Youもダンス?Meもダンス!! 下
河上さんの後について行き、人混みをかき分ける。奥のDJブースに行けば行くほど、EDMに縦乗りしながら密集する一方で、後方側ではゆっくりと身体を揺らしたり、ドリンク片手に談笑を楽しんでナンパもしていた。それらの中間あたりになれば、曲に合わせて踊っている面々が増えてくる。
「踊ると言われても、どうすれば?」
クラブすら入れない年齢、ダンスも……ワイクルーくらいしか知らない俺にとっては、クラブで踊るなど初めてだ。河上さんは、鳴り響く音楽に身体を揺らしてリズムを取り始めた。
「まぁ、現世のクラブでも違いはある、ナンパ目的の箱、本当に踊りを楽しむ箱と様々だが、ポセイドンはその半々だ、簡単さ、音楽に合わせてリズムを掴んで身体を動かす、できるだろう?」
そう言うと河上さんは身体を艶やかに波打たせ、リズムに乗り始めた。それが出来ないから言っているのだが、やはり遊び慣れがあるなと河上さんを見つつ、俺も曲のリズムに乗ろうと身体を揺さぶってみる。
「お、そうそう、ぶつからない様に気をつけなよ」
河上さんはよく出来ていると褒めるが、さて、本当だろうか?リズムに乗れてるか心配になるが、河上さんは気にするなとばかりに、早いリズムに合わせる様に足を小刻みに動かしはじめた。
「えぇっ?何その動き……」
まるで歩いている様に見えて、滑らかで早いテンポのステップを河上さんは繰り返し、身体を揺らす。さらにターンまで入れてきて、いよいよ本気に踊り出したみたいだった。
「シャッフルダンスさ、神山くんもできるできる、真似してみなよ」
シャッフルダンスというらしい、小刻みな多彩なステップと滑らかな足捌きからして、河上さんのあの踏み込みなら素早さを支える健脚と、足の器用さが見てわかるダンスだ。
いやしかし、真似できるレベルじゃないと俺はそれを見ながら見様見真似で足を動かしてみる。歩く様に?それでいて床を擦るのか?とりあえず足だけ見様見真似に俺は動かしてみた。
左、右、左、右、片足でステップ、横にステップ……ターン?あれ?出来てるのか!?え、これであってるの?変じゃない?河上さんに目配せしていくと、河上さんが笑ったまま、ステップを続けて俺の横に並んだ。
「上手いぞ神山くん!流石身体能力があるな!そら真似してみろ!」
河上さんのステップに追従する様に、リズムを合わせてステップを踏む!いや追いていくのがやっとなんだけど!?河上さん少し手を抜いてくれと言う前に、気が付けば僕と河上さんの周囲に少し空間ができ、僕と河上さんを囲い様に他の客たちが、同じ様にリズムを取りながら俺たちを見ていた。
「Fuuuuーー!!いいぞー!!」
「ッエーイ!」
同じ様に乗って来た客達が、円の中にまるで連鎖反応の如くステップを踏んで入り出す。え!?何でそう簡単に入れて踊れるの?通い詰めてるの?パリピはこれ必修なの?と、最早止まる事ができない足を必死に、動かしていれば、入って来た男性客が俺を指差した。
「ウェーイ!ほらほらもっともっと!」
明らかに俺より上手いステップで踊る客に煽られて、それを真似してみる。そうすれば、慣れというか、ステップパターンを掴めてきたのか、足に余計な力は入らず、ステップを踏める様になってきた。さながら、初スケートで氷上に立てる様になり、滑り出せるくらいになった感覚か。
ああ、こんな感じかと、リラックスも出てきた所で河上さんを見れば、女性客と対面になって踊り、身体を揺らして近づいて笑い合っていた。最早声もかけられない、他の客達もステップを踏み出して止まれない……が、うん、楽しくなってきたのは確かだった。
「ふ、Fooooo!!」
少し飲んだ河上さんの特製カクテルの酔いが回ったのか、それに助けられて身体が、足が自然に難なく動く!慣れないながらも確かなステップを踏んで、俺は踊り続けた。
「楽しいところね、ニルギリ……聞いた事ない音に、見た事ない光、マナト達の世界の社交場なんですって」
TEAM PRIDEを集めし主人、マリス・メッツァーは、VIP席のソファで若執事のニルギリとゆっくりジュースを飲んでいた。ニルギリは相変わらず表情を作らず、それでも確かにマリスの話を聞いているのが、目の動きで分かった。
「こんな店を知ってたセイタロウには感謝しないとね……ニルギリ、まだ喋らないの?」
マリスは、無口、無表情である自らの従僕に尋ねた。未だに言葉を発しない彼に、喋らないのかと。ニルギリは困っているのか、主人を一瞥してから首を縦に振り頷く。
