無頼闘士連合『オロチ』
「オラァああああ!」
振り抜かれる拳を避け、組んで膝を放つ。くの字に折れ曲がる身体に構わず両腕で引き寄せ地面に引き投げて転がし、間髪入れず他から来た棍棒をダッキングで回避する。
「シャラァア!!」
「ぼぐっ!」
胸板上部への右前蹴りで思い切り突き放し距離を開ける。前後左右に群がった正不明の敵達に、俺はひたすら対峙した。雨の地面がぬかるんで足が踏み込めない、今の前蹴りも正直危なかったとぬかるみを実感して、俺は戦い方を変えた。
「おら死ねやぁ!」
木材を振り下ろして来た相手避け、俺は踏み込みながら握る手の手首を掴み真上に肘を振り上げ、肘関節を殴打すれば、敵の両肘真反対に曲がりながらひしゃげる音を響かせる。
「アギィいい!?」
「うぁいしゃああい!」
そのまま襟首を掴み地面に引き倒し、次と前にいた手近な相手の前に出ている膝を、思い切り踏みつける様に蹴れば、膝が逆に曲がった。
「ぁあぁああああ!」
「おらぁこっちだぁ!」
敵は容赦無く攻撃して来る、左側から殴りかかって来た相手の攻撃に間に合わず、左頬を俺は殴られた。
「ぐっ!?」
「おらぁ!おらぁ!」
チンピラらしい振りの大きな拳、しかしこの多人数相手にはそれだけでも脅威だ。右、左と交互に振られる腕を回避し、3発目の右腕に合わせて俺は左腕を伸ばし、そのパンチを止めながら左腕を敵の右腕に巻きつける様に動かして左脇に挟み込んだ。
「シィィッ!」
「ぐべぼ!」
そのまま近づき、顔面に振り下ろす肘をお見舞いする。鼻骨周辺が陥没し、追撃に股座へ右膝を入れれば、膝頭で何かが弾けた感触がしたが知らない。今は逐一構ってられない。
雨で服が重くなり余計に体力を使うし、視界も悪い、反対側に向かった町田さんは大丈夫か?こいつらは何者か?そんな心配全てを振り払って戦わなければ、今のこの状況は俺でもまずい!
「逝っとけやボケ!」
一つだけ救いが在るとするならば……こいつらの力量がチンピラ程度であるところか。ぬかるんだ地面で蹴りを放って来た相手を前に、俺の体は自然と蹴り足を抱えながら素早く肘を膝の横に思い切り振り下ろして、あらぬ方向に膝を折り破壊してやるのだった。
「ひぎぃいぃいい!?」
ここに来て、やっと敵の攻撃に怯みが見えた。周囲に二メートル程の間合いが出来たのだ、行けば破壊されると理解したらしい、誰が行くのか、隙を見せたら行くのか、どうするのかと周囲を見渡しふと町田さん側の方が見えて……もう集団が疎になっていて倒れている人間のが多い事に気付いた。
「せぃぃやっ!」
「げぼぉ、ごぉぉ!?」
誰だか知らんが、やはり脆いなと右手拳が肋骨を砕いた感触を感じ、崩れ落ちる様を見る。威勢よく向かって来た割には、一度崩れたら脆いあたりがやはり素人らしき手合いに見える。
「おい!なんなんだよ!劣性召喚者だろうが!?俺たちでも殺れるって話だったろうが!」
「知らねぇよ!こんな強いなんて!!」
言葉尻からして、雇われたらしい。しかし……倒れた輩を見れば両手に刻印が刻まれている。全員優性召喚者と分かるが、こいつら一体何者なのだろうか?
