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戦い終わって

こう言った予選は、最後まで見届けて閉会式に出なければならないのが現世での通例だ。しかし、この展覧試合予選、やはり怪我人や死人もでる試合形式の為、全員が閉会式に出る必要は無いらしい。


かと言って勝ち進んだ身、胸を張りしっかりと閉会式くらい参加せねばならないとは思っていた神山だったが……。


「あー、ひくひょ(ちくしょう)くひのなひゃぎゃ(くちのなかが)ひゅはひゅたひゃ(ズタズタだ)だ」


「ボクサーと真正面からやったらそうなるわ」


神山の顔は、フルラウンド戦ったボクサーの如く、腫れに内出血で腫れ上がり、口内がズタズタに切れて、呂律も回っていなかった。パンチの本職ボクサー相手に殴り勝ちという、一見素晴らしい勝利の代償は大きかった。


普通なら入院に要検査、長期休養、入院が当たり前だろう。


「本当に、痛々しいわマナト……医療班の僧侶も手が空いてないみたいだし……」


「それさ、劣性召喚者に回す治療時間が無いとかじゃないよね?」


痛々しい神山の顔を見るマリス、そしてこちらに僧侶を回さない係員、中井はこれ自体が劣性召喚者への、TEAM PRIDEへの差別の現れだと、苛立ちを込めて呟いた。


「神山くん、眠たくなったりはしないか?」


町田が、神山にそんな事を聞いて来た。それに対して神山は、すぐに答えを返す。


だひひょうふれふ(だいじょうぶです)


この質問に、マリスが町田に気になって聞いた。


「キョウジ、眠くなったら何かあるの?」


「脳にダメージ受けてるんです、殴られて、頭の中で脳味噌が揺れて頭蓋にぶつかって……そうなると脳挫傷や脳裂傷になるんですけど、そうなると意識が途切れたり、眠気が出てくるんです」


町田の説明にマリスは、脳挫傷、脳裂傷という聞き慣れない言葉に顔をしかめた。つまりは、と町田恭二は簡単に言い直すことにする。


「戦った後は眠ったり意識がとぎれたりしたら、命に関わる状態なんです、だから神山くんにそれらは無いか聞いたんです」


それが死へのサインでもあると、端的に教えれば、マリスは本当に大丈夫なのかとまた顔を覗き込んだ。


「心配だわ、ニルギリ!すぐに僧侶の手配をして!内地の病院から引っ張ってでも連れてきて!」


そう言ってマリスはドレスの腰あたりに括り付けられた革袋をニルギリに投げ渡した、ニルギリは頷いて扉を開けようとしたが、その手がドアノブに届く前に、ドアが開いた。


「あー、やっぱり僧侶回してやがらなかったですね」


そこに現れたのは、TEAM PRIDEに召喚者偽装の嫌疑がかけられた際に、彼らをスチームパンクな眼鏡で劣性召喚者と診断した、眼鏡の女性だった。


「あんたは……」


河上は彼女を見遣る、改めて見れば、髪こそボサボサのやる気なさを滲み出す、レポートに追われて女を捨てた様な感じだったが、肌の張りはいい、背丈は低く見えるが、河上に対してでありモデルが出来そうな背丈、服もよれよれ白衣で、下に着ているシャツもシワが付き、スカートでなくズボンを履いている。


が……容姿は悪く無い、磨けば変わるそんな彼らを審査した彼女は、ズカズカと入り込んで、神山の前に立った。


「ほんっと、ダサいっすね審判団も……贔屓見え見えだっつーの」


その眼鏡の女性は、白衣のポケットからガラスの小瓶を取り出して、栓を抜いてから左手に垂らし、ガラス瓶をそのまま床に落として、右手にも塗りたくった。その液体は青く綺麗に輝いていた、チェレンコフ光じみていた。