「こんなに騒がしいのだから、喋ってもいいじゃない……もう、しばらくニルギリの声を聞いてないわ」
この騒がしい中なら、喋っていいのにと主人が促すも、ニルギリは決して口を開きはしなかった。それを主人たるマリスが叱責するでなく、柔らかな笑顔でこれ以上追い込もうとしなかった。
「お父様の件なら気に病むことはないわ……私は大丈夫、しかたがなかったの、だから私が犯人を見つけないと、ニルギリは悪くないのよ」
ジュースを飲み干したマリスが、ニルギリにそうだけ言うと、マリスは新しいジュースを飲もうと水差しを探す。その間にニルギリは、マリスを見つめながら、何やら少し口を動かしたが、声を出したのかも分からなかった。ただ、ニルギリはほんの少し口端を吊り上げたことは、マリスにも、他のこのVIP席に居た者達にも、決して目に止まる事はなかった。
「あら、これ綺麗ね……フルーツも入って美味しそう……」
と、ここでマリスはまだ注がれただけの、誰のか知らないフルーツが浮かぶ赤い液体のゴブレットを見て、興味本位にそれを、躊躇いなく傾けたのだった。
ーーそれは、現在絶賛ダンス中の河上静太郎特製、超高度数アルコールカクテル、エピックジャングルジュースであった。
「はぁ、はぁ……あぁー……試合より疲れたかも」
神山はやっとこ、シャッフルダンスの輪から抜け出して、階段前で息を切らしていた。慣れないなりに必死に踊ったが、抜けに抜けれなかったのだ、汗でシャツがびちゃびちゃ、額からも汗が出ている。
「神山くーん、何だかんだ踊れてたじゃない?」
河上さんも人混みから出てきた、ダンスだけでナンパしていなかったらしい、クスクス笑いながら階段の手すりに身体を預ける俺の胸板に、拳を作り軽く小突いて来た。
「まわりが……止まらないものだから、止まるに止まれなくて……」
「好きに止まれば良かったろうに、じゃあ飲み直しにいこうか」
息をあげる僕の肩を軽く叩きながら、河上さんは階段を上がり出した。流石に喉が渇いた、水でも何でもいいから飲みたいと、僕も河上さんについて行き二階のVIPへ上がる。
「よーし、じゃあラウンド2の飲み直しとーー」
河上さんが二階に上がった瞬間、立ち止まった。どうしたのだろうかと、肩から覗き込めば……俺は戦慄した。
そこには……肌色が広がっていた……いや、本当に死んだり殺されたり血が広がっているのではない。二階で俺たちの相手を担当していたコンパニオン達が、セクシィな衣服を脱ぎ、あられもない下着姿になっている。というか、裸体を晒しているのも居た。
それだけならまだしも、その中に……三木原、ニルギリまでもが衣服を脱がされて、全裸で倒れていたのだった。
「お、おい!?何があった!!」
俺はうつ伏せに倒れる三木原に駆け寄り、うつ伏せに倒れる三木原を揺さぶった。三木原は意識はあるらしい、こちらを見て手を伸ばし、俺に何かを伝えようと口を動かした。
「に、にげ……て……」
無残にも俺にそう言い残し、三木原はうつ伏せに倒れ伏した。河上さんも、俺も、この惨状は一体……とテーブルを見れば……見知った女性が、裸体のコンパニオンをソファに組み伏して……直視できない凄まじい事をしていた。
「ぷあっ……脱ぐ物なくなっちゃったねー、私の勝ちー」
「はぁ、はぁ……お姉さまぁ……」
彼女は、ドレス姿ではなく下着姿でコンパニオンに跨り、口から引く糸を舌で舐めとり、その鋭い眼光で俺とニルギリを捉えた。誰かと言われたら、我らが主人マリス・メッツァーである。いつもぶかぶかな、身体のラインを隠すドレスを着ていた彼女だが、こうして下着姿になれば、意外にもグラマーなのが発覚した。
「あー、せーたろー、まなとー……なにしてるのよー」
素足に下着姿という出で立ちのまま、顔を赤面させ妖艶に笑いマリスが、酒瓶を右手に持ち近づいて来る。主人の変貌に俺はドン引きしていた。
「あらー、マリスさん……何々、どうしちゃったの?」
だが河上さんは、そんな酔い絡みしてくる相手にも慣れているとばかりに、ニコニコ笑顔でどうしたのかと聞きだした。
「えへへー、なんか赤いフルーツのジュース飲んだらー、ふわふわしちゃってー……でね、店の女の子がゲームしよーってなったの、ヤキューケンってゲーム、そしたらー、なんども勝ってー、みんなぬがしちゃったー」
ヤキューケン?野球拳か!?なにを教えているコンパニオン!?それでうちの主人、ニルギリと三木原を全裸にさせたのか!?しかも、コンパニオンはコンパニオンで、脱がされたまま普通に仕事してるってのはどうなんだ!