「おいお前達、どこの輩だ?内地か、それとも外壁か……どっちだ?」
言わないだろうが聞いてみる事にしたら。そうしたらこの徒党の奴ら、黙ったまま得物を構えて固まってしまった。
ダンマリというやつである。さて、これから吐くまで殴る蹴る傷付けるを神山や中井、河上ならするだろうが、自分はそこまで追求する気は無かった。
「話すならこの事は無かったことにしてやるがーー」
そこまで行った矢先だった。後ろから冷たい白刃の如き殺気を感じたのは。
素早く振り返る、そして顔面にまで迫る拳!思い切りに弾いて逸らして反射の如く右手の正拳を放った。
「ぐっ!」
「ぅぁああ!?」
右手には当たった感触、己の顔面には2発の軽い打撃が当たった。思わず後退りながらも、素早く体勢を立て直し、相手を見やる。
「へぇ……劣性召喚者で予選勝ち抜いたわけだ、空手だネ、今の動き」
横腹を押さえる男が居た、この襲撃者の風体とは全く違う。バイカーギャングを意識した様な革ジャンに革パンツの青年が、ニヤニヤと此方を見ている。細身の長身でツーブロックの黒髪、笑みは優しげながら瞳はなんとも狂気を帯びて輝いていた。
鼻から明らかに、雨とは違う液体が伝う。鼻血を垂らされたのは久々だった、自分が一発打つ前に2発入れられた。気付かなければ頸椎を破壊されていたかもしれないと、俺は現れた男を見て聞いた。
「何者だお前は……」
恐らくはこのチンピラの首魁か、はたまた同類の幹部だろう。穴あきに鋲付きデザインのグローブを付けた両手をだらりと下げ、歯を見せて笑いながら男は言った。
「今からぶっ殺す相手に言うと思う?」
そうして男は、雨によりぬかるむ地面でステップを踏み出した。軽やかでダンスの様なステップ、そして何より脱力……その様相は格闘家ならば誰もが知るだろう有名な武術家のそれに酷似していた。
「ブルース・リー気取りか?」
「気取りじゃない、本物だ!」
軽やかなステップから、鋭い踏み込みが地面を跳ね上げる。そして放たれる素早くキレのある前手のジャブ!モーションが無いそれは、かの格闘技が生み出したジャブの形。
本来ならば手首を当たる瞬間捻り横に拳を寝かせるのがセオリーだが、拳を縦のまま放つ事により腕のモーションを無くしたそれは『リードジャブ』と呼ばれ、伝説のカンフーアクション映画スターが開祖である格闘技。
『ジークンドー』
その技術の一つであった。
最初に伝えておこう。
神山真奈都と町田恭二が徒手にて対応している中、マリス邸宅前の街路にて襲撃者を応戦する中井真也と河上静太郎はどうなっているのか。
一言で言うならば『凄惨』であった。
「ヒィィイヤァアアアアアア!!」
河上静太郎の、スコールの中ですら響き渡る猿叫、そして富裕層の住宅地の石畳と、足の力も伝わりやすい場所では、河上静太郎の剣に曇りの一切は無かった。低く、前傾姿勢に疾走する河上の斬り込みは正しく、近代の映画の素早い殺陣を思わせる。通り抜けた瞬間には腹を、足を、腕を切り落とされて石畳に血を、臓腑をぶちまけていくのだ。
「なんだよこれ!くそ!止めろ、止めろぉ!」
明らかなる誤算を前に襲撃者達は総崩れにあい、ともかく河上を止めるべしと呼びかけるが意味を為さなかった。
「はぁっ!どうしたどうしたぁ!?ちったぁかち合ってみろ!」
幾人斬り伏せたか、呻き石畳を血に染め、雨に広がる赤い水たまりの中で河上が、襲撃者達に切っ先を向けて言う。得物を持ちながら、こちらに向かってこない様に痺れを切らしそうになりながら、河上はジリジリと歩み寄っていく。
「どけぇ!俺たちが殺る!!」
「3等分になれやごらぁ!」
そうしていると、襲撃者達の背後から割り入って瓜二つの男二人が、これまた瓜二つの大剣を背負いながら向かって来た。双子らしく、左右から横薙ぎに、バットのフルスイングの如く、河上に巨大なる刃が鈍い風音を立てて接近する!
「捨ャアアア!!」
河上が吠えた、そして飛翔した。悠に二メートルは飛び上がったかもしれない。そして横薙ぎの刃を回避し、上段に構えながら、双子らしき襲撃者向けて落下する。
「チィェェェエストォオオオオオ!!」
河上渾身のチェスト!示現流一の太刀の真っ向唐竹が、一人目の脳天から股下まで抜け!着地と同時に一人目が、真っ二つと割れる前に二人目の腰を横薙ぎに両断せしめた!
