表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/206

雨中の襲撃

 さて、一雨来そうとマリスは言ったがあては外れた。しかしだ、空は一向に明るくならずに薄暗い雲が掛かっている。何と言うべきか、もしも出かけて目的地に着いた瞬間、狙ったかの様に雨を降らせそうな雨雲であった。


 だが、こんな空模様の時に限って外出の用というのは出てくるのだ。


 夕食のパンを買ってなかった。マリスからそう伝えられて、平民街までパンを買いに行くことになってしまった。しかし、何も全員で行く必要は無いためここは、神山と町田の二人で行く事に決まったのである。


 平民街は南西、富豪住宅地たるマリス邸宅は南東の為、西方角へ行かねばならぬ。まぁ、歩いても行けるし馬車も出ている、帰りに雨が降ったならば馬車を使いなさいと、パンの代金と路銀も渡されて、町田と神山はお使いに行く事になったのだ。


 富豪住宅地から、平民街への道を神山と町田は、今にも降り出しそうな空の下、二人並んで歩いていく。


「とりあえず降るなら買う前になって欲しいですね、買って帰る途中に振られたらパンが無駄になりますし」


「だから路銀も貰っただろ、帰りは降らなかろうが馬車を使うべきだ」


 買った後に雨に降られては堪らないなと言う神山だったが、それ以前に帰りは雨の降る降らないに関わらず、馬車を使うべきだろうとそもそもの話を町田が返した。


「そう言えば……どうなんです?スラムの道場、あれから門下生増えたりとか」


「いや、変わりはないな……まぁでも練習を本格的にするなら、付いて来れる子が居るのかどうか」


「まだ基本だけで?」


「形を教えてからだな、先は長いし……本当に道場やるかもまだ宙ぶらりんだし、月謝取るのかボランティアにするのか……まだその辺からだ」


 そうして話題はスラムの空手道場になれば、闘士となってから変わりがあるのか神山は気になり、それを聞けば変わり無いそうだった。そもそも今は、スラムの子どもに無償で教えているだけで、本気でやる気があるなら指導したいが、道場経営を本格的にするにはまだ決断できないらしい。


 指導だけならまだしも、経営となればまた違うわけだ。世知辛さが垣間見えて、神山は別の話題に変える。


「そっすか……フェディカさんとはどうなんです?河上さんから聞いたんですけど、祝勝会の後飲み直したって」


 フェディカの話題になると、町田はあからさまにこちらを見た。そして、頭を掻いてしなんとも言えない顔で神山に聞くのだった。



「あ、あぁ、まぁ……飲み直したというか、働き先のバーでな……なぁ神山くん、君はその、あれだ……どうなんだ、女性とのお付き合いは?」


「いや俺に聞き直します?それ?」


 何かあって、やらかしたのだろうか?町田はまさかの神山に助け舟を頼んだのだった。しかし神山真奈都、生まれてこの方女っ気無し、中学高校においてお付き合いも無ければ彼女も居なかった男である。そんな話を聞かれてもと、神山は困り切って言い返したのだった。


「全く無かったのか?ジムの同輩とかクラスメイトは?」


「これがね、全く……格闘技やったらモテるとか言いますけど、全然ですから、それだったら町田さん現世ではモテたんじゃないですか?雑誌に載るほどで、顔も悪くないし」


「むしろ絡んで来る輩が増えたさ、学校で賞を取ると集会で祝われるだろ?それで喧嘩売ってくる奴も居た」


 現世で格闘技に携わるお互いに、やはり女性の話は出てくる。しかしモテるために習っているわけではないが、浮いた話がお互い無い辺り、それだけ打ち込めていたのかもしれないのだろう。しかし、この世界に来て町田は、年上の美女よりアプローチをかけられているのだ。全くの未体験故に、右も左も分からないと来た。


「で、実際フェディカさんの事は?」


「あぁ、好意はあるさ……だが意外でな、こんな年下のガキを相手にはしないだろうと……」


「俺から見たら、河上さんより町田さんのが大人びているけどね」


「そう見えるだけ、まだ高校生だよ、三年だけど……」


 あくまで外面だけで、まだガキだと自らを評する町田。フェディカから好意を受ける様な相手ですらなかったとも思っており、実際、フェディカ自身から明らかな好意を向けられている事自体が驚きであったと言う。


「いいなー、俺もそんな美人なお姉様に言い寄られてみたいよ」


「なんだ、神山もその気はあるのか?」


「あ……いや待て、めんどくせーかもな、いざ付き合ったりしたら」


「相手もいないのにそんな事考えるのか?」


「言わないでよ町田さぁん!」


 他愛も無い会話を続けていた神山と町田だったが、いよいよ身体に水滴の付着する感覚を覚えた。微かにだが降り始めたのだ、これから間をおかず一気に降り出すだろう。


「あーあ、降っちまった」


「さっさと行くか」


 無駄話し過ぎたなと町田と神山は、足を早める。だがしかし……。


「うん?」


 町田がある事に気付いた、それは神山も同じであった。目の前の街路の近くの路地より、何人も人が出て来て、ゆっくりこちらへ歩み寄って来たのだ。


 その全員が口元をバンダナで覆い隠し、一様にダボついた服を着て……こちらを獲物を捕らえたが如く睨み付けている。B-BOYと言うのか、ラッパーか、はたまたカラーギャングか、それらしき出で立ちをしていた。もしカラーギャングならば、彼らは黒を基調とした服を着ているのでそれも頷ける。