「試合ならともかく、こっちの僧侶配備のミスで死ぬなんて始末書で許せないんで、失礼するっすよ」


「ふぇえ?」


両手を青く光り輝くヌトヌトに濡らした眼鏡の女性は、そう言いながら、眼鏡の女性の両手が、神山の顔に触れて、その液体を顔に塗り伸ばして行った。


神山の顔に手が這い、青く輝く液体は塗られて輝きを失っていく。そして、中井達闘士は目の当たりにした、魔法という存在、現世にあるまじきその変わり様を。


神山の顔から腫れが、内出血が引いていく。普通の顔に戻って行き、戦う前の傷一つない顔に。


「マジかよ……ポーションってやつか?」


これが、RPGにおける回復薬の代名詞として有名な、ポーションなのだろうか?中井は感嘆すら感じて、神山の治癒する様をしかと目に刻み込んだ。


「口開けるっす」


「え?」


「開ける」


それを知らずか神山、眼鏡女性からの口を開ける指示に、訳もわからず従う事になり、口を開けた。


「んがぁああ!?」


そして女性は、すかさず両手の指を神山の口の中に突き入れたのだった。


「ちょっ!あなたうちの闘士に何するの!?」


「現地人で分かんないっすか?素人は黙っとれっす」


マリスが彼女の奇行に立ち上がり、止めに入ったが、キッと睨まれて動きが止まった。女性の指が神山の口内で動き回っている。


「おご、んぐ!うぅうう!」


「ふむ……まるでフェ」


「言わさんぞ、河上」


この様を何かに例えようとした河上に、町田が遮る。椅子の上でジタバタしながら、口内を弄ばれる神山だったが、それも終わりを告げて、彼女の指が引き抜かれた。


「ぶぁっ!ぐぇえ!」


彼女の指は、粘質の唾液と神山の血で赤く染まり、それを見た彼女はそのまま白衣で指を拭きながら、神山を見下ろした。


「すまないっすね、この手の魔法薬は、魔法が使える人間が塗布しなけりゃ、効果ないんっすよ」


白衣を脱いで折り畳み、彼女は神山に言う。


「ら、乱暴だな!あんた、あ!?」


すると、神山が乱暴すぎると反論した矢先、先程まで口内をズタズタにされて、喋れなくなっていたのに、普通に反論して、自らが驚くのだった。


「マジかよ……口の中も、顔も、全く痛くない……」


顔面の腫れから来る鈍痛やひりつきも消えてなくなった、後は脇腹、腹部と首から下の痛みだけと言う奇妙な状態に、神山は顔を触ったり口内の切り傷を舌で舐めて探って確認する。


「一応、顔はそれで大丈夫っす、もし気持ち悪いとかあったら、すぐに病院へ……あぁ、首から下は流石に病院で治してもらってくださいっすね」


それだけ言って、彼女は『騒がせしたっす』と言うと、そのまま部屋から出て行こうとした。


「ありがとうございます、あ!あんた名前」


「安藤彩音っす、じゃ、っかれしたー」


バタン!とドアを閉めて彼女は去って行った、嵐の様に現れ、神山を直した彼女は、嵐の様に消えてしまった。何だったんだろうかと思いながらも、とりあえず顔面の痛みからは解放された。


「安藤彩音か……ふむ、ふむ……」


「河上さん?え?河上さん、あんな子が好きなんですか?」


「外見をああして隠しているが、顔もスタイルも悪くなかったぞ、脱いだらすごいタイプだ」


神山が治ったのをよそに、河上は扉を眺めながら、先程の係員、安藤彩音が中々の物を隠していたと、目を輝かせて呟いていた。そんな変な空気を一蹴しようと、町田が咳を一つする。


「オホン!あー……とりあえず、今回予選、勝ったわけで一ヶ月後に本戦出場試合があるわけだが……とりあえずだ、色々俺達に必要な物が分かってきた」


この二試合で、必要になる物、それが見えて来たと町田は語り出す。あの試合、神山以外は秒殺劇と快勝で彩られたが、それでも足りない物があると、町田は皆に言い放った。


「それは?」


それは何だと、神山が神妙なる面持ちで、聞くと、町田は間髪無く言い放った。


「服、というか道着、防具だ、神山くんはともかく俺達はその道具すら無しに、着の身着のままで出てしまった」


これには皆が皆、ああー、と納得してしまった。そしてこの時、いの一番に謝ったのはマリスであった。


「ごめんなさい、本来なら私が見繕って用意すべきなのに、予選が前日でこんな事に……」


全員集まり、対策を練ったら予選前日の突貫出場という事態になってしまい、改めて謝るマリス。


「いや、まぁ、勝ったからいいでしょう」


中井は楽に勝てたしいいだろうと、マリスの落ち込み様をフォローした。だが、確かに今後、刃物や武器を相手取る以上、素手や素肌、服一着は危なすぎるのは確かだった。


「神山くんはいいねえ、膝丈のズボンと縄さえあれば立派な戦闘服なんだから」


と、ここで河上は神山の今の服装を見て言った。上半身は今でこそ上着を着ているが、膝丈のズボンの膝上と腰を縄で縛り落ちない様にし、さらに両手には、縄のバンテージという簡単な装備なのだ。