「双子唐竹本胴斬り!!」
人体が開きに、そして真っ二つになるという凄惨なる様を見てしまえば最早戦意など失おう。
「こ、こいつらやばい!退却だ退却!」
「俺たちじゃ勝てねぇ!」
最早勝てぬと見て、退却を決める襲撃者。河上より背を向け、来た道を帰ろうとすると。
「ぎゃぁぁあああああ!!」
最後尾、今や退却の最前列から叫びが聞こえた。
「あぎ、あきっ、ぎぎぇ!?」
肘より先の前腕が力無く垂れ下がるのを絶叫した男の首に、光が透過する。そして流れ出す血の幕が、頸動脈を切り裂いた事を理解させた。
「こ、こいつ、いつの間に!」
「怯むんじゃねぇ!あっちよりはマシだ!一斉にかかれ!かかれぇぇ!」
中井真也が持つナイフを見て、背後にて待つ河上よりはマシだ、なんとか逃げれると舐めた口を一番前の男が宣った瞬間。中井真也の間合いは一気に詰められーー。
「シュラっ!」
「あ、え、あーー」
その数瞬後には、手首、肘の内、首元をナイフが通過していた。倒れる前に、その男の手首を捻り上げ、背中を向かせて蹴り付け、前線を河上が崩す。
ドミノ倒しと行かないが、崩れた瞬間に、近場にいた別の仲間が首を斬られながら、他の仲間にぶつけられた。
淡々と、流れ作業の如く、手首、肘の内、太もも、首、急所を切りつけては近場に投げてぶつけと流れる様に中井真也は殺し始めたのだ。
背には暴風の如き侍が、前には無表情の殺人鬼が、いつの間にか自分達が挟み撃ちにされていた事を、襲撃者達は思い知ったのである。
「あぁあ、あぁあああ!」
そして残るはただ一人。唯一生き残ってしまった襲撃者を前に、河上静太郎と中井真也の二人が立ちはだかれば、足の力が抜け筋弛緩になり、尻餅をついて、激しい雨足の中でも股座から湯気を立たせて異臭を漂わせる他無かった。
「さて、さて、全て話して貰おうか客人」
血濡れた刃の切っ先を向ける河上、しかし男は恐怖から何も喋れず歯をカチカチ鳴らすしかできず、河上は戦いで火照る身体と、いきり勃つ股座を鎮めるために刀を振り上げる。
「もう言わんでいい、死ね」
「待ってよ河上さん、早すぎるって、ぼっけもんになってるよ」
開始数秒で吐かせる気すら無く斬り殺そうとした河上に、中井が止まる様頼む。
「こいつ、屋敷に運ぼう、裏庭で拷問に掛けて僕が吐かせるからさ」
中井の口から仰々しい言葉を聞いた河上。しかし中井の目はほんきだった、冷たい、まるでシベリアの大地を思わせる様な眼差しが、襲撃者の生き残りを射抜いた。
「できるのか、拷問?」
「スペツナズ式でね、習得済みさ、洗いざらい吐いてもらおう」
コマンドサンボにナイフ術、さらに拷問術とは彼の師匠は中井をどうしたかったのか?世紀末の核戦争後の世界でも生き延びさせようとでもいうのか、はたまたロシア軍人にヘッドハンティングする気なのか、意図が知りたくなった河上は、これでもう終わりかと柄尻を左手で叩いて刀身の血を払い、鞘に仕舞おうとして。
雨の中、何かが投げつけられた音を確かに聞いた。
「中井!伏せい!」
間髪入れずに中井を伏せさせ、再び鞘より愛刀を引きぬけば、己に向かって煌く何かが猛スピードで飛来してきた。
「かあッッ!」
それを切り落とす、鳴り響くは金属音。そして足元に落ちるは……投げナイフ。中井は飛来したナイフを見て目を見開き、河上がそれを切り落とした反射神経に驚きーー。
「あーー」
生き残りの襲撃者の首に投げナイフが突き刺さっている事に驚くのだった。
「恐ろしいな、優性たる俺達の攻撃を防ぎ、そして全て斬り伏せるのか、劣性召喚者如きが」
街路の近くより、1人の男が姿を現した。拍手を送りながら、波打つ金髪のロン毛の男がケラケラ笑って、中井と河上の前に立つ。
「まぁでも、展覧試合予選抜けた奴が、地方の闘技場止まりのこいつらじゃあ勝てないのは道理か……」
「口が軽いわロン毛の、誰だ貴様」
話が長い、口も軽いと断ずる河上に、ロン毛の男はぴくりと眉を動かして睨みつける。対して河上も眼差しは動かない、互いに目を逸らした瞬間が、攻撃のチャンスてばかりに睨んだままだ。
「まぁ、自己紹介はしとこうか、どのみちテメェら死ぬか、俺たちに頭を下げるしかねぇからよ?」
ずいぶんな自信を持っての発言に、河上は笑んだ、どこのどいつかは知らないが、これ程の敵意を向けてきた輩たち、名前を知るのもまた一興と耳を傾ける。
「俺たちはシダトの裏を取り仕切る闘士の集まり、無頼闘士連合オロチ……おれはその幹部、嘉戸白雄さ」
『無頼闘士連合オロチ』その名前を聞いた瞬間、河上は目を見開いた。
「無頼闘士連合だと、お前らがーー」
「ぶぶほぁあああ!!」
ーーのだが、河上の横で中井真也が吹き出した。
「あ、え?どしたー中井くん?」
「ぶ、ぶらいとうし、ひひ!れんごうですか!?あはははははは!あーははははは!こんな世界にも、ばかみてぇな!暴走族崩れがいるなんて!あーおかしい!ひひ!あはあはははは!オロチって、オロチって!もっとマシな名前なかったのかよ!くそだせぇなぁ!ひぃひひひひひ!!」
中井真也、現世での笑いの壺に入り、血と臓腑と雨の中で腹を抱えて爆笑を響かせるのであった。