「お姉様ー!早く早くーもっと飲みましょうよー!」
「はーい!おねえさまがーいきまーすよー!!」
半裸のコンパニオンに呼ばれてテーブルに向かう下着の女王、彼女はコンパニオンからゴブレットを受け取り、まるで底抜けの如く傾けて勢い良く飲み下して行った。その光景を見て、俺は察した。
まず、マリスさんは酔うと恐ろしく性格が変わる、そして野球拳で三木原とニルギリ、コンパニオンに連勝して脱がしていった。さらにはこの飲みっぷりには興奮がコンパニオンに伝染して……収集がつかなくなっていると来た。そんな飲みっぷりにコンパニオンも、お姉様と呼び出した……と、言ったところか。
ここは最早、マリスを女王とした女の園と成り果てていた。しかし、中井と町田、フェディカさんはどうしたのだ?姿が見えないが……。
いや、その前に主人をどうにかせねばと、俺は河上さんに耳元で聞いた。
「河上さん、これはまずいですよ、いくらなんでも迷惑かけちゃいますって」
店の人に迷惑をかけているが、これ以上はまずいと河上さんに言った。しかし河上さんは、顎に手を当てて、俺に対しこう言ったのである。
「まー大丈夫じゃない?僕もこの店で野球拳してるし、裸にはしないけど嫌なら拒否してるし、VIP規約には触れてないしね」
野球拳、あんたが原因なのか!?いや待て、それを店は許しているのか!?このタイプの店ってその辺厳しい筈では?そんな疑問など、知らぬと打ち破るかの如く、河上さんはそのまま肌色の壁に向かっていく。
「まぁご主人様が楽しんでいるなら、従僕の僕たちも楽しむのが筋でしょう、マリスおねーさまー!僕もまーぜてー!」
分かってはいたが……分かってはいたけども、俺は肌色の壁に消えゆく河上さんを見て、足元の裸体の三木原とニルギリに目線を移せば、とりあえず脱がされた服を回収して、2人をVIP席に運び、服をかけてやった。
しかし……中井と町田さんは何処に?そうして俺は、流石に肌色の壁に混ざる勇気もないので、目の前の空いてる席でEDMを肴に気取ってジュースを飲んで、この宴をゆっくり過ごす事にしたーー。
「へーい?神山くん?」
などと、その気になっていた俺の姿は、さぞやお笑いそのものだっただろう。俺の肩を鷲掴みにする……河上さん、その河上さんは肌色の壁に囲まれて数秒で、パンイチになって俺の背後に居た。
「まさか、このままゆっくりなんてないよなぁ?」
「いやいやいや……河上さん?河上さん!?」
逃げようと足を動かした、しかし肩を掴む力が凄まじい、剣を握りしめる握力がぎっちり右肩を掴んでいる!
「まーなとー!」
左肩にも、細く綺麗な指が引っ掛かった、我が主人マリスがニマニマ笑顔でこっちを見ている。嗚呼、命の灯火が今消えそうだ。
「ま、待って!すいません!勘弁してください!何でもしますから!?」
「何でもする?そうか、なら付き合って貰おうか!!」
「主人の命令を闘士が拒否できると思うわけ?」
ていうか、マリスさんも力がある!体を引きずられて俺は肌色の壁に抵抗も虚しくも引きずられて行った。
「ぃいいやぁああああああああああああ!!」
その時の絶叫も、DJが鳴らすEDMに掻き消えてしまったのは、言うまでもない。