「中井くんも道着が欲しくないか、それと君なら、オープンフィンガーグローブとか」


「まぁ、この世界で作れたら欲しいですね、道着……グローブはまだなんとかなりそうですけど」


「私はそうさな、できれば剣道袴が作れるのなら……無理かも知れんが」


皆が皆、やはり現世で戦う為に着ていた服を必要とした、空手道着、サンボ道着、剣道袴と、知らない単語にマリスの頭は沸騰しそうだった。


「わ、分かったわ、それと似たやつがあるか、仕立て屋さんや防具屋さんを見て回りましょう」


「同じものは無いと思うけどなぁ……」


「無ければ作らせるわ、金はあるから」


「うひゃあ、頼もしい」


一体どこから資産が出てくるのか、没落とは言え金だけはあるのだと豪語するマリスに中井は笑いながらも、資金力に驚いた。


「とは言えだ……こうして俺達は勝ち上がれたのだ、反省も大事ではあるが、今は肩の力を抜いていいだろう町田」


反省も大事だが勝ち残りを喜び、リラックスも必要だろうと河上は言う。町田はそれには言い返せず、口を閉じるのであった。


「さてさて、では神山もある程度まで治ったし、戦いにも勝った、閉会式もさっさと済ませたら……祝勝パーティーでもしようか」


次いで河上が閉会式が終わったら、祝勝パーティーだと嬉々と笑顔で皆に言えば、意外にも主人たるマリスが一番に乗っかったのだった。


「いいわね、セイタロウ、チームプライドとしての公式試合勝利に、本戦出場試合のお祝いしましょう!」


「賛成!もうお腹空いたし疲れたし!祝勝パーティーしよう!町田さんも反対はしませんよね!」


中井も試合時間合計1分足らずな癖に、疲れたと言い張り手を挙げて賛成した。疲れたと言うより、むしろ元気が有り余っているのだろう、腹は本当に空かしているのかも知れない。


町田恭二は、内面的には『勝って兜の緒を締めよ』と言いたいところだろうが、確かに公式初勝利というのは、記念でもあると理解している、まぁ祝いたい気分だなと彼は控えめに口を開いた。


「まぁ、ささやかに祝うなら……」


「ま、ち、だ、く〜ん?」


だが、そこは良しとしない河上だった、町田の肩に手を回してニヤニヤと笑って、それは違うと横に首を振る。


「そんな、ささやかになんて、みみっちい事言わないの〜、初勝利に秒殺劇、劣性召喚者チームの大活躍!パーっとやらなきゃ損でしょう!」


「河上は酒と女の口実が必要なだけだろう!?」


「あぁ!フェディカも呼べよ町田ぁ?せっかく勝ったんだから、恋人に報告しねぇとなー?んー?」


様々ないい事が重なっているのだ、ささやかなどみみっちいと河上の言葉に町田が、ただ口実が欲しいだけだろうと町田、しかし河上が女性の名前を出したのがマズかった。


「キョウジ、貴方恋人が居るの?」


中井とマリスの目が輝いた、これに町田が神山と中井に助け舟を出せと目配せをした。神山と中井はこの瞬間、互いに目を細めて、真反対な人間同士ながら通じ合ったのであった。


「そうですね町田さん、恋人!のフェディカさんもお呼びしましょうよ!」


「そうっすよ町田さん!恋人‼︎にも試合の勝利、祝って貰いましょう!」


「覚えとれよ貴様ら!?」


2人の反撃、そして河上の捕縛により、町田の彼女?と言うより現地妻?たるフェディカも招待する運びとなった。


「決まりね!じゃあ今夜、祝勝会をやるわよ!」


テンションが上がったのかマリスが立ち上がり、祝勝会を開くと決めるや、ここぞとばかりに河上、まるで姫君に使える騎士の如く片膝を付き、頭を垂れた。


「ならばマリスお嬢様!私め河上静太郎、良き店を知っております!そちらに貸し切りの話を通させて貰い、そこを会場としてもよろしいでしょうか!」


「よろしい!ではパーティーのセッティングはセイタロウ、貴方に任せます!しっかりと果たしてきなさい!」


「ははぁっ!」


町田はこの瞬間、一時のテンションで身を滅ぼしかねない、我らが主人の姿を頭に思い描いた。


「マリスさん駄目だ!その人にパーティーの権限握らせたら駄目だぁあああ!!」


「じゃー早速、店確保してきまーす」


河上が町田を離した、町田は逃さんと河上を掴みにかかるが、消えたかの様に町田の腕の範囲から消えて扉を開けて部屋から消えていった。


「パーティー、楽しみだわニルギリ!閉会式が終わったらすぐに館に戻っておめかししなくちゃ!」


「河上さんの事だしいい店なんだろうね、神山くん」


「あぁ、楽しみだな」


町田が膝を付き、間に合わなかったと絶望するなか、浮かれるマリスに、何も知らない神山と中井、というか朝まで飲んで今日戦った男の店なんて、信頼してはならんだろうと、町田は只々うな垂れた。


「もう、知らん、わしゃ知らんぞ」


町田恭二、あまりの絶望感に、地元の言葉が出てしまったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 河上さんの斬殺劇で今日は物が喉を通らないかと思ってたんだがみんな現金だね。河上さんのしきるパーティーか~興がのってチン芸大車輪とかやりかねん。
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