「町田さん……スラムで揉めた輩ですか?」


「いやあんな輩は知らん、神山は?」


「全く存じませんが?」


 町田の古き因縁でも、神山の怨敵にも非ず。しかして明らかにこちらへ敵意を向けている。さて、この展開となればと神山は後ろへ振り返ると、やはり同じ様な輩が、逃げ道を遮る様に向かって来ていた。


「パンを買う前でよかった」


「昼飯前ですか、町田さん」


 自ずと、神山と町田が背中合わせになる、それと同時に雨足も強くなって来た。誰かは知らないが、敵意があるならば、喧嘩を売っているならば買うまでだと、町田はシャツのボタンを上から二つ外し、神山はその場を軽く飛び跳ねた。


「相手は二人だ!囲んでぶっ殺せぇぇ!!」


 叫びを上げて、神山と町田を挟み撃ちにする徒党達、それに対して町田と神山は跳ね飛ぶかの様に、互いの目の前へ迫り来る人垣へ突貫していった。




 雷が鳴り出し、雨も強くなりだした。南国特有のスコールをあてがわれた部屋より見ながら、河上はパンを買いに行った町田と神山の帰りが難儀するだろうなと外を見ていた。


 ココナッツジュースの残りと、固形胚乳、この世界の果実酒を共に鬱屈とした雨を眺める。グラスの中には先程のココナッツジュースで、果実酒を割ったカクテルが入っていた。はっきり言えば失敗だ、青臭さが強くなっている。しかし作った手前飲み干さねばなるまいと、グラスを傾けていると……。


「む……?」


 窓辺から見える街路より、こんな豪雨に黒い服を着て歩く集団が見えた。


 しかもだ、他には目もくれず真っ直ぐとこちらに向かって来ている。河上の感覚が明らかな敵意をその集団から感じ取り、すくと立ち上がり傍に掛けて置いた愛刀を素早く握らせて、部屋から出た。


「河上さん」


 同じ様に外を見ていたのだろう、中井と廊下で出くわした。その面持ちは神妙一色だった。


「何も言うな、行くぞ」


「はい」


 言葉を交わす必要無し、すぐ様正面玄関へ向かうため階段を降りていくと、マリスとニルギリが階段近くに立っていた。


「セイタロー、シンヤ……」


「マリス嬢は二階へ、息を潜めて見つからない様に、ニルギリは二階で待機、主人を守れ、いいな?」


 雇主の安全を確保して、一番近しい人物に最終防衛を任せる。それだけを伝えたらマリスは頷いて二階へ上がり、ニルギリもまたマリスへついて行った。それを見届けて河上と中井は二人頷いて、マリス邸宅の正面玄関より出た。


 激しい雨が、一気に二人の服を濡らす。乾いていた服がすぐに水を吸い、重くなりだした。玄関から庭を抜けて、門を開けて街路に出れば、黒服の集団は既に此方へ近づいて来た。


 河上は鍔を左手親指にて押し上げ白刃を覗かせ、中井はベルトに着けた鞘からグリップを右手に握りしめて、ナイフを引き抜いた。


「雨中の討ち入りとはな……誰が仕向けたやら?」


「さぁ?劣性はさっさと始末しろと内地の輩じゃないですか?」


 憶測は幾らでも浮かび上がる、しかしこれだけは確かである。彼奴らは、俺達を殺しにかかっている敵だと。なれば、これからするべき事は決まっている。河上が鞘より白羽を抜き放ち、雨に晒す。しかと握りしめ、向かって来る輩達も素手もいれば、得物を携る者も居た。


「守り抜くと考えるな中井、むしろ全て斬り伏せ、殺し尽くす気を持て」


「骨が折れそうですね」


「折るのは君だろう?」


「違いない」


 軽口を交わせる余裕がある、雨は更に強く降りしきり、いよいよ弾丸を思わせる強さになった。しかしそれでも、走りだした襲撃者を前に、中井と河上もまた向かって行ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 町田さんと神山くんとの会話の途中で町田さんでなければいけないところが河上さんになっています。 誤字修正お願いします。
[一言] ついに合戦の火蓋が切られるのか。外道相手に手加減する人誰もいないし襲撃者は良くて半身不随かな。そのうちポセイドンに男は辛いよばりの仁義を切って抗争スタートかな? こうなるとふたつ名の無い町田…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