」
モッズコートの青年に神山は問うた、大蛇の人間か、それ以外か?青年はナイフを袖に収めて、無表情にも口を動かした。
「我々はクライムボーイズだ」
知りたい情報は、向こうからやって来たのだった。
河上静太郎の姿はルテプの東、クラブポセイドンにあった。日中のポセイドンは、ナイトクラブ故清掃と準備で閉めている。そんなポセイドンの二階VIP席のソファにて、河上静太郎は傍に愛刀を掛けて足を組み、この海の城の城主を待っていた。
「待たせたな河上」
そうして現れた、サングラスに銀髪を逆立てた男。名前はカイト、このポセイドンのオーナーである。
「カイト、パーティの時はありがとう、度々悪いね呼んじゃってさ」
「気にするな、河上を雇った貴族から金も貰っている、俺たちはサービスを提供したまでだ」
静かなる店内で、同じ白と青のユニフォームに身を包んだ店員が、清掃と準備をする中、河上とカイトはソファにて対面した。
「で、話なんだけどさ……君らが敵対しているオロチに襲撃かけられたんだわ」
早速話に入ろうと、河上はオロチから襲撃をかけられた事を話せば、無表情なカイトは明らかに驚いた様でサングラスの下の目蓋が開かれ、眉も動いた。
「よく無事だったな」
「数だけだったのもある……それで、カイトと俺たち……TEAM PRIDEで話をすべきとね、聞きたい事もあって来たわけだ」
オロチに対するこちらの身の振り、TEAM PRIDEとして話さねばならないだろうと河上は足を組み替えながらカイトに伝えた。カイトは、ふむと一息を吐いて河上にサングラスを外してしかと目を見て話し始めた。
「実際、河上はオロチに関してはどこまで知っている?」
「お前が話してくれた範囲程度には、やり合ってる話と、召喚者の女を売り捌いたり、非合法の薬品の市場を持ってる……」
「その通りだ、ポセイドンはその闇奴隷市に度々襲撃をかけて、売られている女を助けている……その中には、現地の女性やら、亜人まで居るんだから恐ろしい」
「エルフか?」
「ドワーフもだ、国に登録しない人夫として働かされたりな、それを買ってる奴もいる」
亜人まで出て来たかと、河上は口元を押さえていよいよこのオロチの活動に対して、自分なりにも湧き上がる感情が出て来たが、泰然自若とばかりに彼方へ流し去る。
「この件は神山に、うちの主人にも伝えるよ、それと……カイト、クライムボーイズはお前達と同じ立場の輩か?」
そして、自らは知らぬ出て来た集団の名前に、カイトは知っているのかと尋ねると。カイトは眉間にシワを寄せた。
「クライムとうちは違う、まぁ、オロチに敵対してんのは同じだが……あいつらの矛先はシダトそのものだ」
「なに?」
カイトは杖を手元に置いて弄びながら、クライムボーイズに関して話し始めた。
「クライムボーイズは、簡単に言うならシダト自体を敵視している奴らの集まりだ、優性劣性含めて中央の崩壊を目的としている召喚者の集まりだ、俺たちが守りなら、あいつらは攻撃の団体とでも言うか……確かにオロチと敵対はしているが理由も、矛先も違う」
カイトの話す、クライムボーイズの正体。それはシダトに牙を剥こうとする集団という。
ポセイドンは召喚され、商品として消費されつつある女性を守り、その志を同じくするチームならば。
クライムボーイズは、シダト国自体を転覆させ、召喚者の地位を、国を変えようとする集まりなのだと。
そして矛先も立場も、似ている様で違うのだとカイトは河上に説明するのだった。それを聞いた河上は、つまりはと纏め上げる。
「つまり何?クライムボーイズはテロ組織かレジスタンス……というわけ?」
「となるな」
河上の言葉にカイトは頷いた。
「クライムボーイズがオロチに敵対するのは、あくまでオロチの生み出す物品の強奪と、組織の喧伝の為だ、俺たちからすれば水と油だ……オロチからすればどちらも敵だから同じ扱いなんだろうよ」
話し終えたカイトが背もたれに背中を預け、一息をつけたところで、河上は思考した。つまりオロチは、TEAM PRIDEもポセイドンやクライムボーイズと同じ『敵』と認識して襲撃をかけて来たわけかと。
理由はさておき、一組織並みに目をつけられているならば、また次の襲撃に遭うのも時間の問題と河上は考える。しかし……クライムボーイズの話を聞いて、河上は少しばかり頭を掻いた。
彼らの行動理念は、必ずポセイドンと、TEAM PRIDEの面々とぶつかるだろう。その時彼らは、こちらにも牙を向けかねないと。
では如何するかとなれば、河上はすくと答えを出して立ち上がる。
「カイト、クライムボーイズの本拠地は知っているか?」
「む、西の平民街の最奥だ、あのあたりに屯しているからそこに行けばわかる」
「あいわかった、また今夜全員連れて話に来る」
河上はそうして、二階のVIP席から階段を……降りずにそのままフロアへ跳躍して飛び降りるのだった。カイトはサングラスをかけて立ち上がり、どよめくスタッフを他所に出て行く河上の姿を見送るのであった。




